木曜日, 1月 24, 2013

ナタリー - [Power Push]甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)×ROY(THE BAWDIES)対談


ザ・クロマニヨンズとTHE BAWDIES。日本を代表する2組のロックバンドがそれぞれニューアルバムをリリースすることを受け、ナタリーでは甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)と ROY(THE BAWDIES)の対談を企画した。
世代の異なる2人の共通言語はロックンロールとアナログレコード。対談の日、2人にはレコードを持参してもらった。2人が交わす奥深いロックン ロール談義をぜひ楽しんでもらいたい。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 久保憲司

エタ・ジェイムズの衝撃

──今日はお2人にレコードを持ってきていただきました。ROYさんはどんなレコードを?
左から甲本ヒロト、ROY。
ROY 僕はこれ(エタ・ジェイムズ「Rocks The House」)です。もともと大好きなアルバムなんですけど、最近このオリジナル盤を見つけて買ったんで。
ヒロト これはすごいよね。
ROY すごいですよね。初めてこれを聴いたときに、直感で「これがまさにリズム&ブルース なんだな」って衝撃を受けた1枚で。おそらく彼女的にはブルースを歌ってるつもりだと思うんですけど、歌い方やテンポの取り方のせいでリズムがすごく強調 されてて。最近ずっと聴いてるんです。
ヒロト うんうん。
ROY ジャケもすごくて手に包帯してるんですよね。人を殴ったせいなのか。わからないです けど。
ヒロト 荒れてた時期もあるらしいから、手首切ってた可能性もあるし。
ROY ありますよね。エタは本当に振り切れてて、生き方が見えるような、そんな歌声がめ ちゃめちゃカッコいい。
ヒロト この人はソウルファンには、味わいがないとかギャーギャー激しいだけとかよく 言われるけど、そんなことないよ。
ROY ないと思いますね。
左から甲本ヒロト、ROY。
ヒロト 特に日本はさ、ディープブルースのファンがすごく多くて、僕も大好きなんだけ ど、そういうの好きな人は「エタはやかましい」みたいなことをよく言うのね。でも俺ら“やかまし好き”にはたまらない。
ROY あははは(笑)。僕もそうですね。僕、ロックンロールの入り口がTHE SONICSだったんで。
ヒロト おおー、ええなあ。
ROY だからそれこそ“やかまし好き”というか。それもあって最初にビビッと来た女性シン ガーがエタ・ジェイムズだったんですよね。

サム・クックを聴いて歌えなくなった

ROY 今日持ってきたエタもライブ盤ですけど、僕、一番好きなアルバムは、サム・クックの ハーレムスクエアクラブのライブ盤(「One Night Stand! Sam Cooke Live At The Harlem Square Club, 1963」)なんですよ。
ヒロト 世代を感じるねえ。
ROY あははは(笑)。
ヒロト 僕も大好きだけど、若い人が特に聴いてるんだ。あれは1980年代に出たんだ よね。
ROY 本当にすごいアルバムで。
ヒロト もうあれだけでいい。
ROY はい、あれだけでいいです。あそこに全部詰まってると思いますね。
ヒロト すごすぎてお蔵入りになったんだよね。レコード会社が「こんなの出したらみん な引いちゃうよ」って。
ROY 僕は最初にソウルミュージックを聴き始めたときに、どれから聴いていいかわかんなく てとりあえずサム・クックを聴いてみたんですけど、オーティス(・レディング)とかに比べて、すっごい歌がうまいんですよね。で、粗さがなくて、1回ス ルーしてしまったんですよ。なんか物足りないなあと思って。でもあとからあのライブ盤を聴いたときに「いや、これはすごい!」って。ゴスペルそのものとい うか。
甲本ヒロト
ヒロト 僕はあのアルバムを聴いてから、1カ月近く声が出なかった。
ROY えー!
ヒロト 歌えないの、怖くて。こんなものが世の中に存在するんだから、もうほかの歌手 はいらないと思って。僕なんかしゃしゃり出てって人前で歌っちゃいかんと思って、歌えなかった。
ROY 本当にサム・クックは神様の域だと思います。リトル・リチャードもオーティス・レ ディングももちろんすごいんですよ。ああなりたいって思う。でもサム・クックは憧れることさえできないくらいすごくって。
ヒロト 僕は一生のうちに一晩でいいからあんなふうに歌えたら、死んでもいいと思っ た。
ROY 本当にそうですよね。
ヒロト でもそれができないからまだ生きてんの。よかった、長生きできて(笑)。

