器の大小は性差別?
手に持つ食器
日本の器の大小は、実は日本の食事スタイルと関係しています。そもそも、日本の文化は床の文化です。西洋風のテーブルがなかったのはもちろん、 「ちゃぶ台」が出現したのも明治になってからのこと。それまでの長い時代、日本人は箱膳(一人分の食器を入れておく箱で、食事のときは膳にするもの)を床 に置いて食事をしていました。料理と口との距離は相当離れていますから、必然的にお椀や皿を手で持って食べる、というスタイルになります。食器をテーブル に置いたまま食べる「皿料理」に対して、日本人の食事は手に持って食べる「椀料理」です。 手で持つということが大前提ですから、器の大きさは手の大きさに合わせて違ってきます。たとえば塗りのお椀は、男物で直径4寸(約12.1cm)、女物な ら3寸8分(約11.5cm)というのが標準的な寸法。片手で握るようにして持つ湯呑みは、お椀よりはずっと小さくて、男物で直径2寸6分(約 7.9cm)、女物で2寸4分(約7.3cm)が標準的な寸法だとか。使う人の手のサイズから割り出した寸法が、そのまま器の性別をつくりだしていたので す。手で味わう
工業デザイナーの秋岡芳夫さんは、その著書「暮らしのためのデザイン」の中で、「分厚い土物の湯呑みでコーヒーを飲んだら、さぞうまかろう」と書き、「ぼ くらの手には味覚があって、器のぬくもりで器の中身の味を味わうことができる。日本特有の食の伝統、手で器を持って食事をし、飲み物を楽しんできたその長 い歴史が、ぼくらの掌に、知らず知らずの間に『手の味覚』を育てている。毎日、味噌汁・煎茶を手で味わいつづけてきたおかげで、コーヒーを煎茶碗でおいし く飲む能力がぼくらの手には備わっている」と続けています。
いとおしむように手で持つことで、生まれ育まれてきた日本人の食文化。それは、ほどよい大きさで手になじむ器があったからこそ、と言えるかもしれません。
大柄な女性が増えた現代では、器の大小で男物・女物を分ける必要性は薄れてきているのかもしれません。いずれにせよ、大切なことは、自分の手になじ む心地よい大きさの器を選ぶこと。
みなさんは、「器の性別」についてどんなふうに思われますか?
http://www.muji.net/lab/living/130123.html?sc_cid=em-cmr-mujinet-C130123_05