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月曜日, 9月 05, 2016

真鍋 大度 DAITO MANABE|Rhizomatiks(ライゾマティクス)

 

 

テクノロジーがコンテンツだった
時代は終わった──真鍋大度



いま、新しい技術はあっという間に世界に広まり、消費されていく。テクノロジーの目新しさがコンテンツになる時代はもう終わりを告げているのだと、 ライゾマティクスリサーチの真鍋大度は語る。まだ世に出ぬ先端研究から新たな表現を探り出し、異分野の才能を組み合わせていくメディアアーティストの飽くなき挑戦とは。







真鍋 大度|DAITO MANABE

メディアアーティスト、DJ、プログラマー。2006年、Rhizomatiks(ライゾマティクス)設立。15年よりライゾマティクスのなかでもR&D的要素の強いプロジェクトを行うRhizomatiks Research(ライゾマティクスリサーチ)を石橋素と共同主宰。プログラミングとインタラクションデザインを駆使してさまざまなジャンルのアーティストとコラボレーションプロジェクトを行う。






 
メディアアーティストとして、プログラマーとして、常に新たなテクノロジー表現を開拓してきたライゾマティクスリサーチの真鍋大度。世界に先駆けて 送り出してきた作品は数知れず、コラボレーションの相手はPerfume、サカナクションからビョークなど国内外のアーティストから、「Ingress」や「ポケモンGO」を開発したナイアンティックのような企業まで多岐にわたる。

2011年から始動したダンスカンパニーELEVENPLAYとのコラボレーションでは、ドローンを使ったライヴ演出を成功させたかと思えば、その翌年には機械学習技術、コンピューターヴィジョン、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などの技術をいち早く導入して実験を重ね、VR、ARやドローンと生身のダンサーを交錯させるステージを開発し、新たな身体表現のありかたを発明してきた。

しかし、加速度的にテクノロジーが進化する時代、目新しい技術はあっという間に均質化し、誰でも扱えるものになる。真鍋の言葉を借りれば、「テクノ ロジー本体がコンテンツになる時代は終わった」のだという。そんな時代において、真鍋が先駆者たりえる理由はどこにあるのだろうか。







──昨年から、ライゾマティクス内のチームを「リサーチ」「アーキテクチャー」「デザイン」に分けましたね。

 

いまでは考えにくいんだけど、ライゾマを立ち上げたころの「インタラクティヴ」って、ほとんどが「ウェブ」のことだったんですよ。

当時は、東京芸大の先端芸術表現科の同僚たちでつくった「DGN」というユニットで動くことが多かったのですが、コミッションワーク(クライアントから委託され、制作されたアートワーク)はいまと比べると全然存在してなくて、DVDを持って営業周りなんかをやってました。

そんな感じだったので立ち上げてしばらくは、ライゾマ内ではぼくしか実空間のインタラクティヴはやってなかったんですよね。それがYouTubeの登場によってぼくらの作品や実験が映像で広まるようになり、いまではウェブよりも実空間のインスタレーションや演出の仕事の方が多くなりました。

そこからコンサルやプロデュース的なことをやるスタッフも増え、だんだんと仕事の幅が広がっていったので、小さなチームに分けようという感じにな り、メディアアートやエンジニアリング出身のスタッフで構成されているチームは「リサーチ」という名前でぼくと石橋(素)さんが主宰してます。元々「アンカーズラボ」名義でラボを運営していたのですが、どこもかしこも「ラボ」だらけになってきたので、そうしたネーミングにしたという経緯もあります。



──ライゾマティクスリサーチでは、今後どんなことを目指していくのでしょうか?

 

ぼくたちがやっているコミッションワークは、先端研究とファッションや音楽などセンスが求められるカルチャー領域との接点をつくり、研究をいいかたちで社会に出していく作業が多いんです。

例えば、いま手がけているプロジェクトの多くは、企業や研究室から提供された先端技術を用いて作品やデモをつくるというもの。APIやツールキットを自らつくる段階から始めて、最終的に作品として世の中に発表します。現段階ではまだ発表できる環境が限られていたり、莫大なコストがかかる研究であっても、3年後には大きな舞台で実現できるようになる。それを先駆けて、表現に落とし込み、プロジェクト化していくのがぼくらの仕事です。
ELEVENPLAYやPerfumeの演出に使っているドローンショーのシステムも、ほんの数年前までは研究室の中や設営時間が潤沢にあるミュージックビデオ撮影でしか使えなかったものでした。それを、一昨年の時点では、楽曲の転換が1分しかない紅白の舞台でも扱えるようにつくり上げました。

