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火曜日, 12月 15, 2015

4.デザインファームの今までと次の一歩|濱口秀司 インタビュー

デザインファームの今までと次の一歩

monogoto 濱口 秀司 氏インタビュー:第4回

 


日本初のイントラネット構築、USBメモリの発明など、幅広い業種のイノベーションに携わってきた濱口氏が、2013年、デザイン会社monogotoを立ち上げた。長年アメリカのデザイン会社Zibaに所属し、世界中の企業と仕事をしてきた濱口氏だが、monogotoでは当面、日本企業のみをクライアントとすると言う。濱口氏にmonogotoでの取り組み、日本企業をどう見るかを聞いた。







「何をどうデザインするか」によるデザインファームの分類

--最近、デザイン会社がビジネスというコンテクストの中で語られることが増えています。これはなぜでしょうか。

まず、世の中一般にあるデザインファームを分類してみましょう。分類方法は冒頭の図のように単純なものです。

縦軸に「何をデザインするか」という“What”を、横軸に「どうやってデザインするか」という“How”を置きます。横軸は、「天才(g)」と「グループ(G)」に分けます。小文字のgは「genius」のgで、アーティスティックで天才的な人を表します。大文字のGは「Group」で、一人の天才的能力に頼るのではなく、複数人でデザインプロジェクトを回すことを表します。

大きな違いは、背後にプロセス性が少ないのが天才プロセスがあるのがグループです。天才は他人に頼らず一人で勝手にデザインしている。グループになると異なる強みを持った複数の人間がいるので、たとえばリサーチャーとデザイナーがどう協力するか、デザイナーが5人集まったときにどうやって1つのアイデアに集約するかなどについて、何らかのやり方、プロセスがないとマネジメントができません。

一方、縦軸は単純に「見た目のデザイン(d)」と「広義のデザイン(D)」に分けます。小文字のdは日本語で解釈されている、いわゆるデザインで、商品やロゴ、広告や店舗における形や美的スタイルを作ることを指します。大文字のDは、デザインという言葉が本来持つ広義の「設計」という意味で、 ビジネスにおける問題解決やコンセプト・戦略・マーケティングの設計を指します。

ちなみに、4分割図の左上に入るのは、イメージとしてはレオナルド・ダ・ヴィンチのような究極的にマルチなアーティスト兼、戦略家のような人です。アーティスティックなことでも戦略的なことでも、一人で何でもできる天才ですから、世界的に見て数は非常に少ないと考えてください。

デザインファームの分類 
デサインファームの分類
© Hideshi Hamaguchi


さて、世の中にあるデザインファームはこの4つに分類されるわけですが、星の数ほどある世界中の99%のデザインファームは、いまだに図の左下、いわば才能あるデザイナーが率いる小さなブティックに属しているといえるでしょう。

小さなブティック型のデザインファーム 
デザインファームの発展1
© Hideshi Hamaguchi








デザイン会社の変遷—Zibaを例にしたアメリカの動き

ところが、世界的にアメリカでだけ、ちょっと変わった動きがありました。ここ30年で、一人のスーパーヒーローに拠らない組織を作っていこうと、左下のセクションから右側へ動いていった会社があります。具体的には、IDEO、frog、Smart Design、Ziba Designなどのデザイン会社がこれに該当します。アメリカにしかないのが面白いですね。イギリスやドイツ、そして日本には、100人以上のデザイン会社はありません。世界的に見ても非常に少ないですね。

デザインファームの発展1 
デザインファームの発展2
© Hideshi Hamaguchi

 
僕が長年いるZibaのファウンダー、ソラブ・ボソギはもともとHPに勤めていた優秀なプロダクトデザイナーで、そこから独立して会社を作りました。図でいうと、左下からスタートしているわけです。

彼はすごく優秀なデザイナーですが、もちろん失敗もします。失敗をしたときに彼は、「同じ力をかけてデザインしたのに、成功するものと失敗するものがあるのはなぜか」を真面目に考えました。それで、自分は「自分が好きなデザイン」をしていただけで、ユーザーについて一切考えていなかったことに気づくわけです。今はヒューマンセントリックデザインといった言葉もありますが、30年前ですから当時としては珍しい視点でした。

彼は思いきって、数人しかいない弱小デザイン会社にエスノグラフィックリサーチャーをフルタイムで雇います。ここから彼の成功のスケーリングが始まります。リサーチャーを使ってユーザーの反応を見ながらデザインするので、商業的にうまくいくケースが増えたためです。ところがその後、扱うプロダクトが複雑になるにつれて、デザイナーやリサーチャーの視点のみでは補えない技術的な課題が大きくなってきました。たとえば技術的な観点での実現性、コスト管理の問題が出てきました。

そこで彼は次に、フルタイムのエンジニアを雇いました。今は「デザインエンジニアリング」という考え方も浸透し、デザイナーもエンジニアリングを学んだりしますが、25年前は、理工系のエンジニアとアーティスト系のデザイナーは水と油で、デザイン会社にエンジニアが入社するなどありえないことでした。しかし、これでまた成功していく。さらにはZibaでは建築家がクリエイティブディレクターを務めていた時期もあります。デザイン業界の歴史を振り返ったときに、多職能のデザインファームを最初に作り始めたのは彼だと思います。