音楽によって世代の差がなくなる

──お2人は世代こそ違いますが、音楽的な共通項は多そうですね。
ヒロト うん、THE SONICSなんかもさ、黒人の音楽に憧れすぎて、彼らの中の妄想が炸裂してるんだよね。その大げささ、やりすぎ感、行きすぎ感がTHE SONICSだと思うし、それこそがロックンロールを前に進めることだと思う。ブルースを大げさにすればLED ZEPPELINになっていく。それが普通のことなんだよ。
ROY その振り切れる感覚がやっぱり本当にカッコよくて。THE SONICSは去年僕ら一緒にツアーしたんで、そのときに直接訊いたんです。ボーカルのジェリー(・ロスリー)に「誰が一番好きだったんですか?」って 言ったら、ウィルソン・ピケットって言ってたんですよ。
左から甲本ヒロト、ROY。
ヒロト おおー、はいはいはい。
ROY で、納得したというか。
ヒロト なるほどね、いいねえ。
ROY だからあれだけノドをしっかり鳴らして、歪ませてたのかなって。
ヒロト 後先考えない感じの。
ROY そうですね。
ヒロト あのね、ROYくんは僕よりずっと若いんだけど、古い音楽を聴いてるでしょ。 僕も自分の世代とは離れたものを聴いてるんです。だから僕とエタの時代、それからROYくんとエタの時代、その何十年の差は僕らがここに並んで座ること で、なくなるんですよ。で、これは僕の妄想だけど、多分キース・リチャーズがここにいてもおんなじ話ができると思うんです。そんで多分もっと若い中学生く らいの子が「エタのこのアルバム最高なんだよ」って普通に出してきてもおかしくないと思う。
ROY そう思います。
ヒロト で、その子たちはきっと今ヒットしてるものに興味がないんだよ。それがいいこ とかどうかはわからないよ? ヒットしてるものを、みんなが聴いてるから僕も聴かなきゃって思う心理はさ、みんなと仲良くしようという当たり前のことだから。俺たちにはそれが欠けてる わけ。問題もあるわけなんだよ(笑)。
ROY あはははは(笑)。
ヒロト でも友達は少なかったかもしれないけどさ、今こういうつながりがあるわけだか ら。僕はこれで良かったと思っているんです。

パンクがどんなふうに日本に紹介されたか

──さて、ヒロトさんはどんなレコードを持ってきてくださったんですか?
ヒロト 古い音楽の話はROYくんに任せることにして(笑)、僕は今日は違うテーマで 持ってきた。僕は自慢ができることが1つあるの。それは自分の中学生時代に、リアルにパンクを体験したってこと。だからパンクのレコードを持ってきたん だ。
左から甲本ヒロト、ROY。
ROY すごいですねこれ。
ヒロト どんなふうにパンクロックが日本に紹介されてて、僕らがそれを受け止めていた かっていう証拠がここにいっぱいあってさ。この帯の文字。これにしびれたんだよ。レコード屋さんでさ、少ない小遣いで1カ月に1枚か2枚しか買えないとき に、ジャケットと、帯の文字にやられて選ぶんだよ。で、「しっとりとした大人のムード」なんて書いてあるレコードは無視して(笑)、そんで、こういうさ、 血が飛び散ったような文字でさ、「勝手にしやがれ」って書いてあってさ。「処女アルバム、犯すのは君だ!!」って書いてあったら、犯してやろうと思うじゃ ない!
ROY あはははは(笑)。
ヒロト もちろん童貞なんだけど(笑)。童貞でさ、彼女もいないしモテない中学生がこ れを見てドキドキするんだよ。そしてお母さんやお父さんに隠れてこれを持って帰るんだよ。全部読むよ。(THE CLASH「白い暴動」を手にとって)「ロンドンは燃えている! 遂に姿を現したバイオレンス・パンクの王者、ザ・クラッシュ。ロンドン・スラムの怒れる若者たちがひたすらアナーキーにロックンロール、ロックンロール、 ロックンロール……ギ、ギ、ギャオー!」「要するにロックンロールなのである。一切の思いいれが削り取られた骨組みだけのヘヴィ・メタリックなロックン ロールが、うなりを上げて疾走している。彼らは火を吐かない、血も吐かない。ただ、毒を吐く」って。正しい! この文章を書いた人は正しい!
ROY あはははは(笑)。
ヒロト 買うだろ。
ROY 感じたままにガーッと書いてるんでしょうね。
ヒロト これもう小冊子1冊分くらいのさ(笑)、情報がこの帯にぎっしり詰まっていて さ、これにやられたんだ。今、この“熱”を若い人たちに知ってほしい。