そうしたエンタメの大舞台で発表するためには、技術的な問題だけでなく、コンテンツとしての魅力を生み出すことも必要ですし、コラボレーターとの関係を築くことも重要になってきます。また人とドローンがどうやってインタラクションすると面白く見えるかという研究は、人間の側にもスキルや訓練が要求されます。

そうなると、訓練されたパフォーマーや、(ELEVENPLAYの)MIKIKOさんのようなステージ専門の演出家と組む必要がある。とくに生中継されるライヴでは、要求されるスキルもリスクヘッジも、映像やインスタレーションとはまったく異なっていて、それこそ5段階くらい難易度が高くなります。だからこそ、あえて参入障壁が高いライヴ作品のチャレンジを選んでやっているのですが。

また、最近ではディープラーニング(深層学習)周辺の技術をアートとして表現するような事例が増えてきていますが、いまだ研究として評価されにくいものを作品として発表するのはメディアアートの常套手段でもあります。







──真鍋さんは昔から、論文などの情報を常にリサ—チされていますよね。

 

10年ほど前であれば、学会に参加して論文を手に入れたりもしていたけど、いまはTwitterとGoogleがあればたいていの情報はすぐ手に入るし、審査基準が厳しいクローズドないくつかのメーリングリストに入ることで特別な情報を仕入れることもできます。論文はArxiv(さまざまな論文が保存・公開されているウェブサイト)、実装はGithub(ソフトウェア開発のための共有ウェブサーヴィス)に公開されていて、すぐにリーチできます。あとは、(ライゾマティクス)リサーチの登本悠介くんや花井裕也くんは、それこそ色んな研究を知っているのでふたりから教えてもらったり。


──そうして見つけ出した研究が作品のアイデアにつながるのでしょうか?

 

最近はそう簡単にもいきません。例えばCNNでイラストを描いたり画風を真似たりするような、実用性は低くても面白いネタがあったとき、昔だったら学会やメディアアートの展示でしか発表できなかったことでも、いまはネットやSNSで多くの人に見てもらうことができますよね。

個人的に好きな画像生成ネタなどは常に追いかけていますが、去年発表されたネタですら、いつの間にか『Prisma』(写真加工アプリ)のようなアプリが登場して、あっという間に拡散されて、すぐに古いものと感じてしまう。


──メディアアートもテクノロジーも、その新しさばかりが注目されがちです。だからこそ、本質的に「古くなる」という宿命も抱えていますね。

 

古くなるっていいところもあると思うんです。音楽や絵画は、古びるのにも時間がかかるし、ずっと新鮮なままだったりもする。ぼくはもともと音楽をつ くっていたからこそ、先人が残した傑作と同様のフォーマットで勝負しなければならない厳しさを実感します。でも、メディアアートは常にネタが更新されていくし、フォーマットも定まらないから息詰まることがない。すごく面白いアートフォームだと思います。


──新しい技術がどんどんと登場し、誰でもそれが扱えるようになるスピードは早まってきていますよね。

 

テクノロジーがコンテンツだった時代は終わってきましたね。テクノロジーを使ったアートには、技術的なハードルが高くてほかの人が参入できない分、「先駆者ボーナス」期間みたいなものがあるんですよ。

例えばぼくらの場合は、スキャンデータを使ったハイブリッドなARやドローンを複数台で飛行させる技術などがそれにあたります。実装の難易度もさることながら、実案件をつくるチャンスが少ないのでまだ世の中に数えるくらいしか実施例がない。

でも、そんなボーナス時期は1、2年ほどしか続きません。15年前だったら、スクリーンの前で手を動かしたら映像が反応して動くようなインタラクティヴネタがまさにそれで、画像解析のノウハウと映像生成の技術がないと実現できない表現だったため、一部の人が特権的にやっていた。しかし、最近ではゲームエンジンの「Unity」や「openFrameworks」といったプラットフォームの登場によって、誰でもできるようになりました。結果的に、いま、テクノロジーの新しさではなくコンテンツで勝負していく時代になったわけです。







──参入障壁が下がった結果、表現が均質化したとも言えますよね。

 

