超音波とカマンベールチーズにアルツハイマー病を食い止める効果、豪・日の研究者が発表
アルツハイマー病はこれまで発症すると進行を止めることが難しいとされていた病気ですが、豪州と日本の研究グループによって、超音波とカマンベールチーズにそれぞれ抑制効果があることが発表されました。
アルツハイマー病は認知能力や記憶力がゆっくりと低下していく非可逆的な進行性の疾患。未だにそのメカニズムの多くは解明されていませんが、タンパク質アミロイドβなど老廃物の沈着が脳機能を阻害する原因の一つであると考えられています。
超音波とカマンベールチーズはいずれも、老廃物の除去や免疫機構を脳内で担うミクログリアを活性化させる効果があり、マウスを使った実験で確認されました。
東京大学・キリン・小岩井乳業の共同研究グループによると、アルツハイマー病の症状を再現したマウスに市販のカマンベールチーズから調製した餌を与えた結果、ミクログリアが活性化され、アミロイドβの減少と脳内の炎症が緩和されたことが確認されました。
これまでも発酵乳製品には認知症に予防効果があると疫学的な報告はありましたが、発酵工程が異なるさまざまな種類のチーズを用いて検証したところ、カマンベールチーズに含まれるオレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールがミクログリアを活性化させる有効成分であると特定したことが今回の研究の成果です。
共同研究グループは今回カマンベールチーズ内の有効成分が特定されたこと、ミクログリアの抗炎症作用の活性化によりアミロイドβの沈着を防ぐ働きが確認されたことにより、今後は具体的な機序の解明などさらなる研究につながり、将来的には認知症予防への貢献が期待されるとしています。
論文は PLOS ONE に2本。
" Preventive effects of a fermented dairy product against Alzheimer's disease and identification of a novel oleamide with enhanced microglial phagocytosis and anti-inflammatory activity. " (Yasuhisa Ano, Makiko Ozawa, Toshiko Kutsukake, Shinya Sugiyama, Kazuyuki Uchida, Aruto Yoshida, and Hiroyuki Nakayama)
" Identification of a novel dehydroergosterol enhancing microglial anti-inflammatory activity in a dairy product fermented with Penicillium candidum. " (Yasuhisa Ano, Toshiko Kutsukake, Ayaka Hoshi, Aruto Yoshida, and Hiroyuki Nakayama)
一方、豪州クイーンズランド大学の研究グループではアルツハイマー病を再現したネズミの脳に超音波を送ったところ、ミクログリアが活性化されて脳内のアミロイドβが劇的に減少し、その後75%のマウスにおいて記憶能力と空間認知能力の改善されたことを確認しました。
脳の機能を低下させるアミロイドβの沈着を防ごうとする試みはこれまでも行われてきましたが、脳は血液脳関門によって守られているため、薬剤を用いた治療が難しい問題がありました。今回の超音波による手法はマウスの脳にダメージを与えず、薬剤も使わず非侵襲的に治療ができる可能性を示した点が意義とされています。
研究チームは羊などマウス以外の動物でさらに実験を進めたいとしており、人間での試験は最短でも2年後になるとしています。
また著者らはまた別の応用として、超音波と微細な泡を使い、脳の機能に悪影響を与えず一時的に脳血管関門を開き、薬剤による治療を助ける可能性についても触れています。
論文は Science Translational Medicine誌
" Scanning ultrasound removes amyloid-β and restores memory in an Alzheimer's disease mouse model. " (Gerhard Leinenga and Jürgen Götz*)
4人に1人が65歳以上という高齢社会を迎えた今、介護の負担の面などからもアルツハイマー病や認知症に対する関心は高まっています。さらに研究が進み、治療や予防の方法が確立されることが今後期待されます。