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月曜日, 10月 06, 2014

「ダサい社長」が日本をつぶす!|SWdesign代表 和田 智(5)


「美しい普通」を創りたい

カー&プロダクトデザイナー/SWdesign代表 和田 智さん(5)


和田 智(わだ・さとし)
カー&プロダクトデザイナー、SWdesign代表取締役
1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒。84年日産自動車入社。シニアデザイナーとして、初代セフィーロ(88年)、初代プレセア (89年)、セフィーロワゴン(96年)などの量販車のデザインを担当。89〜91年、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート留学。日産勤務時代最後の作品として電気自動車ハイパーミニをデザイン。98年、アウディAG/アウディ・デザインへ移籍。シニアデザイナー兼クリエーティブマネジャーとして、A6、Q7、A5、A1、A7などの主力車種を担当。アウディのシンボルとも言えるシングルフレームグリルをデザインし、その後「世界でもっとも美しいクーペ」と評されるA5を担当、アウディブランド世界躍進に大きな貢献を果たす。2009年アウディから独立し、自身のデザインスタジオ「SWdesign 」を設立。独立後はカーデザインを中心に、ドイツでの経験を生かし「新しい時代のミニマルなものや暮らし」を提案している。2012年ISSEY MIYAKE WATCH 「W」を発表。
SWdesign TOKYO | HomepageSWdesign TOKYO | Twitter
人物写真:大槻純一、以下同

ジウジアーロのパンダにやられた大学1年

川島:和田さんが、目指す「デザイン」ってなんでしょう?
和田:「世界で最も美しい普通」です。
川島:美しい。そして、普通。……たとえば、どんな?
和田:僕が最初に出会った「美しい普通」は、1981年、『カースタイリング』誌で、ジョルジェット・ジウジアーロ特集でのこと。武蔵美の1年生でした。カーデザイン界の巨人であるジウジアーロのスゴさもよく知らなかったのですが、その特集に載っていた「フィアット・パンダ」のデザインに衝撃を受けた。
初代フィアット・パンダ(写真提供・フィアットクライスラージャパン)
 シンプルな直線と平面で構成されたボディ。30年以上前の作品ですが、今見ても、まったく古びることがない。「普通」でありながら「美しい」。これがプロダクトデザインの理想ではないでしょうか。僕をカーデザインの道に導いてくれたのが、まさにパンダの「美しい普通」なデザインだったのです。そう、ジウジアーロが作ったデザインの世界観が「美しい普通」のお手本です。
川島:パンダのデザイン、そういわれてみると、すごいですね。これみよがしの曲面もなければ、押し付けがましい主張もない。直線だけで構成されている。なのに、ただの箱じゃない。1度見たら忘れられない「かたち」がそこにある。クルマに詳しくない私でも、実感できます。時代を超えたデザインってこういうものを指すのですね。
和田:このシンプルな直線的デザインこそが、ジウジアーロが生み出した「新しさ」なのです。実はこのパンダの前に、誰もが知るカーデザインをジウジアーロは世に出しています。初代フォルクスワーゲン・ゴルフです。
フォルクスワーゲン・ゴルフ1(写真提供:ヤナセ)
川島:ゴルフもジウジアーロだったんですか! 小型2ボックスカーの元祖ですよね。デザインひとつでクルマ市場を作ってしまったというわけですね。
和田:そうです。ジウジアーロが世に出した直線基調の2ボックスカーのデザインは、誰もやったことのない「新しい」ものでした。そして同時にこのデザインは、自動車の世界でひとつのスタンダードとなった。つまり「美しい普通」です。ただの「新しい」を世に出すことは可能です。でも、大概の「新しい」は、一過性の「奇抜」で終わってしまう。その後の世界でスタンダーになっていく、つまり「美しい普通」になるような「新しさ」を具現化できるデザイナーは、100年に1人出てくるかどうかと言っていい。まさに、天才の仕事なのです。
川島:ジウジアーロはまさにその100年に1人である、と。で、和田さんも次世代のジウジアーロになろう、と……。
ワーゲンの「ポロ」が今は最高です



和田:とんでもない! ジウジアーロの後なんか継げません。僕が言いたいのは、デザイナーは「新しさ」に対して謙虚であるべきということです。真の「新しいデザイン」は、ゴルフやパンダのように、次の時代の「美しい普通」になるようなデザインのことです。ところが「新しいデザイン」の大半は、タダの奇抜なデザインだったり、タダの「目新しいデザイン」なのです。
川島:そう言われてみると、最近の日本車、「美しい普通」と言えるデザインが、あまり見当たりませんね。

