世界最高のデザイナーたちの思考に迫る! Netflix最新ドキュメンタリー「アート・オブ・デザイン」
Netflixのドキュメンタリー作品「アート・オブ・デザイン」が2月10日より配信されている。世界最高峰のデザイナーたちが作品をつくり上げるプロセスをひも解くことで、ぼくらは世界を見る目をアップデートできるのかもしれない。
デザインは、難解な芸術作品ではない。ウェブサイトはひとりでに立ち上がるわけではないし、文字組みの調整も、都市設計も、勝手にでき上がるわけではなく、すべては人間の仕事だ。
2月10日から配信が始まったNetflixの新しいドキュメンタリーシリーズ「アート・オブ・デザイン」(原題:Abstract: The Art of Design)は、すでにそこにある、デザインされた世界だけを見せるわけではない。それがどのようにしてでき上がったのかを、人々に見せてくれる。
まず最初に、あることをはっきりさせておこう──この番組には『WIRED』がかなり密接に絡んでいる。番組のエグゼクティヴプロデューサーと司会を務めているのは、『WIRED』US版元編集長、スコット・ダディッチだ。番組で取り上げられる人物のうち、2人は以前『WIRED』へ寄稿したことがあるし、ほかの2人は記事に登場したことがある。
変な話だろうか? そうかもしれない。しかし、『WIRED』は過去25年間、デザインに(誌面づくりのうえでも、扱う記事のテーマとしても)重きを置いてきた。ちなみにここでいうデザインとは、裕福な人々が所有する製品の高級さ、ということとは違う。「アート・オブ・デザイン」の試みと同様に、われわれはデザインを「思考の手段」としてとらえようとしてきたのだ。
Netflixの人気作品「シェフのテーブル」と同じく、「アート・オブ・デザイン」はクリエイターの生活とアイデアに焦点を当て、着想が現実のものになるまでの努力の裏にあるドラマを引き出している。
全8回シリーズの本作は、1話につきひとりの人物──
クリストフ・ニーマン(イラストレーター)、
ポーラ・シェア(グラフィックデザイナー)、
プラトン(写真家)、
ティンカー・ハットフィールド(シューズデザイナー)、
ビャルケ・インゲルス(建築家)、
イルス クロフォード(インテリアデザイナー)、
ラルフ・ジル(カーデザイナー)、
エス・デブリン(ステージデザイナー)
──にスポットを当て、彼らの日々の生活や抱えている不安、時折みせる強がりなどを詳細にとらえている。
「これは、世界最高峰のデザイナーたちの心のなかに入って、彼らの創作過程を誠実に、そして赤裸々に暴くことで、わたしたちの身の回りの世界がどのようにかたちづくられているのかということを示す番組です」。
番組を手がけた製作会社、ラディカル・メディアのエグゼクティヴプロデューサー、デイヴ・オコナーはそう語る。
10年前に公開されたゲイリー・ハストウィットの大ヒットドキュメンタリー映画『Helvetica』は、フォントについての作品だった。
その後ハストウィットが発表した『Objectified』と『Urbanized』は、デザインのストーリーに再び火をつけることになった。デザインはいま、語るべき話題なのだ。「デザインとは突き詰めれば、人間の好奇心を構成する、最も根本的な要素であるといえるのかもしれません」とダディッチは言う。
見どころのシーンでは(この番組にはたくさんの見どころがあるが)、まだ見ぬ映像をワクワクしながら観るときのように、あるいはYouTubeで関連動画を次々と観ているときのように、視聴者の好奇心を満たしてくれる。完成された作品の難解さに切り込み、それを説明し尽くすとはいかないまでも、なぜそのデザインに魅力を感じるのか、あるいはなぜそれらの作品がうまく機能しているのかを理解する手助けをしてくれる。
しかしこの番組が優れているのは、作品そのものについて語るのと同じくらい、それをつくるデザイナーについても語っていることだ。
作品のなかに、クロフォードが、航空会社キャセイパシフィックの豪華な空港ラウンジの素材について説明する場面がある。「通路の床材に使用した石灰石は比較的安価な素材ですが、これによって壁に用いた翡翠色の縞瑪瑙(シマメノウ)の高級感と釣り合いが取れるんです」と彼女は言う。素朴な木のテーブルは、柔らかなモヘアのヴェルヴェットで上張りされた椅子を引き立てる、と。
上品な人々が、高尚な美意識について語っているだけだと思うだろうか? だがクロフォードは、デザインは表面的な美しさ以上の問題なのだと主張する。
「ラウンジに足を踏み入れたときに感じる気持ちについて、なぜそのように感じるのかという理由を人々は知りません」と彼女は言う。
「しかし実際には、それは前もって周到に準備されたものなのです」
デザインの背後にある意図を理解したからといって、必ずしも身の回りにあるものに対する感じ方が変わるわけではないだろう。だが、あなたに世界がどう見えるかは、変わるかもしれない。
TEXT BY LIZ STINSON
WIRED (US)
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