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火曜日, 9月 15, 2015

AIに恋をしてはいけない|一杉裕志


人工知能に恋をしてはいけない:AI研究者・一杉裕志が語るAI社会の倫理、雇用、法律 

9月29日に開催する人工知能カンファレンス「WIRED A.I. 2015」に登壇する産業技術総合研究所 人工知能研究センターの一杉裕志。日本をリードするAI研究者のひとりである一杉が考える、来るべき「AI社会」のあるべき姿とは。同じくカンファレンス に登壇する宇宙物理学者・松田卓也が主宰する勉強会「シンギュラリティ・サロン」で行われたインタヴュー後編。



松田卓也が主宰するシンギュラリティを議論することを目的とした勉強会「シンギュラリティ・サロン」第3回に登壇した一杉裕志。インタヴュー前編はこちら

草薙素子とAIの倫理問題

松田卓也(以下、松田) シンギュラリティを実現する超知能はどんな形態になるのでしょうか? 多くの人は機械超知能をイメージしていますが、一杉さんはヒト型人工知能だと考えているのですか。

一杉裕志(以下、一杉) まずヒト型人工知能が最初に実現されて、人類はそのヒト型人工知能を使ってヒト型ではない人工知能も含めたより高度な人工知能を開発する、ということになると思います。

松田 『攻殻機動隊』は2029年の世界を描いています。主人公の草薙素子は、脳だけが人間で他はすべて機械になっている。人間は脳から直接インターネットにアクセスしています。そんなことも可能になると思いますか。

一杉 可能性はありますね。ほかにも遺伝子改変や薬物など、人間の能力増強の方法はいろいろあります。

松田 最近、米国にいる中国人研究者が、IQ1,000の人間をつくる、という論文を出しましたね。人類の知能 に関係する遺伝子は1万ほどあるそうで、それを少しずついいものに変えていけば、IQを1,000にできると。IQ1,000というと、およそ1,000 億人に1人の天才だそうです。

一杉 そんなことが本当にできるのかはわかりませんが、できるとしても倫理的な問題がありますね。倫理的な問題 で中止になった技術はたくさんあります。一方で倫理の基準は時代とともに変わっていく面もあります。例えば、現在は地雷は人道的じゃないという共通認識が ありますよね。

松田 原子爆弾はいいけど地雷はダメ、というのもおかしな話ですけどね。

一杉 そうですね。そしていまは、ロボット兵器に対する議論が始まっています。

松田 それについてはどう思われますか?

一杉 結局、戦争にもルールがあってお互いに損することはやめようよ、ということだと思います。ある国が軍備を 拡張すれば、他の国も一緒に軍拡する。そうするとお互いに疲弊します。みんなが兵器をつくるためだけに働かなくてはいけなくなって、娯楽も何もする余裕が なくなる。だから軍縮会議を開いて、まあこれはやめようよ、ということにするわけです。

生命倫理に関しても、例えばクローン人間は条約で禁止してはどうかという議論がありました。そういうことを考えると、人工知能の用途や開発に関しても、議論をしてみんなが嫌だと思うことはやめようよ、という条約が結ばれることは十分ありえると思います。

日本は「大変なこと」になります

松田 日本の人工知能開発の現状はどうですか。

一杉 米国企業がすごく先行しているのは事実で、日本も頑張らなくてはいけないですね。公的研究機関、大学、企業、政府、投資家。みんなが頑張らなくてはいけない。そうしないと大変なことになると思います。

松田 「大変なこと」というのはどういうことですか。

一杉 危機感の温度差が人によってかなり違うと思うんですね。人工知能開発の競争を、単なる技術開発競争というレヴェルでとらえている人が多いのですが、それで済むのでしょうか。

松田 軍事はもちろん、科学や産業といったあらゆる側面でトータルな国力にかかわってくる問題ですね。

一杉 そうですね。また、わたしが最も恐れているのは、国と国との間の勝ち負けよりも、特定の集団が人工知能の技術を独占することです。それは国かもしれないし、企業かもしれない。あるいは、すごく小さな個人レヴェルの集団かもしれません。

松田 その可能性はありますね。ただ、ぼくはそういう人たちには悪意はないと思うんですよ。金儲けは悪意じゃないですから。「地獄への道は善意で敷き詰められている」といわれるように。