その後Zibaで、デザインを企業戦略のコンポーネントに組み込みながら組織能力を定着させ(さらなる右への移動)、プロジェクトの対象領域をビジネスデザインにシフトして(上への移動)、図の右上の最後のゾーンを埋めたのが僕です。松下電工に研究者として入社し、その後戦略意思決定を担当してきた僕が1998年ごろにZibaに参画して、この流れをつくりました。この頃率いたプロジェクトは、デザインの賞だけでなく、リサーチ賞なども総なめにしました。


デザインファームの発展2 
デザインファームの発展3
© Hideshi Hamaguchi


このような流れで、この15年くらいで図の右上に移動していった会社がIDEOやZibaです。どちらもデザインだけでなく、イノベーションコンサルティングをするとか、組織能力を使いながら企業の問題を解く包括的サービスを提供する、と言っていますよね。そこが、従来のブティック型デザインファームとは違うわけです。

たとえば、Zibaで僕が引っ張ったプロジェクトの半分以上は、サービスや顧客のエクスペリエンスのデザインで、形はないものでした。たとえばクレジットカード会社の仕事でも、カード自体のデザインはしない。彼らの事業自体を作り直すなど、そういう形にならないものでもデザインファームが手がける ようになったんですね。

このように、アメリカではデザインファームが「小さなブティック」から「戦略的デザインファーム」へと移行してきた歴史的経緯がありました。






旧来型の戦略コンサルファームに解決できない課題へ

ここでクライアントからの視点について考えてみましょう。

アメリカの平均的ビジネスパーソンに「僕はデザイン会社に勤めている」と自己紹介すると、「かっこいい絵を描くアーティストの会社ね」と理解されることが多いです。しかしアメリカのフォーチュントップ500社のCEOは、デザインファームというと、このチャートの下半分の2つの差異を認識しています。一発もののかっこいいデザインだけをしてもらいたいから左下のデザインファームに頼むか、あるいは料金はちょっとかかるけれど、リサーチもしてちゃんと売れるデザインをしてくれる確率が高い大手デザインファームにコンポーネントを丸ごと頼むか。こういう見方をしますね。

次にフォーチュントップ100社くらい、巨大企業のCEOクラスになると、会社のサービスに大きな問題がある、もしくは新しいカテゴリーに商品を投入する際に、戦略コンサルタントとしてのデザインファームの使い方、つまり右上の領域を視野に入れ始めます。

このような場合、いわゆる旧来型の戦略的ビジネスコンサルティング会社による、分析に基づいたロジカルな回答では競合に対抗できない可能性があると思っているケースがほとんどです。だから、もっと次元の違う新しいものを求めるときには、戦略ビジネスコンサルタントではなく、ユニークな解法や創造的な解決案を求めて戦略的デザインファームに頼んでみようかという発想があるんですね。これが昨今のアメリカのトレンドです。

デザインファームの発展3 
デザインファームの4つの分類
© Hideshi Hamaguchi

 

米国戦略コンサルファームによる過去の試み

デザインファームの変遷をお話ししてきましたが、戦略コンサルファームも、ロジックだけではビジネスの課題を解決しきれないことに気づいていました。そこでファーム内にどうにかしてクリエイティビティを取り込もうとする試みが、米国のビジネスコンサルティングファームにおいて過去2回ありました。

1回目の試みは1990年代。マッキンゼーが突然、デザイナーたちを突然雇用し始めた時期があります。しかし、このときは『マッキンゼークォータリー』の見た目が美しくなる効果しかなく(笑)、マッキンゼーの実際のアウトプットにクリエイティビティが組み込まれたわけではありませんでした。

2回目の試みは、2000年代前半。モニターグループ(マイケル・E・ポーターが作った会社)という戦略コンサルティングファームは、イノベーションデザインやシナリオプラニングなどの能力を持つ会社を丸ごと買収しました。つまり、デザイナー個人を雇用することで失敗した前例を参考に、今度はクリエイティブ集団を組織ごと取り込もうとしたわけですが、これもまったく異なるカルチャーを持つ組織同士の融合に至らず、結局は失敗に終わりました。僕は買収された会社の経営幹部と交流があったので、買収前後に電話や会社を訪れてミーティングをしたのですが、カルチャーの融合だけでなくプロセスの融合も困難である状況を目の当たりにしました。

一方、ときを同じくして、僕も親しくしているトロント大学のビジネススクール学長、ロジャー・マーティンが、新しい教育的試みを始めていました。 それは、マッキンゼーが行ったように異なる素養を持つ人間同士を引き合わせるのではなく、一人の人間の中にビジネスとデザイン両方の素養を持たせようという試みです。これは教育としては非常にうまくいっています。

日本での状況と次の一歩

タイトル 
monogotoが目指すポイント
© Hideshi Hamaguchi

 
日本でもまだ一般的には、デザイン会社といえばブティック的なものが想像される場合がほとんだと思いますが、IDEOが日本でマーケティングを始めてからデザイン思考という言葉が広まり始め、また東大がi.schoolを創設した2009年以降は、戦略デザイン分野の存在はかなり知られるようになりました。ただ、現実はそれを提供する会社がほぼ存在していないのが問題です。IDEOやZibaは、右上とはいっても実はまだオールドファッションなデザインに近いところにいて、右上のゾーンの下のほうにへばりついている状態、すなわちアウトプットはものの形になっているのです。

