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水曜日, 6月 15, 2016

中国人女性が号泣「結婚観を変える動画」|SK-II(P&G)

中国人女性が号泣する「結婚観を変える動画」

SK-II(P&G)

 




25歳の女性が独身で居るのは珍しいことでは無い。

しかし、中国の常識は違う。近代化と経済の高度成長が続く中でも、中国では結婚して母になることが女性の使命とみなされ、独身女性は“ 剰女(売れ残り)”として、批判の対象にされている。

その中国で、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の化粧品ブランドSK-IIが公開した独身女性を勇気づける動画広告が、急速に拡散し、反響を呼んでいる。

4分のドキュメンタリー仕立ての動画は、数人の“剰女”に焦点を当てている。彼女たちは率直かつ感情的に、独身でいることの苦悩を語る。両親を失望させることへの罪の意識と悲しみ、キャリアへの誇り、そしてリアルな恋愛を探し求める苛立ち。その姿は、多くの若い中国女性が経験する居心地の悪さの縮図である。ある女性は隣に座る母親が「彼女は平凡な容姿をしている。そんなに美しくないから、売れ残っているのだ」と言うのを聞き、目に涙をためる。見ている方も胸が張り裂けそうになる




人生と立ち向かう独身女性を応援

 

動画は女性が経済力を身に着けて自立していく姿と、時代遅れの“安定”の観念や価値システムを対比させ、家父長的な中国の価値観を描く。

それでも変化の兆しは芽生えている。世界中の女性たちにエールを送るSK-IIの「#changedestiny(運命を変えよう)」プロジェクトの一環のこの動画は、SNS微博(ウェイボー)の公式アカウントで2万回以上再生され、4,000以上の“いいね”がついた。SK-IIトップのマークス・シュトローベルはBBCのインタビューで、「自身の運命を切り開こうとする女性を励まし解放するためのグローバルキャンペーンだ」と説明した。

「小さな一歩だが、この問題を正面から議論するための適切な取り組みと思う」とシュトローベルは言う。結婚を願う親からのプレッシャーにさらされている26歳のホワイトカラー、アイビー・ジャーは動画に共感する一人だ。「SK-IIがこの問題を取り上げてくれて嬉しい。動画にはリアルで力強いメッセージが込められている」

動画は涙なしでは見られない内容だが、救いのあるラストで幕を閉じる。独身女性と彼女の両親たちは、親が独身の子供たちのプロフィールを貼って結婚相手を探す場所として有名な、上海の人民広場にあるお見合いコーナーを訪れる。そこで両親は、娘たちの写真を目にする。そこにはお決まりのプロフィールの代わりに、彼女たちのメッセージが添えてある。「私は結婚のための結婚をしたいのではない。そのような生き方は幸せではない」

「これはまさに私の気持ちだ。妻である前に女性なのだ。自分の両親や身の回りの人たちと、そんな気持ちをもっと話し合うことが必要だ」とジャーは語った。














火曜日, 12月 15, 2015

4.デザインファームの今までと次の一歩|濱口秀司 インタビュー

デザインファームの今までと次の一歩

monogoto 濱口 秀司 氏インタビュー:第4回

 


日本初のイントラネット構築、USBメモリの発明など、幅広い業種のイノベーションに携わってきた濱口氏が、2013年、デザイン会社monogotoを立ち上げた。長年アメリカのデザイン会社Zibaに所属し、世界中の企業と仕事をしてきた濱口氏だが、monogotoでは当面、日本企業のみをクライアントとすると言う。濱口氏にmonogotoでの取り組み、日本企業をどう見るかを聞いた。







「何をどうデザインするか」によるデザインファームの分類

--最近、デザイン会社がビジネスというコンテクストの中で語られることが増えています。これはなぜでしょうか。

まず、世の中一般にあるデザインファームを分類してみましょう。分類方法は冒頭の図のように単純なものです。

縦軸に「何をデザインするか」という“What”を、横軸に「どうやってデザインするか」という“How”を置きます。横軸は、「天才(g)」と「グループ(G)」に分けます。小文字のgは「genius」のgで、アーティスティックで天才的な人を表します。大文字のGは「Group」で、一人の天才的能力に頼るのではなく、複数人でデザインプロジェクトを回すことを表します。

大きな違いは、背後にプロセス性が少ないのが天才プロセスがあるのがグループです。天才は他人に頼らず一人で勝手にデザインしている。グループになると異なる強みを持った複数の人間がいるので、たとえばリサーチャーとデザイナーがどう協力するか、デザイナーが5人集まったときにどうやって1つのアイデアに集約するかなどについて、何らかのやり方、プロセスがないとマネジメントができません。

一方、縦軸は単純に「見た目のデザイン(d)」と「広義のデザイン(D)」に分けます。小文字のdは日本語で解釈されている、いわゆるデザインで、商品やロゴ、広告や店舗における形や美的スタイルを作ることを指します。大文字のDは、デザインという言葉が本来持つ広義の「設計」という意味で、 ビジネスにおける問題解決やコンセプト・戦略・マーケティングの設計を指します。

ちなみに、4分割図の左上に入るのは、イメージとしてはレオナルド・ダ・ヴィンチのような究極的にマルチなアーティスト兼、戦略家のような人です。アーティスティックなことでも戦略的なことでも、一人で何でもできる天才ですから、世界的に見て数は非常に少ないと考えてください。

デザインファームの分類 
デサインファームの分類
© Hideshi Hamaguchi


さて、世の中にあるデザインファームはこの4つに分類されるわけですが、星の数ほどある世界中の99%のデザインファームは、いまだに図の左下、いわば才能あるデザイナーが率いる小さなブティックに属しているといえるでしょう。

小さなブティック型のデザインファーム 
デザインファームの発展1
© Hideshi Hamaguchi








デザイン会社の変遷—Zibaを例にしたアメリカの動き

ところが、世界的にアメリカでだけ、ちょっと変わった動きがありました。ここ30年で、一人のスーパーヒーローに拠らない組織を作っていこうと、左下のセクションから右側へ動いていった会社があります。具体的には、IDEO、frog、Smart Design、Ziba Designなどのデザイン会社がこれに該当します。アメリカにしかないのが面白いですね。イギリスやドイツ、そして日本には、100人以上のデザイン会社はありません。世界的に見ても非常に少ないですね。

デザインファームの発展1 
デザインファームの発展2
© Hideshi Hamaguchi

 
僕が長年いるZibaのファウンダー、ソラブ・ボソギはもともとHPに勤めていた優秀なプロダクトデザイナーで、そこから独立して会社を作りました。図でいうと、左下からスタートしているわけです。

彼はすごく優秀なデザイナーですが、もちろん失敗もします。失敗をしたときに彼は、「同じ力をかけてデザインしたのに、成功するものと失敗するものがあるのはなぜか」を真面目に考えました。それで、自分は「自分が好きなデザイン」をしていただけで、ユーザーについて一切考えていなかったことに気づくわけです。今はヒューマンセントリックデザインといった言葉もありますが、30年前ですから当時としては珍しい視点でした。

彼は思いきって、数人しかいない弱小デザイン会社にエスノグラフィックリサーチャーをフルタイムで雇います。ここから彼の成功のスケーリングが始まります。リサーチャーを使ってユーザーの反応を見ながらデザインするので、商業的にうまくいくケースが増えたためです。ところがその後、扱うプロダクトが複雑になるにつれて、デザイナーやリサーチャーの視点のみでは補えない技術的な課題が大きくなってきました。たとえば技術的な観点での実現性、コスト管理の問題が出てきました。

そこで彼は次に、フルタイムのエンジニアを雇いました。今は「デザインエンジニアリング」という考え方も浸透し、デザイナーもエンジニアリングを学んだりしますが、25年前は、理工系のエンジニアとアーティスト系のデザイナーは水と油で、デザイン会社にエンジニアが入社するなどありえないことでした。しかし、これでまた成功していく。さらにはZibaでは建築家がクリエイティブディレクターを務めていた時期もあります。デザイン業界の歴史を振り返ったときに、多職能のデザインファームを最初に作り始めたのは彼だと思います。

その後Zibaで、デザインを企業戦略のコンポーネントに組み込みながら組織能力を定着させ(さらなる右への移動)、プロジェクトの対象領域をビジネスデザインにシフトして(上への移動)、図の右上の最後のゾーンを埋めたのが僕です。松下電工に研究者として入社し、その後戦略意思決定を担当してきた僕が1998年ごろにZibaに参画して、この流れをつくりました。この頃率いたプロジェクトは、デザインの賞だけでなく、リサーチ賞なども総なめにしました。


デザインファームの発展2 
デザインファームの発展3
© Hideshi Hamaguchi


このような流れで、この15年くらいで図の右上に移動していった会社がIDEOやZibaです。どちらもデザインだけでなく、イノベーションコンサルティングをするとか、組織能力を使いながら企業の問題を解く包括的サービスを提供する、と言っていますよね。そこが、従来のブティック型デザインファームとは違うわけです。

たとえば、Zibaで僕が引っ張ったプロジェクトの半分以上は、サービスや顧客のエクスペリエンスのデザインで、形はないものでした。たとえばクレジットカード会社の仕事でも、カード自体のデザインはしない。彼らの事業自体を作り直すなど、そういう形にならないものでもデザインファームが手がける ようになったんですね。

このように、アメリカではデザインファームが「小さなブティック」から「戦略的デザインファーム」へと移行してきた歴史的経緯がありました。






旧来型の戦略コンサルファームに解決できない課題へ

ここでクライアントからの視点について考えてみましょう。

アメリカの平均的ビジネスパーソンに「僕はデザイン会社に勤めている」と自己紹介すると、「かっこいい絵を描くアーティストの会社ね」と理解されることが多いです。しかしアメリカのフォーチュントップ500社のCEOは、デザインファームというと、このチャートの下半分の2つの差異を認識しています。一発もののかっこいいデザインだけをしてもらいたいから左下のデザインファームに頼むか、あるいは料金はちょっとかかるけれど、リサーチもしてちゃんと売れるデザインをしてくれる確率が高い大手デザインファームにコンポーネントを丸ごと頼むか。こういう見方をしますね。

次にフォーチュントップ100社くらい、巨大企業のCEOクラスになると、会社のサービスに大きな問題がある、もしくは新しいカテゴリーに商品を投入する際に、戦略コンサルタントとしてのデザインファームの使い方、つまり右上の領域を視野に入れ始めます。

このような場合、いわゆる旧来型の戦略的ビジネスコンサルティング会社による、分析に基づいたロジカルな回答では競合に対抗できない可能性があると思っているケースがほとんどです。だから、もっと次元の違う新しいものを求めるときには、戦略ビジネスコンサルタントではなく、ユニークな解法や創造的な解決案を求めて戦略的デザインファームに頼んでみようかという発想があるんですね。これが昨今のアメリカのトレンドです。

デザインファームの発展3 
デザインファームの4つの分類
© Hideshi Hamaguchi

 

米国戦略コンサルファームによる過去の試み

デザインファームの変遷をお話ししてきましたが、戦略コンサルファームも、ロジックだけではビジネスの課題を解決しきれないことに気づいていました。そこでファーム内にどうにかしてクリエイティビティを取り込もうとする試みが、米国のビジネスコンサルティングファームにおいて過去2回ありました。

1回目の試みは1990年代。マッキンゼーが突然、デザイナーたちを突然雇用し始めた時期があります。しかし、このときは『マッキンゼークォータリー』の見た目が美しくなる効果しかなく(笑)、マッキンゼーの実際のアウトプットにクリエイティビティが組み込まれたわけではありませんでした。

2回目の試みは、2000年代前半。モニターグループ(マイケル・E・ポーターが作った会社)という戦略コンサルティングファームは、イノベーションデザインやシナリオプラニングなどの能力を持つ会社を丸ごと買収しました。つまり、デザイナー個人を雇用することで失敗した前例を参考に、今度はクリエイティブ集団を組織ごと取り込もうとしたわけですが、これもまったく異なるカルチャーを持つ組織同士の融合に至らず、結局は失敗に終わりました。僕は買収された会社の経営幹部と交流があったので、買収前後に電話や会社を訪れてミーティングをしたのですが、カルチャーの融合だけでなくプロセスの融合も困難である状況を目の当たりにしました。

一方、ときを同じくして、僕も親しくしているトロント大学のビジネススクール学長、ロジャー・マーティンが、新しい教育的試みを始めていました。 それは、マッキンゼーが行ったように異なる素養を持つ人間同士を引き合わせるのではなく、一人の人間の中にビジネスとデザイン両方の素養を持たせようという試みです。これは教育としては非常にうまくいっています。

