火曜日, 9月 11, 2012

セックス・シンボルの素顔【1】──マイケル・ファスベンダー

セックス・シンボルの素顔【1】──マイケル・ファスベンダー


およそ10年に及ぶ無名時代。その果てにつかんだ、とびきりの配役──ナチスに 化けた英軍将校、『X-MEN』の悪役、そして『SHAME─シェイム─』でのエキセントリックな主役──それらが一躍、彼を映画界の寵児にのし上げた。 その勢いは衰えを知らず、この夏公開のリドリー・スコット監督作品『プロメテウス』でも印象的なアンドロイド役を演じている。そんな俳優マイケル・ファス ベンダーの危険なセクシーさに、写真家マリオ・テスティーノが迫り、意外な側面を『GQ』に寄稿するクリス・ヒースがあぶり出す。


写真:Mario Testino 文:Chris Heath 翻訳:待兼音二郎

マイケル・ファスベンダー

マイケル・ファスベンダーと私の距離を縮めてくれたのは、突然の大雨だった。待ち合わせ場所の公園は、実は彼のフラットから歩いてすぐだと言う。今までそ れを黙っていたことを彼は詫びると、雨宿りをしていかないかと誘ってくれた。「ちょっとだけ待っていてくれるかな。部屋を片付けるので」。それが訪問の条 件だった。

「あんまり散らかしたままだと、母さんに怒られるからね」。

階段で、雨に打たれずにすむありがたさを噛みしめていると、やがてドアが勢いよく開いた。

「お待たせ!」。満面の笑みが迎えてくれる。「ぼくのフラットへようこそ!」。

映画スターの住まいといえば、丘の上の大邸宅、高層マンションの最上階、湖畔の瀟洒な館、などなどが昔ながらのイメージだ。ところがこのフラットには、わ ずかに3部屋──私が今いる広いリビングと、その奥にある小さな寝室、そして死角になっているバスルーム──があるきりで、たったそれだけが、マイケル・ ファスベンダーにとっての城だというのだ。

2006年、30歳を目前にしてここに越してきたころとは、彼の境遇も大きく変わった。どうにか食っていける程度だったのが、いまや押しも押されもせぬ大スターだ。

「一人暮らしには、これが絶妙なサイズなのさ」と本人は言う。しかしこのリビングにはあちこちに物が雑然と置かれているし、天井には水漏れの染みが大きく広がり、いかにも手狭だしぱっとしない。

おまけにここは、東ロンドン。最近でこそファッショナブルな街並みも増えてきたけれど、労働者階級が多く暮らす下町だ。私は改めてリビングを見回してみ た。床面の多くが段ボール、スーツケース、2本のギター、そしてアンプに占められ、衣服もあちこちに掛けたまま。そこから浮かび上がるのは、売れっ子俳優 の慌ただしさだ。
ここ2年のファスベンダーの多忙さときたら、12年初頭の同時期に(英国で)公開された『SHAME』『危険なメソッド』『エージェント・マロリー』とい う3本の映画すべてで主役級を演じるということを筆頭に、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』、リメイク版の『ジェーン・エア』、そしてリド リー・スコット監督による豪華絢爛なSFフィクション『プロメテウス』、と大役が続いている。この部屋には数時間眠りに戻るだけで、また撮影や映画祭に出 かけていく日々が続いているのだ。

「荷物の置き場をどうにかしないとね」と本人は言うけれど、引っ越そうにも荷造りする時間もないのだろう。いや、それだけじゃない。ファスベンダーはこの街が性に合っているとも言う。

「この街の熱気が好きなんだ。流行の最先端にも触れられるし、公園があちこちにあることもいい。ぼくにはぴったりのエリアだと思うんだ」。

ところでこのフラット、たしかに物は多いのだが、埃にまみれた印象はない。それにはファスベンダーの生い立ちが深く関わっている。子ども時代、ホテルを営む両親が忙しく、部屋の掃除の手伝いをすることで小遣いをもらっていたという。

「母さんのチェックがとても厳しくてね」と、指先で埃を確かめるしぐさをしてみせる。「手抜きは許してもらえなかったんだ」。

そこでふと、リビング中央に目を向けると、小さな卓球台が置かれている。近くに住むエージェントからの借り物だという。

「長年ここで暮らしたけど、一番の気晴らしはこの卓球台だよ。ずいぶんこれで運動させてもらったさ……」と、そこまで言って彼はくすりと笑った。「誤解を招く言い方だったかな」。

私はすぐにピンときて、それとなく探りを入れた。

「いや、ただの運動だよ、汗をかくことさ」とファスベンダーは受け流そうとして、それもまた誤解を招く言い方だと気づいたのか、また苦笑した。

きわどいジョーク──そういうことだ。それもこれも、『SHAME』で演じた役柄のせいだ。

あの映画でファスベンダーは、満たされぬ過剰な性欲を抱えた男性を演じ、文字通り“すべて”を画面にさらした。あの映画をじっくり観れば、大っぴらにでき ない悩みに苦しむ人物に真っ正面から取り組んだ彼の演技におのずと目も向くが、しかしそれ以来、彼はインタヴューのたびにペニスをネタにされ、そのサイズ うんぬんへのきわどい突っ込みを、始終涼しい笑顔でかわすことを強いられてきたのだ。

MTVでは授賞式の赤絨毯に立っている折にも複数のスクリーンショットから自分のペニスを当てることまでやらされたし、今年のゴールデングローブ賞の会場 では、あのジョージ・クルーニーからこうからかわれもした。「マイケル、君にはゴルフの才能があるかもしれんな。なにせ……両手を後ろに組んでもボールが 打てるのだから」。

「汗をかくのさ」。ファスベンダーはそう繰り返し、いたずらっぽく笑った。「ふたりで、この台の上でね」。


 
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セックス・シンボルの素顔【2】──マイケル・ファスベンダー
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