僕自身について話すと、外から見ると勘でやっているのか、明確な体系を持ってやっているのかわからないようで(笑)、左上の一人天才タイプではないのかと言われたりします。しかし、お話したように過去15年間、zibaにおいてデザイナーやクリエイティブディレクターたちをリードしながら経営者へ のアウトプットと、プロダクトやサービスの成功を再現性高く続けてきた経緯があり、僕の中でビジネス戦略とデザインは同じ体系の中に方法論として確立しています。つまり僕は方法論の人といえると思います。

昨年ポートランドで本格起動した会社:monogoto (http://mono-goto.com/) では、デザインとビジネスが高度に統合された解をクライアントに出すため、数年間探し続けた新たな若手のメンバー二人を加えて、zibaではできなかった図中のさらに右上端の領域(エキスストリームなポイント)を目指そうと思っています。形のあるモノであれ、形のないコトであれ、扱う対象を問わないという意味を込めてmonogotoという社名にしました。

monogoto

具体的には、戦略デザインにもっと徹底的に体系化された手法を取り入れ、ビジネスのあらゆる問題を解いていく。これまで作ってきたバイアスを壊す手法や戦略を作る手法と同様、現在手がけているストーリービルディングも、すべてがそこにつながります。そういう手法をどんどん作っていきたいですね。この僕が「ビジネスデザイン」と呼ぶアウトプットにアメリカと同等の対価を払うクライアントが日本国内でも確実に増えています。

このように日本でも、戦略デザインの市場が認められつつある。戦略レベル、意思決定の質、エグゼキューションの能力というよりも(CEOレベルの 意思決定者の方は「イノベーション」と認識していると思いますが)やはり最初のコンセプトのユニークさの差分に価値があるということ、またそれに新しい技術、新しいビジネスモデル、新しい顧客体験をがっちり組み合わせて勝負しないと、すなわちビジネスデザインのクオリティが高くないと、最近の市場ではもう勝てないという意識が日本企業に広がりつつあります。また、その能力を組織として持たねばならないと見ているんですね。

その点にブレークスルーのポイントはあり、日本企業の可能性を悲観する必要はなく、monogotoとしても独自性を持って、そこにコミットできるのではないかと思っています。





バックナンバー

1.「ストーリー、意味性」のインパクト
2.「社内説得」のジレンマと解
3.「クリエイティブプロジェクト」の進め方
4.デザインファームの今までと次の一歩


 

3.「クリエイティブプロジェクト」の進め方|濱口秀司 インタビュー

「クリエイティブプロジェクト」の進め方

monogoto 濱口 秀司 氏インタビュー:第3回

 

 
製品やサービスの開発で新しいアイデアを生み出していくには、プロジェクトの情報量の管理も重要だ。日本初のイントラネット構築、USBメモリの発明など、幅広い業種のイノベーションに携わってきた濱口秀司氏に、発想重視の「クリエイティブプロジェクト」の進め方について聞いた。前回記事はこちら、前々回記事はこちら








悪魔のチャートの「ラストミニッツクライシス」とは?

--発想が中核となるクリエイティブなプロジェクトをどう進めていくべきか。濱口さん流の方法論を教えてください。

まず、クリエイティブなプロジェクトの時間軸についてお話ししましょう。

プロジェクトには必ず、スタートとエンドがありますが、通常まずスタート時には競合調査やユーザ調査など情報収集のフェーズを経て、その情報をも とにチームでアイデアを考えていきます。こうして最終的なプロジェクトエンドには、何かしらの成果物が出されていることになります。

図1を見てください。「これだけ情報があれば完璧な解を出せる」という情報量を仮に100としましょう。チームが集めた情報量 のプロファイルは、図のようにプロジェクト経過とともに増加しますが、プロジェクト後半で必ず頭打ちになります。これは、チームの情報収集能力には限界があるからです。米国国防総省のデータベースのハッキングはできないし、検索方法にも個人の傾向があります。したがって実際には情報量は100に到達することができません。このチームが持つ情報が飽和した値の高さを「a」とします。

プロジェクトの開始から終了までの情報量の推移 
図1: プロジェクトの開始から終了までの情報量の推移
© Hideshi Hamaguchi


僕がzibaで初めてプロジェクトに参加したときの話です。プロジェクトの初日のミーティングでいきなり「こんなアイデアがあるんだけど、どう思う?」と言ってみたのです。するとメンバーは異口同音に「まだ今日は初日だから、アイデアについてディスカッションするには早すぎる。まだリサーチも始まっていないのに」と言いました。数日経って、リサーチフェーズの中間ミーティングでまた聞いてみました。「今度はこんなアイデアがあるんだけど、みんなどう思う!?」

またしても、全員が「まだリサーチは始まったばかりだよ」「インサイトの整理もできてないし」「アイデアの話をするにはまだ早い」と反応しました。

この現象を図2で考えてみましょう。

情報量に基づく考え始めるタイミング 
図2: 情報量に基づく考え始めるタイミング
© Hideshi Hamaguchi


彼らが言う「何かアイデアを考え始めるにはまずある程度の情報が必要」という高さを、先ほどの情報の飽和点「a」に対して「b」とします。つまり、考え始めるのは「b」に到達してから(時間軸では「c」)になります。情報量が「b」に到達していない状態、すなわち「c」より手前では答えを考え始めても意味がないと彼らは言っているのです。

