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木曜日, 12月 24, 2015

一目惚れの仕組み「恋する脳」の研究

 

愛情と性欲はまったく別物–恋愛科学の第一人者が語る“恋する脳”の仕組みとは?

人類学者のHelen Fisher(ヘレン・フィッシャー)氏によると「恋愛=性欲」は間違いであると語ります。その理由とは。恋愛は人間にとって根源的な欲求であり、パワフルな感覚のひとつです。なぜ人は恋に落ち、恋に苦しむのでしょうか。脳科学者が長年の研究により解き明かした「恋する脳」ついての考察を語ります。 


「恋する脳」の研究

ヘレン・フィッシャー氏:私は同僚のアートアロン、ルーシーブラウンと共に熱愛中の37人をMRIスキャナーで検査するという実験を行いました。

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そのうち、17人は熱愛中、15人は恋が終わった人です。 また、3度目の実験を始めたばかりですが、結婚生活を10年から25年経て今も熱愛中である人の研究も行っています。

今日はその研究の話をします。 グアテマラのティカルというジャングルの中に寺院があります。その寺院は、北南米で最も偉大な文明であり、壮大な国家都市であり、「太陽の王」と呼ばれているハサウ・チャン・カウィールによって建設されました。

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彼は180センチ以上の長身で、80歳代まで生き、紀元720年にこの遺跡に葬られました。マヤの伝書によると、王は妻を強く愛し、自分の神殿の前に妻の神殿を建設しました。
毎年、ちょうど春分と秋分の日に、王の神殿側に日が昇ると、王の影が妻の神殿を優しく包み、妻の神殿側に日が沈むと、妻の影が王の神殿を優しく包む設計です。

つまり、1300年も立った今でも2人は石碑を隔てて、抱擁し、くちづけを交わしています。

恋は実らないもの?

世界中で、人々は恋をし、恋に歌い、恋に踊ります。愛の詩や物語を書き、恋の神話や伝説を語ります。恋に焦がれ 恋の為に生き、人を殺し、死ぬことさえも厭いません。

ウォルト・ホイットマンの言葉 「君のためなら全てを賭けてもいい」に代表されるように、人類学者は、全世界170ヶ国にてロマンティックな恋が存在したことを発見しました。つまり、恋が存在しない社会はないと言えるのです。

ただし、恋は常に幸せをもたらすものではありません。ある大学生が、研究で恋に関する質問を数多くしました。

その中で印象に残った2つが、

「愛する人に振られた事がありますか?」

もう1つが、

「自分を愛する人を振った事がありますか?」

という質問です。

その質問に対し、約95%の男女が両方に「はい」と答えています。

つまり、恋はほぼ実らないものだということです。
 

恋愛は最もパワフルな感覚のひとつ

脳について話す前に、詩を朗読します。地球上で最もパワフルな愛の詩です。
優れた詩は沢山ありますが、これに勝る詩はないと思います。

1896年、南アラスカのクワキウトル族(インディアンの一民族)が使節団に聞かせた詩です。このような公の場で初めて読みます。

「炎のような愛の痛み、愛の炎が痛みとなって体中を駆け巡る。あなたへの愛で、心は張り裂け、あなたへの愛でやけどする。あなたの言葉を覚えてる。あなたの愛を思う。あなたの愛が心を裂く。私の愛を連れてあなたはどこへいく。さらなる痛み、あなたが旅立つと聞いた。私を置いていくと。その悲しみで感覚を失う。私の言葉を忘れないで。さよなら愛しい人。さようなら」

エミリー・ディキンソンの言葉である「別れさえ経験すれば地獄が分かる」が現しているように、人類が進化してきた中でどれだけの人が苦しんだことでしょう? どれだけの人々がこの地球で、この瞬間、歓喜に満ちあふれているでしょう?  

