トム・ケリー氏らが語る「組織学習とイノベーション」
パネル:トム・ケリー氏、クリスチャン・ベイソン氏、西口尚宏氏
IDEO共同経営者トム・ケリー氏、デンマークデザインセンターCEOクリスチャン・ベイソン氏は、新事業創造カンファレンス&Connect!第一部「創造性とデザインと組織」にて講演後、パネルディスカッションに参加し、イノベーションを生み出す組織のあり方を話し合った。その発言の一部を紹介する
組織学習の重要性-内外の人々に「共感」を持つこと
モデレーター西口尚宏氏(以下、西口):
講演で話題になった「共感」とイノベーションを起こす組織構造を関連づけてお話いただけますか。
講演で話題になった「共感」とイノベーションを起こす組織構造を関連づけてお話いただけますか。
IDEO共同経営者トム・ケリー氏(以下、ケリー):
組織内でも、他の部門、業務グループなどに属する人々がお互いに共感を持つべきです。イノベーターたちが理解しがたい、または馴染みのないことをしているとしても、既存事業担当者は「(彼らのしていることに)会社の将来がかかっているのかもしれない。どんな新しいことをやってくれるんだろう」という気持ちでいてほしいですね。
組織内でも、他の部門、業務グループなどに属する人々がお互いに共感を持つべきです。イノベーターたちが理解しがたい、または馴染みのないことをしているとしても、既存事業担当者は「(彼らのしていることに)会社の将来がかかっているのかもしれない。どんな新しいことをやってくれるんだろう」という気持ちでいてほしいですね。
デンマークデザインセンターCEOクリスチャン・ベイソン氏(以下、ベイソン):
行政機関の場合、市民への共感は不可欠ですが、デザイナーやイノベーターとしては、そのときどきに関わっている組織に寄り添う気持ちも必要です。政策でも事業でも、その業界独特のことばを理解し、その運営者の目線で話さないと、アイデアは認められないし、新しい企業文化の一部にもなっていきません。
行政機関の場合、市民への共感は不可欠ですが、デザイナーやイノベーターとしては、そのときどきに関わっている組織に寄り添う気持ちも必要です。政策でも事業でも、その業界独特のことばを理解し、その運営者の目線で話さないと、アイデアは認められないし、新しい企業文化の一部にもなっていきません。
そこで問題になってくるのが組織学習です。どうやって新しいアイデアを受け入れ、新しい慣行に根づかせていくべきか。組織学習は、事例や競合の研究ばかりでなく、共感や対話も関わる複雑なプロセスですが、過小評価されていると感じます。
好奇心を組織学習に組み込む
西口:
業務の効果・効率性向上が目的の研修が多い日本企業にとっても、組織学習の問題は重要です。
業務の効果・効率性向上が目的の研修が多い日本企業にとっても、組織学習の問題は重要です。
ケリー:
ほんとうの学びは、競合の研究ではなく、実験や、人々の行動の動向の研究から得られます。たとえば、日本では高齢化が社会問題ですが、これは企業にとっては商機でもありますよね。日本にいる多くのお年寄りから学び、共感して、彼らを支援する製品やサービスを開発すれば、世界的にも貢献できるでしょう。
ほんとうの学びは、競合の研究ではなく、実験や、人々の行動の動向の研究から得られます。たとえば、日本では高齢化が社会問題ですが、これは企業にとっては商機でもありますよね。日本にいる多くのお年寄りから学び、共感して、彼らを支援する製品やサービスを開発すれば、世界的にも貢献できるでしょう。
ベイソン:
IDEOなどの最先端のデザインファームの強みは、「システマティックキュリオシティ(組織全体で好奇心を持っていること)」でしょう。組織学習を推し進めるのは、まさにこの組織の好奇心です。ものごとを観察し、疑問を持ち「(この現象は)自分にとってはどういう意味があるのかな」と考えてみること。そういう好奇心を育む文化を作れるかどうかが課題ですね。
IDEOなどの最先端のデザインファームの強みは、「システマティックキュリオシティ(組織全体で好奇心を持っていること)」でしょう。組織学習を推し進めるのは、まさにこの組織の好奇心です。ものごとを観察し、疑問を持ち「(この現象は)自分にとってはどういう意味があるのかな」と考えてみること。そういう好奇心を育む文化を作れるかどうかが課題ですね。
西口:
システマティックキュリオシティは、興味深い概念ですね。
システマティックキュリオシティは、興味深い概念ですね。
ベイソン:
個人や組織は、自分が世界を変えてやるといった野心や自負を持つ一方で、いいアイデアはどこからでもやってくる可能性があることを認める謙虚さも持っていなければなりません。どんなに頭脳優秀な社員がいても、すべてを知っているわけではないのです。
個人や組織は、自分が世界を変えてやるといった野心や自負を持つ一方で、いいアイデアはどこからでもやってくる可能性があることを認める謙虚さも持っていなければなりません。どんなに頭脳優秀な社員がいても、すべてを知っているわけではないのです。
「問題はすべて把握している」と話す経営者に会うと、とても心配になります。こんな状況把握をしている組織はとてもイノベーティブとはいえず、すでに衰退が始まっているのではないかとさえ思います。
自負と謙虚さを両立させるためには、学び続けること、アイデアはどこからやってくるかわからないと認め、好奇心を保つしかありません。
ケリー:
特に、私のような年齢になってくると危険なのは、必要な知識はすべて持っていると思い込む、知識の陳腐化です。組織にとって価値ある知見を更新しつづけていくことは、組織のリーダーに課せられたチャレンジです。永久に変わらないものもあれば、日々変化するものもあります。その違いを見極めて、常に世界を観察して、更新すべきものは更新していかなければなりません。