日本での状況と次の一歩

タイトル 
monogotoが目指すポイント
© Hideshi Hamaguchi

 
日本でもまだ一般的には、デザイン会社といえばブティック的なものが想像される場合がほとんだと思いますが、IDEOが日本でマーケティングを始めてからデザイン思考という言葉が広まり始め、また東大がi.schoolを創設した2009年以降は、戦略デザイン分野の存在はかなり知られるようになりました。ただ、現実はそれを提供する会社がほぼ存在していないのが問題です。IDEOやZibaは、右上とはいっても実はまだオールドファッションなデザインに近いところにいて、右上のゾーンの下のほうにへばりついている状態、すなわちアウトプットはものの形になっているのです。

僕自身について話すと、外から見ると勘でやっているのか、明確な体系を持ってやっているのかわからないようで(笑)、左上の一人天才タイプではないのかと言われたりします。しかし、お話したように過去15年間、zibaにおいてデザイナーやクリエイティブディレクターたちをリードしながら経営者へ のアウトプットと、プロダクトやサービスの成功を再現性高く続けてきた経緯があり、僕の中でビジネス戦略とデザインは同じ体系の中に方法論として確立しています。つまり僕は方法論の人といえると思います。

昨年ポートランドで本格起動した会社:monogoto (http://mono-goto.com/) では、デザインとビジネスが高度に統合された解をクライアントに出すため、数年間探し続けた新たな若手のメンバー二人を加えて、zibaではできなかった図中のさらに右上端の領域(エキスストリームなポイント)を目指そうと思っています。形のあるモノであれ、形のないコトであれ、扱う対象を問わないという意味を込めてmonogotoという社名にしました。

monogoto

具体的には、戦略デザインにもっと徹底的に体系化された手法を取り入れ、ビジネスのあらゆる問題を解いていく。これまで作ってきたバイアスを壊す手法や戦略を作る手法と同様、現在手がけているストーリービルディングも、すべてがそこにつながります。そういう手法をどんどん作っていきたいですね。この僕が「ビジネスデザイン」と呼ぶアウトプットにアメリカと同等の対価を払うクライアントが日本国内でも確実に増えています。

このように日本でも、戦略デザインの市場が認められつつある。戦略レベル、意思決定の質、エグゼキューションの能力というよりも(CEOレベルの 意思決定者の方は「イノベーション」と認識していると思いますが)やはり最初のコンセプトのユニークさの差分に価値があるということ、またそれに新しい技術、新しいビジネスモデル、新しい顧客体験をがっちり組み合わせて勝負しないと、すなわちビジネスデザインのクオリティが高くないと、最近の市場ではもう勝てないという意識が日本企業に広がりつつあります。また、その能力を組織として持たねばならないと見ているんですね。

その点にブレークスルーのポイントはあり、日本企業の可能性を悲観する必要はなく、monogotoとしても独自性を持って、そこにコミットできるのではないかと思っています。





バックナンバー

1.「ストーリー、意味性」のインパクト
2.「社内説得」のジレンマと解
3.「クリエイティブプロジェクト」の進め方
4.デザインファームの今までと次の一歩


 

3.「クリエイティブプロジェクト」の進め方|濱口秀司 インタビュー

「クリエイティブプロジェクト」の進め方

monogoto 濱口 秀司 氏インタビュー:第3回

 

 
製品やサービスの開発で新しいアイデアを生み出していくには、プロジェクトの情報量の管理も重要だ。日本初のイントラネット構築、USBメモリの発明など、幅広い業種のイノベーションに携わってきた濱口秀司氏に、発想重視の「クリエイティブプロジェクト」の進め方について聞いた。前回記事はこちら、前々回記事はこちら








悪魔のチャートの「ラストミニッツクライシス」とは?

--発想が中核となるクリエイティブなプロジェクトをどう進めていくべきか。濱口さん流の方法論を教えてください。

まず、クリエイティブなプロジェクトの時間軸についてお話ししましょう。

プロジェクトには必ず、スタートとエンドがありますが、通常まずスタート時には競合調査やユーザ調査など情報収集のフェーズを経て、その情報をも とにチームでアイデアを考えていきます。こうして最終的なプロジェクトエンドには、何かしらの成果物が出されていることになります。

図1を見てください。「これだけ情報があれば完璧な解を出せる」という情報量を仮に100としましょう。チームが集めた情報量 のプロファイルは、図のようにプロジェクト経過とともに増加しますが、プロジェクト後半で必ず頭打ちになります。これは、チームの情報収集能力には限界があるからです。米国国防総省のデータベースのハッキングはできないし、検索方法にも個人の傾向があります。したがって実際には情報量は100に到達することができません。このチームが持つ情報が飽和した値の高さを「a」とします。

プロジェクトの開始から終了までの情報量の推移 
図1: プロジェクトの開始から終了までの情報量の推移
© Hideshi Hamaguchi


僕がzibaで初めてプロジェクトに参加したときの話です。プロジェクトの初日のミーティングでいきなり「こんなアイデアがあるんだけど、どう思う?」と言ってみたのです。するとメンバーは異口同音に「まだ今日は初日だから、アイデアについてディスカッションするには早すぎる。まだリサーチも始まっていないのに」と言いました。数日経って、リサーチフェーズの中間ミーティングでまた聞いてみました。「今度はこんなアイデアがあるんだけど、みんなどう思う!?」

またしても、全員が「まだリサーチは始まったばかりだよ」「インサイトの整理もできてないし」「アイデアの話をするにはまだ早い」と反応しました。

この現象を図2で考えてみましょう。

情報量に基づく考え始めるタイミング 
図2: 情報量に基づく考え始めるタイミング
© Hideshi Hamaguchi


彼らが言う「何かアイデアを考え始めるにはまずある程度の情報が必要」という高さを、先ほどの情報の飽和点「a」に対して「b」とします。つまり、考え始めるのは「b」に到達してから(時間軸では「c」)になります。情報量が「b」に到達していない状態、すなわち「c」より手前では答えを考え始めても意味がないと彼らは言っているのです。

いつ考え始めるのかわからない悪魔のチャート 
図3:いつ考え始めるのかわからない悪魔のチャート
© Hideshi Hamaguchi


おそろしいのは、実際には誰も「a」と「b」の情報量を定義づけられないことです。プロジェクトを進めている間に、いつ「c」に到達するかも不明です。つまり、ほんとうは「a」、「b」、「c」がいずれもよくわからないチャートなのです(図3)。結局「いつから考え始めていいかがわからない」(つまり、アイデアが出されない)状態がしばらく続きます。それで僕はこれを「悪魔のチャート」と呼んでいます。


プロジェクトの後半で陥りやすい「バイアスの罠」

プロジェクトでラストミニッツクライシスが起こるタイミング 
図4:プロジェクトで「ラストミニッツクライシス」が起こるタイミング
© Hideshi Hamaguchi


こういう根源的問題がありながら、すべてのプロジェクトの終わりにはプレゼン資料などの成果物が魔法のようにできあがっている(笑)。プロジェク トの締め切り間際になって、チームが必死に考えた結果ですね。これを僕は「締め切り1週間前の法則」と呼んでいます(業界によってこの数字は違って「締め切り2週間前」の業界もあると思います)。僕はこれを英語では「ラストミニッツクライシス」と呼んでいますが、実はこれは世界中のプロジェクトで起きていることです。(図4)

このラストミニッツクライシスには、大きく2つの問題があります。

1つ目の問題は、「ラストミニッツクライシス」の時点では、プロジェクト開始からそれなりに時間が経過しているために、集めた情報量が膨大になっていて、その整理が非常に難しくなることです。チームメンバーには「この時点で意味ある情報整理ができる確率は、ボーイング747旅客機のすべてのパーツをトルネードの中に放り込んで、すべての部品がたまたま順番に組み合わさって完成した機体がエンジンオンの状態で飛び出してくる確率に近いよ」と説明していました。

2つ目の問題は、この膨大な情報整理の際に、どうしてもバイアスを掴んでしまうことです。大量の情報を目の前にすると、人は使い古されたフレームワーク(3C、4P、タッチポイント、SWOT分析、ポーター競争優位など)を使って整理してしまいます。

既存のフレームは「バイアスのかかった枠組み」そのものなので、その中で発想しても、結局、情報は一般的なフレームワークで整理され、先入観や常識を超える面白いアイデアは一切、出てこなくなってしまいます。

「必要は発明の母、締め切りは発明の父」なので(笑)、追いつめられて発想すること自体が悪い訳ではありません。ただ、締め切り前は、膨大な情報整理のためにバイアスの罠に陥る危険があるのです。

答えとなるアイデアはプロジェクト初期に生まれる

情報が少ない「プロジェクトの初日」から考える 
図5:情報が少ない「プロジェクトの初日」から考える
© Hideshi Hamaguchi


では、クリエイティブなプロジェクトではどのようにすればよいか。「初日から答えを考える」「毎日答えを考える」のが僕のアプローチです。図5を見てください。プロジェクト初日を拡大してみると、実は少量の情報がすでにあります。その少ない情報量をもとに、考え始めるのです。

初日以降は、日々追加されていく情報を利用してアイデアやロジックを考え直していく。少しずつ情報が増えていく中で、毎日考え続けることが大切です。毎回あらたに入ってくる情報は少ないので、扱いやすい。そうすると、既存のフレーミングに頼らなくてよいので、バイアスの罠にはまる危険を避けられます

常にその日の時点で最高だと思われるアイデアを決定し、そしてなぜそうなのかというロジックを用意します。できれば「このアイデアはこういう先入観を壊している」という説明ができているロジックが理想的です。すなわち、前回の記事で定義したコンセプト(アイデアと切り口の組み合わせ)を毎日のプロジェクト終了時までに確定するのです。これが僕の推奨するプロジェクトの進め方です。

よいアイデアはプロジェクト初期に生まれる確率が高いという事実も、初日から考え始めることの大切さを裏付けています。このアプローチで今まで 様々なプロジェクトを実施してきた結果、その瞬間には気づかなくても、後で思い返せば「あのタイミングで答えが出ていたね」といったものも含めて、イノベーティブなコンセプトの90%はプロジェクト期間初期10%に集中して出されていました。僕はこれを「90:10の法則」と呼んでいます。

答えとなるアイデアはプロジェクト初期に生まれる 
図6:答えとなるアイデアはプロジェクト初期に生まれる
© Hideshi Hamaguchi



“情報の欠如”こそが「イマジネーションの条件」

プロジェクト前半に答えが生まれやすい理由は2つあります。
1つ目は、プロジェクトの前半ではまだ手持ちの情報が少ないため、本質的なものの関連や構造を考える傾向にあることに関係しています 以前、フェデックスのブランド回復の仕事を依頼されたとき、最初、先方から与えられた情報をあえて無視して、ハブアンドスポークシステム、一夜配達、高価格といった一般的なユーザ情報だけでアイデアを考え始めてプロジェクトを成功させたことがあります。こういう状況のほうが、抽象的で取り扱いが難しい概念と戦わなければならないので、通常は適当にスキップしてしまうような思考に十分に時間をかけられるのです。

僕の理論では、イノベーションにはバイアスを破壊する要素が必ず含まれるはずで、壊すバイアスが根源的であればあるほど、イノベーションの度合いが高くなります。したがって、前半で取り扱う本質的情報の構造化と破壊は、大きなイノベーションを生み出す確率が高いのです。

2つ目は、情報と想像力の関係にあります新しい発想にはイマジネーションが必要ですが、一般に想像力は情報量が少ないほうが大きくなる。たとえば、白黒とカラーの写真を比べると、自分の頭の中で色を補完して見る白黒のほうがイマジネーションを喚起されます。人の認知構造からみると、実は「情報の欠如」こそが「イマジネーションの条件」なのです。

この関係を図式化したのが図7です。プロジェクトのフェーズで、イマジネーションを最大限に発揮できるタイミングは、明らかに情報量の少ない前半ですね。後半になればなるほど、情報や知識、制約が増え、想像力を発揮できなくなります。
プロジェクトにおける情報量と想像力の関係 
図7:プロジェクトにおける情報量と想像力の関係
© Hideshi Hamaguchi


もちろんプロジェクトの後半部分で背筋の凍るような新しい切り口やアイデアが見つかる可能性はあります。ただし、確率は低い。たとえば、その可能性が10%しかないのなら、毎回それを期待するのはコンセプト作りのプロジェクトマネジメントとしては戦略的に非常に危険です。プロジェクトの推進方法としては、毎日答えを出していくやり方のほうが正解だと考えています。発想を核にするべきビジネスプロジェクトでは、僕は基本的にはこれまでお話ししたような前半重視のやり方でマネジメントし、後半で出たアイデアは、「出ればラッキーなセレンディピティ」として取り扱っています。



2.「社内説得」のジレンマと解|濱口秀司 インタビュー

「社内説得」のジレンマと解

monogoto 濱口 秀司 氏インタビュー:第2回

 