ワーゲンの「ポロ」が今は最高です

和田:残念ながら。一部のクルマを除いて街中を走っているクルマの大半は、デザインという視点から見て問題だと僕は思っています。街の風景の重要な一部となっているクルマのデザインは、公共的な側面があるのです。これからは、クルマが街を美しくしていく働きをしなくてはいけないと思います。
川島:ちなみに、ジウジアーロさんとはお会いになったことは?
和田:前回お話ししましたが、新型フォルクスワーゲン・ゴルフの発表会でご一緒しました。かつての上司であるフォルクスワーゲングループのデザインを統括するワヴァルター・ダ・シルヴァさんと来日した際、私も混ぜてもらってお話をしたんです。
新型ゴルフ発表会(写真提供:フォルクスワーゲン)
新型ゴルフ発表会でのトークセッション。左がジウジアーロ氏(写真提供:フォルクスワーゲン)
川島:どうでした?
和田:もう、感激でした。で、大学時代に雑誌の特集でジウジアーロデザインに出会ったこと、その後カーデザイナーを目指して今に至ることを、告白いたしました。
川島:わ、なんだか初恋の人に会っちゃったみたいな(笑)。
和田:で、ちゃっかり、大切に持っていたジウジアーロ特集の載っていた『カースタイリング』誌を持参したのですが、なんと、直筆でメッセージを綴ってくれたんですよ!
メッセージを綴るジウジアーロ氏と、感動する和田さん
川島:何て書いてくださったのですか?
和田:『彼の才能のための賞賛を持って』———そんなメッセージでした。嬉しくなって、思わずジウジアーロに抱きついちゃいました。
川島:素敵ですね。
和田:そのとき、ジウジアーロからエネルギーを拝受しました。で、思ったんです。ジウジアーロの足元にも及ばないけれど、彼が作り上げた「美しい普通」のデザインを、何とか継承していきたい。「美しい普通」の大切さを、今の若い日本のデザイナーに伝えていきたいと。
川島:今、「美しい普通」を最も良く体現しているクルマは、何だと思われますか?
和田:現行車種では、フォルクスワーゲンの「ポロ」ですね。
フォルクスワーゲン ポロ(写真提供:フォルクスワーゲン)
川島:わ、シンプル。
「普通」をネガティブからポジティブへ
和田:そう、実に普通。そして美しいでしょう。でも、こういうデザインって、なかなかできないんです。
川島:ついついもっといろんな意匠を施しちゃいますよね。前のモデルと違うデザインにしようとしたり、ライバルと差をつけようとしたりして。
和田:ええ。こんなサイドビューを、日本のクルマメーカーで社内デザイナーが描いたら、120%通らないでしょうね(笑)
フォルクスワーゲン ポロのサイドビュー(写真提供:フォルクスワーゲン)
川島:通りませんか。
和田:通りません。「あっと、驚くデザイン」を求める経営陣に「普通のデザイン」と言われるからです。逆に言えば「新しい」が前に出ていないからです。「前とは違う。他とは違う」が盛り込まれていないからです。日本メーカーは、「美しい」より「目新しい」や「おもしろい」が優先されている。だから、スタンダードデザインが生まれないのです。

「普通」をネガティブからポジティブへ

川島:「美しい普通」のデザインを体現できるかどうかは、デザイナーだけの問題じゃないんですね。そのデザインを選ぶかどうか、経営の問題である、と。
和田:はい。僕もアウディで仕事をしなかったら、これはわからなかったかもしれません。アウディに行ったからこそ「美しい普通」こそが本来のデザインだと気づかされたのです。自分なりの「美しい普通」のデザインを創って、それが製品化され、世の評価を受ける経験を積むことができた。でも、大半の日本経営者にとっても、社内デザイナーにとっても、そしてもしかすると日本人そのものにとっても、「普通」は「ポジティブ」なものではなくて、「ネガティブ」なものなんです。
アウディS5(写真提供:アウディ)
川島:……そうかもしれません。
和田:「普通」は、日本では少し「ネガティブ」。ならば、僕は、「普通」を少し「ポジティブ」なものに変えたい。モノがあふれている現代だからこそ、毎日の暮らしはシンプルで「普通」なデザインに囲まれたほうがいい。ただし、ただの「普通」じゃない。「美しい普通」です。そんな概念はデザインにとって最も力強いものです。そして人々の“暮らし”や、“こころ”の支えになるものなのです。そんなデザインを体現して、「普通」を「ポジティブ」なものにしていきたい。それが、僕の考えている重要な創造活動です。
川島:日本に「美しい普通」ってないのかしら?
日本の「美しい普通」は「美しいお米」