新しいテクノロジーを用いて、それを色々試してみても、可能な表現は本当に限られています。だから、最後はみんな同じようなものになるんです。早い者勝ち、もしくはスケールアップさせて、いち早く大衆化させたほうが勝つ。これらはぼくらにも常に付きまとう問題ですね。


──そうした時代に、ライゾマティクスが独自性を貫き続けられるいちばんの特性は何だと思いますか。

 

ポップな表現で大衆化させながらも、コアな人たち、つまり技術分野のコミュニティの人たちが見ても唸るものをつくる、ということでしょうか。

例えばカンヌライオンズやSXSWで行ったPerfumeの演出は「超ポップ」ですが、支えている技術はその筋の研究者や玄人が手を尽くしてもなかなかできないくらい特殊なものです。前者は衣装のパーツを解析する部分に特殊な手法が入っているので、専門家がパッとみてもわからないものだし、後者も、事前に 会場やメンバーの身体を3Dスキャンしていないと実現できない、モーフィングの新しいアイデアが盛り込まれています。

コンピューターヴィジョンの世界的な第一人者であるカーネギーメロン大学の金出武雄先生に「あのCannesでの仕組みはどうなってるんですか?」と聞いてもらえたり、いまをときめくARアプリ「ポケモン GO」の開発者ジョン・ハンケがライゾマに遊びに来たときに「あのSXSWで披露したARにはインスパイアされたよ!」と言ってもらえたりとか。そうした人たちにも刺激を与えられるプロジェクトをつくれたらいいなと思ってやってますよ。



──それほどの影響力をもった作品を生み出すためには、どんな要素が必要なのでしょう。

 

ぼくらの仕事って、基本は職人芸の世界なんです。そこにイノヴェイティヴな要素があるとすれば、チームの構成要因でしょうね。

わかりやすい例を挙げるなら、ドローンやARの技術でステージをつくろうとしたとき、ひとりの天才エンジニアが頑張っても、絶対につくれないんです。振付家はもちろん、コンピューターヴィジョン、ハードウェアエンジニアリング、ソフトウェアエンジニアリング、プロダクトデザイン、3DCG、作曲家といった領域のスペシャリストが作品のために集結してチームをつくる必要があります。あとは、制作過程。例えばドローンの飛行パターンは、通常だとソフト ウェアのエンジニアか3DCGのデザイナーがつくると思いますが、ぼくらは独自ツールを開発して振付家にパターンをつくってもらいます。その方が人間とド ローンのインタラクションの演出をつくりこめて、パフォーマンスとしての完成度が高まる。
ぼくらがやっている表現は、フォーマット自体がまだ世に出たばかりのものであるがゆえに、新しいチーム編成が必須。だからこそ世界に先駆けていくことができているんだと思います。



──そうした優秀なスペシャリストは、意識的に集めてこられたのでしょうか。

 

それは、すごくありますね。「こういう技術をもった人が絶対必要になる」と思ったら、ピンポイントで探して声をかけたりもしています。

ぼくのバックグラウンドは数学と音楽、あとメディアアートの知識はオタクと言われるほど詳しいですが、AR(拡張現実)やVRには花井くんのようなカメラエンジニアが必要だし、AI分野にも登本くんのような専門家が必要です。ドローンはハードウェアの問題がでかいので石橋さんを中心としたチームがいないと実現できない。

最近では衣装の仕事も多いですが、これは柳澤(知明)くんのようにデザインもエンジニアリングもできる人でないと実現できない。ライゾマリサーチはそういった職人が集まるチームとして構成されています。異分野間の才能や技術を組み合わせたときにどんな新しいことができるかを考えるのが、ぼくの役割とも言えますね。







──最近、「コンピューター持ち込み禁止」を謳ったクラブイヴェント「ANALOG」を始められたのは、テクノロジーで均質化する表現への打開策だったりするんでしょうか。

 

デジタルのDJはさくっとやろうとすると簡単すぎるし、本気で色々やろうとすると無限に準備ができてしまうので、楽しむことだけでいうとアナログがちょうどいいんですよ。
数分の表現を実現するために、開発に1年以上かけることもざらになってきているため、その反動で身体能力や瞬発力を必要とする表現 への回帰が出てきているのかもしれないですね。

