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水曜日, 2月 04, 2015

IDEO トム・ケリー氏らが語る「組織学習とイノベーション」


トム・ケリー氏らが語る「組織学習とイノベーション」

パネル:トム・ケリー氏、クリスチャン・ベイソン氏、西口尚宏氏

IDEO共同経営者トム・ケリー氏、デンマークデザインセンターCEOクリスチャン・ベイソン氏は、新事業創造カンファレンス&Connect!第一部「創造性とデザインと組織」にて講演後、パネルディスカッションに参加し、イノベーションを生み出す組織のあり方を話し合った。その発言の一部を紹介する

組織学習の重要性-内外の人々に「共感」を持つこと

モデレーター西口尚宏氏(以下、西口):
 講演で話題になった「共感」とイノベーションを起こす組織構造を関連づけてお話いただけますか。
IDEO共同経営者トム・ケリー氏(以下、ケリー):
 組織内でも、他の部門、業務グループなどに属する人々がお互いに共感を持つべきです。イノベーターたちが理解しがたい、または馴染みのないことをしているとしても、既存事業担当者は「(彼らのしていることに)会社の将来がかかっているのかもしれない。どんな新しいことをやってくれるんだろう」という気持ちでいてほしいですね。
デンマークデザインセンターCEOクリスチャン・ベイソン氏(以下、ベイソン):
 行政機関の場合、市民への共感は不可欠ですが、デザイナーやイノベーターとしては、そのときどきに関わっている組織に寄り添う気持ちも必要です。政策でも事業でも、その業界独特のことばを理解し、その運営者の目線で話さないと、アイデアは認められないし、新しい企業文化の一部にもなっていきません。
そこで問題になってくるのが組織学習です。どうやって新しいアイデアを受け入れ、新しい慣行に根づかせていくべきか。組織学習は、事例や競合の研究ばかりでなく、共感や対話も関わる複雑なプロセスですが、過小評価されていると感じます。

好奇心を組織学習に組み込む

トム・ケリーIDEO 共同経営者 トム・ケリー氏
西口:
 業務の効果・効率性向上が目的の研修が多い日本企業にとっても、組織学習の問題は重要です。
ケリー:
 ほんとうの学びは、競合の研究ではなく、実験や、人々の行動の動向の研究から得られます。たとえば、日本では高齢化が社会問題ですが、これは企業にとっては商機でもありますよね。日本にいる多くのお年寄りから学び、共感して、彼らを支援する製品やサービスを開発すれば、世界的にも貢献できるでしょう。
ベイソン:
 IDEOなどの最先端のデザインファームの強みは、「システマティックキュリオシティ(組織全体で好奇心を持っていること)」でしょう。組織学習を推し進めるのは、まさにこの組織の好奇心です。ものごとを観察し、疑問を持ち「(この現象は)自分にとってはどういう意味があるのかな」と考えてみること。そういう好奇心を育む文化を作れるかどうかが課題ですね。
西口:
 システマティックキュリオシティは、興味深い概念ですね。
ベイソン:
 個人や組織は、自分が世界を変えてやるといった野心や自負を持つ一方で、いいアイデアはどこからでもやってくる可能性があることを認める謙虚さも持っていなければなりません。どんなに頭脳優秀な社員がいても、すべてを知っているわけではないのです。
 「問題はすべて把握している」と話す経営者に会うと、とても心配になります。こんな状況把握をしている組織はとてもイノベーティブとはいえず、すでに衰退が始まっているのではないかとさえ思います。
 自負と謙虚さを両立させるためには、学び続けること、アイデアはどこからやってくるかわからないと認め、好奇心を保つしかありません。
ケリー:
 特に、私のような年齢になってくると危険なのは、必要な知識はすべて持っていると思い込む、知識の陳腐化です。組織にとって価値ある知見を更新しつづけていくことは、組織のリーダーに課せられたチャレンジです。永久に変わらないものもあれば、日々変化するものもあります。その違いを見極めて、常に世界を観察して、更新すべきものは更新していかなければなりません。

