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月曜日, 4月 04, 2016

INTERVIEW|俳優 柄本 明 21世紀の「仕事!」論。 vol.4

 

21世紀の「仕事!」論。

俳優 柄本 明

 

第4回

志村さんのこと、息子さんのこと。 

 

 

 

── 柄本さんのなかでは、コントのお仕事って、
   どういう位置づけですか?

柄本 志村(けん)さんのこと?

── はい、映画やお芝居のお仕事とは、
   ちょっと雰囲気が違うような気がしまして。

柄本 ある意味‥‥いちばん大変な仕事ですよね。

   あの「志村けん」という天才と、
   いっしょにお仕事をやらせていただくのは、
   じつに光栄なことです。

 

 

── ええ。


柄本 じつに光栄であると同時に、いちばん大変。


── 大変といいますと、どういうところが?


柄本 たとえば、私と志村さんとでね、

   コントをやらせていただくわけですけど、

   ふだんの会話って、ほぼないです。


   その日、スタジオへ行ったら、

   志村さんは、もう忙しく撮ってますから、

   その合間に、

   自分の出番が来たら、出て行くわけです。


── はい。


柄本 それまでに話してることは

   「おはようございます」くらいなもので。


   ちょっと台本を合わせたいと思ったら、

   志村さんの空いてる時間、

   めしの時間だとか、

   そういう暇そうな時間を見計らって、

   志村さんが私の部屋へ来たり、

   私が志村さんの部屋へお邪魔したりして、

   少しの時間で合わせるんです。


── へぇー‥‥。


柄本 で、「じゃ、そんな感じで」と言って。


── それで、芸者のコントみたいな、

   ああいうものができるんですか?


柄本 そう。


── 見ていると、

   ふだんから親しいんだろうなとばかり、

   思っていたのですが。


柄本 そんなことない。ぜんぜん。


── おもしろい‥‥。


柄本 怖いですよ。


   リハーサルなんかもないですし、怖いです。

   ああいったものって、

   リハーサルなんてやってもしょうがないし。


── 他の仕事とは、違う緊張の仕方をしますか?


柄本 だって、志村さんですから。


   まず「志村けん」という人が、他と違う。

   だから聞くわけでしょう、あなただって。 

 

 

── ええ、そうなんですけど。


柄本 あの「志村けん」という役者、俳優は、

   ある意味で、いちばん難しいことを

   やり続けているんじゃないんですか。


   ああいう仕事を

   ずっと続けているの、志村さんだけです。


── はい。


柄本 命を削る作業でしょう。

   人をこう、気分よく笑わせるってのはね。


── 志村さんと一緒にやることになったのは、

   どうしてなんですか?


柄本 あるとき呼ばれたんですよ、志村さんに。


   もう、ずいぶん昔だけど、

   『加トちゃんケンちゃん(ごきげんテレビ)』

   の2時間スペシャルかな、

   そこへ、はじめて呼んでいただいて。


── ええ。


柄本 あのときは、

   いろんなことやらされたけど、怖かったなぁ。


── たとえば‥‥。


柄本 私が旅館のお客さんで、

   志村さんがマッサージのオバちゃんってね、

   そのシチュエーションだけがあって、

   こまかい台本なんかは、なんにもなくてね。


   私が、旅の客で、夜、寝ようとしてるわけ。

   で、電気を消そうとすると

   若い女の子が「マッサージでぇす」と来る。


── はい。


柄本   私が「いやいや、僕、頼んでませんよ」と。


   で、また寝ようとしたら、

   また、若いピッチピチのかわいい女の子が、

   「マッサージでぇす」と言って、来る。


── ええ。


柄本 また「頼んでませんよ」と追い返すものの、

   まあ、自分で電話しちゃうわけよ。


   「すみません、マッサージお願いします」

 

 

 ── はい(笑)。


柄本 すると、若くてかわいい女の子‥‥じゃなく、

   ごぞんじ志村さんが

   「おばんでやんす」っつってやって来てね、

   こうやって揉みながら言うんです。


   「お客さん、お仕事ですか? 観光ですか?」

   「仕事です」

   「ああ、観光ですか」


── あはは(笑)。


柄本 そっからもう、志村さんがボケまくる。

   ただ、それだけ。


   あとはもう、どんどん、

   どっちへ展開していくのかもわからない。


── うわぁ‥‥。


柄本 それは、怖いです。恐ろしい。


   何か、相手の実力を測るようなものだね、

   コントって。


── それも、ものすごい数の視聴者の前で、

   測られるわけですものね‥‥。


柄本 今から思えば、

   あのときは本当に何も出来なかったけど、

   でも、それから、

   ちょくちょく呼んでいただいてます。


── 今でも、怖いですか。


柄本 怖いですね。毎回、緊張してます。


── ちなみに志村さんが柄本さんを呼んだのは、

   どうしてだったんでしょう。


柄本 わかりません。


── それまで、とくに交流もなく。


柄本 ないです。


── ある日、突然オファーが来て。


柄本 私の何かを見たんでしょう。


── びっくりしました。

   あのコントが、そんなふうにできてたとは。


   話は変わりますが、

   今、多くの読者が「柄本明さん」と聞いて、

   パッと思い浮かぶことのひとつに、

   ふたりの息子さんのことがあると思います。


柄本 はい。



 

