個人的にトラウマになるくらい後味の悪かった映画7選
たくさんの映画を観ていると、「期間をおいてもう一度観たい!」と思う素敵な映画もあれば、「できれば二度と観たくない」と思う、 何とも後味の悪い映画にも出会います。
今回紹介したいのは、私が出会ったなかでも特に後味の悪かった、何ともダークな映画たち。
しかし、「はいはい面白かった」で終わってしまう並の映画よりも、「げげげ〜」とトラウマになるくらいの衝撃をもたらす映画のほうが、ある意味作品としては成功しているといえるのかもしれません。実際、以下に紹介する7作品を、私は「できれば二度と観たくない」けど、それなりに高く評価しているつもりです。
それでは、まず1本目から。
1 『絞殺』新藤兼人
「ツトム、日本は学歴社会だ。一流大学さえ出れば、後はどうでもいい」と堂々と言い放つTHE昭和な父と、「大丈夫よね、ツトムさん」と微笑むTHE昭和な母に耐えきれなくなった主人公が、家庭内暴力を振るうようになり、最後は父が息子を絞殺する、というストーリーです。
途中なぜか主人公がマザコンぽくなり、「あんな親父と寝るなよ」発言をして母に襲いかかったり、主人公が好意を寄せていたクラスメイトの女子が実は彼女の養父と関係していて、それを苦に自殺したりと、「や〜め〜て〜」と涙目になってしまうくらいダークなエピソードが盛りだくさん。しかし、新藤兼人の脚本が卓越しているせいか、最後までぐいぐいと見入ってしまう不思議な魅力をもった作品でもあります。二度と観たくないけど。
母を演じる乙羽信子の演技がところどころコミカル?に見えるのが、唯一の救いでしょうか。
2 『海を見る』フランソワ・オゾン
けっこう前に観たので細かいところは覚えていないのですが、「女は怖い」とかのたまいたいならこの映画を観てからにしろ、と個人的に思っている作品です。「怖い」ってこういうことをいうんだぞ。
主人公の女性が、娘(赤ちゃん)と一緒に海辺の別荘へ遊びに来ます。彼女の夫は仕事が忙しいのか、到着に何日か遅れてしまうようで、主人公は娘と一緒に、近くの海で水浴びをしたりしています。
そこへやって来たのが、バックパッカーっぽい旅人の女。別荘の庭にテントを張らせてほしいというので、主人公はそれを承諾します。ついでに、せっかくなのでと主人公は旅人の女を別荘に招き入れて、一緒に晩ご飯を食べたりするのですが、徐々に不穏な空気が……。
主人公が、女のテントのなかから彼女が書いたメモを発見するシーンがあるのですが、あの場面のゾワゾワ感といったら、そのへんのホラー映画を軽く超えるでしょう。人間が首吊りをしている絵とか、黒魔術っぽい呪文みたいなのとか、メモにはそういうのがたくさん書いてあるわけです。
結末をいってしまうと、最後、主人公は女に殺されます。主人公がビニールか何かでぐるぐる巻きにされた死体を、後日、彼女の夫が女のテントのなかで発見するのです。一方、女は主人公の娘を奪って、船に乗って逃げる。
女性をここまでグロテスクに、気持ち悪く描いた映画を私は他に知りません。
3 『アンチクライスト』ラース・フォン・トリアー
『アンチクライスト』予告編 - YouTube
あらすじは、書くのも嫌なくらいなので予告編を見てくださいとしかいいませんが、最後のほうのシーンが残酷すぎて、映画館でずーっと目を瞑っていました。
この映画の1つのテーマはおそらく「森」なんですが、自然とはそもそもとても残酷なもの、おそろしいものであるということを思い出させてくれる映画です。森林浴とかいってられるのは、それがコントロール可能な、人間の手中におさまる自然である場合のみです。環境問題がさけばれて、自然を保護しなければならないという動きに関しては、私はもちろん賛成です。しかしこの映画を観ると、「そもそも人間が自然を捨てたのはなぜだったのか?」みたいなことを考えさせられてしまいます。怖かったからでしょう。コントロール不能だったからでしょう。
ところで、映画のラストで「この映画を、アンドレイ・タルコフスキーに捧げる」みたいな字幕が出てくるのですが、あれはどういう意味なんですか? だれか教えて下さい。
4 『ソドムの市』ピエル・パオロ・パゾリーニ