USBメモリの発明をはじめ、幅広い業種のイノベーションに携わってきた濱口秀司氏。誰も見聞きしたことがないイノベーティブなアイデアは不確実性が高いため議論を呼びやすい。そのため、イノベーションを実現するには、通常のマーケティング(エクスターナルマーケティング)の前にまずは、仲間や社内を説得すること(インターナルマーケティング)が不可欠だという。クリエイティブ層を悩ませる、マネジメント層とのコミュニケーションギャップを埋める「社内説得」に関して、濱口氏が豊富な経験から導き出した方法論を解説いただいた。前回の記事はこちら







アイデアは構造に載せ「コンセプト」として伝える

発想、説得(社内マーケティング)、認知(社外マーケティング) 
図1:発想、説得(社内マーケティング)、認知(社外マーケティング)
© Hideshi Hamaguchi

 

——組織内イノベーターが心得ておくべきコミュニケーションのポイントを教えてください。

組織内のマネジメント層とクリエイティブ層の間のコミュニケーションギャップは世界中の企業が抱えている問題だと感じています。クリエイティブ層に対してマネジメント層は、「売り上げ見込みや利益はいくらなのか、計算したまえ」といったことをせっかちに求めがちです。マネジメント層はえてして数字でロジカルに考えがちですが、僕たちが提案する新しい発想・イノベーションは不確実性のレベルを押し上げる作業なので、彼らが求める数字を用いた議論法は基本的に使えません。たとえばiPhoneの販売数などは、発売前には絶対わからなかったはずですよね。それでも製品リリースの意思決定をしなくてはいけないわけです。

一般的にマネジメント層は実務に追われているので、せっかちで迅速な答えを期待している。また、具体論・本質論を好みます。そういう彼らに対して数字なしでコミュニケートするのは実に難しいのですが、そのギャップの埋め方を紹介しましょう。ポイントは以下の3つです。

タイトル 
図 2:組織内の人材分布は、構造的で論理的な思考様式のマネジメント層(左)とケイオティックで直感的な思考様式のクリエイティブ層(右)に大別され、使用 言語が異なるため(たとえば、数字vsイメージ、論理vs感覚など)、両者をつなぐコミュニケーションができる人は少ない。
© Hideshi Hamaguchi

 

1.アイデアを構造に載せて「コンセプト」として伝える

まずアイデアについては、クリエイティブ層からよく「うちの経営層は、不確実性やイノベーションに対する理解がないから、僕たちのすごいアイデア を理解してくれない。どうしたらいいですか」と聞かれます。こういうとき僕は「それはそのアイデアそのものがよくないのです」と答えることにしています (笑)。経営者も人の子ですから、背筋も凍るようなおもしろいアイデアであれば、なにか引っかかるはずですよ。プロジェクトが先に進まないケースの99%は実はアイデアそのものが弱いということです。

「モデルを組んで壊す」→「アイデアを作る」→「また壊す」という僕のアイデア創出プロセスでは、論理的な切り口をふんだんに作ってゆくので、 「ふつうはこう考えるけれども、これはここが違うからおもしろい」、「業界はこちらを向いているが、ユーザーは逆にこちらの方向をベネフィットと感じるは ずだ」など、アイデアの強さを証明するためのいわば論理の残骸がたくさん残ります。だからアイデアに必ず理由がつけられる。数字はなくても、アイデアを論理的な構造の中に入れて示すことができます

なおアイデアとコンセプトを同義で使う人がいますが、ここで「コンセプト」と「アイデア」の違いを定義しておきます。コンセプトとは、「アイデア」と「切り口」を合わせたものです。すなわち具体と抽象のセットで、ダイアグラムなどの構造化された切り口(モデル)の上にアイデアを位置付けたものをコンセプトとして取り扱います。

最初のステップとして、経営陣にはアイデアをある構造に入れて「コンセプト」として伝えることが重要です。彼らは具体論が好きなので、これを短時間で彼らに投げかければ、効率的に議論の土台に載せることができます。僕はどんなに難しいコンセプトでも3分間で説明する準備をします。彼らにはそれくらいのタイムスケールが合うのです。

今までにない新しい企画に対しては不確実性の高い数字の議論をするよりも、そのアイデアがいかに業界のバイアスを破壊しているかという、数字で語れない議論をすることにむしろ力を注ぐべきです。







プロトタイプを自身と他者の確信を深める説得材料に

3種類の「プロトタイプ」 
図3:ファンクショナルプロトタイプ、デザインプロトタイプ、コンテクスチュアルプロトタイプ。3つのプロトタイプで人の認知の論理的側面から感覚的な側面までカバーする。
© Hideshi Hamaguchi

数値では説明が難しい不確実な領域を扱うイノベーションですが、先ほどは、業界や社内そして顧客の常識(バイアス)を壊し再構築したモデル(切り口)を、ダイアグラムなどで可視化して見せることで、まずはマネジメント層と議論を始められると説明しました。

2.3種類の「プロトタイプ」で体感させる

コンセプトを使いマネジメント層と議論したあと、コンセプトの具体的輪郭を膨らませていくためのものがプロトタイプです。これは3つに分けることができます。
1つ目が「ファンクショナルプロトタイプ」。実現可能かどうか、機能を実証するものです。見た目はどうでもよいので動けばいいので、フランケンシュタインプロトとも呼んでいます。
2つ目は「デザインプロトタイプ」。これは動かなくてよいのですが、ユーザーが製品の重さや形、UI画像などのイメージをリアルに感じられるものです。
3つ目が「コンテクスチュアルプロトタイプ」。これは「こんな体験ができる」といった文脈的なもので、前回の記事で説明したように、製品やサービスを使う状況設定ができ、製品やサービスの中核にある「ストーリー、意味性」を感じさせるものがより望ましいといえます。例としてはフェイクのカタログやプロモーションビデオなどがあります。

プロトタイプの効用」も大きく分けて3つあります。まず、作っていきながら自分自身を説得できることです。コンセプトの段階で何となくいいなと思っていても、プロトタイプを作り込んでみないと体感的にはわからない。プロトタイプで「ああ、おもしろい!」と自分が説得されれば、コンセプトに対してより強いパッションを持てるようになります。

次に、不確実性の高いイノベーティブなコンセプトに対して定量的なデータがない段階でも、クリエイティブ層とマネジメント層が感覚的な判断で合意できることがあげられます。プロトタイプでファンクション、デザイン、ストーリー性を共有したものに誰もがピンときて「おもしろいかもしれない」と思えば、合意の可能性が見えてきます。

3つ目の効用は、売れ行きを感覚的に推測できることです。たくさんのユーザーにプロトタイプを擬似的に見せ、その反応を探れば、売れそうかどうか推測することができます。情報が漏れることを気にする人がいますが、ユーザーの反応が悪ければもしライバルに漏れても恥ずかしいだけですし(笑)、反応が良ければライバルが同じように不確実性と戦うのを横目に一気に商品化すればいいだけです。その結果が「これはいけそうだ」となれば、経営者の知見が及ばない不確実性に関して何時間も無駄な議論をするよりも、はるかに効果的に予測の精度を上げることができます。自分自身の確信が深まると同時に、経営者に向けての強力な説得材料にもなるのです。

注意しないといけないのは、この3つが結合した現物に近いプロトタイプを作ろうとすると、コストが急に跳ね上がるだけでなく、よほどの投資をしないと中途半端なモノとなってしまうことです。すなわち優れたひとつのプロトタイプを作ろうとする活動は、プロトタイプの投資対効果を下げてしまうことになります。したがって、3つのプロトタイプは徹底的に分離してつくることがコツです。


結論は「ピラミッド」で示し、合意は「階段」で重ねる

パッション、ピラミッド、階段 
図4:プレゼンの大原則「パッション、ピラミッド、階段」
© Hideshi Hamaguchi

 

3.プレゼンの大原則を理解した「説得技術」を確立する

マネジメント層を説得するときに重要なのは、パッションを持つこと、ピラミッド型で話すこと、階段をのぼるようにコミュニケートすることです。この構造を使うとクリアかつロジカルな説明ができます。

まずは自分自身が「これは絶対おもしろい!」というパッションを持つことが必要です。パッションがなければどんなに優れた方法や資料があっても説得は失敗します。プロトタイプがあって「これはいけるぞ、本当に!」という自分自身への説得が深まっていれば、パッションはもっと強くなりますね。

ピラミッド型で話すとは、最初に結論(頂点)を話してしまうやり方です。結論を先に言い切って、詳細はあとで説明する。まずはどんな結論なのかをシンプルに伝えるのがパワフルです。一気に結論を話すのが不安なのはわかります。前提条件を話したいでしょうし、伝えるべき情報も山のようにあるはずです。ただ今回のように「クリエイティブ層がマネジメント層へ社内で説得する」状況では、短気で具体論を好み本質を求めてくる経営層が相手ですから、結論が見えないプレゼンはその瞬間に「終了」同然になってしまう危険があります。

一方、階段状にコミュニケートするというのは、「合意できる内容、議論すべき内容を交互に繰り返し徐々にコミュニケーションを進める 」 というプロセスを指します。重要なのは、まずは「誰もが合意できる、イエスと言える」フラットな面から会話をスタートすることです。最初に疑問を抱かせてしまうのがよくある失敗パターンです。ただ、ずっと合意できる内容を話していても新しいコンセプトを伝えることはできないので階段をのぼっていきます。一段のぼるたびに、「伝えたいポイント、想定される疑問への回答、次の階段を一緒にのぼるべき理由」を繰り返し提示しながら、段階的な合意というフラットな面に相手を引き上げていくことがポイントです。このようなプロセスを経ずに直線的にのぼろうとすると、聞き手が疑問を持ったまま話がどんどん進んでしまい、疑問の壁が形成され 合意形成に失敗してしまいます。

このピラミッド型で話すということと階段状でコミュニケートするという2点は、ユニークな結論を提示するタイミングのジレンマを形成しますが、ここが説得デザインでの腕の見せ所になります。

マネジメント層とクリエイティブ層のコミュニケーションに限らず、組織内のコミュニケーションギャップは、今回お話しした「コンセプト」「プロトタイプ」「説得技術」の3つのコンポーネントがあれば超えられると思います。

 

 

バックナンバー

1.「ストーリー、意味性」のインパクト
2.「社内説得」のジレンマと解
3.「クリエイティブプロジェクト」の進め方
4.デザインファームの今までと次の一歩

 

1.「ストーリー、意味性」のインパクト|濱口秀司 インタビュー

「ストーリー、意味性」のインパクト

monogoto 濱口 秀司 氏インタビュー:第1回

 



USBメモリや日本初のイントラネットの開発に携わった実績を持つビジネスデザイナーの濱口秀司氏は、商品やサービスの機能やデザインに加えてストーリーの重要度が高まってきているとみている。濱口氏がストーリー性、ストーリービルディングを現在どのように捉えようとしているかを語っていただいた。








顧客が見る価値の変遷—機能、デザイン、ストーリー

濱口 秀司 
monogoto 濱口 秀司 氏

 

――最近、注目されているという「ストーリー」についてお考えになっていることをお聞かせください。

 
まず、「顧客が見る価値」の変遷をざっと見てみましょう。
30年前は機能、「利便性の時代」でした。家電業界を思い浮かべていただくとわかりやすいと思います。たとえば、3万円の洗濯機には機能が3つ、5万円なら機能が5つ付いている。測ってわかる、見てわかる価値が評価された時代です。

20年前には、「機能にデザインという新しい価値がプラス」されるようになりました。スタイリッシュ、かっこいい、自分のライフスタイルに合っている、といった測りにくい価値ですね。

この10年間では、僕の観察によるともう1つ、「ストーリー性、意味性」という新しい価値が入ってきています。これはもう数字では測れません。ストーリー性を備えて成功している商品やブランドの例としては、ヘッドフォンのビーツ(Beats)、エナジードリンクのレッドブル(Red Bull)、コーヒーチェーンのスターバックス(Starbucks Coffee)などが挙げられるでしょう。

たとえばレッドブルは、機能性としては元気になる成分が入っている。デザイン性としては、アイコンがあってかっこいい象徴的なボトルがある。加え て、徹夜明けのプログラマー、ウォールストリートのトレーダーなどのハードワーカーや、F1などのエクストリームスポーツのアスリートが飲むというストーリーがつけられています。「人間の極限に挑戦すること」をつなげたストーリーをまとった状態でブランディングしているんですね。

機能やデザインは教育機関で学べますが、ストーリーの作り方は技法として確立されていないので、まだ教えてくれるところがありません。これからの5年間で、いろんな技法が出てきて、おもしろくなるでしょう。イノベーションを成功させようとすれば、ストーリーそのもの、またその伝え方をイノベーティブに作っていかなければならなくなるでしょう

顧客が見る価値 
図1:機能、デザイン、ストーリー
© Hideshi Hamaguchi


 

機能、デザイン、ストーリーをユーザーはどう見るか?

