ロケットがまっすぐ降りてくる!? スペースXの実験成功
ファルコン9、第1段着水試験にみる“したたかさ”
2013年9月29日のファルコン9の6号機(v1.1初号機)打ち上げでは、分離後の第1段の姿勢をスラスター噴射で制御する実験を行っている。今回は、第1段に着陸脚を装着し、姿勢を制御して垂直にゆっくり降りてくるところまでを試したわけだ。
グラスホッパーによる垂直離着陸試験の様子(動画:SpaceX)
スペースXは、非常に秘密が多い企業で、ファルコン9の再利用化についても不明点が多い。その一つに「重い着陸脚を装着すれば、ファルコン9の打ち上げ能力が低下するのではないか」という疑問があったが、今年4月に同社がルクセンブルグの衛星通信会社SESの通信衛星「SES-9」「同10」の打ち上げ契約を獲得した際に、“からくり”が明らかになった。
ファルコン9v1.1の公称打ち上げ能力は、静止トランスファー軌道に4.85トンだが、SES-9/10は共に5.3トンもある大型衛星だったのである。これに対してスペースX社は、ファルコン9v1.1には、同社が実験のために使う余剰打ち上げ能力があり、SES-9/10も打ち上げ可能であると説明した。つまり、ファルコン9v1.1は、最初から再回収実験のための着陸脚などを装備する前提で開発されており、そのために打ち上げ能力は低い値を公表していたのだった。
するりと認めさせた、商業打ち上げと技術開発の“同居”
先に触れたとおり、商業打ち上げ市場では、実験ペイロードと衛星の相乗りは強く忌避される。相乗りは打ち上げの成功確率を低下されるものだと認識されているからだ。余剰打ち上げ能力を生かした超小型衛星の同時打ち上げも、安全面で厳しい審査を行い、やっと実施しているという状態だ。ところがスペースXは、実験を実施するのが、心理的抵抗感が少ない分離後の第1段であるということを利用して、着陸実験のためのペイロードと商業衛星打ち上げの相乗りを実現した。打ち上げコストは、顧客からの打ち上げ料金で賄われるので、スペースXとしては、事実上ただで実際の打ち上げによる技術開発を進めることが可能になった。
製品の完成度を上げるための開発コストを、顧客に負担させるというのは、ソフトウエア業界ではよく見る光景だ。バグが残っている状態で見切り発車でソフトを発売し、ユーザーからのバグレポートに基づいてデバッグを進め、新バージョンを配布する。が、商業打ち上げと技術開発の相乗りで、低コストかつ効率的に技術開発を進めるというのは、商業打ち上げ市場ではスペースXが初めてである。
スペースXのビジネス展開には、多分にネット・ベンチャー的な手法が散見されるが、これもその一つと言えるだろう。
スペースXの、ファルコン9再利用化には、他にも様々な疑問点がある。
分離後の第1段は、すでにかなり水平方向速度を獲得している。それを射点近くまで戻す(フライバック)には、相応の推進剤を必要とする。それによる打ち上げ能力低下と、再利用によるコスト低下は見合うものなのかどうか。あるいは、戻さずに遠隔地に着陸させるフライフォワード方式を採るなら、射点に第1段を戻すための輸送コストがかかる。これが再利用によるコスト低下に見合うものなのかどうか、などだ。
「H-IIAの約半額」が実現?
が、今回の着水実験により、スペースXがかなり緻密なビジネスモデルを組んで、それを着々と実施しつつあることが明らかになった。第1段再利用によって、本当に打ち上げコストが大幅に削減できれば、その影響は宇宙開発全般に及ぶ。日本が今年度から開発しようとしている新型基幹ロケットは、H-IIAの約半額というコストダウンを目指している。しかし、2020年予定の新型基幹ロケット運用開始までに、スペースXが再利用による劇的な打ち上げコスト低下を達成してしまえば、開発途中での構想の抜本的再考を迫られることになるかも知れない。