一方で、デジタルのDJの可能性はまだあると思っていて、AIを使って選曲の幅を拡張する実験イヴェント「2045」も続けています。会場内のセンサーやお客さんのアプリなどから取得したデータをもとにAIがベストの選曲をするというシステムを実験中なのですが、これは近々Spotify(スウェーデン発の音楽ストリーミング配信サーヴィス)が日本に上陸したらもっと面白いことができると思っていて。

Spotifyのアルゴリズムを使って自動でプレイリストを生成して、どの曲順がいちばんユーザーに好まれるか、みたいなテストをやってるのですが、そういった実験はDJ的に考えても非常に面白いなと思います。過去のDJingもGracenoteに協力してもらってやっていましたが、個人でやるよりも企業と組んでやった方が面白い分野ですね。



──そうしたなかで、これからは何を目指していくのでしょうか。

 

長期プロジェクトのゴールが見えてきたこともあり、いまは長期休暇を取るということ以外に目標はないんですよね。スタッフに「真鍋さんのヴィジョン は何ですか」って聞かれることがあるのですが、わざわざ抽象的なヴィジョンをつくる必要はないと思っているのが正直なところです。 ”人間をテクノロジーの力で拡張する” と言った発言も、今回みたいな取材やプレゼンでしか使えないんですよ。



先日建築家の方と対談があって、「大きな扉をつくるとは言わず、その扉があることで空間が大きくなる、と言っておけば扉のサイズは関係無くなる。建築は諸事情によってつくるものが変わっていくから、ある程度の抽象化が必要」とおっしゃっていて、なるほどなと思いました。ぼくがヴィジョニスト気取りで壮大なことを語っているのをみたら、「何か事情があったんだな」と思ってください(笑)。



パフォーマンスのケースで考えると、ダンサーと共に踊るものが映像、ロボットアーム、ドローン、そしてAIに展開して行きましたが、それを具体的なお題にすれば”テクノロジーを用いて、新しい振付制作のルールをつくり出せるか”ということだろうし、抽象化すれば”テクノロジーが身体表現にどこまで寄 与しうるか”ということになるでしょう。

ぼくらのプロジェクトはすべて繋がっているので、それを見てもらえれば、この先に目指す方向も見えてくるのではと思います。ですので、最新作だけでなく、過去の作品もチェックしてもらえると嬉しいです。





火曜日, 8月 23, 2016

トーフビーツ TOFUBEATS

 

 

音楽家はなぜ音楽をつくるのか。
そして、産業のために何ができるのか──tofubeats






「インターネット世代」を代表するミュージシャン、tofubeats(トーフビーツ)。20代の音楽家が抱く「音楽産業」に対するリアルな想いは、いまあらゆる産業が抱える「ミッション」の尊さを教えてくれる。







トーフビーツ|TOFUBEATS
1990年生まれ。音楽プロデューサー、DJ、トラックメーカー。インターネットを利用した楽曲の発表を通し、若くして大型イヴェント出演や大物アーティストとのコラボレーションを成功させてきている。出身地である神戸にいまも拠点をおき世界とつながるミュージシャン。



WIRED Audi INNOVATION AWARD」では、日本から世界に発信すべき「革新の担い手」たちを紹介しているが、音楽家・tofubeatsは、「斜陽産業」ともいえる音楽がこれからどんな途を切り拓くべきかを体現しているという点で、注目すべきイノヴェイターだ。

十代のころからインターネットを通じて自身のつくる音楽の価値を世界に問い、メジャーレーベルと契約し、名だたるミュージシャンとのコラボレーションを実現し、広告をはじめとするマスカルチャーにも受け入れられている。

インターネット世代を代表する20代の「成功した音楽家」。しかし、一方で東京から距離をおき自らのポジションに敏感でいる彼の「リアル」を知ることは、テクノロジーを背景に変革を続ける世界を知ることと等しい。活動をはじめて以来、変わることなく拠点としてきた生まれ故郷・神戸の自宅兼スタジオを尋ね、いま思うことを訊いた。











──2015年9月、所属していた事務所を離れ、自身のマネジメントをする会社をつくられたわけですが、そうしたミュージシャンのありかたは、珍しいものですか?

 

かなり珍しいのでしょうね。個人事務所としてメジャーレーベルとディールをするのはなかなか難しいし、ぼくらのように「アーティスト=社長」なのは、さらに珍しい。20代のミュージシャンだと、同じような立場の人はおそらくいないと思います。



──ほかにない選択肢を、あえて選んだのはなぜでしょうか?