 

顧客価値の設計(1)  

図2:顧客は何をみて商品価値を感じるのか?
© Hideshi Hamaguchi







次に、ユーザーが機能、デザイン、ストーリーの価値をどうやって認知するかを確認しておきましょう。人間は視覚が強い動物なので、認知の順序は、やはり最初にデザインを見て、その後で機能を認知します。

図のモデルでは、山の頂上がデザインにあたります。人間はまず、この頂上の形や高さでものを理解しようとするんですね。だから、商品やサービスの 設計のデザインは、やはり覚えやすくアイコニックなものがいい。一目で目につく、人に説明しやすい、子供にも描ける、そういった記号性を持たせるほうがよいです。これは重要な設計要素です。

機能はたくさんつけてもよいのですが、性能はユーザーが一言で言えるように「かためて」おいてあげることが必要です。

ストーリーはまだ地中に埋もれていて、一般ユーザーからは隠れていて見えない状態ですが、今後5年間ほどで「ストーリー(意味性)」 を問う人が増えるでしょう。デザインと機能に、誰もが語れるストーリーを組み込まないと、ユーザー認知がうまくいかない時代になってきていると思います。この3つの整合性も重要です。デザインはよくても機能がダメでは商品価値として認知されないですね。デザイン、機能、ストーリーという3つの顧客認知を、整合性を含めて設計しなければなりません。

顧客価値の設計(2) 
図3:顧客価値の設計は、デザイン、機能、ストーリーの順で、かつ、整合性が重要
© Hideshi Hamaguchi








人間はストーリーを“作りたがっている”

monogoto濱口秀司
 
ビジネスデザインのなかでも新しい領域なので、ストーリーの定義やストーリービルディングの手法は僕自身も考え中、構築中です。バックグラウンドとして、今、物事を認知する「人間の認知構造」にとても興味を持っています。

たとえば、ある動画にランダムに選んだ音楽を合わせて流してみます。すると、まるでその動画がその曲のプロモーションビデオなのかのように、不思議なほどぴったりシンクロして見えます。同じ動画に別の曲をつけて試してみても、やはり映像と音楽がシンクロしているように見えるんです。映像と音がどちらも単調なものは例外的ですが、人は画面の切り替えがあれば音で無理にでも意味づけしようとするし、節の転調に対しては画像に意味を見い出そうするのではないか。

「ある情報を別のソースから聞いた瞬間に、その情報は正しいと思ってしまいがちである」、「2回起こったことが3回続くと、3回目に起こったことに自分なりに意味づけしたくなる」といった認知パターンも集めています。

2つの情報だけでなくほんとうはもっと傍証を集めなければ、正しいかどうかはわからないはずですが、これらをつなげて判断してしまう。たまたま3回続いただけかもしれない現象も、3回目になると前の2回とつなげて解釈してしまう。

たとえば、車で追い越しをしようとしていて他の車に邪魔されたとします。1回目はたまたまかな、と思いますが2回同じことがおこると「まただ!」 と思いますね。3回邪魔されたらそのとき「やっぱり!こいつ!」と思ってしまいますよね。こういう「意味付けしたがる」人間の無意識の認知パターンは、商品設計でも良い意味で利用できるわけです。
たとえば、1つ目の商品と2つ目の商品を同じ方向に連続して出すことでストーリー性をつくりだし、3つ目でさらに同じ方向におもしろさが増大するトリック=サプライズをしかけておくなどは、ストーリービルディングの一手法としても使えますよね。


「なぜ存在しているか、なぜ作るのか」のストーリー

ストーリーとは何かについても、経営者視点での論理を組み立てようとしているところです。ストーリーは文章で語るものなのか、そうではなく単語1 個でもストーリーなのか、ストーリーは拡張性がなければならないか。ブランドとストーリーの違いは何か。いろいろな切り口があります。

5W1Hでなく、もっとシンプルに「誰がなぜ何をどうやっているかの3W1H」が入っていればストーリーと規定してもよいかもしれません。一般的には、企画などでは何をどう作るかに注力しますが、ストーリーで重要なのは「Why(なぜ)」だと思っています。なぜ、その会社の人は朝起きて仕事をするのか。この商品は何のために存在しているのか。これだけ多くのモノがあふれた現代においては「何をどう」より「理由」のほうが共感を呼ぶ可能性があります。

クライアント企業の経営層に対しては、「ストーリーの効果」を論理的に経営面から語れるようにしておかないといけません。でなければストーリーを利用した商品企画が社内で通ることはないからです。ダイアグラムで考えてみましょう。

ストーリーの効用 
図4:ニッチマーケットで高価格、マスマーケットで低価格
© Hideshi Hamaguchi

一般的に重要な切り口は、縦軸の価格と横軸のマーケットサイズです。値段が高いものはニッチマーケットで、大衆価格のものはマスマーケットで売れるというのが一般的ですよね。同じマーケットサイズなら、デザインやストーリーが入れば価格は上がりますが、両端の超ニッチ・超低価格の市場は簡単には変われないので、図で示すように膨らむのは真ん中あたりの市場です。

デザインの効果 
図5:経営層に論理的に語れるデザインの効果
© Hideshi Hamaguchi

このプロファイルは経営的に大きな意味があります。機能だけで戦っていたら、経営的な選択肢は安い商品を大量に売るか、超高級品でニッチを狙うかの二者択一しかない。ところがデザインのパワーでこのトレードオフが緩和されます。たとえば100万人とまではいかないが10万人ほどの市場に対して、そこそこの値段でデザインがいいから売れるという戦略オプションが出てきます。

ストーリーの効果 
図6:経営層に論理的に語れるストーリーの効果
© Hideshi Hamaguchi

これにさらにストーリーを付加したときのパワーは、思いがけず高価格で大量に売れるスイートスポットが狙えるようになることです。これは機能だけで戦っている時代に比べると、まったく違うパラダイムですよね。実際、ビーツのヘッドフォンは高いのにお金のない若者に人気が高い。レッドブルも高いのに、世界中で飲まれている。これは機能・デザインだけではない、まさにストーリーの力です。

また、実務レベルではストーリーがあると、イノベーションの発想をしやすいし、ひとつひとつのアイデアが自分たちのストーリーに合っているかどうかのスクリーニングもできる。
顧客に対しては、ストーリーをつけてアイデアを出していくと認知がされやすい。複数の商品でも同じストーリーに乗っていれば、1つのかたまりとして見えてポジショニングが非常にわかりやすくなります。

まったく何もないところからイノベーションを考えるのは困難ですが、ストーリーが確定されていると、アイデアも出てきやすいと思います。たとえば 「レッドブルはなぜ存在しているか。人間の限界はさらに向こうにあるからだ」というストーリーから、いかにひとの限界に迫るかという観点で次のサービスを考えられる。「何をしているか、何を作っているか」よりも、「なぜ存在しているか、なぜ作るのかのストーリーが強い会社や商品」が、これからますますパワフルになってくるでしょう。

月曜日, 8月 31, 2015

「ブランド」がつくるライフスタイル


出版の未来は「出版社」ではなく「ブランド」にある

ここ数年、オンラインにせよ紙にせよ、ブランドが雑誌を創刊する例が増えている。雑誌によって読者のライフスタイルに影響を与えることが、大きな利益につながるからだ。


去る6月9日、アメリカのマットレス・ブランド「Casper」は、睡眠の文化をテーマとするオンライン雑誌「Van Winkle’s」を立ち上げた。あちこちにテクノロジーを散りばめた、ライフスタイルと科学的考察のちょうど中間を、編集の切り口としている。

編集部の舵を取るのは、非常に立派なキャリアをもつジャーナリストたちだ。エリザベス・スパイアーズ(編集長兼アドヴァイザー)は「Gawker」の創刊編集者で、前職は「New York Observer」の編集長だった。ジェフ・コーエン(チーフ・エディター)は、「Travel + Leisure」と「Forbes」でトラヴェル・ライターと編集者を務めた過去をもつ。マット・ベリカル(シニア・エディター)は「Maxim」出身だし、テレーザ・フィッシャー(サイエンス・エディター)は「Mic」出身だ。

興味深いのは、睡眠をテーマとする雑誌が熟練のジャーナリストたちを雇い入れたことだけでなく、この野心的な出版プロジェクトに足を踏みいれたのが、マットレスの企業だということだ。これは明らかに、次第に見られるようになってきた、出版とマーケティングの企画、そして何より重要なのがソーシャル・プラットフォームを収束するという傾向の新たな証拠だ。

いま、こうした傾向がさまざまな文脈で明らかになっているが、その代表となるのが、Snapchatの「Discover」セクションだ。このセクションは、数ヵ月前に、アプリをミレニアル世代に向けた情報とエンタテインメントのチャンネルに次第に変身させていこうと導入された。また、近年ではさまざまなハイテク企業が名高いジャーナリストを採用するというトレンドもある。

この進化をもっとも如実に表すのが、〈ブランド・マガジン〉の爆発だ。つまり、ブランドが完全に出版社の役割を演じている。こうした例は決して真新しいものでもなんでもなく、最初の例は1900年にまで遡る。新興タイヤ企業が旅行者やグルメ愛好家を対象に出版したガイドブック、「ミシュラン・ガイド」だ。

(創業者兄弟のひとりである)アンドレ・ミシュランの直観は、いまも有効だ。質の高いコンテンツは、ブランドが向き合っているターゲットのライフスタイルを提案して(そして影響を与えて)、ついには、その習慣と製品とをぴったり一致させることに成功する。
いま、そこに新しさがあるとすれば、それはジャーナリズム出身の人間が数多く関わるようになってきていることだ(その正否はともかく、これを「ブランド・ジャーナリズム」と呼ぶ人もいる)。このプロセスはクオリティを向上させ、この2年の間にレヴェルの高いさまざまなプロジェクトを生み出すのに貢献している。



Airbnbが発行するプリンテッドメディア「Pineapple」は2014年冬号から創刊した。PHOTO COURTESY OF AIRBNB
例えば、Airbnbの「Pineapple」だ。120ページの紙の雑誌に掲載されるルポルタージュは、文章においても画像においても、そのクオリティは既存の優れたカルチャー/ライフスタイル誌と遜色ない。

Marriottの「Marriott Traveler」は、アート、モード、ナイトライフ、美食の文化のフィルターを通して都市を語る。興味深く、その内容は決してありきたりなものには収まっていない。

2014年初頭に、高級品オンラインストアNet-a-Porterは「Porter」を立ち上げた。200ページの雑誌で、紙版もデジタル版も用意されている。モードのきらびやかな世界を探索して、ストアへのリンクを設置し、あらゆる瞬間に製品を購入することができる。

数カ月前には、髭用アクセサリーを製造しているブランド、Harry’sが「Five O’Clock」を立ち上げた。非常に特殊なストーリーテリングの手法──フレッシュで魅力的な文体、淡い色彩の写真やミニマルなイラスト──を用いて、男の世界を語る。

約1年前、INGグループは、「ING World Magazine」 を立ち上げた。経済的性格のあるテーマに焦点を当てた季刊の雑誌だ。専門外の読者でも読めるトーンが特徴的だ。ING Directは、イタリアでは「We Are Social」と「Voce Arancio」を出している。「節約のためのアイデア」を集めたブログで、テクノロジーや環境に関するテーマについてのアドヴァイスやヒントを提供している。

広く知られ、また評価も高いのが、Red Bullの雑誌「The Red Bulletin」だ。2005年にF1をテーマとした雑誌として創刊した。現在は、限界に向かって進んだり、あるいは流れに逆らったり勇気(と少しばかりの狂気)をもって人生に立ち向かう人々のストーリーを集めている。これはつまり、Red Bullの価値観を体現する人々だ。

2012年には「CheFuturo!」が登場した。イノヴェイションやデジタル、スタートアップの世界についての記事や考察をブログに集約させる「CheBanca!」のプロジェクトだ。
こうした全ての例は、 ブランドの製品と価値を遠回しに伝えることのできる熟練の書き手を活用するという「先進的な」アプローチを共有している。消費者は読者として扱われ、そして読者は(おそらく)消費者へと変わるのだ。

その理由を、ルーク・シャーウィン(Casperの共同創業者、チーフ・クリエイティヴ・オフィサー)はこう語っている。

「抜け目のないブランドは理解したのです。製品がその役割を果たすのは、ある特定のライフスタイルを可能にするということにおいてのみだということを。そして、このライフスタイルに影響を与えることは、製品にどのような変更を施すよりも、大きな利益をもたらすことができるのです。