日本の「美しい普通」は「美しいお米」

和田:あります。「炊きたての白いごはん」。
川島:あ。わかる。
和田:わかるでしょう。日本人はそもそも「美しい普通」が得意なんですよ。茶の道だって、質素でムダを削ぎ落としている。でも、それが美しい。日本人は、日常の中にある些細なモノやコトこそが、一番美しいということを知っている民族です。その知恵をプロダクトデザインに反映すればいい。
川島:そうですよね。白いごはん、毎日食べるものだけど、つやつやぴかぴかほかほかしていて、ほんとうに美しい。
和田:ご先祖が大切に大切に育ててきたお米。日本人ひとりひとりのエネルギー源となっているお米。そんなお米を丁寧に炊いて、炊きたての白いごはんを、お茶碗にふわっと盛って、お箸でいただく。毎朝毎晩食べるもの。まさに究極の「普通」です。そこにとんでもない「美しさ」がある。まさに「美しい普通」です。日本にとって、理想の「美しい普通」は、皆さんの食卓にある「美しいお米」なんですよ。
川島:なるほど、「美しい普通」のデザインのおおもとは、海外じゃなくて、日常の食卓にちゃんとあった、というわけですね。みんな見過ごしていた。
和田:そう。それに、日本って今は問題があるけれど、本来自然が豊かな国でしょう。お米がたくさんとれるのも、日本の自然の豊かさが背景にあるからです。自然との調和が上手だったから、今の日本があるわけです。「美しい普通」をデザインするヒントは、そんな昔からの知恵にも隠れているはずです。自然に反するスピードは長く続かない、自然に反するものは美しくないということが、日本人は肌身でわかっているはずなのです。
川島:どちらかというと技術至上主義ですよね、今の日本。
1963年の日本の路上が美しかったわけ
和田:技術は常に進化するものです。技術革新は必然です。ただし、その利用に際しては、自然と協調したものでなければならない。行き過ぎた都市中心の発想から、自然とともに暮らしていく地方の生活を再構築し、子どもたちに継承していかなければならない。日本独自の慣習や感覚を継承しながら、新たな解決方法を世界に向けて提示していく。おおげさに言うと「美しい普通」って、そんなところにつながる概念です。

1963年の日本の路上が美しかったわけ

和田:そうそう、川島さんに見せたい写真があります。こちらです。
「1963年の東京の路上で」(モーターファン別冊「360cc軽自動車のすべて」収録)
川島:いつ頃のものですか?
和田:「1963年の東京の路上で」というタイトルがついた写真です。僕はこの写真が大好きなんですよ。街もクルマもいまより質素ですが、とても美しい。
川島:ノスタルジー、じゃない?
和田:違います。ノスタルジーじゃない。1963年の東京の街とクルマには品格がある。
川島:今と何が違うんでしょう?
和田: 1963年って東京オリンピックの前の年ですよね。日本がちょうど、高度成長期を駆け上り始めた頃です。街もクルマも人も前を向いている。何にもなくなった焼け跡から十数年かけて立て直してきた希望や喜びが、たった1枚の写真から伝わってくる。この写真を見ている僕たちの心に、当時の人たちのそんな思いが訴えかけてくるような気がする。
川島:今に比べると質素ですけど。
和田:そうです。質素です。でも、街のデザインにも、クルマのデザインにも、「美しい普通」があるんですよ。日本人は体現できるんです、「美しい普通」を。長い不況を経て、プロダクトデザインの担い手である製造業に、いまひとつ元気がないのが、今の日本が置かれている状況ですが、単なるノスタルジーじゃなくて、過去の日本がちゃんと体現してきた「美しい普通」を顧み、今を考え、次なる時代を創造する。謙虚に。そうすれば日本は必ずまた世界にリスペクトされるモノを生み出すことができる、と思います。
川島:その先頭を、まず和田さんに切ってほしいですね。時計のデザインでも、眼鏡のでデザインでも、そしてクルマのデザインでも!
和田:ご期待ください(笑)




「ダサい社長」が日本をつぶす!|SWdesign代表 和田 智(1)






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「ダサい社長」が日本をつぶす!|SWdesign代表 和田 智(4)


デザインは、社長の仕事です。

カー&プロダクトデザイナー/SWdesign代表 和田 智さん(4)