意味はなく熱だけしかない

ROY この、THE DAMNEDのやつもすごい。
ヒロト そう、「セックス・ピストルズ、なにするものぞ!」って書いてあるんだよ。 「“悪”(ワル)の権化“ダムド”遂に日本上陸!!」。この帯は最初のやつで、このあとスティッフ・レコードのマークが付いた帯に変わるんだけど、そのと きは「セックス・ピストルズ、クラッシュと並ぶ」って書いてあるんだよね。同等なバンドになってる。最初だけ「なにするものぞ!」って書いてあるの (笑)。
甲本ヒロト
ROY 面白いですねえ、これ。
ヒロト レコード会社のプロモーターが勝手に書くんだよね。タイトルも勝手に付けて。 やっぱりこの熱なんだよ。
ROY 本当に好きだからこういう文章が出てくるんですもんね。
ヒロト 無茶苦茶だよ。熱だけしかなくてさ、意味はないんだよ。でもこの時代の熱は、 この帯にすごく表れていると思う。
ROY パンクもロックンロールもそうだと思うんですけど、振り切った状態で、それこそ音 じゃなくても、感情が爆発して表にボーンと出てしまったものが僕はロックンロールだと思うんですよね。だからこの帯もまさにロックンロールだと思う。
ヒロト RAMONESもほら、タイトルは「RAMONES」なのに、国内盤だけ「ラ モーンズの激情」。
ROY 激情を感じたんですね、これを聴いて。
ヒロト 「ロックン・ロール革命! これは信じていた君のロック・モラルに対するニューヨーク革命児たちからの宣戦布告だ!!」って書いてあってさ、たまんないよ。これを見ると今でもドキド キする。
ROY 今の若い人たちが見たら笑っちゃうかもしれないけど、愛があって熱がある故にこう表 現するしかないってことなんでしょうね。
ヒロト 僕が今こうやって語ってる熱もなんとなくわかる?
ROY はい、わかります。
ヒロト 「こいつちょっとおかしいぞ」「いつものヒロトじゃないぞ」みたいな感じがあ ると思うのね。でもロックンロールっていうのはそういうものなんだよ。引きこもりの少年をどっかに引きずり出すものだし、おとなしいやつを爆発させるもの だし、そしてただ暴れてる奴に正しい武器と攻撃力を与えるものなんだよ。それがロックンロールだし、ロックンロールはいつも能動的に何かを指し示してくれ る。だから今、僕はすごくおしゃべりになってるけど、そうなって当たり前なんだよな。

「電撃バップ」じゃなきゃダメなんだ

──パンクが出てきた頃、ヒロトさんはいくつくらいだったんですか?
ヒロト 僕はね、14歳くらいだったかな。中学2年とか。だからお小遣いが足りないん ですよ、とにかく。それまでも足りなかったけど、特にパンクが出てからは新譜が欲しくて欲しくて。
甲本ヒロト
──じゃあこのレコードは大人になってから買い直したものですか?
ヒロト いくつもあるよ、買い直したもの。当時帯がビリビリになってたりとか、友達に 貸したまんまなくなっちゃったもの、それからお小遣いが足りなくて友達から借りたものなんかもあったから。シングルもいっぱいあるけどもう紹介しきれない な。
──シングルは邦題がついてるものが多いですね。
ヒロト そう、例えばTOM ROBINSON BANDの「Up Against the Wall」は「凶暴のロンドン・タウン」ってタイトルだし、EATERの「Lock It Up」は「パンクでぶっ飛ばせ」になってる。RAMONESはもちろん「電撃バップ」。僕はこの「電撃バップ」っていうタイトルも含めて名盤だと思う。 「Blitzkrieg Bop」じゃダメなんだ。
ROY うんうん。
ヒロト これは悪ふざけでもなんでもなく、熱がほとばしった状態なんですよ。妄想と勘 違いでロックンロールは転がり続けてるんだから、これを解放しないことには何も始まらない。ROYくんだってさ、サム・クックやエタ・ジェイムズに影響さ れて、本人すらそんなことやってねえよっていう爆裂を自分がステージでしようと試みるわけでしょ。それでいいと思うんだよ。

