およそ10年に及ぶ無名時代。その果てにつかんだ、とびきりの配役──ナチスに化けた英軍将校、『X-MEN』の悪役、そして『SHAME─シェイム─』 でのエキセントリックな主役──それらが一躍、彼を映画界の寵児にのし上げた。その勢いは衰えを知らず、この夏公開のリドリー・スコット監督作品『プロメ テウス』でも印象的なアンドロイド役を演じている。そんな俳優マイケル・ファスベンダーの危険なセクシーさに、写真家マリオ・テスティーノが迫り、意外な 側面を『GQ』に寄稿するクリス・ヒースがあぶり出す。
※この記事はセックス・シンボルの素顔【1】──マイケル・ファスベンダー、【2】の続きです。
『SHAME』は興行面でも成功したし、ファスベンダーはセックス依存症の主人公を演じてヴェネツィア国際映画祭男優賞にも輝いた。
しかしこの映画については、すでに述べたようにペニスのことばかりが話題として一人歩きしてきた。侮辱にもなりかねないペニス・ジョークの数々を彼が笑っ て受け流してきたことには、のんびりしたその人柄ゆえということもあるかもしれない。多少きわどいジョークでも、この人なら笑って許してくれると思わせる ところが、ファスベンダーにはあるのだ。
「ぼく自身にもジョークにされることを楽しんでいるところはあるよ」と、本人も言う。
「だけど、あんまり度が過ぎると、作品の魅力を貶めることにならないかと不安になることもある。でも、ぼくにできるのはただ笑ってやり過ごすだけだ。自分 が出演した作品のことはとても大切に思うけど、自分自身にどれほどの価値があるのかは、まだよくわからないんだ。なんせぼくは、夢の階段を一気に駆け上 がった。17歳のころには想像もできなかった高いところに、今こうして立っているんだ。それほどの地位にどれだけ圧倒されていることか……なんて悩みは、 世間も聞きたくないだろうしね」。
『SHAME』にファスベンダーがいかに真摯に取り組んだのかを伝えるエピソードとして、彼が尿をするシーンのことが挙げられる。
通常、そうしたシーンではチューブがうまく隠されていて、そこから疑似の液体が放出される。ところがファスベンダーは、実際に放尿をしているのだ。最初の 2回は尿が出てこず、3度目のテイクでようやくそのシーンを撮ることができたという。
「あのおしっこのせいで、ぼくはオスカーを逃したのさ」と、彼はおどけて笑ってみせた。