新規アイデアに予算を配分するかどうか

DDC クリスチャン・ベイソンデンマークデザインセンター CEO クリスチャン・ベイソン氏
西口:
 アイデアに予算がつかないと苦闘しているイノベーターは多いです。世界のイノベーティブな企業はこの問題にどう取り組んでいるのでしょうか。
ケリー:
 企業のどの部門もイノベーションを起こしたいわけですが、同時に今月や今期の業績も配慮しなければならない。これでは、業績を上げるためにはイノベーションにコストやリスクはかけたくない、となってしまいます。
 それで、プロクター・アンド・ギャンブルは、実験・探究のためだけに資金を出す組織を社内にスタートさせることでイノベーティブな企業に変貌しました。
 それぞれの金額は小さいけれども「クレイジーなアイデアにお金を出しましょう」と、いわば社内の各部に小さな賭けをしかけたおかげで、社内からいろいろなイノベーションが生まれてきました。
 スリーエム(3M)が始めた、特に予算配分を要さない賢い方法もあります。3MにはR&D部門に「15%タイム」という制度があり、部員は勤務時間中の15%を個人的なプロジェクトに充てられます。これはちょっとしたトリックです。というのは、通常業務85%+個人プロジェクト15%ではなく、その比率が100%+15%になるのです。ほんとうかなと思うかもしれませんが、うまくいっています。
 同様の制度がグーグルにも受け継がれていますが、どちらの会社でもこの時間からイノベーションが生まれる率はひじょうに高い。この場合、会社側は社員の好奇心を守ってあげているだけで、イノベーションのために特定のコストをかけているわけではありません。
ベイソン:
 イノベーションチームの役割は、チーム自体がアイデア出しするのではなく、他の部署がイノベーションにつながるアイデアを思いつけるように刺激してあげたり、将来のビジネスモデルを探求している組織外の人を探してきたりすることです。こういう活動やスキルへの投資は重要だと思います。
 ともに働く企業には、投資の準備はできていないとしても、たとえば、主要メンバーが6週間を割いて新しいビジネスモデルや新しいコラボを試してみることを許すような価値観を持っていてほしいと思います。

ワークショップは“リハーサル”

西口:
 日本には今、デザイン思考=ワークショップといった現象があるのですが、どう思われますか。
ベイソン:
 以前、政府内でイノベーションチームをスタートさせたとき、いろいろな政府機関で5年間に300ほどのワークショップを実施しましたが、その活動を評価したところ、効果は限定的だったと判明しました。原因は、ワークショップに市民に参加してもらわず人々の経験を取り入れていなかったこと、自分たちで実験もしていなかったことでした。
 ワークショップは、コンセプトやアイデアを集めるにはよい手法ですが、次世代のイノベーションは人間中心のデザイン、政策、戦略ですから、必ず建物を出て外で時間を過ごし、人々の経験に目を向けるべきですね。
ケリー:
 ワークショップはリハーサルのようなものです。「楽しかったね」で終わるのではなく、1つか2つ、明日からでも来週にでも自分で試してみようというアイデアを持ち帰れるのがよいワークショップだと思います。
新事業創造カンファレンス
セミナー開催概要
  • セミナー名:新事業創造カンファランス&Connect!第一部「創造性とデザインと組織」
  • 講演名:パネルディスカッション
  • スピーカー:IDEO共同経営者、Tom Kelley氏、Danish Design Centre (DDC) CEO、Christian Bason氏
  • モデレーター:Japan Innovation Network専務理事、西口尚宏氏
  • 主催:ベンチャー創造協議会/経済産業省/公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会/東京ニュービジネス協議会(Connect!)
  • 共催:政策研究大学院大学/一般社団法人Japan Innovation Network
  • 開催日時・場所: 2015年1月22日、ホテルニューオータニ




IDEO トム・ケリー氏が語る「創造力に対する自信」

IDEO トム・ケリー氏が語る「創造力に対する自信」

講演名「Creativity in Organizations」


世界有数のデザインファームIDEOの共同経営者トム・ケリーが、経済産業省主催の「新事業創造カンファレンス&CONNECT」にて基調講演を行った。シリコンバレーで30年余にわたってイノベーションの最前線に立ち続けてきた経験をもとに、日本の聴衆に向けて個人や組織が創造性を発揮するために必要なマインドセットについて語った。