── 奥様も女優さん(角替和枝さん)なので、

   お家は俳優さんだらけというような‥‥。


柄本 いや、長女がいて、映画の制作部でね。

   だから、まあ、似たようなもんだけど。


── あ、そうなんですか。


柄本 うちも、みんな映画ファンなんです。


   佑(たすく)だって、

   だいたい、200本は欠かさないから。


── 年間。すごい。


柄本 下の時生(ときお)も、まあ、観てますよ。

   昔は、上のお姉ちゃんが

   300本は観てたようだけど、今は仕事でね。


── 息子さんは、ご自身の希望で役者の道に?


柄本 佑の場合は、ガキのころ‥‥中学2年だったかな、

   うちのマネージャーが、

   オーディションに出したいって言って出して、

   『美しい夏キリシマ』って映画に出て、そのまま。


   下の時生も、まあ、同じような経緯です。


── そうなんですね。


柄本 あのとき、おもしろかったのは、

   そのころ佑が反抗期で、私が留守をしてる間に、

   ちょこちょこっとあったらしいんだけど

   はじめて入った映画の現場で矯正されちゃって。


── へえ、大人たちの間で。


柄本 すっかりいい子になって、帰ってきたんですよ。

   つまり、映画の現場って完全なタテ社会だから。


   原田芳雄さんとか、香川照之さんとか、

   寺島進さんとか、石田えりさんとか‥‥だから。


── 錚々たる俳優さんたちに囲まれて、

   まっすぐになって、お帰りになったと。


   お仕事の話も、されたりするんですか。


柄本 そりゃ、しないことはないです。


── 息子さんからすると、お父さんに聞きたいこと、

   たくさん、あるだろうなと思うんですが。


柄本 まあ、だいたい、わかります。何が言いたいか。


   たとえば、こちらが気になったことを

   「おまえさあ、この前のアレさ」くらい言えば、

   だいたい、言いたいことは、何となく。


── 伝わる。


柄本 うん。それで、「ああ」とか。


── そこは親子ですね。


柄本 結局、同じ俳優って職業やってるわけだから。

   職人親子が、手取り足取り教えないでしょう。


── では、柄本さんにとって

   「理想の俳優」って、どういう俳優ですか?


柄本 (テーブルのコップを指差しながら)

   こんなふうになれたらさ‥‥いいんじゃない?


── コップ。


柄本 (となりのミルクポットを指差しながら)

   いい役者だよ、こっちも。


── つまり‥‥。


柄本 うまいとかヘタとかじゃなく、

   間違ってないでしょう、この人たちは。


── 間違ってない?


柄本 その人そのものとして、そこにある、いる。


   そういう役者になれたらいいのにって、

   思っています。

 

 

<終わります>




2016-04-01-FRI

 

 

INTERVIEW|俳優 柄本 明 21世紀の「仕事!」論。 vol.1

INTERVIEW|俳優 柄本 明 21世紀の「仕事!」論。 vol.2

INTERVIEW|俳優 柄本 明 21世紀の「仕事!」論。 vol.3

INTERVIEW|俳優 柄本 明 21世紀の「仕事!」論。 vol.4 

 

 1972年、スタッズ・ターケルという人が
仕事!』という分厚い本を書いた。

植木職人、受付嬢、床屋、弁護士、セールスマン。
あらゆる「ふつうの」仕事についている、
無名の133人にインタビューした
職業と人」の壮大な口述記録なんですけど
ようするにその「21世紀バージョン」のようなことを
やりたいなと思います。
ターケルさんの遺した偉業には遠く及ばないでしょうが、
ターケルさんの時代とおなじくらい、
仕事の話」って、今もおもしろい気がして。








スタッズ・ターケル『仕事!』とは
1972年に刊行された、スタッズ・ターケルによる
2段組、700ページにも及ぶ大著(邦訳版)。
植木職人、受付嬢、床屋、弁護士、セールスマン、
郵便配達員、溶接工、モデル、洗面所係‥‥。
登場する職種は115種類、
登場する人物は、133人。
この本は、たんなる「職業カタログ」ではない。
無名ではあるが
具体的な「実在の人物」にスポットを当てているため、
どんなに「ありふれた」職業にも
やりがいがあり、誇りがあり、不満があって
そして何より「仕事」とは
「ドラマ」に満ちたものだということがわかる。

