今秋、満を持してラルフ ローレンの日本版ウェブサイトが刷新され、同ブランドの日本向けeコマースサイトがローンチした。このオープンに際して来日したのが、同社のデジタルマー ケティング部門のトップにして、ラルフ・ローレンの次男であるデイヴィッド・ローレンだ。新装なった日本版ウェブサイトをはじめ、彼が手がける同社のデジ タル戦略について話を訊いた。
デイヴィッド・ローレン | DAVID LAUREN ラルフ ローレン アドヴァタイジング、マーケティング・アンド・コーポレートコミュニケーションズ エグゼクティヴ・ヴァイスプレジデント
ラルフ・ローレンの次男。彼が牽引するデジタルマーケティング部門の躍進により、世界各国で開設したeコマースサイトが成功。革新的なデジタル技術の導入 で、世界規模での販売戦略が可能となった。『WIRED』のUS版、UK版をともに毎月熟読するという40歳。
ラルフ・ローレンの次男。彼が牽引するデジタルマーケティング部門の躍進により、世界各国で開設したeコマースサイトが成功。革新的なデジタル技術の導入 で、世界規模での販売戦略が可能となった。『WIRED』のUS版、UK版をともに毎月熟読するという40歳。
──2000年にアメリカでオープンして13年、やっと日本でもeコマースサイトがローンチしました。これだけ時間がかかったのはどうし てなんですか?
2000年、わたしたちはまだどのブランドもやっていないころにeコマースサイトを立ち上げました。そしてラグジュアリーブランドとしては初めてモバイル でのeコマースを行うなど、業界の先駆者としてデジタルの世界で常に新しいチャレンジをしてきました。日本でいままでeコマースを展開していなかったの は、テクノロジー的にまだ十分に準備できていなかったからです。日本はとても重要なマーケットであり、どうしても日本独自のサイトをつくりたかったので、 それを十分に準備していたということですね。
今回日本でローンチした最新のウェブサイトでは、わたしたちが展開する12ブランドのeコマースはもちろん、ライフスタイル全般をカヴァーするオンライン マガジン「RL MAGAZINE」や、着こなしのアドヴァイスなどを盛り込んだ「RL Style Guide」、世界でも初となる厳選されたヴィンテージアイテムを販売する「RL Vintage」など、さまざまなコンテンツを網羅しています。IBMの最新のプラットフォームを採用 しており、非常にイノヴェイティヴなものになっています。この日本のサイトは、今後のわたしたちのウェブサイトのプロトタイプというか、欧米のサイトの ベースになっていくでしょうし、ほかのブランドへのインスピレーションを与えるくらいのエキサイティングなサイトになっていると思います。
──国によってサイトのシステムは違うんですね。
ヨーロッパやアメリカは同じような構造のサイトなんですが、日本のものは完全に新しいつくりになっています。日本のサイトは、わたしたちが新しいものをつ くるといういいきっかけになったサイトと言えますね。ゼロから1年以上かけてつくり込みましたからね。コンテンツに関しても、情報にしても、自分たちが見 せたいものを入れていく側面と、一方で日本のお客様がどのようなサイトを求める傾向があるのかなどのリサーチも綿密に行ってつくりました。
──日本の消費者には、どのような印象をもっていますか?