 

土曜日, 12月 20, 2014

「iAd」使い方

「iAd」は意外と穴場!アプリ広告の出稿方法と効果とは

アップルの広告配信プラットフォーム「iAd」の活用方法を紹介します。

 

アプリマーケティングの全体像と施策。今回は広告宣伝

 

モバイル広告プラットフォーム「iAd」

iAdは、iOS端末に特化したモバイル広告プラットフォームです。自社アプリに広告枠を設置して報酬を受け取る「iAd App Network」と、広告費を払って自社アプリの広告を配信する「iAd Workbench」があります。


iAd Workbenchを使って出稿すると、以下のようにiAd App Networkに参加しているアプリに広告が配信されます。ユーザーが広告をタップすると、App Store内のダウンロードページに移動します。

iAd出稿イメージ


iAdは、Facebook広告のようにアプリ内の特定の画面に誘導することはできませんが、ターゲット端末やアプリのダウンロード履歴に基づくユーザーセグメントを設定して広告を配信できます。たとえば、比較的競合の少ないiPadユーザーだけにアプリを訴求する広告を配信してタブレットユーザーを伸ばす、といった施策が打てます。
 また、アプリ申請時のApple IDで出稿できるので、iOSアプリの開発者には利用しやすいアドネットワークといえるでしょう。

 

iAdでアプリのインストールを促す

iAdで広告を配信するためのツールが「iAd Workbench」です。テンプレートからバナー広告を作成し、広告クリエイティブのデザインに悩むことなく、いわゆるDIY型で広告キャンペーンを生成、自社アプリの広告を配信できます。

 以下のような特徴があります。

  • iAd App Networkに参加する世界中のiOSアプリに広告配信できる
  • 広告配信にSDKの設定は不要
  • バナー広告と動画広告を出稿できる
  • 50米ドル(約5800円)から出稿できる
  • 課金形態はCPC(クリック課金)またはCPM(インプレッション課金)、動画広告はCPMのみ
  • クレジットカード決済が基本。月額予算2万ドル以上になると請求書払いも可能
  • バナーのテンプレートが用意されているので、デザイナーへ発注しなくても広告クリエイティブを作成できる
  • クリック単価の上限とインストール単価の目標値を指定することで、目標値を超えないように自動的に最適化される(入札制)
  • 設定をしなくても自動的にセグメント配信する「自動ターゲティング」と、デバイスタイプ、性別などを細かく設定する「手動ターゲティング」がある
iAdの詳しい仕様は、「iAd Workbench Help(ご利用ガイド)」で確認できます。

 

iAdのキャンペーン設定

iAdでキャンペーンを設定する方法を順に紹介します。まず、iAd Workbenchにログイン(https://iadworkbench.apple.com/)し、出稿する自社アプリ、課金タイプ、配信したい国、配信期間を設定します。
 配信ターゲットは、「自動セグメント」と「手動セグメント」を選択できます。自動セグメントを選択すると、配 信デバイスや性別、年齢などを指定しなくても、すべてのiOSユーザーからiAdが最適な配信先を自動で判断してくれます。iPhoneとiPadでクリ エイティブを変えたい場合や、デバイス、性別、年齢で細かくセグメントする場合は手動セグメントを選択します。

 

自動セグメントの設定項目

自動セグメントでは以下の項目を指定できます。
 
■Choose the ad type(クリエイティブタイプ):
クリエイティブタイプは、横長の「Banner」と画面いっぱいに表示される「Full page」、一般的なレクタングル(350×250)サイズの「MREC」から選択できます。配信タイプ(3タイプのバナータップ後の表示)はiTunes / Video / Website / Expand adの4つがあります。

  • iTunes:App、Movie、Music、TV、Book、AudiobookのStore内のインストール画面を表示
  • Video:動画広告を表示
  • Website:Webサイトを表示
  • Expand ad:画面いっぱいに広告を表示(別途「iAd Producer」での作成が必要)
 
■Enter the line budget and bid(予算/単価):
予算とCPC(クリック単価)、CPM(1000回表示当たりの費用)を設定します。オプションで、予算内での1日あたりの上限CPCやCPM、インストール単価(CPA)の調整が可能です。設定した数値に応じて、想定の広告インプレッション数やタップ数が表示されます。

設定金額に応じて想定インプレッション数、タップ数が表示される

 

手動セグメントの項目

手動セグメントでは、自動セグメントで設定する項目に加えて、次のようなセグメントに関連する項目を設定します。

■Device(配信デバイス):
 iPhone、iPod touch、iPadのいずれか、もしくはすべてを選択します。
■Gender(性別):
 男性、女性のいずれか、もしくは両方を選択します。
■Age(年齢):
 20-24、25-34、35-44、45-54、55+のいずれか、もしくは複数を選択します。
■iTunes Store Preferences:
 iTunes Store内のApp、Movie、Music、TV、Book、Audiobookのダウンロード履歴をもとに、出稿するアプリユーザーと趣味趣向が近いオーディエンスを選択します。

iTunes Storeでは、アプリ以外にも映画や音楽、本などのコンテンツもダウンロードできます。iTunes Store Preferencesでは、これらのコンテンツのカテゴリーを基にセグメント化できます。例えば、マンガアプリをプロモーションする場合、iBooksから電子書籍をダウンロードしたことのあるユーザーに対してアプリを訴求する、といった出稿ができます。以上で配信セグメントの設定は完了です。

アプリをダウンロードしたことがあるカテゴリーを選択しセグメントする画面

■App Channels:
広告を配信するApp Storeのカテゴリーを選択します。
実際に広告を配信するアプリのカテゴリーを選択する画面

■Scheduling(スケジュール):
キャンペーンを配信する時間帯と曜日を選択します。
時間帯と曜日の選択画面

 

iAd Workbenchのテンプレートで広告クリエイティブを作成

iAdへの出稿は、デザイナーに依頼せず、iAd Workbench上のテンプレートで簡単に広告クリエイティブを作成できるのが大きなメリットです。

バナークリエイティブは、全25種類のテンプレートから選択できます。テンプレートにはテキストを入れる部分が2箇所あり、文字が入れ替わったり するようなアニメーションバナーも生成できます。文字数によって、文字が小さくなりすぎたり、意図しないところで改行されたりしますので、必ず実機でも確 認しましょう。

以下は「エキサイトニュース」アプリのバナー作成例です。
  1. ①の赤枠で囲ったテンプレート素材から、バナーにあった色合いやアニメーションのデザイン種類を選択
  2. Provide a MessageのTitleにバナーが表示された時の文言を入力
  3. Title表示後アニメーションで切り替わるMessage文言を入力
  4. タップアクション後の広告の表示タイプによって、文言を入力(今回はアプリのバナー訴求ですので、App Storeでダウンロードできると促す)
  5. 入力後プレビューが表示されるので確認
iAd Tester」というアプリを利用すると、実機で広告の表示を確認できます。


左がiAd Testerでの表示。タップして確認できる

実機でのクリエイティブの確認が終われば、配信設定は完了です。

 

エキサイトで実施したiAdでのインストール数拡大

最後に、エキサイトで実施したiAdのキャンペーン事例を紹介しましょう。エキサイトでは、注力している「ニュース」アプリのインストール数を拡大する目的で、iAdに出稿しました。iAdが各デベロッパー単位で出稿が可能になった2013年11月に実施したキャンペーンですので、現在とは状況が異なりますが、参考にしてください。

キャンペーンの実施当時、ニュース系アプリでの業界目標CPAは、良くて200円という相場がありました。そこで、CPAを200円に設定し、どのような結果が出るか、あえてセグエメントをかけずにテストを兼ねて配信しました。

設定したセグメント情報は以下のとおりです(手動セグメントで設定したが、すべてを選択しているので自動セグメントでも可)。

  • Device:ALL
  • Gender:ALL
  • Age:ALL
  • iTunes Store Preferences:ALL
  • App Channels:ALL
  • Scheduling:ALL
  • Banner Type:Banner
  • Budget / bid:$20,000/月(iPhone & iPod touch=$10,000 / iPad=$10,000、CPC=$0.3、CPA=$2.00)

以下がキャンペーンの結果です。セグメント配信はしていませんので、全体の結果になります。


目標CPAの200円($2.00)を大きく下回り、獲得件数も1万ダウンロード以上とかなり良い結果になりました。

もちろん、アプリによっては、CPAが目標を上回ることもあるでしょう。その場合は、年齢などのセグメントを調整したり、クリエイティブを調整したりして、複数のキャンペーンを実施し、効果の高いキャンペーンに予算を投下するなどの戦術を練っていく必要があります。

iAdは他の広告配信プラットフォームと比べると、まだまだ出稿クライアントが少ない媒体です。テスト的な意味合いで出稿してから効果を検証し、効果が見合えば大量投下していくと、より良い結果が出るでしょう。

iAdもFacebook広告同様、クリエイティブの検証やセグメントの効果検証を常に実施し改善します。ユーザーは同じクリエイティブが同じ位置が表示されると、すぐに慣れてしまいます。一時的に効果が良くても、定期的に効果を検証し、改善していきましょう。

 

火曜日, 8月 26, 2014

オキュラスリフトでサーフィンの擬似体験

オキュラスリフトで丘サーファー:3D実写映像で誰でも大波に乗れるチャンス到来!



8月20日(水)より、オキュラスリフトでサーフィンの擬似体験ができるキャンペーンがUGG® Australiaの一部の店舗で開催される。世界中のサーファーたちが愛用するUGGの「シープスキンブーツ」を履いて、店の中で「丘サーファー」になってみよう!


テック界で話題のVRヘッドセット「オキュラスリフト」とUGG Australia(アグ オーストラリア)の看板商品「シープスキンブーツ」には共通点がある。それは身につけた瞬間に興奮する体験が得られることだ。つい友人にも薦めたくなるものだが、実際に体験しないと言葉だけではなかなか伝えづらい。そんなところまで似ている。
8月20日(水)より、UGG Australiaは一部の直営店にて、オキュラスリフト・サーフィン体験ができるキャンペーンを開始。オキュラスリフトを活用した店頭プロモーションはアパレル業界では初の試みで、3Dの実写映像(プロサーファーが2台の「GoPro」を装着して撮影)を使用したものとしては世界初の事例となる。
UGG 3D REAL SENSATION
キャンペーン期間:
8月20日(水)〜10月28日(火)
開催店舗一覧:
8/20〜10/28(実施期間は店舗により異なる)|渋谷、大阪、ダイバーシティ東京プラザ,ららぽーとTOKYO-BAY、テラスモール湘南、仙台PARCO、広島PARCO
9/6(「Fashion’s Night Out」開催時間のみ)|表参道ヒルズ
9/17〜24|ルミネ新宿
9/24〜30|マークイズみなとみらい
10/15〜26|藤井大丸
※キャンペーン詳細はこちらまで
キャンペーンでは日本への出荷が先日開始されたばかりの最新型の「オキュラスリフト DK2」を導入する。以前の開発キットと比べて画面の解像度が向上したので、まるで本当に海でサーフィンをしているかのような臨場感を楽しむことができる。
Classic Mini Deco/ 26,000円(税抜):Black(左)Metal(中)Chestnut(右)

「シープスキン」が快適な理由

WSJによると、「UGG」と呼ばれるブーツは、UGG Australiaの専売商品ではなく、実は1920年代からオーストラリアに存在していた。
当時オーストラリアの羊毛刈りを職業とする人たちが履いていた「Ugly Boots」がその発祥とされていて、その後、第一次世界大戦で戦闘機のパイロットたちが上空で体を暖かく保つために履いていた記録も残っている。
UGG Australiaの創業者、ブライアン・スミスは、オーストラリアのサーファーが海からあがった時に足を冷えから守ってくれる、快適なはき心地のシープスキンブーツに魅了され、アメリカのサーファーにも広めようと考えて、1978年に南カリフォルニアでブランドを設立した。
UGG Australiaの履き心地の秘密は、シープスキンにある。厳格な社内グレーディングシステムを採用し、シープスキンの中でも最高級品質とされるもののみを厳選している。グレードAと呼ばれるツインフェイス・シープスキン(内側がフリース地、外側がスキン地)は、通気性に富んでいるため、湿気を逃がし、空気をスムーズに循環させ、1年中快適に利用できるブーツとなる。