創造力に対する自信(Creative confidence)とは

 兄のデイビッドとともに、シリコンバレーの小さなデザイナー集団だったIDEOを世界で最もイノベーティブな企業と評されるまでに成長させてきたトム・ケリー氏(以下、ケリー氏)。同社は初代アップルのマウス、世界初のラップトップPCの開発などの初期の「製品イノベーション」から次第に「顧客エクスペリエンスや組織の再設計」を手がけるようになり、近年ではデザイン思考に基づく「イノベーション文化」の普及に取り組んでいる。
 ケリー氏は、そのキャリアを通じて、世界中の優れたヴィジョンを持つリーダーたちの知性や感性の働かせ方を観察する機会に恵まれた。その体験から、創造性を発揮するためには「創造力に対する自信」が必要だと説く。
「創造力に対する自信」は2種類の能力、「いいアイデアを思いつく」という本来誰もが備え持っている能力と「行動する勇気」で形成されます。創造力に対する自信についての本(邦題『クリエイティブ・マインドセット』日経BP社)を書くために世界中でインタビューを実施したところ、多くの人々、特に若者や組織に属する人々は、ある問題を解決できるかもしれないアイデアはあるのに、奇異に見られたり、批判されたりすることを恐れて、手をあげない(アイデアを発表しない)のだとわかりました。創造性はもともとあるのですから、それに行動する勇気が加わりさえすれば「創造力に対する自信」は生まれるのです。

「テクノロジー」と「人間性」の調和をとる

トム・ケリー
 個人や組織の「創造力に対する自信」を育てるうえでカギとなる要素の1つとしてケリー氏が強調するのは「テクノロジーと人間性の調和」だ。これはテクノロジーありきではなく、まず人々に共感し、そこから彼らのニーズを探るアプローチだ。
 そんな方法論の成功例として、ケリー氏お気に入りのこんなエピソードがある。
 ゼネラルエレクトリック(GE)ヘルスケアのMRI開発部隊を率いるダグ・ディーツ氏は、自分が開発した装置を使う現場へ見学に行き、全身をスキャンするその機械に入るのを怖がるあまり、子どもの80%は麻酔で眠らせなければ検査ができない事実を知り大きなショックを受ける。幼い患者の恐怖感を取り除くMRIを開発できないものか。悩んだ同氏は、救いを求めてスタンフォード大学のdスクールで「共感から始めよう」がテーマのエグゼクティブ教育コースを受講した。
 コースに刺激を受け、あるアイデアを職場に持ち帰ったが、予算はつかない。それでもあきらめず、社内、小児病院、子ども博物館からボランティアを募ってプロジェクトを進めた。彼らは、検査室とMRIを遊園地のアトラクションのように作り替え、技師向けに「これから海賊船に乗るよ。海賊に捕まらないようにじっとしていられるかな」といったセリフの入った台本まで用意した。
 この改良の結果、子どもに麻酔をかける率は10%にまで減り、売上増や機械の稼働率アップをもたらしたのだった。
 ケリー氏は「彼は技術には一切、手を加えませんでした。彼が設計し直したのは『体験』です」と解説し、人間性の部分に注目することの大切さをあらためて確認した。

人生を「実験の連続」と見なす

トム・ケリー
 新しいモノやサービスを生み出すためには実験を重ねなくてはならないが、実験には失敗がつきものだ。失敗がもたらす精神的なダメージを抑えるためには、組織は失敗に対して寛容であるべきだとケリー氏は主張する。
小さな失敗、舞台裏の失敗、高くつかない失敗ならばまったく構わない。そういう失敗を許容する文化を創ろうと努めてください。優れたスキーヤーになるためには、何度も転ぶ覚悟が必要。失敗は学習プロセスの一部です。失敗は成功への道なのです。
 ジェームズ・ダイソンは、世界初のサイクロン式掃除機を売り出す前に、5128台もの試作機を製作したといわれている。ケリー氏は「当てずっぽうではなく、どの試作機も1つ前のものより確実に進歩していた」と、成功するまで粘り強く失敗を受け入れたダイソンを称える。現実には5000回もの実験が許される環境は少ないとはいえ、見習うべきはその実験者スピリットだという。
何かにトライし続ける会社でなければなりません。日々、実験に取り組み、今日の学びを将来につなげるような企業であってほしいと思います。