「ザ・ドリフターズみたいになりたい」

──ROYさんはこのヒロトさんのレコードを見てどうですか?
ROY いや、こういう日本盤の帯って今まで僕ちゃんと見たことなかったんで、驚きました ね。でも音楽を愛してる人が書くとこうなるんだなって。面白いですね。
左からROY、甲本ヒロト。
ヒロト なんか最近いろんなことが理屈っぽくなってるじゃない。でも人をふさぎ込ませ るものなんてそんなになくていいんだよ。悲しいことは世の中にいっぱいあるんだから。
ROY 考えるんじゃなくて感じることを優先させるほうが気持ちいいんじゃないのって。そう いう感覚がロックンロールなんですよね。
ヒロト だからそれこそ当時の大人たちはね、「パンクロックなんていうのは一過性のも のであって半年もすれば流行は収まるだろう。だからこんなものに君たちのお小遣いを使うのは無駄だ」って。そういうふうな論調だったの。実際当時のロック 雑誌の評論でTHE JAMのアルバムについて「こんなものを聴くくらいだったら工事現場の音を40分聴いてたほうがマシだ」って書いてあるんだよ。
ROY あははは(笑)。
ヒロト でも僕はなけなしのお小遣いでそれを買いに行くんだよ。大人が見たらバカみた いって思うだろうし、そのギャップは当然だと思う。でもだからこそ、お願いだから、ロックンロールを届けるプロモーターの人たちは、中学生だけをターゲッ トにしてほしい。大人にバカにされてもいいから。
ROY そうですね。
左から甲本ヒロト、ROY。
ヒロト 僕が自分で20年以上前に言ってた発言で、今でもそうだなって思う原点みたい なものがあるんだけど。僕がTHE BLUE HEARTSっていうバンドを始めて、最初の頃のインタビューで、デビューしたてのバンドだからさ、「どんなバンドになりたい?」ってよく訊かれるんだ よ。そのときに「ザ・ドリフターズみたいになりたい」って言ってた。どういうことかっていうと「コミックバンドになりたい」って言ったわけじゃないんだ。 ドリフターズのお客さんを見てごらん? 大人がいないだろう? 小学生くらいの子供たちでいっつも会場は満員なの。で、大人になったらその子たちは卒業していなくなる。でも次の子たちが入学してまたドリフターズを観に 来るの。で、僕は中学生でロックにしびれたから、多分その頃の僕は中学生くらいの人たちをイメージしてしゃべっていたんだけど、そういう中学生とか高校 生。そいつらがいつも僕らのライブの会場にいてほしい。大人は聴かなくていい。客と一緒に歳取るつもりはねえよ。大人のロックなんてクソ食らえだって。
──確かにザ・クロマニヨンズのライブには若いお客さんが多いですよね。
ヒロト 僕もほっときゃ歳も取るからさ、今と昔をそのまま比べることはできないけど、 基本的にやっぱ何も考えてなくて、たいして成長も進歩もしてないからおんなじようなものがいつもステージに乗っかってるんだと思うんだ。