いつ考え始めるのかわからない悪魔のチャート 
図3:いつ考え始めるのかわからない悪魔のチャート
© Hideshi Hamaguchi


おそろしいのは、実際には誰も「a」と「b」の情報量を定義づけられないことです。プロジェクトを進めている間に、いつ「c」に到達するかも不明です。つまり、ほんとうは「a」、「b」、「c」がいずれもよくわからないチャートなのです(図3)。結局「いつから考え始めていいかがわからない」(つまり、アイデアが出されない)状態がしばらく続きます。それで僕はこれを「悪魔のチャート」と呼んでいます。


プロジェクトの後半で陥りやすい「バイアスの罠」

プロジェクトでラストミニッツクライシスが起こるタイミング 
図4:プロジェクトで「ラストミニッツクライシス」が起こるタイミング
© Hideshi Hamaguchi


こういう根源的問題がありながら、すべてのプロジェクトの終わりにはプレゼン資料などの成果物が魔法のようにできあがっている(笑)。プロジェク トの締め切り間際になって、チームが必死に考えた結果ですね。これを僕は「締め切り1週間前の法則」と呼んでいます(業界によってこの数字は違って「締め切り2週間前」の業界もあると思います)。僕はこれを英語では「ラストミニッツクライシス」と呼んでいますが、実はこれは世界中のプロジェクトで起きていることです。(図4)

このラストミニッツクライシスには、大きく2つの問題があります。

1つ目の問題は、「ラストミニッツクライシス」の時点では、プロジェクト開始からそれなりに時間が経過しているために、集めた情報量が膨大になっていて、その整理が非常に難しくなることです。チームメンバーには「この時点で意味ある情報整理ができる確率は、ボーイング747旅客機のすべてのパーツをトルネードの中に放り込んで、すべての部品がたまたま順番に組み合わさって完成した機体がエンジンオンの状態で飛び出してくる確率に近いよ」と説明していました。

2つ目の問題は、この膨大な情報整理の際に、どうしてもバイアスを掴んでしまうことです。大量の情報を目の前にすると、人は使い古されたフレームワーク(3C、4P、タッチポイント、SWOT分析、ポーター競争優位など)を使って整理してしまいます。

既存のフレームは「バイアスのかかった枠組み」そのものなので、その中で発想しても、結局、情報は一般的なフレームワークで整理され、先入観や常識を超える面白いアイデアは一切、出てこなくなってしまいます。

「必要は発明の母、締め切りは発明の父」なので(笑)、追いつめられて発想すること自体が悪い訳ではありません。ただ、締め切り前は、膨大な情報整理のためにバイアスの罠に陥る危険があるのです。

答えとなるアイデアはプロジェクト初期に生まれる

情報が少ない「プロジェクトの初日」から考える 
図5:情報が少ない「プロジェクトの初日」から考える
© Hideshi Hamaguchi


では、クリエイティブなプロジェクトではどのようにすればよいか。「初日から答えを考える」「毎日答えを考える」のが僕のアプローチです。図5を見てください。プロジェクト初日を拡大してみると、実は少量の情報がすでにあります。その少ない情報量をもとに、考え始めるのです。

初日以降は、日々追加されていく情報を利用してアイデアやロジックを考え直していく。少しずつ情報が増えていく中で、毎日考え続けることが大切です。毎回あらたに入ってくる情報は少ないので、扱いやすい。そうすると、既存のフレーミングに頼らなくてよいので、バイアスの罠にはまる危険を避けられます

常にその日の時点で最高だと思われるアイデアを決定し、そしてなぜそうなのかというロジックを用意します。できれば「このアイデアはこういう先入観を壊している」という説明ができているロジックが理想的です。すなわち、前回の記事で定義したコンセプト(アイデアと切り口の組み合わせ)を毎日のプロジェクト終了時までに確定するのです。これが僕の推奨するプロジェクトの進め方です。

よいアイデアはプロジェクト初期に生まれる確率が高いという事実も、初日から考え始めることの大切さを裏付けています。このアプローチで今まで 様々なプロジェクトを実施してきた結果、その瞬間には気づかなくても、後で思い返せば「あのタイミングで答えが出ていたね」といったものも含めて、イノベーティブなコンセプトの90%はプロジェクト期間初期10%に集中して出されていました。僕はこれを「90:10の法則」と呼んでいます。

答えとなるアイデアはプロジェクト初期に生まれる 
図6:答えとなるアイデアはプロジェクト初期に生まれる
© Hideshi Hamaguchi



“情報の欠如”こそが「イマジネーションの条件」

プロジェクト前半に答えが生まれやすい理由は2つあります。
1つ目は、プロジェクトの前半ではまだ手持ちの情報が少ないため、本質的なものの関連や構造を考える傾向にあることに関係しています 以前、フェデックスのブランド回復の仕事を依頼されたとき、最初、先方から与えられた情報をあえて無視して、ハブアンドスポークシステム、一夜配達、高価格といった一般的なユーザ情報だけでアイデアを考え始めてプロジェクトを成功させたことがあります。こういう状況のほうが、抽象的で取り扱いが難しい概念と戦わなければならないので、通常は適当にスキップしてしまうような思考に十分に時間をかけられるのです。

僕の理論では、イノベーションにはバイアスを破壊する要素が必ず含まれるはずで、壊すバイアスが根源的であればあるほど、イノベーションの度合いが高くなります。したがって、前半で取り扱う本質的情報の構造化と破壊は、大きなイノベーションを生み出す確率が高いのです。

