2014年度 第63回 朝日広告賞
受賞・入選作品紹介
一般公募の部 受賞作品
「一般公募の部」の応募総数は1117点。候補作品が30点余りに絞られた段階で中間講評を実施。各審査委員から注目した作品への感想や推薦理由が 述べられた。上位の決定においては、「こなれて安定した作品よりも新しさがある作品を最高賞にすべき」「新しさがあっても、難解すぎる作品を最高賞にして よいものか」などと、審査委員の意見がまっ二つに分かれ、議論が白熱した。その結果、KADOKAWAの課題を扱った作品が最高賞に輝いた。
朝日広告賞
KADOKAWA 「角川文庫」
時田侑季
「深読みさせることが応募者の意図だろう。だが、実際この広告が新聞に掲載されたときに、果たして読者が深読みしてくれるだろうかという気もする。審査委員でなかったら素通りする表現かもしれない」(タナカノリユキ氏)
「『わからない』という強さが相当あって、ひきつけられる」(上田義彦氏)
準朝日広告賞
キッコーマン 企業広告「おいしい記憶をつくりたい。」
増田光宏、タルボット才門、平田正和、服部伸崇、水澤覚之介、太田幾織
「栄久庵憲司さんがデザインしたしょうゆビンが、化粧ビンと並んでも堂々としていて、かついい違和感が出ていてすばらしい」(浅葉克己氏)
「化粧ビンとしょうゆビンを一緒に見せるということは、食品が薬品っぽく見えてしまうので、実際の広告ではやれないだろう。そこを堂々とやってい るところがいい。男の人は、しょうゆの焦げた匂いなどが大好き。『男をつかむ香り。』というコピーが化粧品ではなくちゃんとしょうゆに落ちている」(児島 氏)
はとバス 「はとバス」
上原恵太、谷川瑛一
「好きだった作品のひとつ。ただ、『親孝行してますか?』というコピーは少し安易に感じた」(佐藤氏)
えひめ飲料 ロングセラー商品「ポンジュース」
萩原陽平、井上みすず、中山 大
「イラストレーションが印象に残った」(タナカ氏)
梶祐輔記念賞
新潮社 「新潮文庫」
鈴木純平、majocco
「コピーとイラストの関係が絶妙で、気持ちにグッとくる。女性の折れた薬指、触れていそうで触れていなさそうな二つの手、そうしたイラストの雰囲気に、文学や文章に漂う時間のようなものを感じさせる」(タナカ氏)
「『好きと言えたら、文学なんていらない。』というコピーは王道だが、不思議な雰囲気の絵と合わさることでいい作品に仕上がっている」(副田氏)
入選
ノリタケカンパニーリミテド 「上質な暮らし」を提案するノリタケ食器
鷲見まゆみ、稲垣厚作、小谷圭祐
「ノリタケのショールームに貼ったらよさそうなビジュアル。ポスター的だが朝日新聞に掲載されたら企業が誇りを感じられるだろう」(小山氏)
「商品の良さや食事の楽しさを伝えている。細かいところまで神経が行き届いている」(葛西氏)
「ある種の実証広告。レベルの高い玄人技の表現だが、昔からある手法なので、ビックリはしなかった」(川口氏)
トンボ鉛筆 「TOMBOWの文具のブランド広告」
永松りょうこ、山口 舞、古川泰子
ハインツ日本 「ハインツ トマトケチャップ」
佐藤正人
ハインツ日本 「ハインツ トマトケチャップ」
江畑 潤、樋口舞子、中島順子、佐野夏記
新潮社 「新潮文庫」
田中圭一、吉村 亮
「コピーがいい」(川口氏)
トンボ鉛筆 「TOMBOWの文具のブランド広告 」
モリタクマ、富田美紀子
カルチュア・コンビニエンス・クラブ
「TSUTAYA」動画・音楽レンタルサービスの利用促進
窪田浩紀、宇良貴志
トンボ鉛筆 「TOMBOWの文具のブランド広告 」
大久保里美、松實良知、鈴木孝彰、黒田輝海、吉崎千佐子
ハインツ日本 「ハインツ トマトケチャップ」
清水龍之介、葛西亜理沙
トンボ鉛筆 「TOMBOWの文具のブランド広告」
豊田丈典、橋本 暦
「『神様がフリーハンドで描いたから、世界は面白くなった』というコピーはいいが、“フリーハンド”を表現した絵がもう一歩」(浅葉氏)
小型広告賞
高橋酒造
「日本を代表する素材「米」を原料とした「しろ」の魅力を表現する」
姉崎真歩、遠藤生萌
カルチュア・コンビニエンス・クラブ
「TSUTAYA」動画・音楽レンタルサービスの利用促進