もともとはサーファーに人気のブランドだった

UGG Australiaは、2000年代に入って、多くのハリウッド・セレブリティが愛用し、ファッション誌でも頻繁に取り上げられる女性に人気のブランドへと成長したものの、もともとはカリフォルニアのサーファーたちの間で盛り上がっていたブランドだ。
いまでは約8割の顧客を女性が占めているが、実はメンズの売上シェアが世界で最も高い国は日本なのだという。短い丈の「Classic Mini」のメンズモデルを販売しないかと本社に提案し、アジア限定で発売したところ大ヒットを記録。さらにアイ コムデギャルソン ジュンヤワタナベとのコラボ限定モデルは、ファレル・ウィリアムズが履いたことで、アメリカでも話題になった。こうした日本の先進的な取り組みに、今後も本社は大きな期待を寄せているようだ。
今回のオキュラスリフトのキャンペーンは、2014Fallブランドキャンペーン「This is UGG」の傘の元に、メンズ向けの日本初の新しい取り組みとして、本社からの注目度も高いという。
UGG オムニチャネルジャパン ヴァイスプレジデントのゲーリー・福元は、オキュラスリフトの体験はUGGのブーツと通じるものがあるのだと語る。
「オキュラスリフトを身につけると、多くの人は叫んでしまうほど興奮します。UGGのブーツの履き心地を初めて体験する人も、同じです。その心地良い感触に声を上げて興奮するんです。もっとも、叫びだすほどではないですが」
ゲーリー・福元 | Gary Fukumoto
デッカーズジャパン/UGG オムニチャネルジャパン ヴァイスプレジデント。カリフォルニア州ハンティントンビーチで生まれ、幼少期よりサーフィンを楽しんでいた。GAP、Coach、Nikeの日本法人リテール関連部門を歴任し、2013年より現職に就任。これまで携わった企業のなかで、デッカーズだけが「Fun」をコアヴァリューのひとつとして掲げているという。
UGGメンズ売上シェア、実は日本が世界一

ゲーリー・福元は昔から大のアップルファンで、彼の自宅には、ほぼ全種類のMac、iPod、iPhone、iPadが揃っているという。

日本の先進的な「オムニチャネル戦略」

ゲーリー・福元は、UGGのブーツの快適な履き心地に惚れて、また本社の日本に対する期待に応えるために、いくつかのメジャーな企業からのオファーを断ってまでUGGに転職したのだという。「ほかの企業、ブランドよりもUGGの方が自分でもやれるイノヴェイションがたくさんあると思ったんだ」。
「渋谷店、ららぽーとTOKYO-BAY店、そして8月21日にオープンする池袋東武店では、世界でもトップレベルのデジタル化を実現しています。『バーチャルコーディネートミラー』を導入し、お客様は店舗でお好きなUGGを履いてそのミラーの前に立ち、ミラー上にあるさまざまなお洋服とのコーディネートを確認できます」(福元)
いま福元は、実店舗とオンラインショップの枠組みを取っ払い、スタッフ全員がすべての販売チャネルを統合的に扱う取り組みを推進している。顧客の購入までの流れをより快適にするために、顧客自身が各店の在庫状況を確認し、自分に合ったショッピングスタイルが選択できるシステムを用意していて、年内にはスタートできるという。
「最近の顧客は、店に行く前にオンラインで必ず気になる商品をチェックします。それをもっとシームレスな体験にしたいと考えています。特にフットウェアは、実際に履いてみないと購入の決断はしにくいものです。UGGのいちばんの強みは『Feels Like Nothing Else(比べようのない心地よさ)』なので、それを体験してから買ってほしいという思いもあります」
福元は自身が愛するアップルストアを超えるような、先進的な戦略を日々UGG Australiaで模索している。

水曜日, 12月 11, 2013

ジョブズとゲイツ。

ジョブズとゲイツ。アイデアを実現するマーケティング15年

 

先週は関西大学で、昨日は慶應SFCで、enchantMOONについて学生にプレゼンした。
 関西大学の方ではかなり活発な質問や意見交換があったけど、慶應の子たちは恥ずかしいのか自分からはなかなか質問をして来なかった。聞くと、わりと面白い意見を持っているんだけど。

 関西大学の米澤准教授も、慶應の増井教授も、どちらも僕の大切な友人で、科学者だ。
 先月はMITに行って来て、ついでに先週は岐阜県で学会も見て来た。

 最近、にわかにお勉強づいているのは、僕がいま、新しいアイデアを形にする仕事に取り組み始めているからだ。

 情報を収集し、分析し、予測し、計画する。

 綺羅星の如く輝く才能を持った科学者たちのアイデアは、素晴らしいものだが、しかし市場ではなく学会の想定する「好ましい世間」を想定している。

 こうした分野でやたら多いのは「高齢者向け」「バリアフリー実現」といったお題目で、高齢者向けの研究が本当に高齢者に向けて作っているわ けではない。高齢者にも使えるならそれ以外の人にも使えるだろうというだけの話だ。ただし「面白いから」では論文にならないので、あえて「高齢者向け」と いう社会貢献っぽいキーワードとアングルを用いてるに過ぎない。


 想像力がないとこうした研究発表から現実の製品に繋げる発想を生み出すのは難しい。
 
 こうした様々なアイデアの種から、実際に製品を創りだす作業をマーケティングと呼ぶことにしよう。

 マーケティングという言葉は、多くの場合、酷く誤解されている。

 「アンケート調査ですか?」

 という答えが返ってくることが多い。
 しかし「マーケティング」は「マーケット」にingをつけたもので、動名詞だ。日本語にむりやりすれば「マーケットする」であり、これはマーケット(市場)を創りだすことに他ならない。

 僕が「科学的アイデアの製品化」を開発とは呼ばず、マーケティングと呼ぶのは、それが本質だからだ。

 マーケットが存在しないところに向けた製品は、製品とは呼べない。
 あるモノが、製品と呼ばれるためには、マーケットがなければならないのだ。

 つまり、その製品のための市場を自分で創りだす必要があるのである。
 それを僕はマーケティングと呼んでいるわけだ。


 マーケティングの基本は、ニーズの発掘である。
 ニーズを発掘するためにアンケートが用いられることがあり、これがマーケッター(マーケティングする人の意)以外の人に見えるマーケティングの数少ない特徴であるため、マーケティングがアンケート調査と誤解されることがある。

 しかしそれはマーケット・リサーチ(市場調査)であって、マーケティングの前段階にあるものだ。

 僕は今まで様々な製品をマーケティングし、売って来たが、アンケートをとったことは一度も無い。
 
 アンケートをわざわざ自分でとる必要はないし、アンケートによって人々が内に秘めた真の欲望を読み取ることはほとんど不可能だからだ。

 マーケティングとは、今存在しないニーズを発掘することが肝要である。

 たとえば、1999年、携帯電話は白黒で、やっとインターネットに接続されるようになった。
 それ以前にNTTドコモが行ったアンケート調査では、携帯電話のインターネット機能へのニーズは3%程度しかなかった。消費者は携帯電話にインターネットが接続されることの本当の意味を全く理解していなかったのだ。

 アンケートに答えるときの心理状況と実際の購買行動の乖離という問題もある。
 例えば、「かつて10億円したクレイスーパーコンピュータ並の性能のCPUを持ち歩きたいか?」と聞いたら、そんなものはいらないと誰もが思うだろう。しかし現世代のスマートフォンは、 全てその性能を満たしている。矛盾するのだ。それどころじゃない、今のコンピュータは、たとえばCPUが非力と言われるenchantMOONでさえ、ク レイのスーパーコンピューターより高速なのだ。しかしユーザはそれでは満足してくれないのである。もっといい世界を知ってしまったから。

 これだけの欠点があるにも関わらず、アンケート調査が実施されるのは、少しでも実態に近い数値を知っておきたいからだ。しかしアンケート調 査の結果を重視していたら、革命的な商品は作れない。アンケート調査をするなら、設問の設定が何よりも大事で、内なる欲望を暴き出すようなものでなければ ならない。

 アスキー総研が発行しているMCS(メディア・コンテンツ・サーベイ)はそうしたアンケート群の中ではかなり優れた統計である。

 これはユーザに「○○が欲しいですか?」なんていうマヌケな質問はしない。
 「あなたが見てるテレビ番組はどれとどれですか?」と聞くだけだ。

 しかし、あるテレビ番組を見ている人が、別のWebサイトを見て、さらにある漫画と映画を見ている場合、その人が求めている内なる欲望を想 像することができる。実態を伴った人々を具体的に想像することができるような優れた市場調査と言えるだろう。しかしMCSそのものはマーケティングではな い。あくまでもマーケティングのためのツールである。

 アンケート調査の塊で作られているのが日本のいわゆるガラパゴスケータイと呼ばれていた頃の携帯電話群だ。日本ではマーケティングという言 葉があまり正しく理解されていないことが多い。大企業ほどその傾向が強い。それは、今大企業になってしまっている会社では、本質的なマーケティングを意識 的に行わなくても、高度経済成長期の景気でものがそこそこ売れるようになってしまったからだ。

 いわば無意識のマーケティングが行われていたのである。しかしアンケートに頼り切る世界からは決してiPhoneのようなものは生まれない。

 先月売れた携帯電話の75%がiPhoneだったそうだ。

 もはやiPhoneは国民的商品と言って良いだろう。

 iPhoneを創りだしたスティーブ・ジョブズは鏡の前でマーケティングしてると陰口を叩かれていた。主にMacintoshを作った頃の話だけれども。

 たとえば初代のMacにはキーボードにカーソルキーがない。
 なぜならMacはGUIを採用した初めての一般向けPCであり、Macにおいて位置を指定する方法はマウスを使う、というコンセプトを徹底していたからだ。

 また、シンプルな操作を目指してマウスにはボタンを一つしか認めなかった。


 こうした過剰な細部への拘り、頑固なポリシーは、とても大きな批判を浴びた。
 Macの売れ行きが不振だったのも仕方が無い。最初こそ売れたものの、しばらくすると売れ行きが鈍り始め、ついには大量の在庫を抱え、赤字となった。

 Appleを追放されたジョブズが次に開発したNeXT CUBEにはマウスボタンが二つある。ジョブズはすぐに誤りに気付いたが、興味深いことにAppleは、自ら追放したジョブズの言った「ボタンは一つだけでいい」という教条を守ろうとした。そしてとても奇妙なことに、MacOSは右クリックをサポートした。サードパーティの マウスは右クリックが使えるようになった。けれどもApple自身はジョブズが復帰してマジックマウスを発表するまで、ついぞ右クリックを採用しなかっ た。ちなみにマジックマウスですら、右クリックではなく人指し指を浮かせた状態でのクリックという、かなり変則的なクリックをしなければならない。

 自ら架した教条が首を絞めている例である。ただしいいところもあった。タッチセンサーをマウスに適用したので、Microsoftのホイー ルよりも自由度の高い操作性を実現できた。ただしMicrosoftがマウスにホイールを採用したのはマジックマウスが発売される13年も前だが。

 ここにも教条主義的なAppleの考え方と、実利主義的なMicrosoftの考え方の対称性が見て取れる。
 ジョブズは一度決めた哲学を出来る限り守ろうとするが、ゲイツは哲学に拘らず、手っ取り早く実現できる方法を再短時間で成し遂げる。84年の時代では、MacintoshのようなGUIは時期尚早過ぎたし、96年にWindows95が成功した時代では、一つボタンのマウスに拘泥するAppleはいかにも愚鈍に見えた。ゲイツはマウスに機能を次々と追加し、マウスの革新を起こした。どちらが正しいというわけではない。どちらも正しいマーケティングを行っていた。

 教条に共鳴する顧客を捕まえるAppleと、実利を求める顧客を満足させるMicrosoft。その結果、Appleは最後は教条主義によって窮地に陥いることになる。本当の天才であるジョブズの帰還を待たなくてはならなくなった。

 初代Macintoshと同時期に発売されたWindows1.0はどうだっただろうか。
 全く、語る値打ちも無いと僕は思う。

 中途半端で、惨めな代物だ。エンジニアだけが集まって作ると、こういうものになってしまうという見本だったと思う。もちろんWindows1.0にも同情すべき点はある。なにしろ当時のIBM PCときたら非力な16ビットCPUしか持ち合わせていなかったのだ。ビットマップ処理だって満足にこなせない。パソコンとしては大袈裟な68000を採用したMacと同じようなことをするのはとても困難だっただろう。


 Windows1.0は、マーケティングに失敗した。と、僕はおもう。誰も欲しがらないものをMicrosoftは作ってしまった。めちゃ くちゃな批判を浴びようと、Macintoshは喝采され、一部の人に熱狂的に受け入れられた。その熱狂が、批判的な人々も呼び寄せることになった。

 ビル・ゲイツはWindows1.0を真面目に使ったことが無かったのだと思う。実際、まともに使えたとは思えなかった。当時のMicrosoftはMS-DOSというコマンドラインのOSがヒットしていて、そのマーケティングを行ったのはもっぱらIBMだったから、Microsoftにマーケティングの経験はほとんど無かった。