恋愛は、最もパワフルな感覚のひとつです。そこで数年前、研究を始めました。

 

「恋愛は望みが低いほど燃える」が科学で証明された

その研究は、脳と恋の狂気についてです。
幸せな恋愛の研究は明らかにされているので、詳細は省いてお話します。

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研究によって、脳底付近にある腹側被蓋野と呼ばれる場所でA10細胞群が活発になっていることを発見しました。

自然興奮剤であるドーパミンを作る細胞で、そのドーパミンを脳に放出します。

腹側被蓋野は脳の報酬系の一部で、認知思考処理をする場所のずっと深部、感情処理の場所よりも下部にあります。

爬虫類脳と呼ばれる一部で欲望、やる気、集中力、などに関係する領域です。
コカインでハイになると、同じ領域が活発になります。

恋愛は、コカインのハイの状態を上回った状況です。
コカインだとハイの状態は一時的ですが、 恋愛は執着という心が人を支配します。 自分を失い、相手の事を考えずにいられないように、頭の中に誰かが居座っているような感じです。

8世紀、日本の詩人が「私の思いは、死ぬまで無くならない」と言いました。
恋は狂気であり、振られると執着心は悪化します。

現在、神経科学者のルーシー ブラウンと一緒に、振られて間もない人を研究しています。

この人達をCTスキャンにかけるのは大変でした。みなさん悲惨な状況ですから。
彼らを見てみると、脳の3領域に活動が見られ、それらは激しい恋愛をするときに活発になる脳の領域でした。
失恋したときは相手のことを忘れて暮らしていきたいにも関わらず、皮肉なもので、よりいっそう愛してしまうということです。

ローマの詩人テレンスが言った「望みが低いほど燃える」その理由が、2000年経った今、解明されました。

欲望、やる気、集中力などの脳の報酬系は、手に入らないとさらに活発になるのです。
この場合、人生最大の報酬とは、最適な交配を行うパートナーのことです。

 

「恋愛=性欲」は間違い

他の領域でも活動を発見しました。

損得勘定に関連する脳領域です。脳スキャナーの中で絵を眺めながら、ルーシーと笑い話をすることがあります。

デヴィッド・マメットの演劇の中で、2人のエセ芸術家がおり、女性が、1人をたぶらかします。男は女性に「お前は悪い子馬だ、お前には賭けないね」といいます。
損得勘定をするとき、脳の坐核側と呼ばれる部分が活発化します。 大きな利益を賭けて危険を冒すときも、同じ脳領域が活動します。他人への深い愛着と関連する脳の領域にも、同じ活動を確認しました。 世界中で人が苦しむのも不思議なことではありません。情熱からくる犯罪も多いのです。

失恋すると恋愛感情に苛まれるだけでなく、深い愛着心を感じます。

脳回路は報酬のために活動し、強いエナジー、集中力、動機、リスクを冒す気力も出てきます。それはなぜかと言うと、人生最大の報酬を得るためです。

この実験から学んだこと、すなわち世界に伝えたいことは、恋愛は自分を動かす動力であり、交配へのエネルギーであるが、性欲ではないということです。

性交相手を探す範囲は広いが、恋愛だとそのターゲットは1回に1人であり、交配へのエネルギーを他の人に浪費せず、1人の相手と交配行為を行うということです。

 

一目惚れの仕組み

2000年前のプラトンの言葉が、今まで見た愛の詩で最もうまくそのことを表現していると思います。

「愛の神とは必然性があり存在するものだ。つまり、必然性のなかにある衝動のようなもので、身体が正常に機能するためのアンバランスであるといえる。まるで、空腹と喉の乾きのように、無くすことは不可能に近い」

また、恋愛は中毒性を伴うと思います。

順調なときは良好な中毒となり、悪化すると、悪夢のような、あらゆる症状が現れます。 恋する1人に神経を集中し、執拗にその人を思います。

切望し現実を歪め獲得には危険を負うという中毒の主症状が3つ見られます。 
忍耐- もっと会いたい 会わずにはいられない 離脱 そして 再発 、その繰り返しです。

失恋から立ち直ろうとしている女友達がいます。その期間は8ヶ月になります。 先日、彼女は車を運転中、ある歌をラジオで聴き、突然彼のことを思い出しました。彼への思いが戻ってきただけでなく、車を路肩に止め、泣かずにはいられませんでした。

ですから、医学界や法曹界や大学の教育界においても、恋愛が極めて中毒的な物質だと理解してほしいのです。

また、動物にも愛情はあります。地球上の動物で、見境なく交配を行う種はいません。
実験室に隔離されるなら話は別ですが、相手に魅力を感じなければ交尾はしません。 仮に窮屈な檻の中で、一生過ごせばそれほど性交相手を選り好みはしないでしょう。百種以上の生物を観察しましたが、どの動物にも好みがあります。