2つ目は、情報と想像力の関係にあります新しい発想にはイマジネーションが必要ですが、一般に想像力は情報量が少ないほうが大きくなる。たとえば、白黒とカラーの写真を比べると、自分の頭の中で色を補完して見る白黒のほうがイマジネーションを喚起されます。人の認知構造からみると、実は「情報の欠如」こそが「イマジネーションの条件」なのです。

この関係を図式化したのが図7です。プロジェクトのフェーズで、イマジネーションを最大限に発揮できるタイミングは、明らかに情報量の少ない前半ですね。後半になればなるほど、情報や知識、制約が増え、想像力を発揮できなくなります。
プロジェクトにおける情報量と想像力の関係 
図7:プロジェクトにおける情報量と想像力の関係
© Hideshi Hamaguchi


もちろんプロジェクトの後半部分で背筋の凍るような新しい切り口やアイデアが見つかる可能性はあります。ただし、確率は低い。たとえば、その可能性が10%しかないのなら、毎回それを期待するのはコンセプト作りのプロジェクトマネジメントとしては戦略的に非常に危険です。プロジェクトの推進方法としては、毎日答えを出していくやり方のほうが正解だと考えています。発想を核にするべきビジネスプロジェクトでは、僕は基本的にはこれまでお話ししたような前半重視のやり方でマネジメントし、後半で出たアイデアは、「出ればラッキーなセレンディピティ」として取り扱っています。



2.「社内説得」のジレンマと解|濱口秀司 インタビュー

「社内説得」のジレンマと解

monogoto 濱口 秀司 氏インタビュー:第2回

 







USBメモリの発明をはじめ、幅広い業種のイノベーションに携わってきた濱口秀司氏。誰も見聞きしたことがないイノベーティブなアイデアは不確実性が高いため議論を呼びやすい。そのため、イノベーションを実現するには、通常のマーケティング(エクスターナルマーケティング)の前にまずは、仲間や社内を説得すること(インターナルマーケティング)が不可欠だという。クリエイティブ層を悩ませる、マネジメント層とのコミュニケーションギャップを埋める「社内説得」に関して、濱口氏が豊富な経験から導き出した方法論を解説いただいた。前回の記事はこちら







アイデアは構造に載せ「コンセプト」として伝える

発想、説得(社内マーケティング)、認知(社外マーケティング) 
図1:発想、説得(社内マーケティング)、認知(社外マーケティング)
© Hideshi Hamaguchi

 

——組織内イノベーターが心得ておくべきコミュニケーションのポイントを教えてください。

組織内のマネジメント層とクリエイティブ層の間のコミュニケーションギャップは世界中の企業が抱えている問題だと感じています。クリエイティブ層に対してマネジメント層は、「売り上げ見込みや利益はいくらなのか、計算したまえ」といったことをせっかちに求めがちです。マネジメント層はえてして数字でロジカルに考えがちですが、僕たちが提案する新しい発想・イノベーションは不確実性のレベルを押し上げる作業なので、彼らが求める数字を用いた議論法は基本的に使えません。たとえばiPhoneの販売数などは、発売前には絶対わからなかったはずですよね。それでも製品リリースの意思決定をしなくてはいけないわけです。

一般的にマネジメント層は実務に追われているので、せっかちで迅速な答えを期待している。また、具体論・本質論を好みます。そういう彼らに対して数字なしでコミュニケートするのは実に難しいのですが、そのギャップの埋め方を紹介しましょう。ポイントは以下の3つです。

タイトル 
図 2:組織内の人材分布は、構造的で論理的な思考様式のマネジメント層(左)とケイオティックで直感的な思考様式のクリエイティブ層(右)に大別され、使用 言語が異なるため(たとえば、数字vsイメージ、論理vs感覚など)、両者をつなぐコミュニケーションができる人は少ない。
© Hideshi Hamaguchi

 

1.アイデアを構造に載せて「コンセプト」として伝える

まずアイデアについては、クリエイティブ層からよく「うちの経営層は、不確実性やイノベーションに対する理解がないから、僕たちのすごいアイデア を理解してくれない。どうしたらいいですか」と聞かれます。こういうとき僕は「それはそのアイデアそのものがよくないのです」と答えることにしています (笑)。経営者も人の子ですから、背筋も凍るようなおもしろいアイデアであれば、なにか引っかかるはずですよ。プロジェクトが先に進まないケースの99%は実はアイデアそのものが弱いということです。

「モデルを組んで壊す」→「アイデアを作る」→「また壊す」という僕のアイデア創出プロセスでは、論理的な切り口をふんだんに作ってゆくので、 「ふつうはこう考えるけれども、これはここが違うからおもしろい」、「業界はこちらを向いているが、ユーザーは逆にこちらの方向をベネフィットと感じるは ずだ」など、アイデアの強さを証明するためのいわば論理の残骸がたくさん残ります。だからアイデアに必ず理由がつけられる。数字はなくても、アイデアを論理的な構造の中に入れて示すことができます

なおアイデアとコンセプトを同義で使う人がいますが、ここで「コンセプト」と「アイデア」の違いを定義しておきます。コンセプトとは、「アイデア」と「切り口」を合わせたものです。すなわち具体と抽象のセットで、ダイアグラムなどの構造化された切り口(モデル)の上にアイデアを位置付けたものをコンセプトとして取り扱います。

最初のステップとして、経営陣にはアイデアをある構造に入れて「コンセプト」として伝えることが重要です。彼らは具体論が好きなので、これを短時間で彼らに投げかければ、効率的に議論の土台に載せることができます。僕はどんなに難しいコンセプトでも3分間で説明する準備をします。彼らにはそれくらいのタイムスケールが合うのです。

