有名企業から学ぶビジョンとミッションの作り方
今回のテーマは「ビジョン」です。新年早々のテーマとしては相応しいかもしれません。
ミッションの延長線上のビジョンはミッションの原動力
成功の秘訣? それは大きなビジョンが持てるかどうかだけだよ。ターゲットを見失わないことだ。そして自分が最も力を発揮できる範囲を見極め、そこに時間とエネルギーを集中することだ。会社の価値観や報奨システムもこの考えを反映すべきだよ(ビル・ゲイツ)
前回はミッションというテーマについてお話しいたしましたが、今回のテーマはビジョンです。
まずは、これまでのおさらいからスタートしましょう。ビジネス計画には「目的」と「手段」があり、前者は「ビジョンと成果(ゴールと目標)」、後者は「ミッションと行動方針(戦略と戦術)」に分類されます(図1)。
ミッションとは、事業体の継続的な業務オペレーション上の行動(存在理由)に言及するものでした。時間軸で捉えた場合、ミッションとビジョンはビジネス計画における中長期的なペアと考えることが重要です。つまり、ミッションの延長線上にビジョンが存在すると同時に、ビジョンはミッションの原動力と捉えることです。
次に、ビジョンの定義をみていくことにしましょう。
ビジョンとは将来の望ましい姿を体現する
目的地がはっきりしなければ、そこに行けるはずがない(ヨギ・ベラ:NYヤンキースの元捕手)
ビジョンの定義
ビジョンとは、事業体の将来の状態について言及されるものです(図2)。それをどのように達成もしくは実現するかは問われません。それは、ミッションをはじめとする手段の領域だからです。ミッションが、ラテン語の動詞mittere(送る)に由来し、「我々がこの社会に送り込まれた理由は何か?」という使命や存在意義を意味するものでした。一方、ビジョンもまたラテン語のvidere(見る)に由来しているようです。それは、将来を見据えるというような意味かもしれません。ビジョンは、展望や夢想などと訳される場合があります。
また、ミッションは「行動規範」というサブ要素をもっているのに対し、ビジョンは「価値観」というサブ要素を持っています。
事業体にとっての適切なビジョンの設定
ところで、「事業体にとっての適切なビジョンの設定」とはどうあるべきでしょうか?
「ビジョナリーカンパニー」の著者である元スタンフォード大学経営大学院教授のジム・コリンズ氏によれば、ビジョンとは、「真に情熱を傾けられる領域」、「トップクラスになれる領域」、「適切な利益を生む領域」が重なる場所(目的地)であるべきだと提言しています(図3)。これは、ヘッジホッグ(ハリネズミ)理論と呼ばれているのですが、「ハリネズミはたった1つの肝心要のことを知っている」という古代ギリシャの寓話に由来しています。
ビジョンに必要とされる3つの要素
次に、ビジョンに必要とされる3つの要素を考えてみました(図4)。
1つ目は「中核となるイデオロギー(観念/信念/信条)」であり、リッツカールトン・ホテルの「クレド」やHPの「HPウェイ」と呼ばれるものがその典型です。これらのイデオロギーには、後述する価値観も含まれています。2つ目は「未来に対する明確なイメージ」であり、このような社会にしたい、このような姿になりたいという鮮明なイメージを描写するものです。3つ目は「大胆な到達地点」であり、前述のビジョナリーカンパニーでいうところのBHAG(Big Hairy Audacious Goals)、つまり社運を掛けた大胆な目標を意味します。
いくつかの有名な過去のサンプルを示しましょう(図5)。
典型的なビジョンには、自社の究極的なポジジョン(例:マーケットリーダーになる)を表明するものと、未来の社会(例:貧困のない社会をつくる)を描写するものが多く、トップ企業をやっつける/追い越す、他業界/他地域のトップ企業と同じポジションを目指すという一風変わったものもあります。
これらのサンプルは、その時代の背景を考えないとミッションと間違えてしまいます。これらのビジョンが掲げられた当時は、大衆は自動車が高価で買えなかった(フォード)、多くの女性が不自由なコルセットを身に着けていた(シャネル)、コンピューターといえば企業が使う巨大なマシンであった(マイクロソフト)時代であった背景を理解する必要があります。
価値観とはビジョンを実現するための秘訣である
私が思う夢の実現の秘訣は4つのCによって言い表すことができる。Curiosity(好奇心)、Confidence(自信)、Courage(勇気)、Constancy(一貫性)。中でも一番大切なのが自信だ。一度こうだと決めたら、盲目的に一片の疑いもなくそれに没頭することだ(ウォルト・ディズニー)
次に、ビジョンのサブ要素の「価値観」について考えてみることにします。まずは、その定義をみていきましょう(図6)。
価値観は、前回ご説明した行動方針と同じく、箇条書きで示されることが多いようです。米国企業を中心に、どのようなキーワードが価値観を表すものとして好まれるのかを実際に調べてみました(図7)。
キーワードの下の数字は何かというと、言葉の価値をスコアリングするサイトを偶然見つけたので、その結果を示したものです。誠実さ、イノベーション、説明責任、コラボレーション、コミットメントのような言葉は、どうやら多くの米国の企業が好む価値観のようですね。
皆さんが好きな英語のキーワードを、下記のサイトで入力してみて下さい。
http://dan.hersam.com/tools/word-value.html
次に、現在の米国を代表する2社、GoogleとZapposの価値観(価値観とは言及していませんが)をご紹介しましょう(図8)
どちらも、明瞭かつシンプルな10箇条から構成されています。Googleによるこの「10の真実」は、ご存知の方も多いでしょう。一方、Zapposは米国内の顧客サービスに関する調査で、毎年上位にランキングされる靴をはじめとするオンライン小売企業です。数年前にアマゾンに買収されましたが、アマゾンサイトとは独立して運営を続けています。靴の在庫が自社にない場合、競合他社のサイトを調べて教えてあげるというジェフ・ベソス氏を唸らせるほどの顧客体験を提供している企業です。
このような会社が、世界的な企業となっているわけですから、世の中も変わってきましたよね。
ビジョンとミッションの整合性を図るには?
ビジネス計画の最上位に位置するビジョンとミッションを整理したいと思います。前回お話ししたとおり、ミッションとは事業体の存在意義を表明するものであり、価値提案、ターゲット顧客、コアコンピタンスが重要な要素でした。一方、ビジョンとは未来創造を表明するものであり、コアイデオロギー、未来のイメージ、大胆な目的地が重要な要素となります。また、ミッションを支えるものが行動規範であり、ビジョンを支えるものが価値観となります(図9)。
企業活動を船に例えれば、行動規範は羅針盤(コンパス)であり、価値観は地図(マップ)に例えることができます。
それでは、ミッション、ビジョン、価値観、行動規範の間の整合性をどのように取っていくべきでしょうか?
これは非常に悩ましい問題ですが、「ミッション・ステートメント」から始めていくことをお奨めします。既にビジネスモデルを構築されている皆さんにとっては、この手順が良いでしょう。ミッションからスタートし、ビジョン、価値観、行動方針を決めていきます(図10)。もちろん、これらのステップは反復して検証していくことが必要となります。
「一年の計は元旦にあり」ということわざがありますが、ビジネスであれ、プライベートであれ、皆さんのミッションやビジョンをじっくりと時間をかけて考えられてみてはいかがでしょうか?
最後に、ミッションと行動方針、ビジョンと価値観のサンプルをご紹介して締めくくりたいと思います。サンプル企業は、クレジットカード会社として世界的に有名なアメリカン・エキスプレス社です(図11)。