実験やプロトタイプは素早く、安上がりに

トム・ケリー
 「実験やプロトタイピングはできるだけ多く、ただし1回毎にかけるコストや時間はなるべく少なく」が、IDEO流の考え方だ。
 その好例が『セサミストリート』のスマホアプリを開発した際の「超ローテク・ラピッドプロトタイピング」である。キャラクターのエルモの鼻をタッチすると音楽が鳴り、彼が踊り出す機能をどうしてもアプリに搭載したかったIDEOのチームは、拡大サイズのiPhone型段ボールの画面部分をくり抜き、その向こうでエルモの代わりに社内スタッフを踊らせるビデオプロトタイプを会議直前の1時間以内に準備し、プレゼンで見事にクライアントにその案を認めさせたという。
自分ではアイデアをすばらしいと確信していても、上司やパートナーはあなたと同じようにはそのアイデアを頭に描けないから、まだ迷っている。そんなときは『自分のアイデアを盛り込んだ将来イメージを視覚化して見せてあげること』をお勧めします。プロトタイプの目的は作品を仕上げることではなく、イエスと言ってもらって次のステップに行けるようにすること。そのために、どうやったら一番早く、安くできるかを常に考えましょう。

セミナー開催概要

  • セミナー名:新事業創造カンファランス&Connect!第一部「創造性とデザインと組織」
  • 講演名:Creativity in Organizations
  • スピーカー:IDEO共同経営者、Tom Kelley氏
  • 主催:ベンチャー創造協議会/経済産業省/公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会/東京ニュービジネス協議会(Connect!)
  • 共催:政策研究大学院大学/一般社団法人Japan Innovation Network
  • 開催日時・場所: 2015年1月22日、ホテルニューオータニ



IDEO ティム・ブラウンCEOが語る「デザインの未来」

IDEO ティム・ブラウンCEOが語る「デザインの未来」

IDEO CEO ティム・ブラウン公開対談:前編




デザインコンサルティングファームIDEOのCEO、ティム・ブラウン氏が来日。11月18日、慶応大学メディアデザイン研究科の招きで公開対談に臨んだ。聞き手は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の研究科委員長の稲蔭正彦教授。「デザイン思考」の伝道者が語るイノベーションとデザインの未来とは?。

デザインプロセスは「協働・共創」に必要な“共通言語”