ウェイトレスをやるのって芸術よ。
バレリーナのようにも感じるわ。
たくさんのテーブルや椅子のあいだを
通るんだもの‥‥。
私がいつもやせたままでいるのはそんなせいね。
私流に椅子のあいだを通り抜ける。
誰もできやしないわ。
そよ風のように通り抜けるのよ。
もしフォークを落とすとするでしょ。
それをとるのにも格好があるのよ。
いかにきれいに私がそれをひろうかを
客は見てるわ。
私は舞台の上にいるのよ」

―ドロレス・デイント/ウェイトレス

(『仕事!』p375より)

INTERVIEW|俳優 柄本 明 21世紀の「仕事!」論。 vol.3

 

21世紀の「仕事!」論。

俳優 柄本 明

 

第3回

「顔」について。 

 

 

 

── 先日、深作欣二監督の『道頓堀川』を観てたら‥‥。


柄本 はい。


── 若き柄本さんが突然、画面に登場してきました。


   で、いかにも「据わった」ような怖い目つきで、

   綺麗とも恐ろしいとも言える表情で、

   真田広之さんに

   低い声で「死にてぇのか‥‥あんちゃん」と。


柄本 オカマの三味線弾き、だったかなあ。

 

 

── すごく印象に残るシーンで、

   なんども巻き戻して、観てしまいました。


   若いころの柄本さんのお顔を

   あまり存じ上げなかったこともあるんですが、

   「うわあ、すごい顔だ!」と。


柄本 あれは‥‥30ちょっとだった。


── そこでおうかがいしたいのですが、

   柄本さんは

   「顔」というものを、

   どういうものだと思っていますか?


柄本 顔‥‥ねえ。


── いや、つまり、たとえば、

   名だたる写真家さんが「顔」の写真集を

   出版されているのを見ると、

   よくわからないけど、

   とにかく「顔」って撮りたいものなんだなと

   思ったりするんです。


柄本 ああ‥‥荒木(経惟)さんにも、

   十文字美信さんにも、撮ってもらってるな。


   白鳥先生(写真家の白鳥真太郎さん)にも、

   撮ってもらったことがある。


── 曖昧すぎる質問かもしれないんですけど、

   「顔」というものについて、

   柄本さんが

   どう思っているか、お聞かせください。


柄本 顔ね‥‥そうだね。顔‥‥‥‥‥‥ねえ。


   (しばらくの沈黙のあと)

   残念ながら、無意識ではいられないもの。

 

 

── ああ、なるほど。


柄本 無意識でいられない。なるほど。


   で、あとひとつ言うとすれば

   「人から奪われているもの」でもある。


── 奪われている?


柄本 うん、顔って、奪われている。そんな感じ。


   たとえば、ジェームズ・ディーンとか、

   マリリン・モンローとか、

   あれほどの大スターの「顔」ってさ、

   大衆によって

   「奪われている」みたいな感じがしない?


── 何となく、ニュアンスはわかります。

   消費されている、とでもいうような?


柄本 いや、あの‥‥つまりさ、

   これは「顔」からちょっと離れるけれども、

   「大スター」という存在に対しては、

   われわれみたいな大衆は、

   彼らの「不幸」に、拍手を贈ってるんだよ。


── 不幸に、拍手を?


柄本 つまり、才能やスター性に対して

   拍手を贈ってるわけじゃないってことです。


   ジョン・レノンだって誰だって、

   自分たち一般人みたいに

   平々凡々な幸せな人になったら許さない、

   大スターたちの

   「凡人には抱えきれない不幸」に対して、

   われわれは、拍手を贈ってるんだと思う。


── はー‥‥。


柄本 それを「才能」って‥‥言葉は綺麗だけどさ、

   「大きな不幸」 って言ったほうが

   わかりやすい感じがします。


   ふつうの人になったら許さないってことで、

   もっと不幸になれなれって拍手してんですよ。

     


── そんなこと思ったこともありませんでしたが、

   いや‥‥そうなのかもしれない。


柄本 人間が人間を見るって、

   そういうことなんじゃないかなあと思う。


   だって、

   大きな不幸を背負ってる人が出てくるとさ、

   みんな、そっち見ちゃうもんね。

   誰だって、私だって、あなただって。ねえ?

 

 

── 不幸であればあるほど、拍手が多い‥‥。


柄本 だから、わかんないけど、もしかしたら、

   写真の人は、それを撮りたがってるのか?


── 顔に出ている「不幸」を?


柄本 いや、どうだろう。


── 柄本さんは、ご自身のお顔は好きですか?


柄本 そりゃあ‥‥嫌いとも言えないでしょう。


── たしかに(笑)。


柄本 しょうがないよ、これでもう。

   こういうことなんだもんね。しょうがないです。


── 不満はもちろんある、でも嫌いとも言えない。

   自分の顔というものにたいしては、

   まさに、そんな感じがします。


柄本 好きだって言う必要もないしね‥‥

   ただ「嫌いじゃない」でしょう、自分の顔は。


── みんなの本音に近いと思います、今のは。


柄本 まあ、ねえ‥‥でもさ、話は変わるんだけど、

   どうしてみなさん、

   「本音で」とかって言うの好きなんだろうね。


── それは‥‥「本音で」話してもらったほうが、

   嬉しいからじゃないですか?