今までにない新しい企画に対しては不確実性の高い数字の議論をするよりも、そのアイデアがいかに業界のバイアスを破壊しているかという、数字で語れない議論をすることにむしろ力を注ぐべきです。







プロトタイプを自身と他者の確信を深める説得材料に

3種類の「プロトタイプ」 
図3:ファンクショナルプロトタイプ、デザインプロトタイプ、コンテクスチュアルプロトタイプ。3つのプロトタイプで人の認知の論理的側面から感覚的な側面までカバーする。
© Hideshi Hamaguchi

数値では説明が難しい不確実な領域を扱うイノベーションですが、先ほどは、業界や社内そして顧客の常識(バイアス)を壊し再構築したモデル(切り口)を、ダイアグラムなどで可視化して見せることで、まずはマネジメント層と議論を始められると説明しました。

2.3種類の「プロトタイプ」で体感させる

コンセプトを使いマネジメント層と議論したあと、コンセプトの具体的輪郭を膨らませていくためのものがプロトタイプです。これは3つに分けることができます。
1つ目が「ファンクショナルプロトタイプ」。実現可能かどうか、機能を実証するものです。見た目はどうでもよいので動けばいいので、フランケンシュタインプロトとも呼んでいます。
2つ目は「デザインプロトタイプ」。これは動かなくてよいのですが、ユーザーが製品の重さや形、UI画像などのイメージをリアルに感じられるものです。
3つ目が「コンテクスチュアルプロトタイプ」。これは「こんな体験ができる」といった文脈的なもので、前回の記事で説明したように、製品やサービスを使う状況設定ができ、製品やサービスの中核にある「ストーリー、意味性」を感じさせるものがより望ましいといえます。例としてはフェイクのカタログやプロモーションビデオなどがあります。

プロトタイプの効用」も大きく分けて3つあります。まず、作っていきながら自分自身を説得できることです。コンセプトの段階で何となくいいなと思っていても、プロトタイプを作り込んでみないと体感的にはわからない。プロトタイプで「ああ、おもしろい!」と自分が説得されれば、コンセプトに対してより強いパッションを持てるようになります。

次に、不確実性の高いイノベーティブなコンセプトに対して定量的なデータがない段階でも、クリエイティブ層とマネジメント層が感覚的な判断で合意できることがあげられます。プロトタイプでファンクション、デザイン、ストーリー性を共有したものに誰もがピンときて「おもしろいかもしれない」と思えば、合意の可能性が見えてきます。

3つ目の効用は、売れ行きを感覚的に推測できることです。たくさんのユーザーにプロトタイプを擬似的に見せ、その反応を探れば、売れそうかどうか推測することができます。情報が漏れることを気にする人がいますが、ユーザーの反応が悪ければもしライバルに漏れても恥ずかしいだけですし(笑)、反応が良ければライバルが同じように不確実性と戦うのを横目に一気に商品化すればいいだけです。その結果が「これはいけそうだ」となれば、経営者の知見が及ばない不確実性に関して何時間も無駄な議論をするよりも、はるかに効果的に予測の精度を上げることができます。自分自身の確信が深まると同時に、経営者に向けての強力な説得材料にもなるのです。

注意しないといけないのは、この3つが結合した現物に近いプロトタイプを作ろうとすると、コストが急に跳ね上がるだけでなく、よほどの投資をしないと中途半端なモノとなってしまうことです。すなわち優れたひとつのプロトタイプを作ろうとする活動は、プロトタイプの投資対効果を下げてしまうことになります。したがって、3つのプロトタイプは徹底的に分離してつくることがコツです。


結論は「ピラミッド」で示し、合意は「階段」で重ねる

パッション、ピラミッド、階段 
図4:プレゼンの大原則「パッション、ピラミッド、階段」
© Hideshi Hamaguchi

 

3.プレゼンの大原則を理解した「説得技術」を確立する

マネジメント層を説得するときに重要なのは、パッションを持つこと、ピラミッド型で話すこと、階段をのぼるようにコミュニケートすることです。この構造を使うとクリアかつロジカルな説明ができます。

まずは自分自身が「これは絶対おもしろい!」というパッションを持つことが必要です。パッションがなければどんなに優れた方法や資料があっても説得は失敗します。プロトタイプがあって「これはいけるぞ、本当に!」という自分自身への説得が深まっていれば、パッションはもっと強くなりますね。

ピラミッド型で話すとは、最初に結論(頂点)を話してしまうやり方です。結論を先に言い切って、詳細はあとで説明する。まずはどんな結論なのかをシンプルに伝えるのがパワフルです。一気に結論を話すのが不安なのはわかります。前提条件を話したいでしょうし、伝えるべき情報も山のようにあるはずです。ただ今回のように「クリエイティブ層がマネジメント層へ社内で説得する」状況では、短気で具体論を好み本質を求めてくる経営層が相手ですから、結論が見えないプレゼンはその瞬間に「終了」同然になってしまう危険があります。