 ジョブズは自分の創りだした製品を徹底的に使い、改良を重ねて言ったが、Microsoftの開発者がドッグフードを食べる(自社製品のβ 版を実用的に使うこと/バグや足りない機能があるとストレスが溜まるためユーザの気持ちを理解できる)習慣を得るのは、1991年まで待たなければならな かった。そう。ゲイツは鏡の前でマーケティングするよりも拙い方法を採用していた。彼らは想像上の顧客に対してマーケティングしていたのだ。そしてただ PCでウィンドウシステムを動かして遊んでみたいだけの顧客などどこにも存在しなかったのである。


 この「想像上の顧客に対してマーケティングしてしまう」という現象は、ゲイツだけを責めることは出来ない。アンケート調査に頼った日本メー カーのマーケティングも、だいたい似たようなものだ。アンケートとは統計に過ぎないのに、アンケートから想像される「理想の顧客像」を「ペルソナ」と呼ん で想定し、その人が買いそうなものを作る、というやり方は、未だに日本はもちろん世界中で用いられているマーケティング手法だ。

 しかし、ペルソナによるマーケティングは、実際に実態を伴った人物にインタビューすることでしか本当の意味で成功できない。もしくはペルソナが偶然にも企画者自身である場合しか有効に作用しないだろう。

 これは例えば漠然と女の子にモテようとする行動と似ている。
 平均的な女の子を想像して、その子にモテようとどれだけ自分を飾っても、現実の女の子にモテるようには決してならない。そのようにして生ま れた都合の良い人間像は、キメラのようなものであり、実態とかけ離れている。当たり前だが、人間は一人一人が個別のパーソナリティを持っている。パーソナ リティを構成する全ての要素、つまり容姿、趣味、性格、教養、家族構成といったものは互いに密接に連動しており、二つと同じものはない。ある行動を好む人 が、同時に別の行動を忌避するのは人格に原因がある。にもかかわらず、頭の中で実際には存在しない人物モデルを作り上げ、都合がいいようにところどころ修 正を加えた人間は、結局のところどこにも居ない人間ということになる。

 どこにもいない人間に対してものを作っても、現実の人間に共感を呼べる可能性はほとんどゼロに等しい。それならばせめて、自分が心から欲する製品を作った方が、つまり鏡の前で自分一人でマーケティングしたほうが遥かにマシだ。

 製品開発の現場では、様々な無責任な意見が飛び交う。これはゲームでもデバイスでもなんでも構わない。ある成功した製品の一部分の要素を 使って別の成功した製品のまた別の要素を組み合わせても、全体としては誰が欲しいものになるのかわからない。総合的に自分が心の奥底で欲するものを、欲す るような形にしてまとめあげなければならない。

 失敗例を挙げれば、NTTが作ったLモードがある。

 あれは見事にまずいものだった。失敗のお手本のようなものだ。

 子会社のドコモがiモードを成功させたので、同じ理屈で固定電話にもインターネット機能を組み込もうという安易な発想。家庭なら主婦がメインユーザーになるだろうから、主婦を責任者にして企画を立てさせようという無責任な人事。

 iモード成功の立役者がリクルートのとらばーゆ元編集長だから、ターザンの編集長を連れて来ようという、何もかもがiモードの劣化コピーのような人事体勢。誰一人として、それを真面目に家庭で使う人間がいるのか、家庭にどのような情報ニーズがあるのかをリアルに想像できず、それに巻き込まれたメーカーやコンテンツプロバイダーは大変な被害を被った。巻き込まれる側も自業自得だと思うけれども。

 最悪なのは、Lモードに加入するためには、なんと郵便を使わなければならないという制度上の問題だった。どこの誰が必要もないサービスに加 入するために封筒に個人情報を書いてポストに投函するのだろうか。NTTが主導すればみんな従うはずという消費者を舐め切った製品だったと思う。ちなみに 僕は仕事でLモードに加入したが、郵送した書類に対する返送が、なんと手書きで帰って来た。なかなか返って来ないと思ったら宛名をわざわざ手書きしていた のだ。消費者の利便性よりも、社内の雇用創出を優先していたのだ。これはダメだと思った。

 しかも、信じられないかも知れないが、これは2001年にスタートしたサービスなのだ。
 21世紀に固定電話向けの情報配信サービス。既にWindowsXPがあり、OSXがあるのに、誰がこんなものを使いたがるだろうか。利用 するには、なんと時間制従量課金されるのだ。ADSLがとっくに普及していて、おじいちゃんが「インターネットください」と電気店に現れるようになってか ら既に5年も経っていたのに。


 結局、「主婦はPCを扱えるはずがない」という妄想上の顧客に向けてマーケティングをしていたのである。アンケートのとりかたもまずかっ た。その妄想が先にある以上、「インターネットをもっと手軽に使えたらいいと思うか?」と聞けば、「はい」と答える人間が圧倒的だろう。でもそれは、固定 電話に劣化したiモードを載せることではない。似たようなことがしたければ、遥かに便利で料金も安いiモード携帯を既に数千万人が使っていたと言う時代で ある。


 話をもとに戻そう。

 ゲイツが本当に偉大だったのは、Windows1.0のマーケティングに問題があったことに気付いたことだった。Windows1.0の売 りは、安いということしかなかった。しかしいくら安くても、必要のないものを人は買ったりはしない。仮に買ったとしても、毎日使ったりはしないのだ。当た り前である。

 そもそもキラーアプリケーションがないのにOSが売れるわけが無いのだ。しかしゲイツがこれに気付いたのは、偉大な飛躍と言えた。

 Macintoshは批判を受けながらも熱狂的なユーザーやサードパーティが既に様々なアプリケーションを出していた。Microsoft でさえもAppleから見れば無数にいる熱心なサードパーティのひとつに過ぎなかった。MicrosoftがMacintoshに展開して成功していたの は何と言ってもExcelだった。Macintoshのキラーアプリケーションを作っていたのはMicrosoft自身だったのだ。

 そこでExcelをPCで動作させるためにWindowsを機能拡張した。それがWindows2.0とExcel2.0である(Excel1.0はMacintoshにしか対応していない)。

 彼らはマーケティングを強く意識し、Excelだけでは不十分だと気付いた。そこで開発したのがWindows3.0とWindows3.0に対応したWordとExcel、そしてPowerPointだった。それらをまとめてMicrosoft Officeとして売り出した。CPUも32ビット化してようやくMacintoshと同じ土俵に登ることが出来た。


 これで初めて、Windowsの上だけで何かしらの仕事めいたことができる環境が整った。
 そしてついに、Windowsは成功への階段を登り始めたのだ。

 Windowsが誕生してから、ブレイクするまで、実に5年の歳月が掛かった。完全にMS-DOSを置き換えるまでには15年を要している。ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズの二人に共通していたのは決して諦めないことだった。

 面白いのは、この二つの製品が全く同じ科学者のアイデアから派生したものであるということだ。
 それがアラン・ケイXerox Altoだった。

 けれども、それをそのまま製品化することはできなかった。マーケティングされていないからだ。
 そこで二人はそれぞれ自分のやり方で、ケイのアイデアをマーケティングすることを模索した。面白いのは、ジョブズはゲイツよりもより本質的にケイのアイデアを理解していたことだ。

 ジョブズは後にAppleを追放されたことを「人生で最も良い経験だった」と語っているが、僕はなかなかその真意が掴めなかった。

 しかし今振り返ってみると、彼はAppleを追放されるまで、ケイの真意に気付かなかったということを言っているのかも知れない。追放がなければNeXTが生まれることもなかったし、NeXTがなければOSXやiPhoneの成功はもっと有り得ない。


 ジョブズの1995年のインタビューでは、Xerox Altoのうち、最初はGUIに目を奪われて、そのことばかり考えていた、と述懐している。しかしNeXTを始める時、自分が重要なものを見逃していたことに気付いたのだそうだ。それがオブジェクト指向とネットワークだった。

 その前提で1985年のNeXTを振り返ると想像を絶するほどモダンなコンピュータである。今から28年前のコンピュータとはとても思えない。イーサネット(LAN)内蔵、オブジェクト指向言語Objective-Cを採用し、GUIでプログラム開発可能なインターフェースビルダー装備、OSは分散型UNIXのMachをベースとしたDarwin

 今日、増井先生の授業で、「なぜジョブズはObjective-Cを採用したのだと思いますか?」と聞かれた。興味深い視点だけれども、僕はこう答えた。「本当はSmalltalkを使いたかったけれども、AppleやXeroxとの関係があったのと、既に受け入れられていたC言語をベースにした方がいいと思ったのでしょう」と。NeXTはXerox Altoを本当の意味でマーケティングし、製品にしようとしたものだった。


 ただ、ジョブズはNeXTのマーケティングに失敗した。
 NeXTはうっとりするほど素晴らしいものだと誰もが認めるマシンになったが、あまりにも高価なため、一般にはほとんど売れなかった。気軽に買えるようなものでもなかった。

 窮地に陥ったジョブズが行った最後の、そして最高のマーケティングは、NeXTのラベルを貼り替えるというものだった。

 そう。Mac OSXという名前に。

 Mac OSXというラベルに貼り替えられたNeXTは、凄まじかった。しかしあまりにもモダンなため、やはり最初は消費者から諸手をあげて歓迎されたというわけでもなかった。これはさらに洗練され、今やiOSと呼ばれる、世界で最も普及したOSに昇華している。

 ジョブズがNeXTを成功させるまでに、15年も要しているということになる。
 ゲイツはMS-DOSとWindows3.0の成功によって、自分が何を見落としていたのか気付くのが遅れた。


 1995年にようやくWindows95がイーサネット(LAN)に標準対応した。NeXTに遅れること10年。
 今思い出しても信じられないことだけれど、Windows3.0まではインターネットを使うには誰かが使ったシェアウェアを インストールして使わなければならなかった。しかしシェアウェアはインターネット上にあり、インターネットに接続できない状態でインターネットに接続する ためのソフトをインターネットからダウンロードしてこなければならないという馬鹿げた難問に挑まなければ、誰もWindows上でインターネットを使うこ とが出来なかった。

 NeXTは当初からインターネットをサポートしていたため、そこでWWWとHTMLが発明された。
 世の中にMacOSとWindowsしかなかったら、我々はWWWを手に入れることは無かったかも知れない。それはとんでもないディストピアだ。

 プログラミングがしやすかったので、テキサスのジョン・カーマックはNeXTを使って後にファースト・パーソン・シューター(FPS)と呼ばれることになるゲームのプロトタイプを作り、それはMS-DOSにポーティングされ、DOOMと呼ばれるゲームになった。今や世界で売れているゲームの大半はFPSだ。20世紀におけるゲームと呼ばれるもののスタイルを決定的なものにした。


 彼らがこの間、血眼で取り組んでいたのは、まさしくマーケティングそのものだった。
 どのような状況になっても決して挫けず、アイデアを洗練させることを継続した。

 そうしなければ、人類は進歩できないからだ。

 想像してみよう。
 もしゲイツが諦めていたら? もしジョブズが道半ばで破産していたら?
 決して今のような世界にはなかっていなかったはずだ。

 増井先生が夕飯のとき、こんなことを言っていた。

 「おれ、気がつくとUNIXとさ、Emacsと、TeXしか使ってないんだよね。それってさ、みんな凄い偉大な人たち、偉人が作ったモンに生かされてるってことなんだよね。偉人って凄いなーって、ほんと思ったんだわ」

 それを言ったら僕だって毎日増井さんが作った、iOSのIMEで大量の文章を打ち込んでる。
 携帯電話の時代は、増井さんが作った予測変換で、やっぱり毎日大量の文章を打ち込んでいた。

 偉人が作ったものだから使っているのではなく、みんなが当たり前のように使うものを作ったから偉人なんだと思う。増井さんは、僕の中では既に充分、偉人だよ。

 科学者は新しいアイデアを考え出す。
 しかし、それを誰にでも使えるような形にできるのは、我々、起業家だけだ。


 どちらか一方でもいけない。
 科学者と起業家は手を取り合って一緒に人類を前進させる使命を持っているのだ、と思った。

金曜日, 5月 31, 2013

市長もご覧ください「風俗女性の素顔に世界が仰天!」 タブーに切り込む本音と問題提起|メモ

 

市長もご覧ください 「風俗女性の素顔に世界が仰天!」

 

タブーに切り込む本音と問題提起 

鶴野 充茂

 

まさか当の本人も、「本音」では、こんな展開になるとは想像もしなかったことでしょう。

橋下維新の会共同代表の一連の発言は、米軍兵士の性犯罪防止策としての風俗活用という投げかけが、従軍慰安婦の問題に発展し、国家の意思として強制的になされた行為か否か、過去の日本政府の見解と異なるのかどうか、といったテーマに大きくシフトしました。