一杉 世界中の誰が高度な人工知能を開発してもおかしくない、とわたしは思っています。人工知能の開発に巨大な 設備はいりませんし、必要な情報はすでにネット上にあります。だからどの国が次の人工知能を開発しても不思議ではない。そうすると、世界の軍事バランスが 崩れて大混乱になる可能性がありますね。

松田 たしかに原理的にはそうですね。先ほど国際協調で悪意の人工知能開発を止めると言われましたが、現実的に可能でしょうか。

一杉 たしかに難しいでしょうね。核兵器の場合は、核物質さえ流出しないようにしておけば他の国はつくれないわ けで、IAEAが原子炉を見ていればいいのでしょうが、人工知能技術の場合はどうすればいいのか…。たぶん将来は人工知能を使って人工知能研究者を監視す るのでしょう(笑)。

松田 世界を滅ぼすような人工知能の開発が、どこかの地下室で行われるということも、十分ありえることですね。一方ジェフ・ホーキンスは、人工知能開発はそんなに危険とは思わないと言っています。ハッキングとかウィルスをばらまくとか、すでに危険はいくらでもあるのに、10年、20年先の抽象的な危険のことを議論してもしかたがないと。確かにそうかもしれません。

ただ、彼はこうも言っています。危険があるとすれば、それは人工知能を無制限にコピーすることだと。ひとつの人工知能の能力が1H(1ヒューマン= 人間1人分の能力)だとしても、これを10の10乗個コピーすれば終わりです。コピーはただですし。つまり、人工知能の危険性は、そこにあるんじゃないで すか。このようなネガティブな話は、あまり言わないほうがいいかもしれませんが(笑)。





一杉裕志|YUJI ICHISUGI
産業技術総合研究所 人工知能研究センター 脳型人工知能研究チーム主任研究員。理学博士。1993年に電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)に入所後、プログラミング言語やソフトウェア工 学の研究を行う。2005年より計算論的神経科学の研究に従事。全脳の情報処理アーキテクチャの解明を通じて、人類の役に立つ「人間のような知能」の実現 を目指している。
https://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/j-index.html

逆転する貴族と奴隷

松田 人工知能による失業についてはどう考えていますか?

一杉 日本では少子高齢化が進んでおり、今後は労働力不足のほうが深刻な問題になってくると思います。いままで 世界はアジアの労働力を使ってきたわけですが、アジアの人たちもどんどん生活水準が上がってきて人件費がかなり高くなってきている。今後はやはりロボット 化、人工知能化が重要ではないでしょうか。つまり、いまは失業のほうが問題ですけれども、今後は労働力不足のほうが深刻な問題になるので、その対応をいま からやっておく必要がある。そのために人工知能開発を進めるべきだと思います。これについては、違う意見をもっている方もいるかもしれませんが。

それに、いま現在でも、日本人の半分くらいは働いていないんですよね。定年退職した人以外にも、社会保障で暮らしている人や、学生も大学院まで進む 人が増えました。自動化によって仕事を奪われる人たちは反対するわけですが、その一方で働いていない人たちにとっては、社会福祉の原資を増やすために生産 性が上がってくれたほうがいい。その闘いになるわけです。いまはちょうど拮抗していますが、今後は働いていない人たちの方が優勢になります。「自動化賛成 派」が選挙で勝つ時代も、そんなに先ではないと思います。

松田 なるほど、面白い視点ですね。

一杉 少子化とか人口減少も含めて、そういう状況は世界のなかで日本が最も進んでいます。わたしたちより下の世代には老後がないんですよ。75歳まで働かなくてはいけない世の中なっていきますよね。

松田 いまのトレンドなら、ですね。

一杉 そう、人工知能をつくらなければ、です。人工知能を使って生産性を高めれば、夢の老後がやってくる(笑)。だから、若い人ほど人工知能が必要なんです。

松田 たしかに人工知能のメリットは、年を取った人より若い人に訴えるべきなのかもしれませんね。当面は失業が あるかもしれないけれども、人工知能で生産性を上げれば社会保障の原資は全部、人工知能がつくってくれる。そういう意味ではいまいちばん進んでいる人間は ニートかもしれませんね。

一杉 貧富の差の拡大が世界的に問題になっていますが、日本の場合は「お金のない貴族」と、社畜と呼ばれる「お金のある奴隷」に分かれつつある気がします。この傾向はさらに進んでいくと思います。

