永遠に生きる「自分のアヴァター」をつくれるサーヴィス
米国のテクノロジー業界では、「永遠の生命」を探求する動きが多い。性格検査とSNS上のデータを使って、「動くデジタルクローン」をつくってくれるサーヴィス「LifeNaut」などを紹介。
TEXT BY KLINT FINLEY
TRANSLATION BY RYO OGATA, HIROKO GOHARA/GALILEO
WIRED NEWS (US)
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『Twilight Zone』と似た英国のTVシリーズ『Black Mirror』では、あるエピソードで、夫を亡くした女性が、夫を精巧なロボットで置き換える。
そのロボットは、外見も話し方も夫に似ている。そして、夫のTwitterアカウントに接続し、ツイートを分析した結果として、行動までもが夫に似ている。
現在、そこまで行かずとも、それに近いサーヴィスが開発されはじめている。Sirius Satellite Radioの共同設立者、マーティン・ロスブラットが設立した財団「Terasem Movement Foundation」によるオンラインサーヴィス「LifeNaut」は、性格検査とソーシャルメディア上のプロフィールのデータを使って「デジタルクローン」を作成する方法を提供しているのだ。
考え方としては、永遠に生きることができる「オンライン版の自分」、すなわち、遠く離れた人や、将来の世代が、話したりやり取りしたりできるデジタルア ヴァターをつくろうというものだ。Terasemはそうしたアヴァターを、ゆくゆくはBlack Mirrorに出てきたような、歩いて話すロボットにまでしたいと考えているが、現在は、それより素朴なヴァージョンを無料で提供中だ。
ちょっと気味の悪い提案だが、Terasemはこのミッションに真剣に取り組んでいる。それに、同様な目標を掲げているのは同社だけではない。
テクノロジー業界には、人の寿命を延ばす方法を探し求める者が多い。グーグルは2013年9月、老化と病気の克服を目指すバイテク企業、Calico社を設立したと発表した。オラクルのラリー・エリソンCEOは、自身の財団「Ellison Medical Foundation」を通じて、アンチエイジング研究を長年にわたり支援している。そして、ペイパルの共同創業者でフェイスブックの出資者であるピーター・ティールは、オーブリー・デグレイによる寿命研究に資金を投じている。
Terasem社の場合、身体的な生命というよりは、「意識を永遠に残す」という目標に向かっている。マイクロソフトの研究者であるゴーデン・ベルも、「LifeBits」プロジェクトで、自分の行動すべてのデジタル記録をつくっているが、その延長線上にある考え方だ。
LifeNautではまず、自分の写真をアップロードする。するとその写真から、まばたきや口の動きを備えた「動くアヴァター」が作成される。次に、長い 質問リストに答え、性格テストをいくつか受けることで、自分のことをLifeNautに教える。そしてもちろん、Twitter、Facebook、 Instagramのアカウントと、このサーヴィスを接続する。Terasem社は、ソーシャルメディアデータのタイムカプセルで、アヴァターの人格をさ らに形づくりたいと考えている。
実際には、TwitterやFacebookのデータはまだ活用されておらず、現在、Terasem社のサーヴァーに置かれているだけだ。しかし、同社のマネージングディレクターであるブルース・ダンカンによると、これはまさしく将来のためのものなのだという。
Terasem社のプロジェクトはまだ初期段階にあり、アヴァターは不可解なことを話す。例えば最近、わたしのデジタルアヴァターは「一日中ヴァイオリンを演奏していたい」と言ってきた。また、個人に関する最も基本的な質問にも、正確に答えられないことは多い。
トランスヒューマニズムへの疑念も
2013年7月のTEDで行われたダンカン氏の講演。8分くらいから、アンドロイド型の女性アヴァターと会話する場面がある。
ダンカン氏は、このプロジェクトは製品サーヴィスというよりは研究プロジェクトだと語り、将来はソーシャルメディアのデータを組み込むことができるように なると述べた。さらに、この技術が将来的にオープンソースになり、アヴァターを動かしているアルゴリズムをヴォランティアが改善できるようになる可能性も 示唆した。
一方、カリフォルニア大学バークレー校修辞学部の講師、デール・キャリコは懐疑的だ。
Terasem社の人々のように、人間の身体は技術を通じて根本的に拡張したり、完全に超越したりすることができると考える「トランスヒューマニズム」を唱える人たちは、絵空事を追求しているのだとキャリコ氏は言う。
Terasem社はLifeNautのサーヴィスに課金はしていないが、それでも利用者に危害を加えている、とキャリコ氏は述べる。「自分たちの『運動』 と信条を、科学的教養がなく、だまされやすい人々に売り込んでいるのだ。そうした人々の多くが、このような手口に特に無防備なのは、皆が死を恐れているか らだ」
たしかに人々は死を恐れる。だからこそTerasem社やグーグル、ラリー・エリソン氏といった人々が、生命を延長する新しい方法を探求している。そしていつかは、なんらかの進歩が可能になるかもしれない。
それまでのあいだ、Lifenautのようなサーヴィスを遊んでみるのも楽しいものだ。人の想像力を刺激する可能性もある。ただ、それ以上を望むことはで きないだろう。人間の寿命を延ばす方法を本当に探しているならば、未来学者ポール・グラハムレイヴンの次の発言に耳を傾けるべきだ。
「人の寿命を延ばし、改善させる技術はすでに存在している」と、同氏は「New Scientist ARC」に書いている。「いくつかは聞いたことがあるだろう。清浄な水、衛生的な都市環境、煙を出さない料理場所、ヘルスケアへの無料アクセス、最低賃金の保証、良質で無料の教育などだ」