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動物行動学者は、動物の恋愛には 8項目以上の項目があり、その項目の中には、求愛相手や交尾相手の選択などがあることを知っています。 これらは引力と呼ぶ事ができるでしょう。数秒でなくなりますが、確実に恋の引力です。
恐らく報酬系脳領域もしくは、報酬系物質に関わるのでしょう。
動物の引力は瞬間的ですが、象が一瞬で別の象に求愛する例もあります。これがまさに 「一目惚れ」の原型だと思います。


恋愛の研究をしていて、私生活でよくないことがあったかとよく聞かれますが、ほぼありません。
チョコレートケーキの材料は全部分かります。それでも座って食べると、ケーキはやっぱり美味しいです。 それにもちろん私も、他の人と同じように失敗をします。 ただ、人に対する理解と思いやりが深まりました。 
脳システムの奮闘を考えると、ベビーカーの中の幼児を眺め、時々同情を感じます。夕食のチキンが、悲しく見えたりします。

 

人はなぜ恋に落ちるのか

同僚のアート・アーロンのアイデアで始まった、新しい実験も進行中です

長い付き合いで 今も恋心があると言う人を MRIスキャナで検査する実験です
すでに 5名検査しましたが結果は同じ、彼らの恋心は偽りではありませんでした。
激しい恋愛と関連する脳の領域に25年経った今も活動がありました。




恋愛に関しては、まだまだ 明かされていない答えや問いはあります。
 

進行中の研究は 簡単に述べるに留めますが、なぜ 多数の人の中から "その人"に恋するか という研究です

考えたことがなかったのですが 3年前、ある出会いサイトが、私にこの質問をしてきました。私は分からないと答えました
恋に落ちたときの脳の活動は分かりますがなぜ "その人" なのか?、理由は分かりません

そしてこの3年間その質問について研究してきました。 1人に恋する理由は無数にあります。心理学者も同様の意見でしょうが、その傾向として、同じ社会的背景や、経済的背景、同じ程度の知性、同じ程度の容姿や宗教的価値観などの一致が挙げられます。 幼年時代の経験も何らかの形で影響します。ただしその程度、相性が合う性格パターンなど、確定には辿り着いていません。

そこで私は恐らく、生物学的にある種の人に惹かれるのではないかということを思いました。そこでアンケートを作り、脳内の物質の発生度を調べました。

その物質とは、ドーパミン、セロトニン、エストロゲン、テストステロンの4つです。この4つの物質の割合と関連があるであろう4パターンのおおまかな性格を組み合わせました。

私の作った出会いサイト、Chemistry.comでまずアンケートを取りました。この4つ物質の発生度合いや、恋愛相手の選択傾向を観察しました。

米国で370万人がアンケートに回答し、33カ国で計60万人に回答をもらいました。現在、データ集計中ではありますが、恋には常に魔法があるというのは横においておいたとしても、その確信に近づいてきています。
 

私たちの課題は、パートナーを理解すること

例えば、全員が同じ社会背景を持ち、同じ知性レベル、外見の人がいる部屋にいくとします。しかしながら、その全員に恋におちるわけではありません。
そこには生物学的な理由があると思います。なぜ特定の人に魅了されるのかという問題が、あと数年であらゆる脳の仕組みがわかることによって、解決されると思います。

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そろそろ結論に入ります。 この写真は年配の協力者の写真です。

フォークナーの言葉に「過去は死んでない、過去ですらない」というものがあります。
事実、人間は脳内に長年の荷物を背負って生きています。
私を突き動かす、人間の本質を理解したいという理由は、この写真に現れています。

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2人の女性 女性の親密さは男性とは異なり、対面での会話、向かい合わせでより親近感を感じます。目を離さず注視して話します、それが女性にとっての親近感です。
何百万年も前から、顔の近くで幼児をあやし、なだめ、叱り、言葉を使って教えてきたことに起因するでしょう。