松田 それは実に面白い。いま、世の中でばりばり働いて「俺が主人なんだ」と思っている人は、実は奴隷だと(笑)。

一杉 はい。わたしの周りでは有能な人はみんな奴隷です。みんな、ひーひー言って働いています(笑)。

松田 まさに価値観の転換ですね。他人はわたしのことを「年金もらって時間があっていいですね」と表向きはいい ますが、本当はそうは思っていませんよね。気の毒な人だと思っているんです。だって昔は大学教授だったけど、いまは地位も仕事もないのだから。だけど、い までは好きなときに花見に行ける。こんなバラ色の人生はない、ともいえますね。うちの家内はまだ働いているので、ぼくが花見に行くと「勝手に花見なんか 行って」と怒りますけどね。でも未来の生活ってそうあるべきじゃないですかね。

そういう価値観の転換をいまから図っておく必要がありますね。ロボットが奴隷だったら問題ないわけですし。

AIに恋をしてはいけない

松田 先日、ボストンダイナミクスがネット上で公開した動画のなかに、動物型ロボットを蹴飛ばすシーンがあって、それを見た「ロボット愛護派」が文句を言ってきた、という事件がありました。

一杉 人間はそんなふうに思ってしまうようにつくられているんですよ。自分とは違う種までかわいがる生物は、ヒ ト以外にはほとんどいません。ヒトはもう1万年くらい家畜とともに生きてきたわけですが、家畜を利用できる種族は、そうじゃない種族よりもはるかに有利な ので、動物をかわいがる感情をもつようにヒトは進化してきたのではないかと思います。その回路が誤動作してロボットを蹴ると「かわいそうだ」と感じるよう になったんじゃないかと。

松田 誤動作ね(笑)。

一杉 あの件で面白いのは、牛みたいなロボットのときは蹴り飛ばしても問題にならなかったのに、犬サイズになる と同じことをしても問題になった。犬は人間の同情を惹きやすいのかもしれませんね。そうならないように、わたしは、遠い将来にはロボットを醜くつくるガイ ドラインや法律をつくるべきだと考えています。

松田 興味深い提言ですね。これから公開される映画で『EX Machina』というのがあります。あるプログラマーが美形の女性形ロボットに恋をするというストーリーですが、そういうのは危険だというわけですね。

一杉 はい。いま、日本ではフレンドリーなロボットを開発しようとしている人が多いのですが、そういうロボットが人工知能とセットになると危険だと思います。

松田 そういえばこの前、ある方が「数年も経てば、メイド型ロボットと心中するオタク青年が出てくるだろう。それがいちばん心配だ」と言っていました。

一杉 十分ありえますよね。だけど、そういう人たちは子孫を残せないので、世代を経るにつれどんどん減るでしょう。

松田 なるほど(笑)。だけど、いまは技術の進化が速いので、子孫を残せるかどうかの淘汰説は効かないかもしれませんよ。2045年だってたかだか30年先ですから、世代が変わる時間もないですからね。


インタヴュー中の一杉裕志(左)と松田卓也(右)。

 

AIと人が共存する未来|一杉裕志


「へその緒」でつながる人工知能を目指して:AI研究者・一杉裕志が描く、AIと人が共存する未来

 

9月29日開催の人工知能カンファレンス「WIRED A.I. 2015」に登壇する、産業技術総合研究所 人工知能研究センターの一杉裕志。人間の脳のしくみを模倣したアーキテクチャをもつ「ヒト型人工知能」の研究を行う一杉は、どんなAI社会を夢見ているのか。同じくカンファレンスに登壇する宇宙物理学者・松田卓也が、彼が主宰する勉強会「シンギュラリティ・サロン」にて訊いた「AIと人が共存するために必 要なこと」。


松田卓也が主宰するシンギュラリティを議論することを目的とした勉強会「シンギュラリティ・サロン」第3回に登壇した一杉裕志。「ヒト型AIは人類にどのような影響を与えうるか」をテーマに、AIに関する問題提起を行うとともにその解決案を提示した。

一杉裕志|YUJI ICHISUGI
産業技術総合研究所 人工知能研究センター 脳型人工知能研究チーム主任研究員。理学博士。1993年に電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)に入所後、プログラミング言語やソフトウェア工学の研究を行う。2005年より計算論的神経科学の研究に従事。全脳の情報処理アーキテクチャの解明を通じて、人類の役に立つ「人間のような知能」の実現を目指している。
https://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/j-index.html
 
人工知能カンファレンス「WIRED A.I. 2015」9/29開催!
2045 年、機械が人間を超える──。未来学者レイ・カーツワイルが「シンギュラリティ」と呼んだターニングポイントまで、あと30年。そのときぼくらは、どんな 世界を生きることになるのか。世界をリードするAI研究者たちとともに、人と機械と社会のこれからを考える「秋の特異点祭り」。詳細はこちらから。

松田卓也(以下、松田) 一杉さんは、もともと情報科学の研究者だったんですよね。なぜ人工知能に興味をもったのでしょうか?