野中優介、橋本祥平、山本絵理香、加藤直人、篠崎舞子
審査委員賞(イラストレーション賞)
丸美屋食品工業 「のりたま」
北山和徳
資生堂 「HAKUメラノフォーカスCR」
白川温未
審査のポイント
「朝日広告賞は新人クリエーターの登竜門的な意味合いがあると思うが、『とはいえ、この表現を出稿した結果、売れるか』という視点を持って審査した」(佐藤尚之氏)
「新聞広告を、『企業が誇りを持てる装置』と位置づけて審査した」(小山薫堂氏)
「次回応募する人たちが、『こういう考え方もアリなんだ』と思えるような、いい呼び水になるような表現に票を投じたい」(児島令子氏)
など、多様な意見が上がった。
総評
「例年、プロにはできない大胆さや斬新さ、実際の広告ではできない表現のジャンプ力などを審査基準にしているが、今年はそれに該当するものがあまりなく、イラスト表現に少し見られた程度だった」(タナカ氏)
「飛び抜けた秀作はなかったが、イラストの力作やコピーの力作など、部分的にいいなと感じられるものがあった」(葛西氏)
「今年は昨年に比べてコピーに優れた作品が上位に残った印象。次回の応募者に『新しい表現の提示』を求めているが、どこか常軌を逸したものや、ブラックなものでないと、なかなかその域に飛べないのかなと、ここ数年の審査を通して感じている」(川口氏)
「最高賞の作品は、審査委員全員が気になって、これをどう評価したらいいだろうとかなり長く議論した。『気になって仕方がない作品』ということでは新しさがあったのではないか」(副田氏)
といった意見が聞かれた。
広告主参加の部 朝日広告賞・準朝日広告賞
「広告主参加の部」の中間講評では、1点の作品に審査委員の評価が集中。結果、Appleのシリーズ広告が最高賞に輝いた。朝日広告賞
AppleWorld Gallery 4点シリーズ
(企画・制作:TBWA Media Arts Lab)
2015年3月2日付 朝刊 全30段 | 2015年3月9日付 朝刊 全30段 |
2015年3月16日付 朝刊 全30段 | 2015年3月23日付 朝刊 全30段 |
「新聞をめくってこの紙面に出合い、グッときた人は多かったと思う」(前田知巳氏)
「『iPhone6で撮影』という言葉がすべてを語っている。ビッグフォトは非常にオーソドックスでベーシック。その根底にヒューマンな匂いが 漂っているところが何ともいえない。デジタルの最先端にいるiPhoneが新聞広告というアナログの紙メディアで十分に効果を発揮した」(中島祥文氏)
「スマホは都会で使ったり、近い距離で友達同士を写したりというイメージがあるが、旅してみたくなるような場所や、大自然の中で撮った写真を展開しているところに“抜け感”があって、すごくシャレている」(タナカノリユキ氏)
「スマートフォンなのに写真にフォーカスしてキャンペーンを組み、ウェブサイトや街のビルボードでも写真が見られるというキャンペーンはもちろんすばらしい。ただ、新聞広告でやる意味があるのだろうかと個人的には思った」(佐藤可士和氏)
「アップルは、『客』ではなく『ユーザー』に向けてメッセージを発信している。『あなたと私たちは同じ場所で物を見ているんですよ』というポジショニング からワールドワイドに今回のような展開をされてしまうと、日本のキャンペーンでは太刀打ちできないという気がする。“してやられている感”があって悔しい が、このキャンペーンは企画も制作物も断トツだった。新聞広告に出すことによって“真打ち登場”的な効果があったと思う」(川口清勝氏)
「圧倒的にすばらしいと思った。このキャンペーンを初めて見たのが新聞広告だったが、キャッチフレーズやコピーの概念を飛び越えた 『iPhone6で撮影』という言葉や、ありそうでなさそうな写真の“中距離感”が新鮮で、30段を目にした時の衝撃はとても大きかった。新しいビジュア ルが出るたびに、何でこういう写真を選んだんだろうと思わされて、自分はスマートフォンはあまり好きではないが、『やられたな』という感じがした」(葛西 薫氏)
「圧倒的に写真がきれいで、『何だろう、この広告は』と思って目を写すと『iPhone6で撮影』とあって、『あっ、なるほど』となる。うまい作りだった」(恩藏直人氏)