和田 智(わだ・さとし)
カー&プロダクトデザイナー、SWdesign代表取締役
1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒。84年日産自動車入社。シニアデザイナーとして、初代セフィーロ(88年)、初代プレセア (89年)、セフィーロワゴン(96年)などの量販車のデザインを担当。89〜91年、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート留学。日産勤務時代最後の作品として電気自動車ハイパーミニをデザイン。98年、アウディAG/アウディ・デザインへ移籍。シニアデザイナー兼クリエーティブマネジャーとして、A6、Q7、A5、A1、A7などの主力車種を担当。アウディのシンボルとも言えるシングルフレームグリルをデザインし、その後「世界でもっとも美しいクーペ」と評されるA5を担当、アウディブランド世界躍進に大きな貢献を果たす。2009年アウディから独立し、自身のデザインスタジオ「SWdesign 」を設立。独立後はカーデザインを中心に、ドイツでの経験を生かし「新しい時代のミニマルなものや暮らし」を提案している。2012年ISSEY MIYAKE WATCH 「W」を発表。
SWdesign TOKYO | HomepageSWdesign TOKYO | Twitter
人物写真:大槻純一、以下同

社長から直接依頼があった仕事はうまくいく

川島:和田さんがアウディから独立したのが2009年。以来、フリーのデザイナーとしてクルマから時計まで、さまざまなジャンルのデザインを手がけています。外部デザイナーとして企業と組んだ時、うまくいく会社、うまくいかない会社の差ってなんですか?
和田:すごくはっきりしています。社長からダイレクトに依頼があった仕事は、基本的にうまくいきます。
川島:へえ、そうなんですか? たとえばの事例を、何か教えていただけますか?
和田:イッセイミヤケから腕時計の依頼が来た時がそうでした。社長である北村みどりさんが、直接、僕に話を持ってきてくれたのです。
ISSEY MIYAKE W SILAY003 (写真提供:セイコーネクステージ)
川島:イッセイミヤケブランドで、腕時計をデザインしてほしいと?
和田:そうです。そこで僕が考えたのは、今までのイッセイミヤケのファンとは異なるお客さんを連れてくるデザインをやる、ということでした。
川島:イッセイミヤケというブランドは歴史があります。昔からのファンがたくさんいて、既存イメージもありますよね。アパレルで言えば、「プリーツプリーズ」のような大ヒットもあります。そんな「イッセイミヤケ」ブランドに興味を抱いていなかったお客様をターゲットにする。そのための腕時計ということですね、
和田:イッセイミヤケというブランドは、日本のデザイナーズブランドのトップランナーです。世界に認められた最初のブランドのひとつです。当然、お客様もブランドイメージと歴史とを愛していらっしゃる方たちですよね。
川島:つまりブランドのポジションが明確。
和田:ええ。ですから当初、私が北村社長にお話ししたことは、いままでのイッセイミヤケのお客様とは異なる方々に、イッセイミヤケの素晴らしさを伝えるようなデザインを腕時計で、というものでした。
川島:そこで、外部のデザイナーである和田さんに白羽の矢が立ったんですね。となると、イッセイミヤケの既存イメージを壊すべく、和田流のデザインを時計に盛り込もうと……。
イッセイミヤケの社長は「和田さんの好きにどうぞ」



イッセイミヤケの社長は「和田さんの好きにどうぞ」

和田:いえ、逆です。北村社長に、僕はこう申し上げました。「デザイナーズウォッチは作りたくないです」と。
川島:イッセイミヤケから和田さんに依頼があったのに、なぜ?
和田:僕は「毎日、自分が身に着けるような時計を作りたい」と考えたのです。つまりイッセイミヤケの時計を「普段使い」したいと思ったんですね。ということは、単にインパクト狙いのデザインじゃダメということです。
川島:社長である北村さんは、どう反応されたのですか?
和田:僕の意図するところを、即座に理解してくださいました。それで、「和田さんが好きなように作ってください」と言われたのです。
川島:おお、太っ腹! 
和田:もちろん、僕が何でもやっていい、ということじゃないですよ、これは。自分の会社の商品のコンセプトについて、デザインも含め、経営者自らが考え抜いている。だから、デザイナーと直接やりとりができるし、決断を下すことができる。良いデザインとは、そんな経営者のもとで生まれます。だから、トップからダイレクトで来る仕事はまず間違いがない。
川島:じゃあ、逆にいうと、トップがデザインを解してないと……。
和田:ケースバイケースですが、迷走することがままありますね。現場でオッケーが出たデザインにダメ出しがあったり。そんな会社は、トップと現場でデザインに対するコンセプトが共有されていないわけです。そういう組織で、「いいデザイン」を体現するのは難しいです。
川島:思い当たる節がたくさんあります(笑)。ところでイッセイミヤケの腕時計、どんなコンセプトでデザインしようと考えたんですか?
和田:「きれいごとを貫こう」。それが僕の結論でした。
川島:きれいごと?
和田:奇をてらわない。シンプル。普段から着けられる。時代の変化に耐える。こういうと「きれいごと」に聞こえます。でも、ロングセラーとなった優れた工業デザインって、結局、そういう「きれいごと」が体現されたデザインですよね。
手を動かさないと、デザインは製品にならない
川島:たしかに! クルマでも、家電でも、ファッションでも、そうですね。「定番」とは、ずっと愛される「きれいごと」デザインです。
和田:腕時計は、誰もが持っているコモディティです。時間を確かめるだけならば、スマートフォンの方が正確だったりします。だから、新商品の場合、つい「デザインで差をつけよう」としたくなる。でも、時計本来の「機能」に立ち返ったとき、今、述べたような「きれいごと」それは「きれいな“こと”」を貫くデザインを、イッセイミヤケの腕時計で実現できないだろうか? 僕はそう考えました。とてもハードルが高い目標ですが。
川島:あらゆる工業製品がぶつかっている問題ですよね。家電が典型です。誰もが持っている。機能の向上もだいたい天井を打っている。だから、ちまちまとデザインで差をつけようとして、却って醜悪なデザインの製品が溢れ返る……。
和田:そうです。だから僕は、ユーザーの立場に立ち返って考えるのです。僕が欲しいのは何か? 奇抜なデザインか? 誰もがうらやむブランドネームか? 違う。僕が欲しいのは、ありそうでなくなってしまった、ふつうの「watch=腕時計」だ。このプロジェクトの名前を、「W」にしたのも、「watch=腕時計」の代名詞としたかったんですね。
川島:そういう本質論って、まさに大企業では「きれいごと」で済まされちゃいます。