ストーリーは、自分たちの快楽のために市町村条例を新しく制定してしまった亡命政権によって、秘密の館に美男美女が集められ、そこに集まった者同士が好き放題快楽に耽るというもの。詳しくは語りませんが、私はこの作品を観たあと約1週間、チョコレートアイスを始めとする茶色い食べ物が食べられなくなりました。
5 『ヴァンパイア』岩井俊二
映画『ヴァンパイア』予告編 - YouTube
『ヴァンパイア』は、若い女性の血を吸うことがやめられないという、変わった趣味をもった主人公のサイモンをめぐる物語です。生きている女性の血を吸うわけにはいかないので、自殺をしたい女性をインターネットで探して、彼女たちの自殺を幇助する形で、サイモンは血液を集めます。
私が本作を気に入らないのは、「サイモンは怪物だけれど、本当はピュアな愛を求めてる」みたいな安易なロマンチシズムに流れてこの作品が終わってしまうところにあるのですが、そこを“魅せて”しまうのもまた、岩井俊二の力であり罪なところです。
後味の悪い原因は、物語の本筋とはあまり関係ないのですが、サイモンの仲間がタクシーである女性を連れ去り、彼女を殺すシーンが気味悪すぎたことにあります。私はあのシーンを観て、外国で1人でタクシーに乗るのは絶対やめよう特に夜は本当に絶対やめようと思いました。
6 『拘束のドローイング9』マシュー・バーニー
Drawing Restraint 9 Trailer - YouTube
マシュー・バーニーとビョークの『拘束のドローイング9』は、残念ながらDVD化などはされていないようです。私の場合、「ビョークが出るから」という安易な理由で映画館まで足を運んだものの、実際に観た映画は「???」でした。
まず、筋書きがまったくこれっぽちもわかりませんでした。きっと筋書きとかない映画なんでしょう。そういう映画は珍しくないので、まぁいいです。
この映画がトラウマになった原因は、『アンチクライスト』とちょっと似ていますが、お互いの体をナイフで切り刻んで食べるシーンがあったことです。「Oh,これは無理だ……」と判断した私は、やはり目を閉じて鑑賞してしまったため、特に最後のほうは何が起こっていたのか知りません。
マシュー・バーニーは映画というより現代美術の世界のほうの人なので、この作品を本気で鑑賞しようと思ったら、そっち方面からのアプローチが必要なのかもしれません。
7 『ルナシー』ヤン・シュヴァンクマイエル
シュヴァンクマイエルがエドガー・アラン・ポーやマルキ・ド・サドに着想を得たという本作は、本物の精神病院を撮影に使ったというすごいアレな映画で、生き物のごとく踊り狂うお肉に戦慄します。ちなみに、私のなかでトラウマになってしまったのはラストシーン。映画を観終わった後約1週間、怖くてスーパーの精肉売り場に近付けなくなっていました。映画は最後、パックに分けられて売られているお肉が、苦しそうにすーはーすーはー息しているところで終わるんですが、スーパーのお肉が本当にすーはーすーはーしていたらどうしようと思って。このシーン、今は大好きなんですけどね。
『ルナシー』が他のトラウマ映画とちがって最終的には大好きな作品となるまでに昇華できたのは、シュヴァンクマイエルが「笑い」を忘れなかったからでしょう。彼の映画はすべてそうですが、真顔でふざけている。ダークでブラックな素材を必ず笑えるところまでもっていく、そこが好きなんですよ。パゾリーニとかもちょっと笑っちゃうところはあるんですけど。
まとめ:ブログっていいよね
以上7作品が、私が今まで観てきたなかで選ぶ最高に「後味の悪い」作品たちです。映像が気持ち悪いのもあれば、ストーリーの筋が気持ち悪いのもあり、両方とも気持ち悪いのもあります。
開き直って卒論のテーマにしてしまったシュヴァンクマイエルを除いて、他の6作品はこれまで、どれも「気持ち悪すぎて人にいえない、表に出せない」って感じの映画でした。でもブログだと、その気持ち悪さすらログに残して、消化できてしまいます。文章を書いたり、絵を描いたり、粘土で何かをコネコネしたり、そういう行為って本質的に癒しの効果があるのかもしれません。これからも、「何か不快な作品に出会ったらブログに書けばいいや」って思うと、ますます鑑賞するのが楽しくなります。読んでくれるみなさんにとっては、迷惑な話かもしれませんが……。
というわけで、本エントリにて積年のモヤモヤを晴らすことができて私は大満足です。みなさんもぜひ、素敵な気持ち悪い体験をたくさんしてみてくださいね。