-「デザイン思考」という言葉は日本でも流行語のようになりましたが、深くは理解されていないようです。デザイン思考をどう捉えていますか。

デザイナーたちは直感的に、世界に興味を持つ、そのあり方に疑問を投げかけるということをしています。世界はどうしてこうなっているのか。他にもっといいやり方はないのか。そういう興味と疑問が、彼らをアイデアに向かわせます。その後、そのアイデアを、描いてみたり、立体にしてみたり、コンピュータを使ったりして、実際にいろいろ試して、最終的によいと思えるソリューションを導き出す。
「疑問を持つ」「アイデアを探す」「試す」「最終形を出す」というこのプロセスは、ある1つのソリューションに「収束し、また拡散する」というサイクルを繰り返します。
デザイン思考は、デザイナーのこういう直感的なデザイン行為に説明を与えたもので、どちらかというとノンデザイナーのためにあると思っています。いわゆるデザインプロジェクトに関わったことがない人でも、デザイン的アプローチを経験して、問題解決に生かせるようにするためです。
デザイナーが広い範囲にわたる、より複雑な問題に取り組もうとすると、多様なバックグラウンドを持つ人々と協働しなければなりません。そのなかで、デザイナーだけがデザインプロセスを理解しているだけではうまくいきません。協働・共創のためには、全員が同じプロセスを共有していなければならない。そこでその説明が必要になったのです。デザイン思考の説明ができるようになって、より幅広い人々と一緒に仕事ができるようになりました。
そのうちに、この考え方にはもっと広い用途があることが分かってきました。デザインの定義は広がっていて、これは問題でもあれば、おもしろくもあります。必ずしもデザインそやデザインのやり方そのものとは関係がないかもしれません。
当初は、デザイン思考を単純に、疑問を持つ→人々を観察する→アイデアを考える→プロトタイプを作る→製品化するプロセスであると説明していました。しかし、デザインを直線的なプロセスだと考えてしまうと、単純すぎるし、それ自体が制約にもなると、その後、気づきました。
デザイン思考の考え方を初めて何かに導入しようとするときに、それをプロセスとして捉えるのは有効です。けれども、間もなく、そのプロセスを手放す方法を学ばなければならなくなります。材木の扱い方はあれこれと教えられる。といっても、偉大な家具職人の 仕事ぶりにはこれといって決まったプロセスは見られないですね。私は、この例えをよく使います。

どこか出発点は必要ですが、クリエイティブなことを起こすには、ルール破りが大切なこともよくあります。デザイナー相手に話をするときに強調しているのは、デザイン思考をプロセスとして説明されたからといって、それを言われわれたとおりに使う必要はないということです。

未来企業の組織デザイン-変化への機敏な対応と進化

IDEO CEO Tim BrownIDEO ティム・ブラウン CEO

-大企業などの組織変革に、デザイン思考はどう役立てられるでしょうか。

現代のビジネスでは、すべてのものが常に変化しつづけていることを前提にすべきです。流動的な気候、経済、環境に加え、ひとたび破壊的イノベーションが起これば、競争環境も一定ではなくなります。
変化の少なかった20世紀に確立された組織は効率の追求を目的にデザインされているので、21世紀には合わず、そのままでは変化に適応できません。組織を将来に向かって常に機敏に動けるようにデザインするべきです。私たちは、企業を完璧にチューニングされた機械というより、絶えず進化するエコシステムと考えるべきだと思います。
デザイン思考や創造的思考は、市場に送り出す製品やサービスだけでなく、組織のあらゆる面に適用できます。先進的な企業は、人事や組織内システムの考え方にデザイン思考がどう使えるかを考え始めています。既存事業の革新的な側面を探るとともに、クリエイティブに考える能力を組織的に浸透させる戦略が必要でしょう。
組織内のクリエイティブ力、デザイン力を大幅に伸ばさなければなりません。その能力を構築するのは簡単ではないので、1年や1年半ではなく、10年越しの長期的なプロセスになります。先進的な企業は、ワークショップをしたり、オンライントレーニングをしたり、これまでは雇用してこなかったクリエイティブ系の人材を雇ったりしています。
これは、大企業がもっと新しいものを出し続ける能力を高めるべきであるという問題に関わってきます。新製品を出すのが得意な企業はありますが、既存商品を置き換えているだけという場合も少なくありません。
シリコンバレーなどでは、大企業は新しい事業を生み出せないから、イノベーションの未来はすべてスタートアップにあるといった議論をよく聞きます。私はそうではないと思います。社会がイノベーションを必要とする範囲は広大で、スタートアップが生み出すものだけではとても足りない。大企業がもっと新しいものを生み出す力をつけなければなりません
グーグルやフェイスブックは10年ほどで大企業になりました。企業が短期間に成長する今、大企業になったらイノベーションを起こせないというモデル自体が持続不可能です。とはいえ、大企業が新しい事業を立ち上げて成功させるというスキルは十分に開発されていないのも事実です。これは今後、多くのアカデミックな研究が期待される分野でもあります。

企業のデザイン部門とデザインファームの関係性

-大企業がデザイン会社を買収する例もあります。

組織内にクリエイティブな能力を構築しなければならないという点には変わりありません。その1つの答えがデザイン会社の買収というわけですが、デザイン会社の数は限られていますから、持続的な戦略とは言えないですね。