 

それしか選択肢がなかった、というのがいちばん大きいのですが(笑)、ほかの事務所を探す時間もなかったし、同時に「事務所に入る」こと自体にいっ たん区切りをつけてみようとも思っていたんです。やっていることの規模を揃えてやりたいことをやるためにリスクを減らすという意味で考えると、自分たちで会社を立ち上げる方がリスクは少ないとも思ったんです。



──コントロールしやすい、ということでしょうか?

 

はい。失敗したときも自分たちのせいだと思えるし、成功したときはその成功をすべて仲間と分かち合える。そういう意味で、性に合っているんです。



──イノヴェイションは失敗の連続から生まれるという話が、よくされます。失敗というものについて、思うところはありますか?

 

失敗というか、ぼくらにはそもそも「成功体験」がないんだと思います。こうしてメディアに取り上げていただけるようになったけれど、ぼくらには何がきっかけで取り上げられているのかよくわかっていないんです。

求められる「水準」をちゃんと超えよう、という意識はプロとしてもっています。けれど、実際にレコード会社の社内でも「トーフくんって●万枚のセールスだけど、数十万枚売れてるような扱いをされるよね」って言われるんですよ。そして、ぼくらもたしかにそうだなって思う(笑)。成功したいという気持ちはもちろんありますが、それ以上に「世の中はあてにならん」という感覚を、強くもっています。



──それは「枚数」があてにならない、という話ですか?

 

枚数も、そうです。お客さんのことをバカにしてたら絶対にしっぺ返しを喰らうのはよくわかっているけれど、逆にぼくらが「これだ」と思ったからといって世間が受け入れてくれるわけではない。「つくる」のと「売る」のはかなり別物だという想いは、強くあります。

「自分がどこにいるのか」という感覚は、とくに音楽をやっている人たちにとって、わかっていないことが多いと思います。



──どこにいるか、ですか。

 

自分たちが、成功してるのか失敗してるのか。ぼくらは確かに音楽で食べていけているのだから、水準を超えられてはいるのでしょう。ただ、いまのぼくらは、成功だ失敗だというほど、大きな数字を動かしているわけではないと思います。



──しかし、そこには数字では計れない何かがある、ということなのかとも思います。

 

そうなんですよ。そして、それを信じてる側と信じていない側との間には、結構大きな乖離がある。1年間でぼくらが稼ぐ金額なんて、例えば話に聞く「ヴェンチャーキャピタルが出資する額」なんかより格段に少ないわけです。もちろん、うまくお金をつくることができるバンドやアーティストの方もいらっしゃるし、それはそれでビジネスとしてすばらしいと思います。けれど、ぼくらはそれをあまりやりたいと思わないだけのことです。おそらく、そこをやってし まうと「コミット」できる部分が疎かになってしまうんですよね。









──「数字」ではない「コミット」というお話には、興味があります。規模のもそうですが、神戸を拠点においていらっしゃることも、関係しているのでしょうか。

 

ぼくらが東京から離れて地方にいるのは、いまの流行りを追っかけたところで得することはあまりないという想いがあるからです。

東京にいるとまだ夢を見られて、クラブでDJをやっても500人を超えるお客さんが来てくれます。でも、地方にいたら、クラブミュージックをやって大金持ちになるイメージなんてなかなかできない。

ここでは『Apple Music』に加入するために料金を払おうとしてもクレジットカードを持ってる人がそもそも少ないし、彼らが月980円を(店頭で購入した)iTunesカードで払うのはとても難しいと思うんです。絶対に、すぐに忘れちゃう。



──地方にいることで、現実と乖離した熱狂のようなものから距離を置ける、ということでしょうか。

 

距離を縮めていくと、そのレールに乗り続けるしかなくなるんです。神戸から東京に出て行ってしまうと、その先は例えばニューヨークにでも行かないといけない。会社の経営と同じで、拡大し続けるのか、あるいは「ミッション」と利益を両立させられるかという話でしょうね。

それに、自分のことを何も知らない人たちのなかで暮らしていたら、天狗にならないで済みます。10年、神戸で荒廃した海を眺めながら音楽活動を続けてきて、いまになってやっと「身の程」がわかってきた気がします。