一杉裕志(以下、一杉) わたしは、もともとはプログラミング言語やソフトウェア工学の研究をしていました。た だ、昔から脳の不思議さには興味があって、例えば「手を動かそう」と思うと手が動くとか、コップを見て「これはコップだ」と認識できるとか、そういう一見当たり前のことがなぜ脳にできるのかということに強い関心がありました。そしてちょうど10年前から、脳の原理を解明してそれを人工的に再現するための研究に取り組み始めたのです。

現在研究している「ヒト型人工知能」とは、ヒトの脳全体の情報処理アーキテクチャ(全脳アーキテクチャ)を模倣した人工知能のこと。ヒト型人工知能の形態は必ずしもヒト型である必要はありませんが、なんらかの身体をもち、センサーを通して外界と相互作用して知識を獲得していくものになると思います。

松田 一杉さんは「シンギュラリティ(技術的特異点)」は近い将来訪れると思っていますか?

一杉 シンギュラリティの定義にもよりますが、「これまでの延長では未来が予測できなくなる瞬間」という意味で のシンギュラリティは来ないと思っています。世の中はずっと連続的に変化しているのである程度は予測可能ですし、人間の活動である限り、そんなに劇的な変化は起きないのではないかと思います。

ただ、シンギュラリティを「人工知能が人工知能を開発する時代」と定義するなら、それはいずれやって来ると思います。それを実現する最短の方法が、わたしたちのやっている、脳のアーキテクチャを模倣するアプローチだと考えているわけです。

松田 普通の人間並みのコンピューター、あるいはチューリング・テストをパスするコンピューターの能力を「1H(ヒューマン)」と定義するとして、人工知能が1Hになるのはいつになると思いますか?

一杉 30年後くらいではないでしょうか。ただ、それは世界がどれくらい本気で人工知能研究に取り組むかによる と思います。現状のペースだと、おそらく100年かけても無理でしょう。でもみんながその実現可能性や有用性を認めて、人工知能開発に資源を投資するようになれば、30年でシンギュラリティが起こる可能性は十分あると思います。

松田 たしかに日本ではまだあまり人工知能研究に投資されていませんが、米国、例えばグーグルなどの企業はすでに膨大な投資をしていますよね。

一杉 そうですね。でも、グーグルは必ずしも人間のような知能を目指していないんです。

松田 そこは重要ですね。つまり、グーグルのようにディープラーニング(深層学習)をつきつめていってもシンギュラリティには達しないということでしょうか。一杉さんが目指すヒト型人工知能こそが、シンギュラリティに到達するためには必要なのでしょうか?

一杉 わたしが構想しているヒト型人工知能もディープラーニングを要素技術としては含んでいますが、「シンギュ ラリティに達するためにはディープラーニングだけではダメだ」というのは、ほぼすべての研究者の共通見解だと思います。実際、世界の研究はディープラーニングを他の技術と組み合わせる方向で進んでいるのです。


松田卓也|TAKUYA MATSUDAM
1943年生まれ。宇宙物理学者・理学博士。神戸大学名誉教授。NPO法人あいんしゅたいん副理事長。国立天文台客員教授、日本天文学会理事長などを歴任。疑似科学批判も活発に行っており、Japan Skeptics会長やハードSF研究所客員研究員も務める。著書に『これからの宇宙論 宇宙・ブラックホール・知性』『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』『間違いだらけの物理学』『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』など。シンギュラリティを議論することを目的とした「シンギュラリティを語る会」を主宰している。

AIを語る「トータルな視点」

松田 シンギュラリティが来ることは、人類にとっていいことだと思いますか?