「ほとんどの審査委員がこの作品を支持していて、『やっぱいいいものはいいんだな』と思った。何がいいのかと考えると、プロが作り込んでいながら “素人発”のように見せている広告が多い中、そういう匂いがしないからではないか。写真の選び方がリアルで、『自分に近い』と感じさせる。雑誌の大きさだ と普通だったと思うが、新聞30段の大きな紙面で見られたのはとてもよかった」(大宮エリー氏)
「『新聞でどこまで世の中を変えられるか』という視点でいうと、すばらしいキャンペーンだと思う。ただ、写真としていいのは鹿の写真だけで、他については、もっといい写真が撮れたのではないかと思った」(浅葉克己氏)
準朝日広告賞
東日本旅客鉄道ウフフ!北陸新幹線
(企画:電通、dof、Hotchkiss 制作:Hotchkiss)
2015年3月14日付 朝刊 全15段 |
「人の気配を感じさせるイラストが北陸の楽しさを伝えている」(中島氏)
「タレントを起用したディスティネーションキャンペーンと、イラスト表現による開業告知キャンペーンの使い分けが秀逸なキャンペーンだった」(川口氏)
パルコPARCOシーズンキャンペーン Lily, from Solstice to Solstice 2点シリーズ
(企画:パルコ 制作:アールシーケーティー、ロケットカンパニー)
「得体(えたい)の知れないビジュアルが記憶に残る。昔のいい時代のパルコを思い出させる」(タナカ氏)「フランスで人気のある『M/M(Paris)』という2人組のアーティストを起用したキャンペーンに、パルコの新しい動きを感じる。新聞広告にもそれが反映されたのがうれしい」(浅葉氏)
資生堂企業
(企画:資生堂 宣伝・デザイン部、博報堂ケトル、ナカハタ 制作:博報堂)
2015年1月1日付 朝刊 全15段 |
「今までの資生堂にない巨大なロゴとレディー・ガガのセルフィーの組み合わせは、どこか暴力的な感じがしないでもないし、キャンペーンの仕組みは自分の好みではないが、インパクトはあったと思う」(葛西氏)
広告主参加の部 各部門賞作品
くらし部門賞
ルイ・ヴィトン ジャパンルイ・ヴィトン “Celebrating Monogram”キャンペーン
(企画・制作:Louis Vuitton Malletier)
食品・飲料部門賞
味の素和・洋 調味料群
(企画:電通 制作:電通、たき工房、トーン・アップ、ONE TONE、レブロン)
出版部門賞
講談社元旦広告 「その言葉から、物語がはじまる。」3点シリーズ
(企画:講談社 制作:NEWSY、博報堂)
電機・情報通信部門賞
パナソニックTechnics
(企画:パナソニック 制作:クリエイターズグループMAC)
不動産・金融部門賞
森ビル森ビル 2015企業広告 Hello, Mirai Tokyo ! 2015
(企画:電通 制作:サン・アド)
自動車関連部門賞
ダイハツ工業COPEN
(企画:博報堂コンサルティング、博報堂、FUTURETEXT、サン・アド 制作:サン・アド)
2014年6月20日付 朝刊 パノラマワイド |
教育・公共部門賞
近畿大学超近大プロジェクト
(企画:近畿大学 広報部 制作:博報堂 関西支社)
エネルギー・産業部門賞
JX日鉱日石エネルギー企業広告 「聖火はいつも、未来を照らす。」
(企画:電通 制作:電通、T-FOX)
運輸・サービス部門賞
全国都道府県及び20指定都市換金忘れ防止広告
(企画:東京アドエージェンシー 制作:A・C・O)
流通・エンターテインメント部門賞
カルチュア・コンビニエンス・クラブ蔦屋書店 人材募集広告 「急募。」
(企画:カルチュア・コンビニエンス・クラブ 制作:渡辺潤平社、博報堂)
2014年9月17日付 朝刊 全15段 |
広告主参加の部 朝日新聞特別賞・小型広告賞
朝日新聞特別賞
シャボン玉石けん企業広告「無添加石けんの製造・販売40周年記念広告」 2点シリーズ
(企画:シャボン玉石けん 制作:BBDO J WEST、案)
アウディ ジャパンブランドキャンペーン 2点シリーズ
(企画:電通 制作:電通クリエーティブX)
大和ハウス工業共創共生「萩市・伝える」編 元旦広告
