ポラロイドの「復活」
現代のインスタントカメラ「I-1」発売
スマートフォンで写真を撮るのがあたりまえになっても、インスタントカメラへの郷愁が失われることはない。現代のポラロイドカメラ「I-1」が、ポラロイドの正当なる継承者というべきインポッシブル・プロジェクトからリリースされた。
いま「インスタントフィルム」ならびに「インスタントカメラ」をつくっているのは、Impossible Project(インポッシブル・プロジェクト)という名の会社だ。
「われわれはポラロイドじゃないという認識も、ほとんどされていないようです」とオスカー・スモロコウスキは言う。
彼らの新モデル「I-1」は、1948年発売の画期的なポラロイド・ランドカメラの現代版のような外観をしている。しかし、インポッシブル・プロジェクトはポラロイドとは完全に別物だ。「ポラロイド2.0」とでも言えばいいだろうか、そこにある昔ながらの職人魂は健在だが、生み出した成果はまったく新しいものだった。
I-1は、見た目こそ昔のポラロイドカメラに似ているが、進化を遂げている。このカメラは(スマートフォンと比べると)図体はデカいし、写真の仕上がりにもちょっと不安が残る(そこが魅力でもあるのだが)。しかし、300ドルの値段相応の新機能が盛り込まれている。
いまや誰もが、ポケットに高性能のカメラを入れて持ち歩いている。しかし、インスタントカメラの需要は落ちていない。
ポラロイドがインスタントカメラ用フィルムの製造を2008年に終了したとき、インポッシブル・プロジェクトは工場のリースを受け、インスタントフィルム復活への長い道のりをスタートした。
しかし、彼らの目的はカメラをつくることにあった。「最初のころから、カメラをつくらなきゃいけないのがわかっていました。しかし、まずはコンセプトの正しさを証明する必要があったのです。まずは、皆にこのフィルムを欲しいと思ってもらわなければならなかった」と、26歳のCEO、スモロコウスキは言う。
一般的に、フィルムとは厳重に管理されたなかで処理されるものだ。が、インスタントフィルムは「インスタントに」出来上がってしまう。つまり、カメラから吐き出されたあとで、フィルム内部で化学反応が起きければならない。スモロコウスキいわく、「およそこの世で起きる人工的な化学反応のなかで、最も複雑なもの」なのだ。
同様にインスタントカメラ自体もきわめて繊細な装置で、その外観は機能を反映したものとなる。ポラロイドカメラのデザインは、そのまま「インスタントカメラならではのデザイン」になるのだ。I-1の設計を担当したスウェーデンのTeenage Engineeringスタジオの創業者、イエスパー・コーフーも、「ありのままの姿を形にしただけ」だと言う。
インスタントカメラについて、簡単に説明しておこう。光が広角レンズを通過すると45度のアングルのミラーに反射して、カメラの底にあるネガフィルムに写り込む。光は、シルヴァーブロマイドというフィルムのネガティヴ層内で化学反応を起こすが、そこで明るさと色が写真にどう表現されるかが決まる。
そしてそのタイミングで、フィルムはローラーを通してカメラの外に押し出される。ローラーからは化学物質がフィルム表面に均一に吹き付けられ、現像が始まる。現像時間は白黒写真で数分、カラー写真だと25分もかかる。「カメラ全部品の1つひとつが、半導体よりずっと複雑なのです。ローラーに至っては医療機器みたいなものです」と、コーフーは言う。
内部の部品はかつてあったインスタントカメラと似通っているが、コーフーはボディーを現代的に仕上げたいと思った。
施された重要な変更の1つが、ヴューファインダーにある。従来のポラロイドカメラのほとんどには、カメラの左側に、チューブのように突き出たヴューファインダーがついていた。「これを踏襲すると、一見70年代のポラロイドカメラに見えてしまう。どうしようかと悩みました」とコーフーは語る。
ある日のこと、フリーマーケットを訪れたスモロコウスキは、ヴューファインダーが本体の上に取り付けられた古いツァイス・イコンを目にした。
彼はすぐに、これこそI-1に自分が求めていた要素だと気づいた。コーフーはカメラ上部で、ボタンを押すと飛び出てくるヴューファインダーの開発を始めた。コーフーは、「自分の手で直接物理的に動作させるカメラだというコンセプトを明確にしたかった」と言う。
PHOTOGRAPH COURTESY OF IMPOSSIBLE PROJECT
インポッシブル・プロジェクトの「社史」ヴィデオ。