-大企業で社内にデザインチームがある場合、社外のデザインコンサルティング会社との関係はどうなりますか。

成長企業は、どんどん新しい製品を開発していきます。その力は全部、これから出す目先の製品に費やされます。もっと先の将来やイノベーションを考え始めたときに初めて、そのためのリソースが社内にないことに気づいて、社外に助けを求めるのです。これはどうも自然とそうなってしまうようです。だから、デザイン会社が社内にデザイン組織を有する大企業と協働する機会はまだあるのです。
既存の自社製品を熟知しているという点で、社内デザインチームにも利点はある。一方で、次世代の新しい製品を考えようというときには、様々な業界と仕事をしているデザイン会社の広い視野が役に立ちます。デザインや創造プロセスをうまく管理できている組織は、内外のリソースをバランスよく使い分けています。
IDEO CEO Tim Brown左:IDEO ティム・ブラウン CEO
右:慶應義塾大学メディアデザイン研究科 稲蔭正彦 教授


「未来のデザイナーは生物学を学べ」が意味すること

IDEO CEO ティム・ブラウン公開対談:後編


デザインコンサルティングファームIDEOのCEO、ティム・ブラウン氏が来日。11月18日、慶応大学メディアデザイン研究科の招きで公開対談に臨んだ。聞き手は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の研究科委員長の稲蔭正彦教授。「デザイン思考」の伝道者が語るイノベーションとデザインの未来とは?


これからのデザイナーは「生物学」を学べ

-循環経済、サステナビリティ、材料のリユースなどの新しい考え方に対して、デザイナーはどう取り組むべきでしょうか?

考え方としてはシンプルで理にかなっていますが、現実はとても複雑です。たとえば、ヨーロッパでは、各種製品の逆アセンブル(解体後の再利用)設計に関する法律がいろいろあります。今やヨーロッパで車を組み立てる場合、一定の逆アセンブルが要求されます。ただし、解体後の素材のほとんどはリユースではなく、リサイクルされています。鉄やアルミは効率的にリサイクルできますが、プラスチックなど、そうはいかない他のものもあります。多くの場合、材料には戻らず、結局は捨てられてしまいます。循環というよりスパイラル経済なのです。これではまだ、長期的に持続可能なソリューションとは言えません。
材料の製造方法を根本的に変えない限り、スパイラル経済から循環経済へは移行できないと考えています。究極的なソリューションは、おそらくフロントエンドにあるでしょう。生物資源材料をベースにした産業革命は始まりつつあるのではないでしょうか。いつになるかはわかりませんが、生物ベースの素材を扱うスキルが高まって、自然の循環を使ってすべての材料を文字通り土に還せるような、もっと簡単にリユースしたり、変化させたりできる材料のデザインが可能になるでしょう。
循環経済を実現するには、この種のブレイクスルーが必要です。18〜19世紀に開発された材料を循環させるのは非常に難易度が高い。こうした材料の扱いに伴うエネルギーの問題もあります。仮にすべての化石燃料廃棄物、すべての使用済み金属をリサイクルできたとしても、そのために投入されるエネルギー量のせいで、循環させることができなくなってしまいます。
これまでは、デザインやエンジニアリングにとって重要な科学といえば物理や化学でしたが、今後20〜30年で、それはおそらく生物学になるでしょう。だからデザイナーは生物学の理解を深める必要があります。非常に大きなシフトですが、その流れはすでに始まっています。RCAには概念レベルで生物学の応用のしかたを研究しているデザイナーがいますし、MITでもいろいろな研究が行われています。

「クリエイティブ経済」を牽引する都市とは?

