出会い系アプリ『Tinder』にデスクトップ版が登場、そのインターフェイスの「意図」
スワイプによる簡単操作で好みの相手を見つけられることが人気のアプリ「Tinder」が、デスクトップ版を発表した。人々がハマる4つのステップ「トリガー」「アクション」「リワード」「インヴェストメント」はどう変わるのだろうか。
右にスワイプするだけという、おもしろいくらいシンプルな操作法で何千万人ものユーザーを誘惑してきたこの出会い系アプリは、モバイル体験そのものが楽しいアプリとしても有名だ。
そんなTinderが3月28日(米国時間)、少し変わることになった。
ブラウザー向けアプリ「Tinder Online」がリリースされたのだ(Tinder Onlineは現在、アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、インドネシアなどでテストが進められており、米国内での登場は年内のもう少し先になるとされている。携帯電話の接続状態が良くないこうした国のユーザーがようやく、デスクトップからTinderを利用できるようになるわけだ)。
ブラウザー版の見た目はモバイル版とそっくりになるようだ。もっとも、Tinderのデザイナーはインターフェイスをいくつか変更している。まずはスワイプだ。モバイル版でお馴染みのこの動きは消え、代わりに、クリックしたままドラッグするか、キーボードの矢印キーを押すことで、好みに合いそうな相手を探していく。モバイル版よりも会話が重視されてもいる。メッセージパネルが常時、デスクトップ画面の3分の1を占めるようになった。小さな変化だが、それがもつ意味合いは大きい。スワイプの回数を減らし、もっとたくさん話すよう促しているわけだ。
人がなにかにハマる、4つのステップ
一方で、こうした変更は、Tinderのこれまでの「勝利の公式」から外れることも意味する。『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』(邦訳:翔泳社刊)の著者、ニール・イヤールは、「スワイプによる簡単操作こそが、Tinderの成功のコアなのです」と語る。スワイプの次に何が来るかも重要だ。
イヤールは、人々がハマるには、「トリガー(きっかけ)」「アクション(行動)」「リワード(報酬)」「インヴェストメント(投資)」という4つのステップがあると述べる。
モバイル版Tinderの場合、トリガーは孤独や退屈、性的欲求。
アクションはスワイプだ。
「それが次のトリガーになります。右にスワイプすれば、好みの相手がいるかもしれないと思うからです」とイヤールは言う。出会いがリワードであり(人間は本当に報酬好きだ)、メッセージを送ることがインヴェストメントになる。
Tinder Onlineは、会話を前面に押し出すことで、このサイクルを書き直そうとしている。
「Tinder Online」のデモ動画。
モバイル版Tinderのインターフェイスでは、見つかった相手とメッセージが別々の画面に表示されるが、これはアプリの使い方に直接的な影響を与えている。
「ユーザーのスワイプの仕方にはパターンがあり、そこでは本当に真剣になって相手を見定めています。気に入った相手が見つかったら、ちょっと休憩して、会話を始めます」と、Tinder Onlineの製品マネージャーであるサマンサ・スティーヴンズは説明する。出会った相手が表示される画面とメッセージ画面とを分けておくことも、ユーザー同士のやり取りの質に影響を及ぼすという。
「相手の情報や、彼らが支持しているものをちゃんと見ていないほうが、あたり触りのない会話をしやすいのです」とスティーヴンズは言う。
「いま何してる?」と曖昧に問いかけるほうが、深く知り合いになりたいと思っている相手に具体的な質問を投げかけるより簡単だ。
ここで思い出すのが、前述の「トリガー」「アクション」「リワード」「インヴェストメント」というサイクルだ。Tinder Onlineでも、孤独や性的欲求がトリガーであることに変わりはない。だが、そこから先の「アクション」は、スワイプでの操作ではなく、メッセージを送ることになるだろう。そして「リワード」は、出会いではなく「意味のある返事」になり、「インヴェストメント」は、会話を始めることではなく「会話を続けること」に変わる。
ユーザーインターフェイスを少し工夫するだけで、Tinderは、「より多くの人との出会いを求める」気持ちから、「より多くの会話をしたい」気持ちへと、トリガーを変えてしまうこともできるだろう。「Tinderの戦略が、より長い期間の交際に関心を持たせることにあるとしても、私は驚きません」とイヤールは話す。
これはTinderのビジネスにとってはよいことだ。つかの間の遊び相手を探すのにTinderを利用するタイプのユーザーに関しては、このアプリで恋人を見つけた人々の話は数え切れないほどある。
しかしそうした種類の宣伝は、真剣な交際を探している人に対しては、「OkCupid」や「eHarmony」のようなサイトを推薦するように響くだろう。
これまでのところTinderは、そこまでの真剣さをユーザーに求めてはいない。
Tinderで知り合って結婚したカップルの話は、ほとんどいつでも、あり得ないものとして扱われている。だが、デスクトップ版Tinderなら、それもあり得るかもしれない。手軽なスワイプをさせないことで、Tinder(およびTinderユーザー)ともう少し真剣に向き合うよう、そっと背中を押すことになるのかもしれない。