中毒者がイギリス・マンチェスターの町をさまよい歩く。
イギリス、マンチェスターの中心街では死者同然の男女が彷徨っている。青白い顔の目は開かれているが、そこには何も映っていない。マネキンのように身じろぎもしない者もいる。まるで立ったまま意識を失っているようだ。
マクドナルドの表には灰色のジャージを着た若い男が佇み、体を捩らせてはブツブツと何事かを呟いている。アーンデールショッピングセンターにも意識なく、死後硬直のように手足を伸ばす若者がいた。
彼らは”スパイス”という、昨年5月頃までイギリスで大っぴらに売られていた脱法ドラッグの犠牲者である。
これは吸った者をまるでゾンビのような状態にしてしまう恐るべき代物で、マンチェスターのホームレスの95パーセントが服用していると推定されている。
危険なドラッグ、スパイスの恐ろしさ
「スパイスは肉体的にはヘロインのような中毒症状を引き起こし、精神にはクラックコカインのように効きます」とマンチェスター大学の麻薬専門家ロバート・ラルフズ氏は説明する。
中毒者の様子を撮影した映像や画像がネット上で拡散されると、この麻薬に対する危機感が広まった。
使用者は、大麻に代わる”安全”な合成麻薬という噂を信じて使用したところ、結局それは破壊的な物質だった。
その威力について誇張は一切ない。そして、それはマンチェスター・ピカデリー駅から降りれば、すぐに実感することができる。
ピカデリーガーデンの広場やショッピングエリア周辺では、頰が落ち窪み、幽霊のような血色をしたゾンビが至るところで目につく。ベンチにいた男はパイプでスパイスを吸い込むと、ものの数秒で強硬症状を示し始めた。
交番から20メートルしか離れていない場所では、カールという50歳の男がキメていた。彼は脱法ドラッグを扱うショップで初めて手にして以来、数年間スパイスを常用している。
「止めるのは大変さ……ガタガタ震えやがる」と彼。
「止めようとしたんだ……でもヘロインよりキツくってね」とたばこを吹かした。
ただの紙たばこに見えるが、臭いはしない。常用者が隠そうとしない理由の1つだ。
「俺がコイツを吸うのはさ、針刺すよりはマシだからだよ。それよりは健康にいい。なんだかぼうっとしてきた。心配事なんてどこかへ行っちまう」
そう言うと、1人になりたくなったのか、どこかへ行ってしまった。そのままその姿を目で追い続けたが、5分しても100ヤード(91m)ほど先にまだいた。
スパイスの成分が未知のものだったため、規制が遅れ中毒者続出
カールは1990年代後半から製造されるようになった脱法ドラッグの典型的な犠牲者だ。
これは中国やインドで作られる化学物質であるが、その成分は不明であり、イギリスの麻薬取締法では規制対象となっていなかった。
ブラックマンバ・K2・スパイスといった名称で、”無害”な合成薬物としてイギリス中で販売されている。
昨年5月、スパイスに起因する一連の死亡事故を受けて、政府は遅まきながらあらゆる向精神薬を禁止する法律を可決し、ようやくそうした売人の取り締まりに乗り出した。
しかしとっくに薬物中毒となっていた者には時すでに遅しで、スパイスの需要が消えることはなかった。
ハードドラッグに比べると、スパイスは価格が安く、国内で製造するリスクも低い。
こうして、それまでコカインやヘロインを扱っていた売人がスパイスの販売を始めた。
マンチェスターで押収されたスパイスを検査した結果、5F-ADBという、もともと大麻を模倣して合成された化学物質が検出されている。
だが、その効果は驚くべきものだ。専門家によると、スパイスたばこ1本はマリファナたばこ100本に相当するという。
これほどまで急速に広まった原因は不明であるが、価格が一因であることは間違いない。
5ポンド(約700円)もあれば、スパイスたばこ3本を作り、10時間ハイになることができる。
マンチェスターの町をさすらう中毒者はまるでゾンビ
ホームレス支援のチャリティで働くジュリー・ボイルは、何年もヘロインとコカインに汚染されたマンチェスターの街を目にしてきた。そんな彼女でさえ、スパイスの影響には震える思いがするという。
「恐ろしいわよ。まさに大流行ね。口から泡を吹いて、倒れる人間をたくさん見たわ。
それを吸うとね、一時停止を押したみたいになるの。その姿勢のまま動かなくなるのよ」
「街の中心には、ゾンビみたいな人がたくさんいるわ。生きているかどうかも分からないような連中よ。自分がどこにいるのかも分かっていないんでしょうね。
こんなの初めてだわ」
3日で依存症に。ホームレスの95%が中毒者
彼女によると、3日もあれば依存症に陥るという。
マンチェスターには3,200人のホームレスがいると言われているが、その95パーセントがスパイス中毒者であるようだ。ボイルはスパイスのせいでエイズに感染した若者について教えてくれた。