同時に、音楽に関していえば、ものづくりに他人の意見が入ってくるのは危険だと思っているんです。

例えば「好きなミュージシャンはどんな人ですか」って聞かれたとき、ぼくは決まって「自分のなかで的が定まっていて、そこにだけ投げてる人」だ、と答えています。だから、自分がやってきたこれまでの仕事についても、やらなければならないことや、これだけはやりたくないことを、バランスとりながらやってきていると思います。そういう感覚は端からするとうっすらと透けて見えてきます。ちょっといやらしい言い方ですが、それは「品」とも言えるかもしれません。



──品性を保てるというのは、言い換えると「これはやらない」と決めることかもしれません。

 

例えば、ぼくは、曲を通して政治や思想に関しての極端な発言はしないようにしています。あるいは、人に対して暴力的なことを言わない。そういった「これはやらない」という点については、徹底していると思います。

これは、「ミッションがあるから、利益が生まれる」ということに自覚的であるかどうか、ということかもしれません(とくにミュージシャンは、これが逆になってしまうことが多い仕事です)。ぼくらは、とにかく音楽がつくりたい。そして、つくった音楽があってはじめてどう売るかを考える。そのときに下す判断を、「品」だととらえてくれる人と「わがまま」だととらえる人がいるのですが。








──今回のインタヴューは、世界に誇るべき日本のイノヴェイター、ということで伺いました。世界との比較という視点に立ったとき、思うところはありますか?

 

音楽に関しては、世界と日本との間に大きな距離はないと思います。いま、ちょっとでもアメリカで売れたら世界でツアーを組める状況があるわけで、昨年仕事でロンドンに行ったときにも、世界は意外と遠くないと感じました。

普段からぼくらが聴いている音楽も海外の楽曲の方が多くって、であれば、その逆が起きないことの方が不思議です。世界の人に対して、自分たちがつくる音楽を「日本のもの」としていいと感じてもらいたいという想いは昔からもっていて、海外に一定数いるはずの彼らに、ちゃんとアプローチする方法をつくりたいと思ってきました。だって、そんな人が世界各国に10人ずついれば、何千人になるわけじゃないですか?  いまは国内で発言力をつけていかなきゃいけないので、まだまだ先の話ではあるのですけれど。

そもそも、ぼくらはもっと楽しく、音楽をやりたいんです。音楽だけをつくって、意気揚々と暮らしたい。そのために、いまがんばってるだけです。



──それは、自分の生きていく場所をちゃんとつくっていくという感じですね。

 

そうです。自分が生きていきたい業界に対してなんらかの貢献をしないと、業界そのものがなくなっちゃうじゃないですか。

自分の店だけが儲かっているだけだと、商店街は潰れちゃう。クラブだとそれはさらに顕著で、1人のDJだけが毎晩一晩中プレイするのは不可能です。そんなことをどうして誰もわからないんだろうと思います。

繰り返しになりますが、ぼくは楽がしたいんです。そして楽をするためには、やっぱりがんばらなきゃいけない。いま業界ということを考えると、スタジオをつくりたいと思っています。若いミュージシャンには、スタジオの機材に触れられる機会すらないと思うんです。彼らがスタジオに入って、1週間をかけて 音楽をつくるようなことになるといい。







──やりたいこととビジネスは、両立できますか?

 

音楽家として世間の要望に応えるのは、もちろん楽しいです。でも、そのときいくら売り上げを気にせずつくろうと言ったって、根っこの部分では気にするわけです。否応なく数は見えてくる。であれば、ほかのことでお金を稼いだ方が音楽づくりにおいてバイアスがかからないし、売り上げというものをほんとうに気にしないで済むんです。

もしほんとうに売り上げを気にしたくないと思うときがあれば、「兼業音楽家」というかたちで音楽を続けていけばいい。音楽は相手がいるからこそ成立するものだから、音楽で儲けようがあるいはその必要がなくなろうが、聴いてくれる人のことは考えるじゃないですか。

これって、音楽以外のことでも一緒だと思うんですよ。ぼくの祖父母は八百屋をやっていましたが、小さいころに見ていた彼らの姿は、「人に届ける」という意味で、いまぼくがやっている音楽をつくって売ることと、変わらないと思うんです。









PHOTOGRAPHS BY KO SASAKI 
TEXT BY WIRED.jp_ST
WIRED Audi INNOVATION AWARD