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男性は 横並びで親近感を感じます (笑)  
1人がそっちを向くと もう1人は別方向を見る (笑) 
何百万年も前から、木の茂みで立ったり座ったり、まっすぐ前を向き石を片手に、水牛を追ってきたからでしょう (笑)  
古代から 男性は敵と直面し 友人とは横並びで座ってきました。


最後に、愛は人の中に息づいてます。脳内に深く組み込まれてます。私たちの課題は、お互いを理解することです。

ありがとうございました。



人類学者 Helen Fisher(ヘレン・フィッシャー) 氏 (TED2008より)


愛は感情ではない 人類学者が語る恋愛を構成する3つの要素 

見るのをやめたら、モテるようになった|ポルノ依存症の恐ろしさ

一目惚れの仕組み「恋する脳」の研究

 

 

金曜日, 12月 18, 2015

愛は感情ではない 人類学者が語る恋愛を構成する3つの要素

複雑な恋愛感情を3つの要素で解き明かす 人類の進化の中で生まれた愛のシステムとは


人はなぜ恋をするのでしょうか? 人類にとって、愛とはどのような役割を果たすものなのでしょうか? 人類学者のHelen Fisher(ヘレン・フィッシャー)氏は愛に関する調査・研究から、恋愛を3つの脳の働きに整理しました。時に衝動的で、時に安らぎを与える愛の魔法について、人間社会の大きなトレンドと共に解説します。

愛するとは何か?

ヘレン・フィッシャー氏:本日は、2大ソーシャル・トレンドについてお話します。近い将来から、もしかしたら1万年先まで続くトレンドかもしれません。

まず私の最近の研究である、ロマンティックな愛についての話から始めたいと思います。恋に落ちている最中の被験者32人に、fMRIに入ってもらい脳の検査をしてみました。そのうち17人は両思いで、15人はフラれたばかりです。それを初めにお伝えして、それから愛の行方についての話題に移ります。

「愛するとは何か?」とシェイクスピアは言いました。人類は何万年も前に火を囲んで座っているときや、寝転んで星を眺めているときから、この問いについて考えてきました。

私はまずこの45年間の心理学研究を見直すことによって、ロマンティックな愛とは何かを理解することから始めました。 そして人が恋に落ちるとき、ある非常に特殊なことが起こるということがわかりました。

ひとつめは、恋をするとある人が「特別な意味」を持っているように見え始めるということです。

あるときトラックの運転手がこう言いました「世界に新たな中心があり、それがメリー・アンだった」と。

ジョージ・バーナード・ショーはこう言いました。「愛とは、ある女性と他の女性の違いを過大評価することだ」と。確かに、我々もそうですね。 (会場笑)

そしてその人しか見えなくなるのです。相手の嫌いなところを列挙することはできますが、それには目をつぶり、好きなところだけを見るのです。チョーサーが「恋は盲目」と言ったように。

ロマンティックな愛の世界

ロマンティックな愛を理解しようと思い、世界中の詩を読むことに決めました。

みなさんに8世紀の中国のとても短い詩をご紹介したいと思います。
ひとりの女性しか見えなくなった男性のほとんど完璧な例です。
これは誰かに夢中になっていて、ふたりで駐車場に歩いて行くときと似ています。
自分たちの車は、他のどんな車とも違って見えます。
ディナーでのワイングラスは、そのお店のどんなワイングラスとも違って見えます。
そしてこのケースでは、男は「ござ」に特別な想いを抱いたのです。
こんな感じです。ユアン・チェンという男性によるものです。

「私にはこのござを片付けることができません。あなたがこの部屋に来た夜、
 それを敷くのを見てしまったから」

彼は脳内のドーパミンの作用によって、ござに特別な想いを抱いてしまったのです。
その人に対して想いを抱くように。

決してこの男性だけが特別なわけではありません。誰にでも起こりうることなのです。みなが相手に意識を集中し、拡大して見てしまうのです。人は強いエネルギーを持っています。あるポリネシア人は「まるで空を飛んでるみたいだ」と言いました。 一晩中気分が高揚し、夜明けまで歩きまわります。気分は相手に左右されます。ものごとがうまくいっているときは有頂天になり、悪いときは絶望的な気分になります。