特に、私のような年齢になってくると危険なのは、必要な知識はすべて持っていると思い込む、知識の陳腐化です。組織にとって価値ある知見を更新しつづけていくことは、組織のリーダーに課せられたチャレンジです。永久に変わらないものもあれば、日々変化するものもあります。その違いを見極めて、常に世界を観察して、更新すべきものは更新していかなければなりません。
新規アイデアに予算を配分するかどうか
西口:
アイデアに予算がつかないと苦闘しているイノベーターは多いです。世界のイノベーティブな企業はこの問題にどう取り組んでいるのでしょうか。
アイデアに予算がつかないと苦闘しているイノベーターは多いです。世界のイノベーティブな企業はこの問題にどう取り組んでいるのでしょうか。
ケリー:
企業のどの部門もイノベーションを起こしたいわけですが、同時に今月や今期の業績も配慮しなければならない。これでは、業績を上げるためにはイノベーションにコストやリスクはかけたくない、となってしまいます。
企業のどの部門もイノベーションを起こしたいわけですが、同時に今月や今期の業績も配慮しなければならない。これでは、業績を上げるためにはイノベーションにコストやリスクはかけたくない、となってしまいます。
それで、プロクター・アンド・ギャンブルは、実験・探究のためだけに資金を出す組織を社内にスタートさせることでイノベーティブな企業に変貌しました。
それぞれの金額は小さいけれども「クレイジーなアイデアにお金を出しましょう」と、いわば社内の各部に小さな賭けをしかけたおかげで、社内からいろいろなイノベーションが生まれてきました。
スリーエム(3M)が始めた、特に予算配分を要さない賢い方法もあります。3MにはR&D部門に「15%タイム」という制度があり、部員は勤務時間中の15%を個人的なプロジェクトに充てられます。これはちょっとしたトリックです。というのは、通常業務85%+個人プロジェクト15%ではなく、その比率が100%+15%になるのです。ほんとうかなと思うかもしれませんが、うまくいっています。
同様の制度がグーグルにも受け継がれていますが、どちらの会社でもこの時間からイノベーションが生まれる率はひじょうに高い。この場合、会社側は社員の好奇心を守ってあげているだけで、イノベーションのために特定のコストをかけているわけではありません。
ベイソン:
イノベーションチームの役割は、チーム自体がアイデア出しするのではなく、他の部署がイノベーションにつながるアイデアを思いつけるように刺激してあげたり、将来のビジネスモデルを探求している組織外の人を探してきたりすることです。こういう活動やスキルへの投資は重要だと思います。
イノベーションチームの役割は、チーム自体がアイデア出しするのではなく、他の部署がイノベーションにつながるアイデアを思いつけるように刺激してあげたり、将来のビジネスモデルを探求している組織外の人を探してきたりすることです。こういう活動やスキルへの投資は重要だと思います。
ともに働く企業には、投資の準備はできていないとしても、たとえば、主要メンバーが6週間を割いて新しいビジネスモデルや新しいコラボを試してみることを許すような価値観を持っていてほしいと思います。
ワークショップは“リハーサル”
西口:
日本には今、デザイン思考=ワークショップといった現象があるのですが、どう思われますか。
日本には今、デザイン思考=ワークショップといった現象があるのですが、どう思われますか。
ベイソン:
以前、政府内でイノベーションチームをスタートさせたとき、いろいろな政府機関で5年間に300ほどのワークショップを実施しましたが、その活動を評価したところ、効果は限定的だったと判明しました。原因は、ワークショップに市民に参加してもらわず人々の経験を取り入れていなかったこと、自分たちで実験もしていなかったことでした。
以前、政府内でイノベーションチームをスタートさせたとき、いろいろな政府機関で5年間に300ほどのワークショップを実施しましたが、その活動を評価したところ、効果は限定的だったと判明しました。原因は、ワークショップに市民に参加してもらわず人々の経験を取り入れていなかったこと、自分たちで実験もしていなかったことでした。
ワークショップは、コンセプトやアイデアを集めるにはよい手法ですが、次世代のイノベーションは人間中心のデザイン、政策、戦略ですから、必ず建物を出て外で時間を過ごし、人々の経験に目を向けるべきですね。
ケリー:
ワークショップはリハーサルのようなものです。「楽しかったね」で終わるのではなく、1つか2つ、明日からでも来週にでも自分で試してみようというアイデアを持ち帰れるのがよいワークショップだと思います。
ワークショップはリハーサルのようなものです。「楽しかったね」で終わるのではなく、1つか2つ、明日からでも来週にでも自分で試してみようというアイデアを持ち帰れるのがよいワークショップだと思います。
セミナー開催概要
- セミナー名:新事業創造カンファランス&Connect!第一部「創造性とデザインと組織」
- 講演名:パネルディスカッション
- スピーカー:IDEO共同経営者、Tom Kelley氏、Danish Design Centre (DDC) CEO、Christian Bason氏
- モデレーター:Japan Innovation Network専務理事、西口尚宏氏
- 主催:ベンチャー創造協議会/経済産業省/公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会/東京ニュービジネス協議会(Connect!)
- 共催:政策研究大学院大学/一般社団法人Japan Innovation Network
- 開催日時・場所: 2015年1月22日、ホテルニューオータニ