とても特別で興味深い人々だと思います。わたし自身、とてもインスパイアを受けています。特に、日本のお客様のスタイルへの感心が強いですね。例えば、ク ラシックとカジュアルをうまくミックスさせたり、トレンドアイテムをトラッドにミックスしたり、とてもオリジナリティの高い着こなしをするという印象があ ります。わたしたちのヴィンテージアイテムは、日本のコレクターの方々の間でもとても人気が高いですし、ヴィンテージのページを初めてつくったのも、その ベースがあったからこそできたと思います。あと、日本には本当にラルフ ローレンというブランドへの思いが強いお客様が数多くいらっしゃってくれるのも、とてもありがたいことです。
今後はデータベースをつくりながら、日本のお客様のことを学んでいかなくてはなりませんが、とても期待感に満ちています。わたしたちのストーリーを日本の お客様にきちんを伝えていきながら、そこに最新のテクノロジーを組み込んでいくことはとてもエキサイティングなことです。
例えばこの表参道のお店にいらっしゃると、マホガニーの家具にシャンデリアといった、非常にクラシックなイメージを感じられる方が多いと思うんですが、一 方でウェブサイトをご覧になっていただければ、最新のテクノロジーを使っていろんな試みがなされていることに気づかれると思います。実は、それこそがラル フ ローレンのファッションなんです。古いものと新しいものを融合して、両方を打ち出していくのがわたしたちのスタイルです。
──それにしても、世界初のヴィン テージのページ「RL Vintage」には驚きました。1点しか売らない(売れない)ものを、わざわざちゃんとラルフ ローレンらしい質の高い世界観で撮影してそれぞれのページをつくっています。はっきり言ってコストが見合わないと思うんですが……。
特別なものをつくる、というわたしたちの「哲学」の部分ですね。表参道のこのお店をつくったときも、ゼロからこの館を完璧なものにするために大きな投資を しました。マホガニーの家具、シャンデリア、美しい階段や什器たち。まさにオールドイングリッシュホーム、そのままのスタイルです。そのすべてが、わたし たちの哲学を伝えるために必要だからこそ、これだけのお店をつくったわけです。ほかにはなかなかありませんよね、こんなお店。
わたしたちは、ただ利益を上げればいいとは思っていません。それよりも、より強いブランドをつくりたいと思っています。強いブランドをつくることが、より よいビジネスにつながっていくだろうと思っているからです。創業して45年間、わたしたちが成功を続けてきたなかでは、積極的な投資を行っていて、その投 資が、お客様に期待感をもっていただけることにつながってきたと思います。
お客様には、いろんなものをたくさん買っていただくことになりますので、それに見合った、楽しい体験をしていただくのはとても重要なことなんですね。お店 や商品、広告、ウェブサイトのクオリティ、そのすべてが最高のものでなくてはならないのです。わたしたちはそのレヴェルを非常に高く設定していますが、お 客様もそれだけ期待度が高いものをわたしたちに要求していると思っています。わたしたちのお客様は、ラルフ ローレンで買い物するとき、単にシャツやドレスを買いに来ているわけではありません。わたしたちのライフスタイルを、世界観を期待して購入されていると思 うからです。
──確かに、サイトの隅々まで、ほかにない楽しさがあふれているのがわかります。
とはいえ、まだ始まったばかりです。「RL MAGAZINE」も、「RL Style Guide」にしても、もっともっと世界が広がっていくように、どんどんラインナップを強化して行くつもりですし、今後はさらにお客様にサプライズを与え るようなことにも打ち出して、新しいチャレンジしていきたいと思ってます。
──サプライズ? 何ですかそれは?
いまは言えませんが、2〜3カ月後にはご覧いただけると思うので、そのときを楽しみにしてくださいね。
──冒頭のお話にあったように、ラルフ ローレンはラグジュアリーブランドのなかでも、デジタル戦略の先駆者的存在として知られています。いままで手がけてきたなかで、画期的な事例を教えていた だけませんか?
数えきれないほど、たくさんのチャレンジをしてきました。2010年には、史上初めて4D(3D+触覚&嗅覚)のヴァーチャルショーをニューヨークとロン ドンで行いました。マディソン・アヴェニューとニュー・ボンド・ストリートの旗艦店の壁面に、3Dプロジェクションマッピングによって巨大なモデルが歩い たり、ポロのチームがプレイしているようなユニークな演出をしました。そして最後には、巨大な香水のボトルから、お客様に向かってミストを振りかけるとい う触覚や嗅覚までも刺激する画期的な内容でした(下のヴィデオを参照)。ほかにも映画『マイノリティ・リポート』のようにインタラクティヴウインドーで買 い物ができる仕組みをつくったり、ウェブサイトでカスタマイズアイテムをつくる事例などもあり、アメリカでは大成功しています。さらに、ショッピングがで きるヴィデオとして、子ども向けの「RL GANG」というプログラムもつくりました。ヴァーチャルな絵本の世界を体験しながら、その登場人物が着ている洋服を買うことができる仕組みです。
──画期的な事例を実現させるためには、アイデアだけではなく、最新のテクノロジーを使う必要があると思うのですが、どうやって最新のテ クノロジーを見つけているんですか?