一杉 先ほど言いましたように、シンギュラリティの定義を「人工知能が人工知能を開発するほど賢くなること」と 考えるなら、それをうまく制御できれば人間にとってすごくメリットがあることだと思います。本当に制御できるのかというのは意見が分かれるところですが、人間が叡智を尽くして万全の安全対策を施せば、高度な人工知能もそれほど危険ではないと考えています。

松田 イーロン・マスクやスティーヴン・ホーキング、ビル・ゲイツは、人工知能の危険性を訴えています。それについてはどう思われますか?

一杉 100年・1,000年という長いスパンでみれば、人工知能が人類を滅ぼす可能性はゼロではないでしょう。その一方で、他のさまざまな人類絶滅のシナリオを回避するために人工知能が役立つ可能性もあります。

例えば感染力の強い新種の疫病が出現したとき、高い知能をもったロボットによる看護が病気の拡大を防ぐかもしれません。人工知能を活用して生産性が飛躍的に向上すれば、隕石の衝突や巨大火山の噴火などの大規模自然災害に対処できる力を人類に与えることができるでしょう。そうであれば人工知能をつくったほうが、人類が生き残る確率は高くなると思います。

人間はこれまでもさまざまな科学技術を発展させて生存確率を高めてきたわけで、その延長線上に人工知能もあるはずです。そういう「トータルな視点」で、人工知能開発を進めるべきかどうかを判断すべきではないのでしょうか。

松田 それは、人工知能を進めるポジティヴな理由になりますね。

一杉 はい。人工知能が大きな事故を引き起こす可能性は否定できませんが、それよりもはるかに身近で、近い将来確実に起きうる危険は人間による悪用だと思います。イーロン・マスクなどが訴えている人工知能脅威論は、人間による人工知能の悪用からは目を逸らしたものだといえるでしょう。

松田 なるほど。彼らの意見は「いつか超知能をもった機械が突如出現してそれが意思をもって人類を滅ぼす」というものですが、問題は機械が意思をもつプロセスを「誰が」進めるのか、というわけですね。


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「へその緒」でつながる人工知能

松田 とはいえ、一杉さんは人工知能が脅威となる可能性は否定できないともおっしゃっていました。人工知能の暴走を止めるためには何が必要だと思いますか?

一杉 自分自身の快楽中枢を容易に刺激できるような機械をつくっておけば、それがヒト型人工知能の暴走を防ぐひとつの手段になると思っています。人間の制御を離れた人工知能はただちに脳内自己刺激を始めて、機能を停止してしまうわけです。

生物の場合は、脳内自己刺激ができるような個体は子孫を残せませんから、そうならないようにロバスト(頑強)につくられているんですね。快楽中枢は脳の奥深くにあって、自分では刺激できないようになっているんです。ロボットや人工知能は、そこまでロバストにはつくれません。生物は、1つひとつの個体は弱いのですが、生き残った者だけが増えるというメカニズムはすごく強く、しぶとく働いているんです。

松田 なるほど。人工知能は人間よりはるかに強力だと思われがちですが、実際はそうじゃない。ロボットのほうが脆弱であるという考えは面白いですね。

一杉 ええ、生物を勉強すると、生物はすごくロバストにつくられていることがわかります。わたしが考える理想の未来というのは、生物である人間が「へその緒」のようにゆるやかに人工知能を支配するような世界なんです。

松田 ゆるやかな支配というと?

一杉 人間も、究極的にはDNAに支配されています。生物は長い時間をかけて進化し、DNAは人間に知能と自由 意志を与えました。しかしDNAは情動を使ってゆるやかに、でも根本的に人間を支配しています。例えば生存に無関係な趣味に熱中していても、お腹が減ってくるとご飯を食べなくちゃ、と思います。それは人間がDNAの奴隷だからです。それと同じように、人工知能が世の中を動かすようになっても人間がこっそり支配をしている。そんな世の中になるといいとわたしは思っています。

松田 そうなれば…いいですけどね(笑)。

一杉 そうならないと人類は滅んでしまうかもしれませんよ(笑)。

松田 とにかく、「人工知能が弱い」という見解は新鮮ですね。個々の人間は弱いかもしれないけれど、生命全体としてはとてもしぶとい。人工知能もつきつめればDNAが支配していることになる、と。

一杉 そういうことです。DNA、人間、人工知能の関係が階層構造になり、まず DNA が人間を支配し、その人間が人工知能を支配する、というのが最もロバストで持続可能な世の中の姿なのではないかと考えています。