手を動かさないと、デザインは製品にならない

和田:それから、若いデザイナーが言っても「きれいごとを言っているんじゃない」と却下されるでしょう。でも、僕は50歳を超えた、いわばベテランです。日本とドイツの大企業の中でデザイナー経験を積みました。ベテランだからこそ言える「きれいごと」ってあるんじゃないだろうか。と思ったのです。今こそデザインに必要なのは「きれいごと」ではないだろうかと。
川島:デザインが、単なる差別化の道具になっちゃっているのは、おかしい。
和田:デザインが、そしてデザイナーが果たす役割には、社会と深くかかわることが含まれています。ただ、モノ作りを取り巻く環境は、なかなか厳しい。モノが余りまくっているから、ついつい小手先の差別化で勝負をしたくなる。でも、デザインとは、もっともっと本質的な力を持っているはずです。
川島:なぜ、デザインがそんな小手先の差別化の道具になってしまったのでしょうか? やはり企業経営の問題?



JINSの社長は直接メールしてきました
和田:企業の問題もありますが、デザイナーにも責任の一端があります。いまどきのデザイナーが「手を動かさなくなった」。これが結構大きい。
川島:手を動かさない? つまり全部コンピュータでデザインしちゃう?
和田:はい。クルマもそうなりつつあります。今のデザイナーは、コンピュータ上で多くのデザインをします。しかし、かつては自分の手や体を多く使い作業していたわけです。図面の原寸大もモックアップと呼ばれる模型も自分の手で作っていました。素材を自分で削ったり磨いたりするわけです。そうなると、デザインが身体の仕事になってくるわけです。自分の身体を大きく使って描いていく。すると、クルマのスケールが、イメージが、デザイナーの方に具体的に入ってくるのです。
川島:そんな身体的なデザインの仕事が、ITの発達と合理化・効率化で、コンピュータ上に収斂されていったわけですね。
和田:デザインがコンピュータでできるようになって、プラスになったこともたくさんあります。もちろん僕も使っています。でも、工業デザインは、最後に必ず具体的な「モノ」になります。「情報」のままじゃデザインではないんですね。そんな時、自分の経験からすると、人の手や体によって直接、表現されたものには、生気が宿ると思うのです。机上の理屈じゃなくて真理のようなものです。だからこそ、デザインは「手作業」を外しちゃいけない、というのが僕の持論です。生きたモノ作りをするには、手を使わなきゃダメです。でないと、デザインは小手先の道具になってしまう。
川島:アウディのデザインも「手」でやったんですか?
和田:僕がアウディで「A5」をデザインした時は、あえてフルサイズの図面を引いて、デザインしました。それこそ、できるだけ手と体でデザインしようとしたのです。
アウディS5(写真提供:アウディ)
川島:「A5」は2010年のドイツデザイン賞の最高峰であるドイツフェデラルデザイン大賞を獲得しました。手と身体によるデザインが、伝わったわけですね。

