クレイグ・ゾベル監督『コンプライアンス 服従の心理』
評価
★★★★★★★★☆☆(8/10)
●あらすじ
この物語は実在の事件「ストリップサーチいたずら電話詐欺」に基づいたものである。
ある金曜日、アメリカ・ボストンのとあるファストフード店。その日の夜は客がひっきりなしに来る「戦争」のような日だった。店長からバイトまでが総出で客の対応に追われていたその日、電話は鳴った。電話の主はダニエルズという男。聞けば刑事だという。彼は、アルバイトのレベッカが客の財布を盗んだ、というのだ。
ただでさえ忙しいというのに、警察沙汰に巻き込まれてしまってはたまらない。
そう思った店長・サンドラに電話の主は提案する。
「電話越しに私が指示をするから、貴方はその通りに彼女の身体検査をしてくれればいい――」
●レビュー
20世紀最高の詐欺師フランク・W・アバグネイル曰く。
「拳銃を持つよりも電話を持ったほうが金が稼げるし、マスクをつける必要もない」
「電話は長いあいだ、詐欺師のもっとも便利な武器になっている」
らしい。(『世界No.1詐欺師が教える華麗なる騙しのテクニック(原題:The Art of Steal)』より)
しかし、たった電話一本で人がコントロールされ、19歳の女性従業員を裸にひん剥き、全裸の身体をまさぐらせ、挙句“しゃぶらせ”たりまですることになるとは、誰が想像出来るだろうか。
ストーリーライン自体はアメリカ・マウントワシントンでの事件とほぼ同じである。
刑事を名乗る男からの電話は店長・サンドラに「おたくの従業員に盗みの容疑がかかっている」と言う。
「署に連行して調べるとなると取り調べがあり、少なくとも1日は拘置することになってしまう」
「しかし、その場で貴方が従業員の身体検査をしてくれるなら、それだけで済む」
それで済むなら、とサンドラは指示に従い、女性従業員であるレベッカに服を脱がせ始める。
が、怖いのはここからである。
下着も脱がせろ。
命令はエスカレートし始める。
後ろを向かせろ。
ジャンプさせろ。“アナ”の中を見ろ。
当然、やらされている側も疑問を感じていないわけではない。
しかし、「警察に逆らいたくはない」という打算が頭をよぎる。
電話口の声は「君は捜査に協力してくれている良き市民だ」「責任は私が取る」と繰り返す。また、「何があったの?」と聞かれるたびに、「『警察の方』から」と答え、電話口の相手を警察だという認識を確固たるものにしてしまう。
そうすると、人は驚くほど簡単に、自身の思考を止めてしまうのである。
「いくらなんでもおかしいと思う筈」「この状況を異常と感じないのはおかしい」
観ている側がいくら思ったところで、この映画は限りなく実話に基づいている。
その点において、この映画はどこまでも救いがない。
物語は大部分がファストフード店のバックルームで展開され、100分程度の上映時間においてほぼ救いはないに等しい。ただひたすらに、「実話に基づいた」、嫌悪感を呼ぶ展開が続く。
同系統の作品としては『ファニーゲーム』『es』などが適切だろうか。
ハッキリ言って、楽しい映画ではないことは確かである。
しかし、観る価値がある映画かと問われればYESである。
むしろ、「権威に弱い日本人」だからこそ観るべきなんじゃないかとも思う。
そんな映画だった。