この問題自体に関しては、数多くの注目すべきポイントがあると同時に、成り行きをチェックしていないと、「なぜ、今、こんな話になってるの?」と理解が遠のいてしまっている人も数多くいるはずです。

この金曜動画ショーでは、効果的なコミュニケーションの観点から、身近な状況でも活用・応用のできるヒントを考えるきっかけとして、注目のネット動画を見ています。

さて、今回の騒動から得られる、私たち自身が役立てられる、コミュニケーション上の教訓は何でしょうか。

今回は、タブー視されるような扱いの難しいテーマに関する問題提起や社会啓発に参考になりそうな動画を紹介します。

ネット動画はアイデアの宝庫。それでは今週もいってみましょう。

 

社長が訴える「危機感の共有」はうまくいかない

今回の橋下さんの発言で最初に注目したのは、「建前論じゃなくて、本音で話しましょう」という言葉でした。後日、この時の気持ちとして「いつまでたってもなくならない米兵の性犯罪をなんとかして止めたかった」と語っています。

おそらくこれは彼の「本音」でしょう。

こうした発言を聞きながら、私がコミュニケーションのアドバイザーとしてお手伝いするさまざまな企業の経営者が、共通して発する言葉を思い出していました。それは、

 「危機感を共有したいんですよ」

という言葉です。

経営方針説明や社員総会などでトップとしてのメッセージを発信します。そんな場面でスピーチやプレゼンのストーリー作りを一緒にやっていると、頻繁に登場するのがこの言葉です。

 「危機感を共有したい」

間違いなく、これは「本音」です。そして、当然ながら、社長はその「危機感」を強く持っています。一方で、社員は「危機感」が足りないと感じている。だから、「危機感を共有したい」と言います。

ところが、次の質問をすると、明確な答えが返ってこなくなります。

 「仮に、危機感を共有できると、どうなりますか?」

もちろん、期待としては、もっと効率的に、効果的に仕事に取り組むようになるということなのでしょう。やり方を大胆に変えていくというのもあるかもしれません。とにかく、結果としては成果が上がる。ビジネスがうまく回りだす。そういう期待です。

ところが実際には、「危機感を共有する」と異なる現象が起きます。

若くてフットワークの軽い社員から順に、転職活動を始めるのです。危機感だけを共有すれば、社員は辞めるのです。

社長にとっては「危機感を共有する」ということが、社員としては「不安を与えられている」と受け止めます。この会社にいて大丈夫だろうか、と不安になるのです。

もちろん、社員の中には責任感の強い人もいて、「自分が何とかしなければ」と思うこともあるかもしれません。ただ、そういう人たちの行動を期待するのであれば、行動ができるように、活動の受け皿を用意してあげた方がベターです。

社長が危機感を共有したくなる頃には、すでに現場では危機感を感じたとしても、どうにもならなくなっていることが多いからです。

第三者的に考えると、これはごく自然な流れなのですが、自分の会社のことになるとこれが見えなくなります。なので、こうアドバイスしています。

 「危機感を共有するよりも、方針、ビジョンを共有しましょう」。

 

歴史認識よりも現状認識から

ただ、危機感を共有すること自体は決して間違いではありません。それが共通理解、力を合わせて動き出す時の立脚点と考えれば、むしろ必要な要素です。

しかし問題は、危機感を浸透させることからはじめると、次に進むのがたいへんだということです。

そしてこれがまさに、今回の問題で言う「本音」であり、次の展開で注目された「歴史認識」です。

意外と知られていませんが、米国などでは「歴史」のことを「メモリーポリティクス(Memory Politics、記憶の政治)」という呼び方をすることがあります。

歴史は1つしかない、というのは大間違いで、事実をどう認定するか、どう解釈するか、どこに注目するかでまるでその「事実」が違ってくることから、歴史自体が政治化しているわけです。

歴史認識の難しさは、まさに過去について合意ができないところにあります。みんなそれぞれに大切に思っている「事実」があるからです。

それを橋下さんの場合、風俗は「合法」ということと、「よそもやっている」ことだけを事実だと受け取られるように言いきってしまいました。それで 一気に反発が出ました。

ここで注目したいのは、その反発を細かく見ていくと、「それは違う」とは誰も言ってないということです。皆が言っているのは、「(あなたは)分かってない」ということです。

認識で合意できるのは未来と現在だけです。なので、一般的なリーダーのメッセージ発信は、歴史認識よりも現状認識からスタートします。

現状認識は、今、問題だと注目するテーマとそのポイントの整理です。この問題について、今、考えるべき時だ、という共有を丁寧にやります。

そのヒントになりそうな動画をここで1つ見ていただきましょう。

 

「あの問題」を「自分たちの問題」と認識できるように



[Belgian girls forced to labour at school]





これはどういうストーリーかと言いますと、まず、学校で男子と女子に分かれます。

男子は普通の授業を。女子には、特別なプログラムがあると伝えます。

「えー、何それー」。教室に響き渡る声。ちょっと懐かしいですよね。

ところが、女子に待っていたのは、食べ物の準備であり、トイレ掃除であり、つまり一言で言うと、労働です。授業から完全に引き離され、ずっと労働が続きます。そして、折りに触れて繰り返し、こう言われます。「あなたたちは女の子だからね」

たまらなくなった女子たちは結託してストライキを起こします。たった1時間7分終わったところでです。

女子たちは集まって「どうしてこんなことをしなきゃならないのよ」「これじゃまるで奴隷だわ」と話し合っているところで、種明かしがあります。

「世界には、女の子というだけで教育を受けられず、ひたすらこんな風に強制的に労働に就かされ続けている子供たちがいる。7500万人もだ」と。

「私たちは、女の子にも教育が必要だと考えている」

「君たちは、そんな不幸な状況におかれている子どもたちを助けたいと思わないか?」

そこで「おー!」とみんなが声を上げているのです。

テーマの重要性を認識してもらう、問題意識を共有するというのは、その問題が根深ければ根深いほど、一筋縄ではいきません。頭で理解できて、あるいは、すでに聞いたことがある問題なら余計にそうです。

そこでまず、その問題自体の重要性を伝える際に、それが自分たちの問題であると感じてもらう。これが問題意識の共有に必要不可欠なステップです。

 

認識を変えるには新しい事実が不可欠

難しいテーマに切り込むときに必要なのは、「なぜ、今、この問題なのか」という情報です。

たくさん情報がある中で、たくさんやることがある中で、山積みの課題がある中で、なぜこのテーマを今選んで、深く語ろうというのか。

これが、聞き手が次に知りたい情報であり、熱く語られれば語られるほど、疑問が大きくなってくる(つまり先に解決されないと重要なメッセージが頭に入ってこない)ポイントなのです。

難しいテーマの場合、今までは知らなかったような新しい事実が必要です。

最近になって判明したことや、機関決定があったこと。新たな資料が発見されたとか、新たな証言者が現れたとか。

すでに出来上がったイメージのあるところに、これは大事な話だ、と言われても認識も行動も変えるのは困難です。

ここでまた動画を紹介します。

 

風俗の女性、実は・・・ 驚きの動画がこれ



[Girls going wild in red light district]



オランダ・アムステルダムには世界的に有名な風俗街があります。この動画は、その風俗街で撮影されたものです。

簡単にシステムを紹介しますと、「飾り窓」と呼ばれるガラス戸の向こうで、女性が前を通るお客さんを待っています。そして、客が気に入った女性を見つけたら、中に入り、カーテンが下りる、という形式になっています。

オランダでは、こうした風俗とドラッグに関しては比較的大らかに扱われていて(かなりのところまで合法と認められていて)、その「事実」は周辺国の人たちにも広く知られています。

さて、そういう状況にある中で、その風俗街での動画です。

通りがかりのお客さんたちが飾り窓の前を通っています。女性たちは、通りを歩く人たちに手招きし、文字通り誘惑している様子です。

と、次の瞬間、女性の1人が、突然、猛烈な勢いで踊り始めました。

さらに、並びに立っていた他の女性たちも一斉にダンスを始めるのです。しかも、誘惑するタイプの踊りではなく、激しいビートの独特な踊りです。

最初は、ちょっとした振付かアトラクションだという目で興味深げに見ていた周囲のお客さんたち。スマホを取り出して録画する人もいます。が、やがてちょっと様子が違うことに気がつきます。

そしてダンスが終わったところでこんなメッセージが現れます。

「毎年、何千人もの女性たちが西ヨーロッパでダンサーにならないかと声をかけられています。」

「そして、悲しいことに、そんな彼女たちはここにたどり着くのです。」

 ———人身売買を止めよう

そのメッセージを見たお客さんたちは、一様に身動きが取れなくなった様子です。動画を見ている人たちの多くもおそらく同じでしょう。だからこの動画の再生回数も174万回にもなっている。これは真面目な啓発動画としては異例の高い数字です。

ここで注目したいのは、「何が見ている人の動きを止めたのか」ということです。

それは、意識を集中して見ていた女性たちが、実は「もともと本人の意思で働くつもりだった訳でなく、ここにたどり着いているのかもしれない」という新しい事実を知ったからです。

目の前にいる女性たちがどんな経緯でやってきたか、自分の想像もしなかった情報が投げかけられたことで認識を改めたということです。

認識を改めてもらうには、こうした新しい情報が必要なのです。

 

訴えかけるなら簡単に参加できる形式を

問題提起には、基本的な流れがあります。

それは、興味を引き、そのテーマを理解し、行動を促す、という流れです。
これがワンセットにならないとメッセージはうまく機能しません。

興味→理解→行動です。

現状認識を伝える中で、特定の問題に対する注目を促します。見ている人、聞いている人に「危機感を共有」するのはここではありません。
もっと本能的に、反射的に、理屈抜きで反応するメッセージがここでは必要です。

考える前にまず意識を向けてもらうステップです。

自分に視線を送って誘ってきているお姉さんたちが、いきなり踊りだした。そしてそのダンスが勢いを増していく、というステップ。

あるいは、男の子と女の子を別々にして、女の子には「特別なプログラムがある」と伝えてワーキャー言うステップ。

そして充分に興味をひいたところで、内容の理解です。

毎年何千人もの女性たちが人身売買されているのだ、と。女の子に生まれたというだけで、教育も受けられずに労働させられている、と。

ここまでの最大の課題は、最後のメッセージを伝えるまでに、「分かってない」と思われないようにするということです。

本音を聞こう、という受け入れの土台を作るわけです。

問題が複雑で、あるいは、思いの強い人、重要な問題だと感じている人が多い時に、その人たちの「認識」や「事実」をきちんと踏まえている必要があります。

そして、最後に、「じゃあ、どうすればいいの?」という疑問を持った時に、こうしましょう、こうしてくださいと行動を促すメッセージにつなげるのです。

最後に紹介するのは、そんな流れが分かりやすいネット動画です。

 

じゃあどうすればいいの?を分かりやすく



[Follow the Frog]


この動画のストーリーは、こうです。

あなたは「いい人」です。家族と過ごし、健康を気づかってよく運動をし、シャワーの間も水の無駄遣いをせず、チャリティーの募金をし、環境汚染を意識してハイブリッドカーや自転車を使っている。母の日にはカードを贈ることを忘れない。でも、それだけでは充分ではないと考えて、ヨガをする。

ある日、世界の熱帯雨林がどんどん減っているという事実を知り、驚愕します。あなたは、この問題をなんとかしないといけない、と強い使命感にかられます。

そしてこの時、あなたはこんなことをすることはない、というメッセージと共に、極端な行動のイメージが繰り広げられます。

問題意識を強く持って会社をやめ、家族を置いて、ニカラグアの熱帯雨林に行き、現地の人たちの中に飛び込み、伐採をやめさせるアクションをとる、 と。使える技術や手段をフルに使って、世界にアピールするのだ、と。

しかし、その後には、たいへん困難な結末が待っている。こんなことをあなたは望んでいないでしょう。

こんな大変な思いをしなくても、やれることがあるんですよ、とメッセージが現れます。

それが「Follow the Frog」なんです、と。

様々な商品についている「Follow the Frog」のマーク。これをチェックして、購入してもらえれば、あなたが大変な思いをしなくても、同じ意味を持つアクションになるのです、と言うのです。

なんと単純で分かりやすい「本音」なんでしょう。

本音だけ聞いても、ほとんど反応が得られないはずです。

このマークがついたのを買ってくださいよ、ですからね。

問題提起は、誰に何をしてほしいかから考えるのが基本です。最終的に、そのメッセージを伝えるために、そのメッセージによって期待した反応を得るために、新しい事実を含めた周到な準備と、丁寧なコミュニケーションが必要です。

それだけの準備ができてから、切り込んでいく。

本音を伝えるのって、たいへんなことですね。

ネット動画はアイデアの宝庫。それではまた、金曜日にお会いしましょう。






http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130530/248852/