(企画:インターブランドジャパン、サン・アド 制作:サン・アド)
全国共済農業協同組合連合会「いい将来月間」
(企画:電通 制作:朝日新聞社広告局)
小型広告賞
ナブテスコ1コマ ナブテスコ 46点シリーズ
(企画・制作:朝日新聞社)
神奈川県歯科医師会啓発広告「あなたの歯、大丈夫?」シリーズ 12点シリーズ
(企画:神奈川県歯科医師会、朝日広告社 横浜営業部
制作:朝日広告社 横浜営業部、スコール)
制作:朝日広告社 横浜営業部、スコール)
2014年 8月16日付 朝刊 小型 | 2014年 9月21日付 朝刊 小型 |
2014年10月19日付 朝刊 小型 | 2014年11月 8日付 朝刊 小型 |
2014年12月21日付 朝刊 小型 | 2015年 1月18日付 朝刊 小型 |
2015年 2月15日付 朝刊 小型 | 2015年 3月15日付 朝刊 小型 |
審査委員
- 一般公募の部
- 浅葉克己、葛西 薫、川口清勝、副田高行、タナカノリユキ、前田知巳
上田義彦、児島令子、小山薫堂、佐々木 宏、佐藤尚之、森本千絵、竹内圭介
- 浅葉克己、葛西 薫、川口清勝、副田高行、タナカノリユキ、前田知巳
- 広告主参加の部
- 浅葉克己、葛西 薫、川口清勝、副田高行、タナカノリユキ、前田知巳
大宮エリー、恩藏直人、佐藤可士和、中島祥文、原 研哉、阿部 毅、竹内圭介
(順不同・敬称略)
- 浅葉克己、葛西 薫、川口清勝、副田高行、タナカノリユキ、前田知巳
インタビュー・講評
メッセージを伝えるための場を5年間ずっと探していた一般公募の部 グランプリ Imaginarium(イマジナリウム) 代表取締役・アートディレクター 時田侑季氏
時田侑季氏
2014年度 第63回 朝日広告賞「一般公募の部」のグランプリは、KADOKAWAの課題「角川文庫」を制作したアートディレクターの時田侑季さんが受賞した。時田さんは、クリエーティブ会社のImaginarium(イマジナリウム)を経営し、企業ブランディングのプランニングやデザインワークを行っている。
「スタッフは私ひとりの小さな会社で、取引先も小さな会社がほとんどです。外部スタッフと連携しながら、広告全般のコンセプトメーキング、紙媒体やウェブコンテンツの制作、企業CIの開発などを行っています。必要な時は、私が記事やコピーを書くこともあります」。
朝日広告賞への応募は初めて。コンペへの応募自体も初めてだったという。今回応募に至ったのは、5年前に一目ぼれし、パソコンに保存しておいた写真を「新聞広告なら生かせるかも」と思ったからだそうだ。
「フォトグラファーの友人が日常的に彼女の祖母の写真を記録していて、見せてもらった中に今回使った写真がありました。一見様子のおかしなそのたたずまいのただならぬ生命力というか、逆に破壊力というか、形容しがたい不思議な魅力に興奮し、『何かはわからないけれど、とにかく何かに使わせてほしい』とお願いしたんです」
友人が撮った写真は、日常を切り取ったスナップ写真もあれば、演出したものもあった。時田さんが引きつけられたのは、友人が実家の裏にある物置の前に祖母を立たせて撮影した写真だ。
「写真を見た時、漠然とはしていましたが、私の中には、伝えたいメッセージ、作りたいメッセージが確かにありました。しかし、通常の仕事においてはそれを形にできそうな案件も依頼もなく、月日が過ぎていきました。そんなある日、朝日広告賞の募集告知をネット上で見つけて、『新聞広告なら面白い』と直感しました。新聞のザラッとした質感にあの写真が載ったら面白いと思ったのです。実はそう思ったのは昨年でしたが、目の前の仕事に忙殺される中で締め切りが過ぎてしまい、『今年こそ』と思っていました。今年も日々の仕事が忙しく、応募をあきらめかけたのですが、締め切り直前に何か虫の知らせのようなものがあって、制作に取りかかりました」
おばあさんは、目に見える世界と目に見えない世界をつなぐ媒介
作品の制作にかけられる時間は、正味半日しかなかった。課題をざっと見渡し、角川文庫に決めた。