IDEO ティム・ブラウン CEOIDEO ティム・ブラウン CEO

-21世紀的なクリエイティブ経済を牽引する、良い例だと思う都市や地域はありますか。

メディア、ゲーム、デザイン、建築、カルチャーといった従来から私たちがクリエイティブ産業と考えてきたものすべてと、それ以外のセクターのクリエイティブな活動を合わせたものが「クリエイティブ経済」である。こう定義すると、かなりの規模になりますね。イギリスでは、いわゆる従来のクリエイティブ産業だけで輸出の約4.3%を占めています。かなり大きな数字だと思います。イギリスのクリエイティブ経済は、金融と建設を合わせたよりも多くの雇用を生み出しています。
興味深い例は、韓国です。15年ほど前、韓国政府は家電業界の需要を生み出すものとして、クリエイティブ経済が重要になっていくと判断しました。音楽や映画、その他の韓国文化に注力した結果、Kポップなどそれ以前には存在しなかった産業が現在、実際に消費を後押ししています。15年前には韓国をクリエイティブ経済の国と見なす人はいなかったでしょうが、今では韓国のクリエイティブ経済は一部では日本を抜いたという人もいるほどです。
また、フィンランドも、アールト大学/Aalto University School of Science and Technology, TKK(注:工科大、芸術大、経済大を合併して2010年に新設された大学。名称は建築家アルヴァ・アールトにちなむ。)を設立するなど、政府がクリエイティブ経済に興味深い投資をしています。
都市で言えば、テキサス州オースチンがおもしろいですね。音楽フェスから始まったサウス・バイ・サウスウェストは、世界最大のインタラクティブメディアのフェスに成長したばかりでなく、おかげでその地域で起業する会社も増えました。
当初は技術系イノベーションに強かったシリコンバレーでも、最近はクリエイティブ主導のスタートアップがたくさん出てきています。デザイナーが創立者で、既存の技術プラットフォーム上に体験的サービスを提供するといった類いのものです。これはもちろん、インターネットのおかげです。

日本でビジネスデザインへ関わる人たちへのメッセージ

-日本経済のグローバル化についてはどう思われますか。

日本にはすでにクリエイティブ経済がありますが、内向きでグローバルでない。私の考えでは、日本の小売業は世界で最もクリエイティブです。食文化も素晴らしい。日本の政府や大企業は、自国のクリエイティブ経済の力強さをきちんと把握していないように思います。
世界に出せる文化的なイノベーションや新しいものの源になりそうな、伝統技術を現代的に応用している素晴らしい例もたくさんあります。職人技、ものの見せ方の美しさ、クリエイティブな発想、これらの結びつきには世界に類を見ないものがある。こう思うのは私がデザイナーだからかもしれませんが、日本の政府や企業、金融界には、世界から注目されるこういう分野にぜひ投資してほしいですね。
私の理解では、日本では初期の資金調達は比較的易しいけれど、規模拡大のための資金の獲得が相当難しい。その点を変革して、クリエイティブな起業家を支援する基盤を整備して、彼らがビジネスを拡大できるようにすることが大切ではないでしょうか。

-最後に、デザイナー、ノンデザイナーの皆さんへメッセージをお願いします。

デザイナーの方へは、現代ほどデザイナーにとって恵まれた時代はない、というメッセージを送ります。自分の存在価値をしっかりと認識してください。1つの専門に深く関わるか、いろいろな分野を幅広く手がけるか。デザイナーにとって、この選択は極めて重要です。キャリアを通じて両方を体験することはできるかもしれません。ただ、どちらかで成功している人はいますが、両方で成功している人を私は知りません。
ノンデザイナーの方へは、世界は既定のものである、答えは既にある、とは思わないでほしい、ということですね。世界はかつてないほど新たなソリューションを必要としています。そういったソリューションを考えるときに、デザインや創造性のスキルはきっと役立つでしょう。
IDEO CEO Tim Brown左:IDEO ティム・ブラウン CEO
右:慶應義塾大学メディアデザイン研究科 稲蔭正彦 教授

イベント概要

講演名:Design thinking at a crossroad
How will design thinking in education, business and society evolve in the future?
  • 講演者:Tim Brown (CEO and President of IDEO)
  • 聞き手:稲蔭正彦 慶應義塾大学メディアデザイン研究科 委員長兼教授
  • 主催:慶應義塾大学メディアデザイン研究科
  • 開催日時・場所:2014年11月18日、慶應義塾大学日吉キャンパス藤原洋記念ホール