柄本 でもさ、たとえば、

   「本当は」とか「本音は」とかって言っても、

   そんなもの、

   自分のなかでもしょっちゅう変わるじゃない?


   本音だって言って嘘つくことも、あるし。

   そういうことするのが、人間なわけだし。


── それは、まあ、そうだと思います。


柄本 たとえば「俺にはおまえだけなんだ」って

   言ったとする、あのときに。


   それって、そのあとに「今は」って

   ちゃんとつけなきゃ「本音」じゃないよね。

 

 

── たしかに、未来はわからないとするならば、

   誠実ではないのかもしれませんが。


柄本 何だろう、「本音で話す」って言葉自体が、

   どれだけ意味あるんだろうって、昔から。


── まあ、書く方の「都合」で言うならば

   「本音で話していただきました」

   と言ったほうが、

   みんなに読んでもらいやすかったり‥‥とか。


柄本 ああ、ビジネスってことなら、わかりやすい。

   「本音で、いくらほしいんですか?」とか。


── でも、本音で話す瞬間って、ないですか?


   家族とか、親しい友だちとか‥‥

   人間だからこそ、あると思うんですけど。


柄本 そのとき、その場の雰囲気に丁度いい気分が、

   漂ってるだけじゃないかなと思います。


   そこに「普遍的なもの」なんか、

   何ひとつとしてないと思ってるけど、私は。


── あの、柄本さんって、

   若い人たちからも、いろいろ、さまざま、

   今みたいに、

   俳優哲学的なお話を聞かせてほしいと

    請われたりもすると思うのですが、

   たとえば、そういうとき、

   どんなふうにアドバイスしてるんですか?


柄本 私、下北の人間だけど、

   そのへんでやってる若い人たちの芝居を

   観ていると、

   「そんなにテレビ出たい?」

   って、聞きたくなったりします。

 

 

── はー‥‥。


柄本 いや、そういう若者の山っ気、下心、

   それは当たり前で、

   それを持つこと自体は、

   ぜんぜん悪いことでもなんでもない。


── ええ、聖職じゃないですもんね。


柄本 そりゃあそうです、当たり前です。


   テレビ出て、金がっぽり稼いで、

   いい生活したいっていうのは、

   そりゃあ、みんなそうなんだから。


── おかしな欲望ではないです。


柄本 だから「戦略」が必要なんですかねぇ。


── 戦略‥‥というと?


柄本 たとえば、さっきの「仕込み」ですね。

   それはまあ、ひとつですよ。


   で、仕込みをするにしたって、

   自分は、どういうことでやっていきたいか、

   その実現のためには、

   どういう「仕込み」をするかが重要で、

   それには要るんじゃないんですか。

   それなりの「戦略」が。


── なるほど。


柄本 戦略のない人間なんていません。


   そのことについては、若い人たちは、

   この先、傷ついたりしながら、

   いろんな場面で学んでくんだろうけど、

   私なんかが

   まあ、言ってみたいことがあるとすればね、

   そういうことだよね。


── 自分の欲望を見据えて、戦略を練る。


柄本 はじめのほうの話で

   「長く俳優って仕事をやっていて、

   どんなところが上手になりましたか」

   って、あなた聞いてたけど、

   それ、つまり「人間の欲望」ですよね。


   ようするに人間というものの欲望って、

   肥大化する一方で、

   やればやるほど、

   満足できないまま死んでいくわけです。


── はい。


柄本 だから、死んで、

   神さんのところへ行ったときにはじめて、

   人間は

   自分の「顔」を見るのかもしれないけど、

   そのときの「自分の顔」って、

   ずいぶん不満な顔をしてるんだろうねえ。


   ってまあ‥‥わからないですけど。 

 

 

 

 

vol.4 へ続く

 

 1972年、スタッズ・ターケルという人が
仕事!』という分厚い本を書いた。

植木職人、受付嬢、床屋、弁護士、セールスマン。
あらゆる「ふつうの」仕事についている、
無名の133人にインタビューした
職業と人」の壮大な口述記録なんですけど
ようするにその「21世紀バージョン」のようなことを
やりたいなと思います。
ターケルさんの遺した偉業には遠く及ばないでしょうが、
ターケルさんの時代とおなじくらい、
仕事の話」って、今もおもしろい気がして。