「出版の世界は、児童文学、純文学、SF、歴史、趣味・実用、ゴシップなど、扱うテーマが幅広く、そのぶん自由に遊べるのではないかと考えました。数ある出版社の中からKADOKAWAを選んだのは、『革新的なことに取り組む会社』というイメージがあったからです。被写体はおばあさんでも、高齢者を意識したメッセージにするつもりはなく、むしろあの写真には本質的でトガッたメッセージを届ける力があると感じていたので、KADOKAWAがふさわしいと思いました」
クライアントから依頼を受け、課題解決のための道筋を考え、アウトプットに至るという通常の仕事の流れとは異なるアプローチだったと、時田さんは振り返る。「目に見えるものだけが、世界のすべてではない。」というコピーは、時田さんが考えた。課題をKADOKAWAに決めた時、このコピーが自然に「降ってきた」そうだ。
「作品に込めた思いの一つは、『既成概念や常識を疑え』ということ。人は、自分の物差しで測れるものがすべてだと思いがちですが、実際は物差しで測れないことのほうが多く、それを知るための最強のツールが本である、というメッセージです。もう一つは、『目に見えない世界がある』ということ。パワースポットブームに象徴される、人知を超えた世界への関心の高まりが昨今あって、非言語の領域を扱ったビジネス書などが売れています。そうしたことの価値を伝えたいと考えました。KADOKAWAの課題と出合ったことで、おばあさんの存在が、目に見える世界と目に見えない世界をつなぐ媒介というか、アイコンというか、そういうものになったような気がします」
固定的なイメージを打ち出さず、受け手の想像力に委ねた
審査会では、「実際に新聞広告として掲載されたら、読者はどう理解するだろうか。難解すぎないか」という意見もあった。新聞広告で展開されることをどのように想定していたのだろう。
「固定的なイメージを打ち出さず、受け手の想像力に委ねたいと思っていました」
半日間という短い制作時間ではあったが、立ち止まって悩んだこともあったという。
「実は、気になる写真がもう1点ありました。おばあさんの手にホースはなく、ただじっと斜め上を見据えている写真で、まさに見えない世界を感じさせるようなたたずまいでした。最後まで迷いましたが、ビジュアル的に強いと感じたほうを選びました。また、もう一つ悩んだのは、空の色です。晴れた空色にしたら映えるのではないかと一瞬考えましたが、曇天のほうがコピーが伝わりやすいと思い、そうしました」
受賞の連絡を受けた時、「腰を抜かしそうだった」と時田さんは笑う。
「応募後に初めて、どうやら若手クリエーターの登竜門らしいと知って、若い時期をとうに過ぎた自分などが参加してしまって大丈夫だったのだろうかと恐縮していたところ、グランプリをいただくことになり、びっくり仰天しました。自分の無精者気質を考えると、受賞したことと同じくらい、応募までたどり着けたことが奇跡のようでしたが、今思えば、メッセージを伝えるための場を5年間ずっと探していたような気がします」
作品の被写体となった友人の祖母は、1年半前に89歳で亡くなったそうだ。写真を提供した時田さんの友人は、受賞の報告を受けて「あの写真が?」と驚き、「亡くなったおばあちゃんが浮かばれる」と返事をくれたという。
最後に、今後の抱負について、時田さんにたずねた。
「今回のクリエーティブワークは、何の制約も受けず、作りたいものを100%出し切ったものでした。それを評価していただけたのは何よりの収穫。というのも、以前、感性のかたまりみたいな経営者の方と一緒に仕事をした時に、感性を信じる仕事っていいな、もっとそういう仕事を増やしていきたいなと実感したことがあったんです。受賞を糧に、自分の感性を信じて新しいステージを目指していきたいと思います」
時田侑季(ときた・ゆき)Imaginarium(イマジナリウム) 代表取締役・アートディレクター
フリーランスのデザイナーとして活動後、2008年株式会社Imaginarium(イマジナリウム)を設立。 代表取締役・アートディレクター・デザイナー。
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時田侑季氏
フリーランスのデザイナーとして活動後、2008年株式会社Imaginarium(イマジナリウム)を設立。 代表取締役・アートディレクター・デザイナー。