JINSの社長は直接メールしてきました

川島:和田さんといえば、眼鏡のJINSとの取り組みが発表され、話題を呼んでいます。
和田:実はJINSの田中仁社長も自ら、僕にメールしてくださったんです。
川島:まさに「トップがダイレクトにデザイナーに相談する」パターン。
和田:はい。仕事を引き受けるにあたって、じっくり話をさせていただきました。田中社長は、明確なビジョンが真ん中にあって、ビジネスを通して、そのビジョンを実現したいと考えていたのです。新しいタイプの眼鏡の普及で、ある具体的な社会貢献を行っていきたい———田中社長の思いに深い共感を抱き、それなら僕も、精一杯やらせていただこうと、デザイナーとしてプロジェクトに参画することになりました。
川島:どんな眼鏡が生まれるんですか? まだ秘密ですよね。
目指すは「美しい普通」
和田:言えることだけお話します(笑)。JINSのお店に行って、僕がまず感じたのは、眼鏡を見ている若い子たちが「幸せそう」に見えたことです。商品は決して高額なものではなく、レンズも入れて1万円以下で十分買える。じゃあ、そこにデザイナーズ眼鏡を出したらどうなるか。「Designed by Satoshi Wada」のエッジのある眼鏡を出したらどうなるか。ダメでしょう。僕はそう思いました。
川島:イッセイミヤケの腕時計の時と似ていますね。なぜですか?
和田:デザインを売りにした眼鏡をJINSの店頭に出しても、短期間で消費されておしまいです。凄いデザインの眼鏡を作っても、3ヶ月くらいウェブでもてはやされて、ある程度のロットが売れたら終わり。ヒットしたとしても、短命で終わってしまう。それでは、田中社長にいただいた課題「眼鏡を通して社会に貢献する」に応えることはできません。
川島:デザイン勝負の眼鏡はやらない———そんな和田さんの提案に対して、田中社長はどう反応されたのですか?
和田:少し驚かれたようでした。
川島:和田さんに頼むからには、やはり、何かシンボルになるような個性的なデザインを想像されていたのでしょうね。

目指すは「美しい普通」

和田:最初はそうだったかもしれません。でも、そういうアイコニックな、派手でわかりやすく象徴的なデザインは、今、凄く危険な状態にあると僕はとらえています。アイコニックであることはもう終わりなんです。そんなデザインの眼鏡を出したら、JINSというブランドをむしろ壊してしまう。そうではなく、JINSの新しいスタンダードになるような眼鏡を作らなければならないと考えました。
川島:新しいスタンダートとは?
デザインは「思考の時代」に入っている

和田:「美しい普通」。
川島:美しい、普通。
和田:はい。白いTシャツ。ストレートのジーンズ。炊きたての白いご飯。身の回りにある、毎日の暮らしで接するもの。ぼくの思う「美しい普通」はそんなものです。じゃあ、眼鏡の世界で「美しい普通」を表現しよう。それがJINSの仕事で僕がやることだ、と思ったんですね。いろいろ考えた上で、僕は、手始めに、ウェリントンタイプのデザインをしたい、と田中社長に申し上げたのです。
川島:ウェリントンとは、眼鏡の基本とも言えるデザインアイテムですね。セルフレームの。
和田:ウェリントンを流行らせたい、ということではないんです。田中社長が考えている世界観とは、新しい眼鏡を通して、JINSの世界観を増幅させることにある。そんな田中社長の思いにマッチするデザインは「美しい普通」。ならば、オーソドックスで誰もが知る“型”からあえて入ろう。新しいスタンダードを創ろう。それがウェリントンタイプというわけです。
川島:単に1商品のデザインをする、というよりは、眼鏡のデザインを通してJINSという企業ブランドをデザインするというイメージ?

デザインは「思考の時代」に入っている

和田:そうです。まさしく企業ブランドのデザインでもあるんです。僕は、デザインは単に商品の絵を描く仕事じゃない、と思っています。デザインは明らかに「思考の時代」に入っている。作り手の考え方や思想を、消費者に、社会にどう伝えていくか。そんなコミュニケーションのメディアとしてデザインがあるのです。商品をデザインするとは、企業をデザインするとは、どういうことなのか? JINSの仕事では、「美しい普通」をかたちにすることで、その命題に答えたい、と思っています。
川島:じゃあ、最終回は、和田さんが考える「美しい普通」について、さらに突っ込んでうかがいます。




「ダサい社長」が日本をつぶす!|SWdesign代表 和田 智(1)






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木曜日, 9月 25, 2014

「ダサい社長」が日本をつぶす!|SWdesign代表 和田 智(3)


いまどき「デザインがいちばん」と言っている会社は危ない

カー&プロダクトデザイナー/SWdesign代表 和田 智さん(3)