スタッズ・ターケル『仕事!』とは
1972年に刊行された、スタッズ・ターケルによる
2段組、700ページにも及ぶ大著(邦訳版)。
植木職人、受付嬢、床屋、弁護士、セールスマン、
郵便配達員、溶接工、モデル、洗面所係‥‥。
登場する職種は115種類、
登場する人物は、133人。
この本は、たんなる「職業カタログ」ではない。
無名ではあるが
具体的な「実在の人物」にスポットを当てているため、
どんなに「ありふれた」職業にも
やりがいがあり、誇りがあり、不満があって
そして何より「仕事」とは
「ドラマ」に満ちたものだということがわかる。

ウェイトレスをやるのって芸術よ。
バレリーナのようにも感じるわ。
たくさんのテーブルや椅子のあいだを
通るんだもの‥‥。
私がいつもやせたままでいるのはそんなせいね。
私流に椅子のあいだを通り抜ける。
誰もできやしないわ。
そよ風のように通り抜けるのよ。
もしフォークを落とすとするでしょ。
それをとるのにも格好があるのよ。
いかにきれいに私がそれをひろうかを
客は見てるわ。
私は舞台の上にいるのよ」

―ドロレス・デイント/ウェイトレス

(『仕事!』p375より)

INTERVIEW|俳優 柄本 明 21世紀の「仕事!」論。 vol.2

 

21世紀の「仕事!」論。

俳優 柄本 明

 

第2回

「人間」について。 

 

 

 

── 柄本さんは

   人間のことを観察するのがお好きですか?


柄本 好きというかね、芝居なんかやってると、

   職業柄、人のことは見ますね。


   ようするに、「仕込み」ってやつですよ。


── 仕込み?


柄本 料理人だって、仕込みをするでしょう。


   自分の経験で言うと、

   仕込みで、いちばん安上がりで簡単なのは、

   名画座へ行くことですかねぇ。


── 柄本さん、小学校1年生くらいから

   映画館に入り浸りだったということですが。


柄本 子どものころは、

   西武新宿線の下井草に住んでいたんだけど、

   そこいらじゅうに映画館があった。


   野方に東宝映画、大映映画でしょ。

   新井薬師には

   薬師東映と、東宝の三番館があったかな。

   沼袋は沼袋映画って、新東宝みたいなの。

   西へ行けば武蔵関にもあったし、

   もちろん新宿へ出たら封切りを観られた。

 

 

── そういう時代だったんですね。


柄本 年に200本を、5年。


── と、言いますと?


柄本 それくらい続けたら、

   いくらか、わかるようになりますよ。


   どっちが右で、

   どっちが左かくらいのことは、ねえ。


── 右左がわかるようになるのにも、

   道のりは遠いんですね。


柄本 簡単なことなんかない、この世には。


   おとといまで

   ニューヨークに2週間行ってて、

   ブロードウェイの芝居、

   まあ、いろいろと観て来たんだけど。


── ええ。


柄本 おもしろいものもあったけど、

   本当に「すごいな」っていう作品には、

   なかなか当たらないもんです。


── そうですか。

   その、いわゆる「本場」であっても。


柄本 同じだなと思って見てました。


   たしかにレベルも高いし、

   ものすごいエンターテインメントなんですけど、

   与える側と与えられる側のと関係性が、

   非常に安定している。


── 安定。


柄本 そういうのに、苛立つときがあります。


── 苛立つ?


柄本 やっぱり人は

   「不安」を見たいんじゃないかしら。

   何らかの不安を。


   だから初演に当たったら、もうけもの。

   そういうのが、おもしろい。


── まだ安定しきってないから?


柄本 そうですね。

   すっかり商売として出来上がってて、

   「ハイ一丁上がり」に

   どうしたってなるのは、わかるんだけど。


   もちろん、瞬間瞬間で

   やっぱりこりゃすげぇなとは思うんです。

   でも、結局は人間のやることだから。

 

 

── 柄本さんは、よく「人間」という言葉を

   お使いになりますが、

   その「人間」に「見られる」ということは、

   どういうことですか。


柄本 怖いことです。


── 怖い。


柄本 怖いです。丸裸にされちゃうから。


   お客さんだけじゃなく、

   相手役にも、スタッフにも、もちろん監督にも。


── 監督といえば、たとえば今村昌平監督とか‥‥。


   柄本さんが、日本アカデミー賞で

   最優秀主演男優賞を受賞した『カンゾー先生』は

   今村監督の作品でしたね。


柄本 私がいちばんはじめに

   監督の作品に出たのは‥‥『うなぎ』って映画。


   で、私の、今村作品ではじめてのシーンは、

   外で、カメラがロングで、

   「用意、スタート」で入って、

   ゴミ箱のゴミを取るっていうだけのシーンで。


── はい。


柄本 ただそれだけの、どうってことないシーンで、

   テストではホイホイやってたんだけど、

   いざ本番、今村監督の

   「用意、スタート」という声を聞いたら、

   出られなくなった。


── なぜですか?


柄本 動かなかったんですよ、身体が。


   何だろう、ああ、今村昌平に見られる、

   見られてしまう、

   ぜんぶ丸裸にされてしまう、って感じ。


── それで、どうなったんですか?