一方、階段状にコミュニケートするというのは、「合意できる内容、議論すべき内容を交互に繰り返し徐々にコミュニケーションを進める 」 というプロセスを指します。重要なのは、まずは「誰もが合意できる、イエスと言える」フラットな面から会話をスタートすることです。最初に疑問を抱かせてしまうのがよくある失敗パターンです。ただ、ずっと合意できる内容を話していても新しいコンセプトを伝えることはできないので階段をのぼっていきます。一段のぼるたびに、「伝えたいポイント、想定される疑問への回答、次の階段を一緒にのぼるべき理由」を繰り返し提示しながら、段階的な合意というフラットな面に相手を引き上げていくことがポイントです。このようなプロセスを経ずに直線的にのぼろうとすると、聞き手が疑問を持ったまま話がどんどん進んでしまい、疑問の壁が形成され 合意形成に失敗してしまいます。

このピラミッド型で話すということと階段状でコミュニケートするという2点は、ユニークな結論を提示するタイミングのジレンマを形成しますが、ここが説得デザインでの腕の見せ所になります。

マネジメント層とクリエイティブ層のコミュニケーションに限らず、組織内のコミュニケーションギャップは、今回お話しした「コンセプト」「プロトタイプ」「説得技術」の3つのコンポーネントがあれば超えられると思います。

 

 

バックナンバー

1.「ストーリー、意味性」のインパクト
2.「社内説得」のジレンマと解
3.「クリエイティブプロジェクト」の進め方
4.デザインファームの今までと次の一歩

 

1.「ストーリー、意味性」のインパクト|濱口秀司 インタビュー

「ストーリー、意味性」のインパクト

monogoto 濱口 秀司 氏インタビュー:第1回

 



USBメモリや日本初のイントラネットの開発に携わった実績を持つビジネスデザイナーの濱口秀司氏は、商品やサービスの機能やデザインに加えてストーリーの重要度が高まってきているとみている。濱口氏がストーリー性、ストーリービルディングを現在どのように捉えようとしているかを語っていただいた。








顧客が見る価値の変遷—機能、デザイン、ストーリー

濱口 秀司 
monogoto 濱口 秀司 氏

 

――最近、注目されているという「ストーリー」についてお考えになっていることをお聞かせください。

 
まず、「顧客が見る価値」の変遷をざっと見てみましょう。
30年前は機能、「利便性の時代」でした。家電業界を思い浮かべていただくとわかりやすいと思います。たとえば、3万円の洗濯機には機能が3つ、5万円なら機能が5つ付いている。測ってわかる、見てわかる価値が評価された時代です。

20年前には、「機能にデザインという新しい価値がプラス」されるようになりました。スタイリッシュ、かっこいい、自分のライフスタイルに合っている、といった測りにくい価値ですね。

この10年間では、僕の観察によるともう1つ、「ストーリー性、意味性」という新しい価値が入ってきています。これはもう数字では測れません。ストーリー性を備えて成功している商品やブランドの例としては、ヘッドフォンのビーツ(Beats)、エナジードリンクのレッドブル(Red Bull)、コーヒーチェーンのスターバックス(Starbucks Coffee)などが挙げられるでしょう。

たとえばレッドブルは、機能性としては元気になる成分が入っている。デザイン性としては、アイコンがあってかっこいい象徴的なボトルがある。加え て、徹夜明けのプログラマー、ウォールストリートのトレーダーなどのハードワーカーや、F1などのエクストリームスポーツのアスリートが飲むというストーリーがつけられています。「人間の極限に挑戦すること」をつなげたストーリーをまとった状態でブランディングしているんですね。

機能やデザインは教育機関で学べますが、ストーリーの作り方は技法として確立されていないので、まだ教えてくれるところがありません。これからの5年間で、いろんな技法が出てきて、おもしろくなるでしょう。イノベーションを成功させようとすれば、ストーリーそのもの、またその伝え方をイノベーティブに作っていかなければならなくなるでしょう

顧客が見る価値 
図1:機能、デザイン、ストーリー
© Hideshi Hamaguchi


 

機能、デザイン、ストーリーをユーザーはどう見るか?

 

顧客価値の設計(1)  

図2:顧客は何をみて商品価値を感じるのか?
© Hideshi Hamaguchi







次に、ユーザーが機能、デザイン、ストーリーの価値をどうやって認知するかを確認しておきましょう。人間は視覚が強い動物なので、認知の順序は、やはり最初にデザインを見て、その後で機能を認知します。

図のモデルでは、山の頂上がデザインにあたります。人間はまず、この頂上の形や高さでものを理解しようとするんですね。だから、商品やサービスの 設計のデザインは、やはり覚えやすくアイコニックなものがいい。一目で目につく、人に説明しやすい、子供にも描ける、そういった記号性を持たせるほうがよいです。これは重要な設計要素です。

機能はたくさんつけてもよいのですが、性能はユーザーが一言で言えるように「かためて」おいてあげることが必要です。

ストーリーはまだ地中に埋もれていて、一般ユーザーからは隠れていて見えない状態ですが、今後5年間ほどで「ストーリー(意味性)」 を問う人が増えるでしょう。デザインと機能に、誰もが語れるストーリーを組み込まないと、ユーザー認知がうまくいかない時代になってきていると思います。この3つの整合性も重要です。デザインはよくても機能がダメでは商品価値として認知されないですね。デザイン、機能、ストーリーという3つの顧客認知を、整合性を含めて設計しなければなりません。