ロックンロールは進化しなくてもいい

ROY それで言うと、僕らが特に若い人に感じてもらいたいのは、振り切れたカッコよさなん ですよね。自分たちもそうだったんですけど、やっぱこう何事も受身なんです。「なんかいいことないかな」っていう姿勢でいる。それはその子たちが悪いん じゃなくて、やっぱ振り切れたカッコよさを知らないだけだと思うんです。僕らはロックンロールに出会ってそれを感じたし、それによっていろんな道が開け るっていうのを知ったんですよ。
ヒロト リミッターが外れるんだよね。
ROY そうですね。僕らはそこにすごい光を感じたから、だとしたらそれを伝えるべきだなと 思っていて。ステージの上で自分たちが120%楽しむ姿をまず見せる。そのことによって「こんなに思いっきり楽しんでいいんだな」「自分もやってみよ う」って思ってもらえる気がするんですよね。だからお客さんに言われて一番うれしいのは「ロックンロール聴くようになってから毎日めちゃめちゃ楽しいで す」って。そういうことなんです。
──どんなきっかけであれ、THE BAWDIESを聴いた若いリスナーが「こういうロックンロールをもっと聴きたい」「自分もやりたい」って思ってくれたらいいですよね。
ヒロト そう。僕も最初レコード屋で聴いてびっくりしたんだよ。
ROY ありがとうございます。
ヒロト 恥ずかしいんだよ、レコード屋さんで「これ誰?」って訊くの。でもあのときは 「今かかってるの誰ですか?」って訊いたもん。
ROY うれしいです(笑)。
ROY
ヒロト だから今日も何も言うことはないです。もうROYくんに任せた。
ROY いやいやいや(笑)。でもこないだ70歳近いTHE SONICSに出会って思ったのは、何も変わってなかったってことなんですね。ロックンロールは進化しなくてもいい。変わる必要がないものだってわかっ た。
ヒロト そうだよ。だって最初から振り切れてるんだもん。
ROY そうなんですよね。時代が違えば音は変わってくるけど、根っこは変わらない。何歳に なろうが初期衝動を持ってやってるから。やっぱりそれが一番カッコいいと思うんですよね。だから僕らも何歳になっても続けたいと思うし。
ヒロト だからそういう意味では僕はロックンローラーのピークはどこにあるかっていう と、ロックンロールと出会った瞬間だと思う。12歳とか14歳の頃に出会ったなら、その瞬間がロックンローラーとしてのピークだと思う。あとは落ちるかそ のまんまか。冷めていくか、狂乱のまま時間が過ぎていくか、それだけのことなんだ。それ以上はないよ。だって最初に爆発してるんだもん。
 

ピート・タウンゼントの心意気をカバーする

──こういうお話を伺っていると、本物のロックンロールがもっとたくさんの人に届けばいいのに、と感じるんです が、お2人は例えばヒットチャートのようなものを意識することはありますか?
ヒロト 僕はないです。ただ精一杯やるだけです。だから例えばうどん1杯「これは俺の 最高傑作だ」ってうどんを作ったら、それを同じ場所で作り続けるだけ。そうするとさ、食べた人が「うまかったぜ」ってもう1回来てくれる。友達連れてく る。気がついたら行列できる。それだけでしょ。それ以外のことは考えないです。おいしくする以外の方法を何か考えてヒットさせるなんていうのは僕の中には ない。
左から甲本ヒロト、ROY。
ROY 僕らもそうですね。みんなが聴きやすいように薄めて出すみたいなことは全く思ってな いですし。
ヒロト ね、あの店のほうが人気があるからあの店に近づけようとかさ、しょうゆの味変 えたりとかしないよね。
ROY そうですね(笑)。ただ1つ、例えばリトル・リチャードを今の中学生にいきなりポン と渡したときに、やっぱり時代が違うせいで、もしかしたら音質とかスカスカに感じるかもしれない。そのせいで入ってこられないっていうのは残念だと思うん ですね。だから今の僕らは、現代に生きてるロックンロールバンドとして、現代の感覚を入れて、今の世代の人たちにも伝わるものをやりたいっていうのは思っ てます。60年代の音が好きだからそれをそのままやろうってことではなくて、あのときの熱を今の人たちに伝えたいんです。
ヒロト だからあれだよね。コピーとかカバーっていうのもそうで、曲をカバーするん じゃなくて、そこにある熱をカバーするんだよ。
ROY そうですね。
ヒロト 例えばピート・タウンゼントがウインドミル奏法で腕をぐるぐる回した、あの形 をコピーするんじゃなくて、回してるときのピートの心、「この野郎!」っていうあの心意気をコピー、カバーするんだよ。だから表面的なスタイルは本当はな んでもいいんです。