柄本 まあ、固まってたのはほんの一瞬だから、

   次の瞬間にはガッと出てったけど、

   頭のなかでは

   「うわあ‥‥、どうしよう、どうしよう、

   どうしよう、どうしよう、どうしよう」

   って、ぐるぐる回って。


── ぜんぶ見られてしまうというのは、

   やはり「怖い」という感覚でしょうか?


柄本 そりゃあ、怖い。すごく怖い。


   今村昌平だからさらにってのもあるけど、

   人間って、みんな怖い。

   何をするか、わかりゃしねぇんだから。


── と、言いますと?


柄本 ポル・ポトみたいに、

   同じ国の人を何百万人も殺す人もいてさ、

   テレビの人が

   「人間じゃありませんね」とか言うけど、

   つまり、

   人間だからそういうことしたんでしょう。


── たしかに‥‥。


柄本 あんなひどいこと私はやりませんってさ、

   そんな話はないです。

   むしろ失礼だよ、人間に対して。

   人間なら、誰だって、

   あんなことをやってしまう可能性がある。


   だから、裏を返して言うならばさ、

   人間というものは、

   見ていておもしろいとも言える。


── なるほど。


柄本 そういう意味では、

   人間って、怖いと同じくらいおかしい。


   見てて笑える。

 

 

── 笑える?


柄本 たとえば、往々にして、

   その場所だとか状況や何かを

   クソ真面目に

   まとめようとする人間が出てきたりすると、

   もう、おかしいですね。

   「みんな、もうちょっとまじめに

   考えてみようじゃないか」

   みたいなこと、人間って、言うでしょ?


── そういうときに、笑っちゃうんですか?


柄本 うん。なんですかね、あれ。


── ちいさいころから、

   柄本さん、そういう感じだったんですか? 


柄本 どうだろう。


   子どものころは、とにかくしゃべらない。

   おとなしい、おとなしいって言われてて、

   それが自分ではイヤだった。

   今だって別に

   そんなにしゃべるほうじゃないんだけど。

   今は取材で、こうしてしゃべってるけど。


── あ、ありがとうございます(笑)。


柄本 大人になったら、しゃべるんですね。


── 責任感?


柄本 責任感ね。


── 聞かれたことに答えるのが大人、とか?


柄本 まず、責任感という言葉を使うならば、

   「責任なんかない」って考えたいですね。


── ああ(笑)、それは、はい、考えたいです。


柄本 そもそも、

   そんなに大きな責任なんかないでしょう、

   私にだって、あなたにだって。


   だからみんな、

   責任を「探してる」んじゃないですか。

   そのほうがちゃんとして見えるから。


── あの、柄本さんは、これまで、

   様々な「人間」を演じてきたわけですが‥‥。


柄本 演じるなんてカッコいい言葉を使えば。


── では、どう表現したらいいでしょうか。

   その人になる‥‥とか?


柄本 なれるわけないです。


── ‥‥そうですね。


柄本 「役柄になりきって」とか、

   「個性豊かな」とか「存在感が」とか書くけど、

   それって、何を言ってるかわからない。


   そういう言葉を使って、逃げてるだけで。


── あ、それは、そう思います。

   安易に常套句を使うのは「逃げ」だと思います。


柄本 書きやすいんでしょうね。そのほうがね。


── 機械的に書けるという意味では、楽です。

   で、おもしろいものにはなりにくいと思います。


柄本 そうなんでしょうね。



 

  

 

vol.3 へ続く

 

 

 

 1972年、スタッズ・ターケルという人が
仕事!』という分厚い本を書いた。

植木職人、受付嬢、床屋、弁護士、セールスマン。
あらゆる「ふつうの」仕事についている、
無名の133人にインタビューした
職業と人」の壮大な口述記録なんですけど
ようするにその「21世紀バージョン」のようなことを
やりたいなと思います。
ターケルさんの遺した偉業には遠く及ばないでしょうが、
ターケルさんの時代とおなじくらい、
仕事の話」って、今もおもしろい気がして。








スタッズ・ターケル『仕事!』とは
1972年に刊行された、スタッズ・ターケルによる
2段組、700ページにも及ぶ大著(邦訳版)。
植木職人、受付嬢、床屋、弁護士、セールスマン、
郵便配達員、溶接工、モデル、洗面所係‥‥。
登場する職種は115種類、
登場する人物は、133人。
この本は、たんなる「職業カタログ」ではない。
無名ではあるが
具体的な「実在の人物」にスポットを当てているため、
どんなに「ありふれた」職業にも
やりがいがあり、誇りがあり、不満があって
そして何より「仕事」とは
「ドラマ」に満ちたものだということがわかる。