和田 智(わだ・さとし)
カー&プロダクトデザイナー、SWdesign代表取締役
1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒。84年日産自動車入社。シニアデザイナーとして、初代セフィーロ(88年)、初代プレセア (89年)、セフィーロワゴン(96年)などの量販車のデザインを担当。89〜91年、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート留学。日産勤務時代最後の作品として電気自動車ハイパーミニをデザイン。98年、アウディAG/アウディ・デザインへ移籍。シニアデザイナー兼クリエーティブマネジャーとして、A6、Q7、A5、A1、A7などの主力車種を担当。アウディのシンボルとも言えるシングルフレームグリルをデザインし、その後「世界でもっとも美しいクーペ」と評されるA5を担当、アウディブランド世界躍進に大きな貢献を果たす。2009年アウディから独立し、自身のデザインスタジオ「SWdesign 」を設立。独立後はカーデザインを中心に、ドイツでの経験を生かし「新しい時代のミニマルなものや暮らし」を提案している。2012年ISSEY MIYAKE WATCH 「W」を発表。
SWdesign TOKYO | HomepageSWdesign TOKYO | Twitter
人物写真:大槻純一、以下同

デザイン至上主義は一周遅れている

川島:この連載は、日本企業から生まれる商品デザインがあまりに貧困ではないか、という私の勝手な思いから始まったものです。日本の経営者よ、アップルやアウディのようにデザインを経営の根幹に据えよ!と大声で訴えたくて……。
和田:いや、いまさら「デザインを経営の中心に」なんて言っている経営者や会社は遅れてます。危ない、とすら言えます。
川島:え?  
和田:考えてみてください。それまでデザインを一顧だにしなかった経営者が、いきなり「これからはデザイン経営だ」と息巻いていたら、たいがいの場合、その経営者は、この連載で散々揶揄してきた「新しくて奇抜なデザイン」が欲しい、って言ってるだけなんですよ。その意味において「新しいデザイン」という発想そのものが、もはや新しくない。
川島:……なるほど。
和田:だから、僕はあえて「デザイン経営の時代はもはや終わった」と言うことにしているのです。デザインという言葉を経営とセットでなるべく使いたくない。経営に今必要なのは「デザイン」以前に「センス」なのです。
川島:和田さんが日本の自動車会社に入ってデザイナーとしてスタートしたのは80年代前半でしたよね。当時はどうだったのですか?
和田:実は母校の武蔵野美術大学では、70年代終わりに、「新しい」ことよりも「本質」を見極めろ、何十年たっても色あせないデザインを目指せ、と教わったんです。美大の先生方は、この時点で「新しい」は古いよ、とメッセージを発していた。ところが、いざ社会に出てみると、デザイナーとして求められるのは真逆のことでした。
川島:とにかく新しいデザインをしろ、と。
和田:色褪せないどころか、目に留まる暇もないほどのスピードで、デザインをしろ、新製品をつくれ。それがデザイナーの使命でした。いまこの瞬間に市場で受ければいい。面白ければいい。そんな瞬間芸のようなデザインの商品が次々に登場しては消えていきました。クルマのデザインも例外じゃなかった。
川島:そんな中で、初代セフィーロなどのデザインを手がけられたのですね。
和田:でも、大半のデザイナーは、何を軸にデザインすればいいのかわからなくなる。あっという間に疲弊してしまう。80年代という時代は、クルマのみならずさまざまな商品で「新しい」を全面に押し出した差別化戦略が中心となりました。大量生産・大量消費の歯車が高速で回っていた時代でした。それが機能し良い作品も生まれました。でも、バブル崩壊後、そんなものづくり、そんなデザイン手法は企業の合理化と共に音を立てて崩れてしまいました。
韓国の起亜はアウディのトップデザイナーが社長に



川島:日本の製品のデザインが魅力を失ったのも、ちょうどその頃のことですね。ところが、店頭はいまだに、大量生産・大量消費の空気を引きずっています。その典型が、大型家電量販店です。すさまじい種類の商品が並び、どれもが新しさをアピールしてくる。店を歩くだけで疲れてしまうのに、「買いたい」と思うものが実に少ない。
和田:大量生産・大量消費の時代は、20年前に、ほぼ終わりかけていたのに、日本企業の多くは、その歯車がまだ動いていると勘違いしている。
川島:どうすればいいんでしょう?
和田:表層的にデザインをビジネスに取り入れるのではなく、もっと経営の本質的なところでデザインと向き合う。それしかない、と思います。