お母さんにパンクロックを聴かせた

ヒロト 例えばスリーコードでエイトビートならみんなロックンロールかって言ったらそ うじゃないものもあるわけ。スタイルじゃないんですよ。だから様式美ではなく、そこにある熱が大事なんですね。
ROY 僕が50年代60年代の音楽が特に好きなのもそこですね。今は音の厚みや熱さえもテ クノロジーで増やせたりする。でも当時はそういうものが発達していなくて、人間の感情を爆発させることでしか伝えられない。そんな時代だから、やっぱり振 り切れてる感覚が全然違うんですよね。僕の場合は、CDショップに入ったときにたまたまTHE SONICSが流れてて、そこで出会ったんですよ。昔のバンドだって知らなかったから「なんだこれは?」「すごいバンドがデビューした!」と思って「これ は流行る!」って言ってたんですけどね。
ROY
ヒロト あはは(笑)。
ROY それで当時最初に思ったのは、このTHE SONICSのCDを世界中の若い人たちに配って回りたい、これを聴いたらみんな絶対衝撃を受けるのにって。でもそれが無理だったから、自分たちがこの熱 を伝えられるバンドになろうって思ったんです。そのとき別にバンドやってたわけじゃないけど、自分たちがそれをやることがすごく意味のあることだって感じ たんですよね。
ヒロト わかる。僕はよく食べ物に例えるんですけど「こんなうまいもの、食ったことな いなら食ってみろ」っていうことなんです。だって俺、お母さんにパンクロックを聴かせたもん。
ROY あははは(笑)。
ヒロト 「お母さんこれ知らないんじゃないかな?」って。自分のお母さんが普通に毎日 暮らしてるのを見て「この人これを知らないからこんな生活してるんだ」と思って聴かせたの。なんかあんまり反応なかった。
ROY (笑)。僕もサム・クックを初めて聴いたときに母親に聴かせたんです。でもうちの母 親は70年代にアメリカにずっといた人なんで。
ヒロト おー!
ROY だからそのときに「いや、わかるよ。私はちっちゃい頃にあなたにこういうのを聴かせ てたのよ」って言われて、そこで初めて自分がレイ・チャールズとかTHE TEMPTATIONSを聴いて育ったことに気付いたんです。親の世代が子供に音楽を聴かせたりとか、生活の近くに音楽があるのってやっぱりいいですよ ね。
左から甲本ヒロト、ROY。
ヒロト でも例えば今ここに並べたようなパンクロックが好きだったのは、当時1クラス 50人くらいいたんだけど、僕1人だったからね。流行ってなかったんです、パンクは。ちょっと賢い子は買わないんだよ。
ROY パンクに出会ったのは、最初はレコード屋ですか?
ヒロト 僕はラジオで聴いて「なんじゃこりゃー!」と思った。その前から60年代の音 楽は聴いていて「ああ、僕が好きなのは古いものなんだな」っていう感覚がどっかにあった。「ロックンロールの時代っていうのが昔あったんだな」くらいに 思ってたの。だけどこれが最新シングルですって紹介されて、SEX PISTOLSが公共の電波で流れたときに、「自分も今ロックをやってもいいんじゃん!」って思ったの。そのときに僕は、それまでやってみたい職業は1つ もなかったけど初めて「ミュージシャンになりたい」って思ったんだよ。

最初は「何これ?」でもいい

──それにしてもこんなにカッコいい本物のロックンロールがあるのに、どうして僕たちは少数派なんですかね。世の 中の人たちは、みんななぜこれを好きにならないんでしょう?
ヒロト そんなことはわからないよ(笑)。人はそれぞれだから。確かにさっきも言った けどさ、こんなカッコいいんだから流行るに違いないっていう感覚、それはあるよね。でもそうなんないね。
──ならないですね。
ヒロト それはでもある種のファシズムだから。すごく高い理想を掲げる人がいたとし て、それを政策として推し進めていってもいい国にはならないでしょ。ただ楽しめるチャンスがあるのに見逃している人を見るとおせっかい焼きたくなる。 「ちょっと聴いてみろよ」って。
ROY いきなりその人が「これすごいな!」って言わなくてもいいんですよ。「何これ?」で もいいと思う。まず足を止めるってことがすごく重要だと思います。
──それではそろそろ時間ですが、お2人とも話し足りないことなどあれば。
ROY いや、今日はヒロトさんがロックンロールに対してこういう気持ちだってことを再確認 できて、もうすげえ楽しかったです。
ヒロト もう僕らは話す必要ないよね。
ROY あはは(笑)。
ヒロト 同じなんだってわかったから。よかったです(笑)。
左から甲本ヒロト、ROY。



















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