ニューヨークであるビジネスマンがこう言いました。
「彼女が好きなものなら何でも好きだ」。
ロマンティックな愛はとてもシンプルですね。
遊びで誰かと寝るのであれば、その人が他の誰と寝ようと気になることはありません。
しかし恋に落ちると、性的な独占欲が非常に強くなります。
そこにダーウィニズムの意義があるのでしょう。

その意義とは、一組の男女を結び、子どもを育てられるようにすることです。

しかしロマンティックな愛の最たる特徴は切望です。
特定の人に対する強い切望で、性的ではなく感情的なものです。確かに一緒に寝ることは素晴らしいことですが、電話をしたいし、デートに誘ってもらいたいのです。好きだと言ってもらいたいのです。
 

愛は感情ではない

もうひとつの主要な特徴は、モチベーションです。
脳内のモーターが作動し始め、相手を欲するのです。

大事なことを言い忘れましたが、これは妄想です。被験者をMRIに入れる前に、ありとあらゆる質問をします。しかしメインの質問はいつも同じです。

「1日の何%ぐらい相手のことを考えていますか?」

彼らは「1日中です。相手のことを考えずにはいられません」と答えます。

そしてこれが最後にする質問です。わたしは心理学者ではないので、いつもこの質問にどきどきします。ちなみにトラウマ的な状況にある人々を被験者にしたりはしません。

最後の質問はいつも同じです。「相手のために死ねますか?」

彼らは「もちろん!」と当然のように答えるので、わたしはたじろぎました。

恋人の写真を見ているときと、普通の写真を見ているときの脳をスキャンしました。
間には気分をリセットするようなタスクを挟みました。そうすると、同じ脳における活性状態と不活性状態が見てとれました。 また脳のさまざまな領域が活性化していることもわかりました。

実はこれがもっとも重要なことなのですが、コカインでハイになるときに活性化する領域と同じ部分が活性化していたのです。

私はロマンティックな愛は感情ではないと気づき始めていました。

愛は乱高下する一連の感情だとずっと思っていましたが、実は衝動でした。
心の衝動、欲望、切望から来るものなのです。
チョコレートのかけらに手を伸ばすときや、仕事で昇進を勝ち取りたいときのような心情です。それが脳のモーターであり、衝動なのです。
 

愛に関する脳のシステムは3つある

実はこれは性衝動よりももっと強力です。

仮に誰かをベッドに誘って断られたとしても、自殺したりうつ病になったりはしないでしょう。

しかしフラれて人を殺してしまう人はいるでしょう。

人は愛のために生き、愛のために殺し、愛のために死ぬのです。

愛の歌があり、詩、小説、彫刻、絵画、神話、伝説があります。

175以上の社会で、人はこの強力な脳のシステムの証拠となるものを残してきました。そして私は恋愛こそが大いなる喜びと悲しみを生み出す、強力な脳のシステムなのだと考えるようになりました。

同様に、恋愛は交配と生殖から生み出された3つの異なる脳のシステムのひとつだと考えるようになりました。

1つ目は性衝動、性的な喜びへの切望です。

W・H・オーデンはこれを「我慢できない神経の痒み」と呼びました。
確かにその通りですね。性衝動は、空腹のようなちょっとした苛立ちです。

2つ目はロマンティックな愛、気分の高揚や恋愛初期に感じる執着です。

3つ目は愛着、長年のパートナーに感じるやすらぎや安心の感情です。

性衝動が進化したのは、人を外に向かせ、広範囲にパートナーを探させるためだと考えています。ただ車を運転しているときにも性欲を感じるでしょう。誰に向けられたものでもありません。

ロマンティックな愛は、交配のエネルギーを一時的にひとりに集中させるために進化したと考えています。そうすることで、交配の時間とエネルギーを確保するのです。

3つ目の脳のシステムである愛着が進化したのは、チームとして最低限の間子どもを育てられるように我慢させるためです。

これを前提として、2つのもっとも重要なソーシャルトレンドについて議論していきたいと思います。

ひとつはこの1万年とちょっとのことで、もうひとつはこの25年のことですが、3つの異なる脳のシステム—性欲、ロマンティックな愛、愛着に影響を与えることでしょう。
 

女性の社会進出は過去への回帰だった

1つ目は女性の就労、社会進出です。私は国連の統計資料で130の社会を調べました。
世界のいたる所で、130中129の社会で、とてもゆっくりではあるものの、女性は労働市場に参入してきています。そのうえ、経済力や健康、教育といった点で男性との差を徐々に縮めているのです。とてもゆっくりとです。