顧客価値の設計(2) 
図3:顧客価値の設計は、デザイン、機能、ストーリーの順で、かつ、整合性が重要
© Hideshi Hamaguchi








人間はストーリーを“作りたがっている”

monogoto濱口秀司
 
ビジネスデザインのなかでも新しい領域なので、ストーリーの定義やストーリービルディングの手法は僕自身も考え中、構築中です。バックグラウンドとして、今、物事を認知する「人間の認知構造」にとても興味を持っています。

たとえば、ある動画にランダムに選んだ音楽を合わせて流してみます。すると、まるでその動画がその曲のプロモーションビデオなのかのように、不思議なほどぴったりシンクロして見えます。同じ動画に別の曲をつけて試してみても、やはり映像と音楽がシンクロしているように見えるんです。映像と音がどちらも単調なものは例外的ですが、人は画面の切り替えがあれば音で無理にでも意味づけしようとするし、節の転調に対しては画像に意味を見い出そうするのではないか。

「ある情報を別のソースから聞いた瞬間に、その情報は正しいと思ってしまいがちである」、「2回起こったことが3回続くと、3回目に起こったことに自分なりに意味づけしたくなる」といった認知パターンも集めています。

2つの情報だけでなくほんとうはもっと傍証を集めなければ、正しいかどうかはわからないはずですが、これらをつなげて判断してしまう。たまたま3回続いただけかもしれない現象も、3回目になると前の2回とつなげて解釈してしまう。

たとえば、車で追い越しをしようとしていて他の車に邪魔されたとします。1回目はたまたまかな、と思いますが2回同じことがおこると「まただ!」 と思いますね。3回邪魔されたらそのとき「やっぱり!こいつ!」と思ってしまいますよね。こういう「意味付けしたがる」人間の無意識の認知パターンは、商品設計でも良い意味で利用できるわけです。
たとえば、1つ目の商品と2つ目の商品を同じ方向に連続して出すことでストーリー性をつくりだし、3つ目でさらに同じ方向におもしろさが増大するトリック=サプライズをしかけておくなどは、ストーリービルディングの一手法としても使えますよね。


「なぜ存在しているか、なぜ作るのか」のストーリー

ストーリーとは何かについても、経営者視点での論理を組み立てようとしているところです。ストーリーは文章で語るものなのか、そうではなく単語1 個でもストーリーなのか、ストーリーは拡張性がなければならないか。ブランドとストーリーの違いは何か。いろいろな切り口があります。

5W1Hでなく、もっとシンプルに「誰がなぜ何をどうやっているかの3W1H」が入っていればストーリーと規定してもよいかもしれません。一般的には、企画などでは何をどう作るかに注力しますが、ストーリーで重要なのは「Why(なぜ)」だと思っています。なぜ、その会社の人は朝起きて仕事をするのか。この商品は何のために存在しているのか。これだけ多くのモノがあふれた現代においては「何をどう」より「理由」のほうが共感を呼ぶ可能性があります。

クライアント企業の経営層に対しては、「ストーリーの効果」を論理的に経営面から語れるようにしておかないといけません。でなければストーリーを利用した商品企画が社内で通ることはないからです。ダイアグラムで考えてみましょう。

ストーリーの効用 
図4:ニッチマーケットで高価格、マスマーケットで低価格
© Hideshi Hamaguchi

一般的に重要な切り口は、縦軸の価格と横軸のマーケットサイズです。値段が高いものはニッチマーケットで、大衆価格のものはマスマーケットで売れるというのが一般的ですよね。同じマーケットサイズなら、デザインやストーリーが入れば価格は上がりますが、両端の超ニッチ・超低価格の市場は簡単には変われないので、図で示すように膨らむのは真ん中あたりの市場です。

デザインの効果 
図5:経営層に論理的に語れるデザインの効果
© Hideshi Hamaguchi

このプロファイルは経営的に大きな意味があります。機能だけで戦っていたら、経営的な選択肢は安い商品を大量に売るか、超高級品でニッチを狙うかの二者択一しかない。ところがデザインのパワーでこのトレードオフが緩和されます。たとえば100万人とまではいかないが10万人ほどの市場に対して、そこそこの値段でデザインがいいから売れるという戦略オプションが出てきます。

ストーリーの効果 
図6:経営層に論理的に語れるストーリーの効果
© Hideshi Hamaguchi

これにさらにストーリーを付加したときのパワーは、思いがけず高価格で大量に売れるスイートスポットが狙えるようになることです。これは機能だけで戦っている時代に比べると、まったく違うパラダイムですよね。実際、ビーツのヘッドフォンは高いのにお金のない若者に人気が高い。レッドブルも高いのに、世界中で飲まれている。これは機能・デザインだけではない、まさにストーリーの力です。

また、実務レベルではストーリーがあると、イノベーションの発想をしやすいし、ひとつひとつのアイデアが自分たちのストーリーに合っているかどうかのスクリーニングもできる。
顧客に対しては、ストーリーをつけてアイデアを出していくと認知がされやすい。複数の商品でも同じストーリーに乗っていれば、1つのかたまりとして見えてポジショニングが非常にわかりやすくなります。

まったく何もないところからイノベーションを考えるのは困難ですが、ストーリーが確定されていると、アイデアも出てきやすいと思います。たとえば 「レッドブルはなぜ存在しているか。人間の限界はさらに向こうにあるからだ」というストーリーから、いかにひとの限界に迫るかという観点で次のサービスを考えられる。「何をしているか、何を作っているか」よりも、「なぜ存在しているか、なぜ作るのかのストーリーが強い会社や商品」が、これからますますパワフルになってくるでしょう。