ウェイトレスをやるのって芸術よ。
バレリーナのようにも感じるわ。
たくさんのテーブルや椅子のあいだを
通るんだもの‥‥。
私がいつもやせたままでいるのはそんなせいね。
私流に椅子のあいだを通り抜ける。
誰もできやしないわ。
そよ風のように通り抜けるのよ。
もしフォークを落とすとするでしょ。
それをとるのにも格好があるのよ。
いかにきれいに私がそれをひろうかを
客は見てるわ。
私は舞台の上にいるのよ」

―ドロレス・デイント/ウェイトレス

(『仕事!』p375より)

INTERVIEW|俳優 柄本 明 21世紀の「仕事!」論。 vol.1

 

21世紀の「仕事!」論。

俳優 柄本 明

 

第1回

人が書いたことを言う仕事。 

 

 

 

 

── 俳優とは、どのようなお仕事でしょうか。

柄本 そこに書いてあることを言うんですね。
   それも、他人が書いたことをね。

   で、それを、別の他人が見てるんだね。

── 他人の書いたことを言っているところを、
   別の他人が見ている。

柄本 そう、それ以上でもなければ、
   それ以下でもないです。ただ、それだけ。

 

 

── 書いてあることを言うだけではないって、

   見ているこちらは、思うのですが。


柄本 いや、書いてあることを言うだけですよ。


   でもね、ようするに、

   期待されているようなことを言うならば、

   書いてあることって、言えないよ。

   他人が書くことだし、言えないんだよね。


── 言えない?


柄本 言えない。ためしに言ってごらんなさいよ。

   すぐわかるから。「言えない」って。


── セリフを言うのは難しいという意味ですか。


柄本 つまりさ、書いてあることを言うなんて

   単純なことをやるにしても、

   人間ってのは、何か、考えちゃうんです。


   俳優じゃない仕事でもそうだと思うけど、

   何かやろうと思ったら、

   何やら、考えることになっちゃうでしょ。


── ええ。


柄本 簡単じゃないよ。


── では、その「出来」には

   やはり才能とかキャリアとか経験とかが、

   関係してくるんですか?


柄本 それは、まあ、そうでしょう。

   他の仕事と同じように。


── じゃあ、俳優さんの場合、

   経験によって

   どんなことが「うまく」なるんでしょう?


柄本 それは、わかんないです。

   それぞれ、みんな、それぞれなんだから。


   私は運良く長く続けてるけど、

   つまんない本も、あったりします。

 

 

── あ‥‥はい。


柄本 そんな台本でも、

   私はセリフ言わなきゃならないわけです。


   こんなこと言わねぇだろうと思ったって、

   一生懸命に、言う。


── ええ。


柄本 いい台本も、たくさんいただいています。

   それは、ありがたいことです。


   でも、台本が良かろうが悪かろうが、

   私は書いてあることを一生懸命に、言う。

   仕事って、そういうもんでしょ。


── ようするに柄本さんは、

   一生懸命にセリフを言っているだけだと。


柄本 そうまとめると、カッコつけすぎですよね。

   

   ただ‥‥「才能」という言葉については、

   思うところもあるけど、

   そんなようなものは、やっぱり、あるようです。


── 俳優の才能。


柄本 同世代で言えば、

   青年座という劇団の養成所の発表講演で

   西田敏行って人を観たときに、驚いた。


   何せ、子どもの中に大人がいるんだもん。

   それが「西やん」だったんです。


── そうなんですか。西田敏行さん。


柄本 あれだけのものだったら、上へ行く。


   まわりだってバカじゃないから、

   ものがよけりゃあ、上へ引っ張りますよ。


── そんなに目を引く人だったんですね。


柄本 圧倒的だった。今よりずっと痩せてたけど、

   声は通るし、とにかくうまいし。


   まるで、大人と子どもだよ。

   幼稚園児のなかに大学生がいるみたいでした。


── さっき「運良く」とおっしゃいましたが、

   俳優を続けてこられたのは、

   「運が良かった」という認識なんですか?


柄本 ええ、運が良かったんでしょう。


   何でもそうだと思うけど、

   その仕事で食べられるといういうことは。


── 柄本さんは、なぜ俳優になったんですか?


柄本 家にはそんなにお金はなかったんだけど、

   親父もお袋も、

   映画の話しかしないような親だったんで、

   その影響はありました。


   でも、つまるところは、

   私が俳優になったのは「青春の誤解」で。


── 誤解?