地球上のあらゆるものごとには、対抗する流れが生じます。それでもアラブのことわざにあるように「犬は吠えるが、キャラバンは進む」のです。女性は労働市場に戻ってきました。「戻って来た」と言ったのは、これが新しいことではないからです。 何百万年もの間、アフリカの草原地帯では、女性が外に出て野菜を採集していたのです。夕食の6割から8割にあたる食料を持って家に帰りました。共働きの家族が通常でした。女性は経済的、社会的、そして性的な強さでも男性と同等だとみなされていました。

要するに、我々は過去に回帰しているのです。 女性にとって、最悪の発明は耕作に使う「すき」でした。すきを使った農業の始まりとともに、男性の役割が非常に大きくなりました。女性は採集する古代の役割を失いましたが、産業革命とポスト産業革命を経て、労働市場に戻ってきました。

要するに、女性は100万年、1万年、10万年前の地位を取り戻しつつあるのです。我々はいま、人類の歴史においてもっとも注目すべき伝統のひとつを目の当たりにしているのです。これは大きな影響力を持つことになるでしょう。
 

女性の特徴であるWeb思考とは?

私は普段、ビジネスコミュニティにおける女性の影響力について包括的な講義をするのですが、今日は要点を絞ります。

セックスと愛についてです。

ジェンダーの違いにはさまざまなものがあります。男と女が同じだという人は、子どもをもった経験がないのでしょう。
私には、彼らがなぜ男女が同じだと考えたいのか理解できません。共通点はたくさんありますが、全体としては異なる点が数多くあるのです。

テッド・ヒューズの言葉を借りると、「男女は2本の足のようなものだ。前に進むにはお互いが必要となる」ということです。しかし男女は進化の過程で、異なる脳を持つようになりました。そしてジェンダーによる脳の違いがますます明らかになっています。

2つの男女差を話して、セックスと愛の話に移ります。

1つ目は女性の言語能力です。女性はうまく話すことができます。 女性がすぐさま正しい言葉を見つける能力は、月経周期の半ば、エストロゲンの分泌がピークに達するときに向上します。ところが生理中でさえ、その能力は男性より上です。女性はしゃべることが得意なのです。

女性は百万年に渡って話し続けてきました。言葉は女性の道具でした。赤ちゃんを抱き上げ、なだめたり、叱ったり、教育したりするときに言葉を使ってきました。そうやってとても強い力を持つようになってきたのです。
インドや日本のような、女性の労働市場への進出が遅れていたような国でも、女性はジャーナリズムの世界に進出しています。テレビはグローバルなキャンプファイアのようなものです。火を囲んで座り、考えを形成します。 私がテレビに出演するとき、私を呼んでくれて何を話すかを交渉するプロデューサーは、ほとんどいつも女性です。

ソルジェニーツィンは「偉大な作家を持つことは、もうひとつ国家を持つことに等しい」と言いました。 現在、アメリカの作家の54%が女性です。言語能力は女性が持つたくさんの特徴のひとつですが、労働市場にもそれを持ち込むでしょう。女性は素晴らしい社交術と交渉術を持っています。そして想像力に富んでいます。

想像力や長期計画に関する脳内回路は解明されています。女性はWeb思考者である傾向が高いです。なぜなら女性の脳は各部位がうまくつながっているからです。

考えるときにたくさんの情報の断片を集め、複雑なパターンに組み換え、より多くの選択肢や成果を見出す傾向があります。文脈重視で、全体を見て考える、まさにWeb思考的な傾向があると言えます。
 

女性が女性性を表現する風潮が高まっている

男性は ー 平均的にですが ー 無関係とみなされるものを無視し、自分のやることに焦点を当て、段階的な考え方をする傾向にあります。

男女ともに、どちらも良い考え方です。進歩していくためには両方が必要なのです。 世界には天才的な男性がたくさんいます。同時にまぬけな男性も多いですが。 (会場笑)