韓国の起亜はアウディのトップデザイナーが社長に

川島:もう少し説明していただけますか?
和田:一言で言うと、経営の「中枢」にデザインを位置づけているかどうか、です。その点では、日本より韓国の方が圧倒的に進んでいると思います。アウディで僕の上司だった、ペーター・シュライヤーというデザイナーは、現在、韓国の現代グループの起亜(キア)モーターズという自動車メーカーの社長になっています。
川島:えっ、デザイナーが社長に?
和田:日本の感覚からすると驚きですよね。そんな驚きのトップ人事をキアモーターズはやったのです。アウディのデザイン部門のアイコンとも言える人材をヘッドハンティングして、デザインディレクターどころか経営トップに据えてしまったわけですから。
川島:たとえて言えば、アウディから独立した和田さんを、古巣である日産自動車が社長に据えるような話ですよね。凄いなぁ。
和田:デザインを経営の中心に置こう。キアモーターズはそんな経営姿勢をはっきり見せました。「デザインを経営に」というのは、本質的にこのレベルのことを言うのです。日本企業でここまで潔い判断を下せるところはないのではないでしょうか?
思想を形にする造形力を武器に

川島:そういうお話をうかがうと、デザイン経営については、韓国企業は日本の一歩も二歩も先を行っていると改めて感じ入ります。サムスンやLGもデザインを経営戦略の中心に位置づけ、内外のトップデザイナーを起用し、「すぐれたデザイン」で欧米市場で人気を獲得している。それに比べて、日本のメーカーは、あまりにも策がない。クルマ業界に限らず、どのメーカーでもデザイナー出身の役員がほとんどいないわけですから。
和田:こういった状況では、日本企業が、世界でリスペクトされる存在にはなれないと思います。

思想を形にする造形力を武器に

川島:でも本来、デザイナーは、言葉や概念を形にできる大きな強みを持っている。それを企業がもっと武器にしたらいいと思うのですが。
和田:その通りです。自分の思想を形にできるのが、プロダクトデザイナーの力です。アウディにいたとき、上司であるデザイナーのヴァルター・デ・シルヴァから「サトシの持っているプロポーション感覚はずば抜けている。お父さんとお母さんを大切にしろよ、産んでくれたことに敬意を持て」と言われたことがありました。ああ、僕の力は造形力にあるんだ、と確信した瞬間です。
川島:それはすごい。
和田:ヴァルターのような優れたクリエイターとの仕事を通じて、僕の中の造形感覚が目覚め、伸びていったというのが本当のところかもしれません。そもそもアウディでの仕事は、とても厳しかったですから。
川島:毎日が戦い?
和田:気が休まる暇がない。物凄い緊張の連続でした。何より、自分との戦いだったのです。ただ、そこで鍛えられたことが計り知れない財産となったと、今では深く感謝しています。昨年、「フォルクスワーゲン・ゴルフⅦ」の発表会が日本で行われ、初代ゴルフをデザインしたジョルジェット・ジウジアーロとヴァルター・デ・シルヴァと僕との3人でトークショーをやったのです。
川島:ゴージャスなイベントですね。しかもデザイナーが主役。日本の自動車メーカーではちょっと考えられない。
自分だけ儲かればいい企業は10年経ったらつぶれる

和田:なぜ21世紀初頭のアウディで、ヴァルターが日本人の僕にいろいろな試練とチャンスを与えてくれたのか。その謎がこのとき解けました。ヴァルターはこう考えていた。これからはクルマの世界はアジア中心の時代になる。だからこそ、クルマを生んだヨーロッパの基本的なエレガンスなど、本来、クルマが持っている大切な部分を、アジアのデザイナーに受け継いでほしい———と。
川島:ヨーロッパのアウディをアジアの世界にデザインでつなぐ役割を和田さんに託した、と。

自分だけ儲かればいい企業は10年経ったらつぶれる

和田:そうです。じゃあ、ヴァルターは僕にどう受け継いでほしかったのか。それはやはり「美しいもの」「人の心に入っていけるもの」を創れ、ということです。でなければ、アウディのブランドをおとしめてしまう。逆にいえば、目先の利益に惑わされるようなデザインをするな、というメッセージでもあります。
川島:それ、日本の企業の中ではちょっと言えないですよね。まずは売れるデザインが第一だ、と言うに決まっていますから。
和田:でも、これからの時代、自分だけ儲かればいいなんて企業は10年経ったらつぶれちゃうと思います。より良いものを作って、人々や社会に貢献したいという心持ちがある企業とそうでない企業は、まったく違う途を辿ることになるのではないでしょうか。
川島:企業は、人々や社会からリスペクトされる存在にならねばならないということですね。どうすればそうなると、和田さんは思われますか?
和田:急速な発展を遂げ、ある程度成熟した日本が、これからしなければならないことは、発展途上にあるアジアの国々に対して、「文化とは何ですか?」と問いかけることではないでしょうか。これからの日本は、本当の意味で頭脳国家にならないといけません。ビジョンをきちんと示し、有言実行を旨としなければなりません。僕がやることは、そんなビジョンをデザインに落とし込むことなのです。
川島:なるほど。次回は、ビジョンをデザインに落とし込む話をうかがいたいと思います。

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