 

柄本 ようするに、若いってことはバカだから、

   カッコよく見えたんですよ。


   アングラとか、映画とか、そんな場所が。


── そういう舞台に、自分も立ちたいと。


柄本 ただ、お客として映画や芝居を観るのと、

   自分でやるのとじゃ、

   まあ‥‥ぜんぜん別ものだったですけど。


── 同じ演技をするのでも、

   映画とお芝居では、また違うんでしょうね。


柄本 そりゃあ、もちろん。場所が違うんだから。


   よく、こういうインタビューなんかで、

   「柄本さんは

   映画やテレビによく出てらっしゃるけど、

   お芝居、劇団をずっと続けてる、

   だから本当は

   お芝居がいちばん大事なんでしょう?」

   って決めつける人がいるけど。


── ええ。


柄本 仕事のなかで何がいちばん大事かだとか、

   そういうのはないです。


   俳優っていうのは、

   人の書いたセリフを言うのが仕事だから、

   映画だろうが、テレビだろうが、

   一生懸命、セリフを言うんですよ。


── なるほど‥‥。


柄本 おもしろい仕事、つまんない仕事、

   いろいろありますが、セリフを言う。


   だって、俳優ってそういう仕事だもん。


── でも、そのなかでも、

   「この話は好き、この話はそうでもない」

   という濃淡はありますよね。


柄本 そりゃあるでしょ誰だって。好き嫌いは。


   人間なんだから、

   そんなもん、好きだ嫌いだは、誰だって。


── でも俳優の仕事には、好き嫌いは二の次?


柄本 他の人は、知らないけど。


── では、俳優という仕事のおもしろさって、

   どういうところにありますか。

   おもしろいから続いてると思うのですが。


柄本 まあ‥‥おもしろいというよりも、

   「つまんなくない」って感じですね。


   人間って、

   つねに何かを難しくして生きてるでしょ。

 

 

── 難しく‥‥というと

   ハードルを上げる、みたいな意味ですか?


柄本 つまり「ずっと同じ」じゃ満足できない。

   あなただって、そうでしょう。


── あ、はい。


柄本 だから、それはつまり

   人間の持つ‥‥欲望‥‥ですか。


   あの、ロバート・デ・ニーロって役者、

   たいへんな役者だけど、

   あの人が『レイジング・ブル』って映画で、

   痩せたり、太ったりしたじゃない。


── 髪の毛を抜いたり。


柄本 俳優って、そういう「熱演」って大好きですね。

   私も大好きですけど。


   で、すごいなあと思う反面、

   「役者って、バカだなあ」とも思うんです。


── そうですか。


柄本 だってさ、太ったり痩せたり毛を抜いたり、

   そんなことしてまで。


── でも、そうすることで褒められたら

   嬉しくないですか?


柄本 嬉しいけど、

   バカにされてると思ったほうが

   いいかもしれない。


── え、なぜですか。


柄本 人前で泣いたり笑ったり怒ったり叫んだり、

   おまえ恥ずかしくないのかって。


── 俳優ってカッコいい職業だと思ってる人は、

   たくさんいると思うんですが。


柄本 そうかもしれませんが、

   私は、他の仕事と同じ、だと思います


   でも、こういうひねくれたことを言うと、

   文字にしたとたん、逆に

   カッコつけた感じになっちゃうんです。


── あ、その可能性はありますね。


柄本 ねぇ? ありますね。それが私は癪に障る。


   まあ、それはそれで、

   そちらの仕事なんでしょうがないだろうけど。


── では、今回は、

   なるべくカッコよくならない方向で‥‥。


柄本 まあ、どっちでも。お任せしますけども。

 

 


 

 

vol.2 へ続く

 

 

1972年、スタッズ・ターケルという人が
仕事!』という分厚い本を書いた。

植木職人、受付嬢、床屋、弁護士、セールスマン。
あらゆる「ふつうの」仕事についている、
無名の133人にインタビューした
職業と人」の壮大な口述記録なんですけど
ようするにその「21世紀バージョン」のようなことを
やりたいなと思います。
ターケルさんの遺した偉業には遠く及ばないでしょうが、
ターケルさんの時代とおなじくらい、
仕事の話」って、今もおもしろい気がして。








スタッズ・ターケル『仕事!』とは
1972年に刊行された、スタッズ・ターケルによる
2段組、700ページにも及ぶ大著(邦訳版)。
植木職人、受付嬢、床屋、弁護士、セールスマン、
郵便配達員、溶接工、モデル、洗面所係‥‥。
登場する職種は115種類、
登場する人物は、133人。
この本は、たんなる「職業カタログ」ではない。
無名ではあるが
具体的な「実在の人物」にスポットを当てているため、
どんなに「ありふれた」職業にも
やりがいがあり、誇りがあり、不満があって
そして何より「仕事」とは
「ドラマ」に満ちたものだということがわかる。

ウェイトレスをやるのって芸術よ。
バレリーナのようにも感じるわ。
たくさんのテーブルや椅子のあいだを
通るんだもの‥‥。
私がいつもやせたままでいるのはそんなせいね。
私流に椅子のあいだを通り抜ける。
誰もできやしないわ。
そよ風のように通り抜けるのよ。
もしフォークを落とすとするでしょ。
それをとるのにも格好があるのよ。
いかにきれいに私がそれをひろうかを
客は見てるわ。
私は舞台の上にいるのよ」

―ドロレス・デイント/ウェイトレス

(『仕事!』p375より)