男性の脳が働くときは、本当によく働くのです。世界は男女の共同社会に向かいつつあると思います。男女双方の能力が理解され、評価され、活用される社会です。

しかしながら女性が労働市場に参入することで、セックスとロマンスと家族の生活に多大な影響が及んでいます。

何より、性的関心を表現する女性が増えています。

私がいつもびっくりさせられるのが、
「なんで男ってこんなに浮気症なの?」と聞いてくる人がいることです。

「どうして女より男が浮気症だって思うの?」と返すと「とにかく男は浮気症なの!」と言うので「そんな浮気者と寝てるのは誰なの?」と言ってやります。 (会場笑)

誰でもわかることですね。 欧米では女性の初体験は早まり、より多くのパートナーを持っても良心の呵責も少なく、晩婚化、少子化が進み、悪い夫にはさっさと見切りをつける傾向が見られます。女性が女性性を表現する風潮が高まっているのです。

そして繰り返しになりますが、我々は百万年前のアフリカの草原地帯で見たような性的表現に回帰しているのです。というのもこれは狩猟採集社会に見られる性的表現なのです。
 

結婚は今よりも安定したものになるかもしれない

ロマンティックな愛も高まっています。

アメリカ人女性の91%と、アメリカ人男性の86%は、たとえ結婚相手に求める資質をすべて満たしていても、愛がなければ結婚しないだろうとされています。

37の社会における研究によると、世界中のどこでも、人は愛する相手と結婚したいのです。実際に、お見合い結婚は姿を消しつつあります。 2つの大きな世界的な流れのために、結婚はもしかするとより安定したものになるかもしれません。

1つ目は女性の労働市場への参入でしたが、2つ目は高齢化です。 いますでにアメリカでは、中年を85歳までとみなすべきだと言われています。というのも、76歳から85歳までのもっとも高齢なカテゴリに属する人の40%もが、健康上まったく問題がないからです。中年期の拡大という現実にも直面しています。

私は本を書くために、58の社会における離婚のデータに着目しました。それでわかったのは、年をとるほどに離婚率は下がるということです。現在アメリカにおける離婚率は落ち着いていますが、実は下がり始めています。今後はもっと減少するかもしれません。

女性はバイアグラ、エストロゲンの補充、人工股関節置換などで、非常に魅力的になっています。かつて女性がこれほど魅力的だったことはないでしょう。女性が教育を受け、魅力的かつ可能性に満ちた時代は過去に例を見ません。人類の進化において、良い婚姻形態をつくる機会があるとすれば、それは今だと思います。
 

人間は幸せになるためにはつくられていない

しかし厄介な問題も伴います。

それは脳の3つのシステム ー 性欲、ロマンティックな愛、愛着、がいつも同時にうまくは働くわけではないということです。もちろん同時に働くこともあります。

ただの遊びのつもりだったセックスは本当の意味で遊びではないのです。 オーガズムによってドーパミンが活性化します。ドーパミンはロマンティックな愛に関係するので、遊びの相手と恋に落ちることもあるのです。

オーガズムは愛着に関わるオキシトシンとバソプレッシンの分泌を促します。よってセックスをした後、その相手と親密な感覚を味わうことができるのです。

しかしながら、性欲、ロマンティックな愛、愛着、の3つの脳のシステムは、いつも関係し合っているとは限りません。

長年のパートナーには深い愛着を感じる一方、そうでない人には一時的にロマンティックな愛を感じることもあり、そのまた一方でまったく関係のない誰かに性欲を抱くこともあります。

要するに、我々はひとり以上を同時に愛することができてしまうのです。

夜ベッドに寝ながら、ある人への深い愛着と、別の誰かへの恋心で揺れ動くことがあるでしょう。それはこれからどうしようかと頭の中で議会を開いているようなものなのです。 正直に言うと、人間が幸せになるためにつくられた生き物だとは思いません。

人間は生殖するためにつくられた生き物です。私たちが感じる幸せとは、つくられたものかもしれません。それでも、我々は互いに良い関係を築くことができるのです。
 

抗鬱剤が愛に与える影響

では、2点にまとめたいと思います。懸念と、もう1つは素敵な話です。

懸念とは、抗鬱剤についてです。アメリカでは毎年1億人以上が抗鬱剤の処方を受けています。これらの薬は一般的になりつつあり、世界中に広まっています。

私はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を13歳のときから服用している女性を知っています。彼女は現在23歳で、13歳からずっと服用しているのです。 何らかのひどい出来事を乗り越えようとするときなど、短期間の服用に異議を唱えているわけではありません。自殺や他殺の衝動に駆られたときには、むしろ服用を勧めるでしょう。