『WIRED』を読んでいるからです!(笑) お世辞じゃなくて、本当です。なぜなら『WIRED』には、毎月素晴らしい最新のテクノロジーについての記 事がたくさん掲載されていますからね。そういった情報のなかから、わたしたちに最適なテクノロジーを取り入れることを常に試行錯誤しながら行っているんで す。そのために、デジタルチームもどんどん大きくしています。現在700人ほどのスタッフがNYのオフィスで働いていますが、もっと増やしていきますし、 ヨーロッパや日本でも同じく人を入れて強化していきます。
──クラシックなイメージの強いブランドとして、最新のデジタル技術を取り入れることについての難しさはありましたか?
13年間、いろいろなチャレンジに直面してきました。もちろん社内的に、あまり新しいものを取り入れるのはブランドのイメージとしてどうか、という意見も ありました。それでもこの13年間やってきたことが、つまり新しいことを取り入れることが、よりブランドの強化につながっていくことが証明されてきたこと もあって、新しいものにチャレンジすることの大切さが、社内にどんどん浸透していっている状況と言えますね。あるお客様には「ラルフ ローレンのウェブサイトって、ジェームズ・ボンドの初期のボンドカー、アストンマーティンDB5みたいだ」と言われました。外身はクラシックなんだけど、 中にものすごい最新の技術が詰まっていると。
──実店舗とウェブサイトの役割についてはどうお考えですか?
わたしたちのお店は、表参道のような旗艦店とウェブサイトを併せて、ひとつの巨大な店舗を形成しています。ウェブサイトを見ているお客様が、その素材感を 確かめるために来店して購入されたり、逆にお店に来られた方が、サイズやカラーヴァリエーションを求めてウェブサイトで商品を購入されたり、そういうクロ スチャンネルショッパーの方が増えてきています。そういうお客様が増えるのは、わたしたちにとってとても素晴らしい傾向と言えますね。
──デジタル戦略における、中長期的なゴールについて教えてください。
たくさんのゴールがありますよ。テクノロジーの力を利用して、すべての境界をなくしていくことで、ブランドの哲学やストーリーを伝えていくこと。そしてス タイルのアドヴァイスをしていくこと、ファッションへの興味をもっともってもらえるように啓蒙していくこと、最後に、商品を販売していくことですね。
ブランドのよさを伝えるには、広告の世界だけでは足りません。すべてのアウトプットが、シームレスにつながっていることが大切です。すべてが補完し合う感 じですね。お店は素晴らしいショーケースです。お店では伝統を受け継いでいるものを見せることができます。一方、ウェブサイト上では、ライフスタイルやカ ルチャーなど、あらゆるものがつながって、それがわたしたちの世界観を伝えていくことがとても重要だと思っています。これをわれわれは「マーチチャンテイ ンメント」と呼んでいます。
これは、父がつくったライフスタイルマーケティングという理念に基づいています。洋服を売ることとエンターテインメントを融合して境目のない表現をするこ と、わたしたちはそれをオンライン上で行っているのです。すでにヨーロッパやアメリカで成功している手法なんですが、日本では、それをより高いレヴェルで 実現させていきたいと思っています。
──最後に、今回の来日で最も楽しみにしていることは何ですか?
14歳のときに初めて来日したとき、東京の街頭に立っているだけですごくインスパイアされました。本当に大好きな国なんです。ですから、これから日本のお 客様にお会いできるのがとても楽しみです。日本は伝統と革新を融合させるのがとても得意な国民性をもっていますよね。だからこそ、ラルフ ローレンが受け入れられる、成功することができる要因になっているのではないでしょうか。ですから、今回のウェブサイトも絶対に成功すると確信していま す。
PHOTOGRAPHS BY YOSHIYUKI NAGATOMO
TEXT BY WIRED.jp_D
TEXT BY WIRED.jp_D
2012年11月1日