「その人は失神して、気がついたら暴行を受けていたうえに、身ぐるみ剥がされて、汚れた注射まで打たれていたわ。
意識を失って、ホームレスに暴行されたのはその子だけじゃない。それから心臓発作を起こした人も知ってる。
その人は意識を取り戻したんだけど、3時間後にはまたスパイスを吸い始めたわね」
副作用は、悪心・歯の喪失・心疾患・肺疾患など様々だ。
さらに心も蝕まれる。そうした影響は甚大で、先週のある1日では、スパイスに起因する発作で26回も救急車が出動した。中心街ではわずか30分の間に2人が倒れて、救急車が駆けつけた。
交番のそばで商売をする売人たち
売人はふてぶてしくも、交番からそう離れていない場所で商売をしている。
フードをかぶり、ほとんど歩けないような中毒者に5ポンド(約700円)でスパイスを売っている。
売人の1人に話しかけてみると、20ポンド(約2,800円)の売り上げから4ポンド(約560円)のコミッションがもらえると教えてくれた。
彼の年齢はせいぜい16歳かそこらといったこところだ。
別の年上の男に話しかけると、警察の注意を引くことを嫌ったのか、「面倒はごめんだぜ! うせろ!」と威嚇された。
彼らはナイフなどで武装している場合もある。またその背後には犯罪組織が存在しており、スパイスの販売から大きな利益を挙げている。だが警察は今ところその尻尾をつかむことができないようだ。
そうした売人が立っている通りの真向かいでは、ボランティアがホームレス相手にサンドイッチとスープを配っている。
皮肉にも、ある意味で問題を悪化させているのはこうしたチャリティである。
ホームレスはマンチェスターで食べ物が配られているために集まってくる。
ここでは食事に余計なお金を使う必要がないのだ。その金でスパイスを買える。
「でもどうしろと? まさか飢え死にさせるわけにはいかないでしょう? 不本意ながら麻薬中毒者に手を貸しているというのは本当ですよ」とあるボランティアが話してくれた。
刑務所内にもスパイスが蔓延
また売人を刑務所送りにしても無駄だ。刑務所ですら売人はさらに私腹を肥やすことができる。先週釈放されたばかりのスティーブン・マクエボイは、刑務所内にもスパイスが蔓延していることを教えてくれた。「あれは人食いさ」とパブで自由を満喫しながら彼は語る。
「俺もクラック、ヘロイン、アシッド、メスカリン、コカインと色々やったがね、それ全部を合わせたよりタチが悪い」
マクエボイによると、刑務所内では売人が約28グラムあたり1,500ポンド(約20万円)もの利益を挙げているという。仕入れ価格は50ポンド(約7,000円)でしかない。
スパイスを刑務所内に持ち込むために、ドローンが利用されているらしい。
一度手を出したら最後、ゾンビになるまでやめられない
「中じゃ誰でもやってる。どんどん欲しくなるんだ。刑務所じゃ、床で4つん這いになって月に向かって吠えているヤツを見たよ。絶対吸っちゃダメだ。1度でも吸ったらもう止められない」
スパイスのおかげで暴力事件も多発している。ピカデリーガーデン周辺では警察までが暴行を受けて、交番が夜間閉められることになった。その通りには、スパイスヘッドと渾名された連中が徘徊している。
警察は売人の取り締まりに全力を挙げているというが、それで十分だとは言い切れない。迅速に行動しなければ、スパイスはマンチェスターから他の街にも飛び火し、闇と暴力に沈めてしまうだろう。不幸にも、すでに麻薬漬けとなってしまった大勢の人間は手遅れである。
人間をゾンビに変えてしまうという恐ろしいスパイス。イギリスやアメリカではドラッグの被害が深刻であり、その様子はYOUTUBE動画などで見ることができる。とりあえずいえることは、一度でも口にしてしまったら、意志の強い人間であってもなかなか後戻りできないということである。
また、自然由来とか天然成分という言葉に騙されないことだ。
日本では一時期「植物は体にやさしい」という風潮が広まり、まだそれを信じている人もいるようだが、植物単体でも危険なものは多いし、、抽出する過程で化学物質は使用される。
via:Rise of the zombies: Cheaper and more addictive than crack, Spice is the synthetic drug that turns users into the 'living dead' in minutes and is ruining lives across Britain/ translated hiroching / edited by parumo
http://karapaia.com/archives/52235651.html