しかしアメリカでは、長期間服用する人がどんどん増えています。 これらの薬は、セロトニンのレベルを高めます。それにより、ドーパミン経路を抑圧するのです。

皆さんがご存知の通り、ドーパミンはロマンティックな愛と関係があります。
セロトニンはドーパミン経路を抑圧するだけでなく、性衝動をも抑えるのです。そうするとオーガズムも抑圧されます。オーガズムを損なえば、愛着に関連する脳内物質の分泌も損なうことになります。それらは脳内で関係し合っているのです。脳内のシステムを1ついじってしまうと、同時に別のシステムをいじることになります。

愛の無い世界は、死の世界だと言えるでしょう。 (拍手)
 

人はなぜ恋に落ちるのか

ありがとうございます。結論に入ります。

その前に一言。

私は30年に渡ってロマンティックな愛とセックスと愛着について研究してきました。私は一卵性双生児です。なぜ我々はこうも似ているのか興味があります。なぜ私とあなたは似ているのか、なぜイラク人と日本人とオーストラリアのアボリジニとアマゾン川の人々が似ているのか。

約1年前、インターネットの出会い系サービスであるマッチドットコムから、新しい出会い系サイトのデザインの依頼をされました。「私は人格について何の知識もありませんが、私が適任だと思いますか?」と言ったところ、彼らは「はい」と答えました。

それ以来、なぜ人はある特定の誰かを好きになるのかと考えるようになりました。 それが現在のプロジェクトで、次の著書となるでしょう。

特定の誰かを好きになるのにはさまざまな理由があります。
タイミング、近接性、ミステリーなどが重要です。人はいくらかミステリアスな人を好きになりますが、それはミステリアスさが脳内でドーパミンを高めるからです。それで人は恋に落ちてしまうのです。
また人は「ラブマップ」に適合する相手に恋をします。それは幼少期から無意識に築いてきた特定のリストです。そういうわけで、何かしらの相補的な脳のシステムを持つ人に惹かれるのでしょう。これがいま進めているプロジェクトです。
 

北京で実際に起こった、ある愛の話

ここである話をしたいと思います。ここまで愛の生物学について話してきました。
これから少し愛の文化と、魔法についてお話します。これは又聞きした話なのですが、おそらく本当の話です。

ある院生の話です。私はラトガー大学にいて、2人の共同研究者がいます。
その1人アート・アーロンは、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校に在職中です。
そこは我々がMRI検査した場所です。
そこの院生であるこの男性は、同じ大学院生の女性に恋をしました。しかし女性のほうは、彼に気がありませんでした。あるとき、2人は北京で行われた学会に参加していました。
彼は我々の研究から、誰かと奇抜なことを一緒にするとドーパミンが増大し、それが脳内の恋愛システムに働きかける可能性があると知っていたのです。 (会場笑)

そして彼は実験をしてみることにしたのです。彼はその女性を人力車に乗ってデートしようと誘いました。 もちろん私は乗ったことがないのですが、バスやトラックの間を走り抜ける姿は明らかにクレイジーで、騒々しく、エキサイティングでした。

彼女のドーパミンが増えれば、彼のことが好きになると期待したのです。2人は出発しました。彼女は悲鳴を上げ、彼を抱きしめ、素晴らしい時間を過ごしました。 約1時間後、彼らは人力車を降りました。すると彼女は感激して言いました。

「素敵じゃなかった?」

「人力車のお兄さんハンサムだったよね!」と。 (会場笑、拍手)  愛の魔法です! 

これで最後です。

何百万年も前3つの基本的な衝動が進化しました。
性衝動とロマンティックな愛、長年のパートナーに対する愛着です。
これらの回路は人類の脳に深く埋め込まれています。

人類が生きながらえる限り、これらも生き続けるのです。シェイクスピアの言葉を借りると、「この世の煩わしさ」として。

ありがとうございました。



人類学者 Helen Fisher(ヘレン・フィッシャー)氏(TED2006)


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