日独デザインシンポジウム
「Quo Vadis Design―デザイン、何処にか行き給う
―ディーター・ラムス、日本のデザイナーや学生と語る」
MEMO
京都芸術劇場での日独デザインシンポジウム「デザイン、何処にか行き給う―ディーター・ラムス、日本のデザイナーや学生と語る」のメモ。
イベント詳細はこちらを。
D. ラムス、F. フレンクラー(Fritz Frenkler)、DDI 下川美喜
黒川雅之(建築)、深澤直人、長谷川豊(SONY)、上松豊行(京都造形芸術大学)
当初の予定と違って逐次通訳でした。
イベントは以下のような内容(2時間半)
- F. フレンクラー「ディーター・ラムスとドイツデザイン」
- 日本人パネリストからのプレゼン
- ディーター・ラムスによる質問への回答
- 若手デザイナーによる質問への回答
- まとめ
Braun T3 (1958) と Apple iPod (2001) |
まず、最初にF.フレンクラー氏より、ドイツデザインとディーター・ラムスについて。
フロッグデザイン アジア設立、代表を務めた人でもある。f/p design gmbh
フレンクラー氏「ディーター・ラムスとドイツデザイン」
BC1C「ウィトルウィウス」が10冊の本をまとめた。
3つの柱「頑丈さ」「実用性」「美」ドイツデザインの基礎、根底となる。
ダ・ヴィンチ作 ウィトルウィウス的人体図 - Wikipedia |
今日のデザイン。
単にデザインではない。クラスタで考える。
敢えて名付けるなら「インダストリアル・エンタテインメント」。
機能は限られている。
美のために。
インダストリアルアート。IDの課題。
1907 Werkbund ドイツ工作連盟が設立。 ミュンヘン。
中心人物 Peter Behrens(AEG)。CIの先駆けに。
*ドイツ工作連盟 - Wikipedia、ペーター・ベーレンス - Wikipedia
Bauhaus ワイマール 〜デッサウ〜ベルリン
若い建築家を養成するのが目的。
バウハウス - Wikipedia |
HfG Ulm。Max Bill ウルム造形大学
より実用的に、具体的に。バウハウスを継承。
ラムス。Braun、Vitsoe
ラムスのいいデザインの10か条。
はUlmの根本的な考え方と似ている。
- 革新的 ー 開発と密接に関係
- 使いやすく ー 実用性
- 美しい
- 分かりやすい ー 構造を語っている。
- 押しつけがましくない ー ツールみたいなもの。
- 正直 ー ニュートラル
- 恒久的 ー 古くならない。
- 細部まで一貫している。ー 偶然に任せない。
- 環境に優しい
- 少なく ー 本質に集中すること
*ディーター・ラムス - Wikipedia 「良いデザイン」の十か条
シンプルは洗練の鍵。 Simplicity is the Key of Excellence.
ここまで。ドイツデザインの歴史とディーター・ラムスの10か条から。
続いて日本側登壇者によるプレゼンとして、黒川氏、深澤氏、長谷川氏から。
まず黒川雅之氏から。日本の美について。
*黒川雅之 - Wikipedia
黒川 :美しさって何? これからの美?
バックミンスター・フラーの地図。
地図。アジアとヨーロッパ。
インドがユーラシアに衝突。
人類移動の歴史。文化の交流。 cf 因幡の白うさぎの話は各地に。
日本は交差点だった。縄文。
プレートの潜り込み。
アジアの島国。台風。(刹那的)
宗教。アニミズム。
*混沌 という生き物の寓話。 7つの穴。荘子。秩序を与えるとしぬ。
日本には哲学がない。
日本は自然から美意識がうまれる
続いて、深澤直人氏。「ディーター・ラムス氏から学んだこと」
深澤:I learned design from Dieter Rams.
- 整えることを学んだ ー 部屋。デザインは動かないから学べる。- 単純であることを学んだ ー 紆余曲折があったが
- 角のRの意味を学んだ
- 表示・目盛りを学んだ
- グリッドを学んだ
- やさしい形を学んだ ー 写真:炊飯器としゃもじ
- 使いやすさを学んだ
- 線を学んだ ー 写真:Papilio, Shelf X
- 面の張りを学んだ *直線であっても。
- 生活の質を学んだ *ものを超えて、空間になり、生活になる
- 簡潔な形を学んだ *About Water 蛇口。
ラムスは僕のデザインをどう思うだろうか。と常に考えてきた。
最後に「手触りを学んだ」 *ミラノサローネで発表したイス
最後にSony Designの長谷川氏。
長谷川豊 Sony Design
ラムスが Braun でデザイン長となった1961年、SONYのデザイン室開設。バーゼルフェアでの記憶。braun。Hallo Simplicity
TP1 MPZ2 L450, TG60, TS45
Braun L450, TG60, TS45 |
Less, but Better ソニーのインハウスデザインとしての解釈
・新たな視点を加える
・原型と一貫性
・ストーリーを作り再定義する e.g. Life Space UX
・Open Creation Braun Lectron
・Qrio ドアカギ。
・FUTURE LAB PROGRAM KOOV(Grobal Education
・心の豊かさを創造する cf 心の琴線に触れる by 大賀
そして、ついに御大ディーター・ラムス氏による話。
日本人パネリストの質問に答える形で。
日本の美について(黒川氏の質問)
D.ラムス:
最初に「ドイツのデザインは素晴らしい」について、私は異なった見解を持っている。皆ドイツ的であろうとは思っていない。インターナショナルでありたいだけ。質問に戻って、日本の美について。
自分でも分からない。最も素晴らしい展覧会は建仁寺のもの。
(*2005年の展覧会。ディーター・ラムス 建仁寺 less but more )
もしかして前世が日本人だったのでは?すぐ詫び寂びが理解できた。
日本人は自然との繋がりを大切にする。緑には持続性。花びらはアクセントだ。
簡素さ、つまり詫びは、デザインの未来である。
美は「整えること」と関係がある。
ドイツ戦後は、混乱し整えることが大事だった。
今、世の中は混沌に。整理が必要だ。
日本の庭を愛している。盆栽も。
盆栽について、南ドイツ新聞で寄稿した。
盆栽は非常に注意深く扱わないと行けない。
形は自分で決めれるが、正しいかは分からない。
盆栽は変わることなく存在する。
日本の禅寺であれ、
自然とどのように向き合うか。
恣意的に自然と向き合ってはいけない。
不要なものを排除することにも繋がる。
デザインをしなくなった理由と 信条(深澤氏の質問)
D.ラムス:
私は引退したわけではなく、引退させられたんだ。(会場笑)Braunは辞めたが、家具は継続している。
他のデザインの仲間にも、一社とこれほど繋がることができないといわれる。
Braunとは特別。Braun兄弟がいたから。勇気があった。
Braunが2回目の買収。ジレットはまだよかった。
2回目の大企業による買収で繋がりが無理になり、Braunから引退した。
今のBraunは、もうBraunではない。残念。
SONYデザインをどう思うか(長谷川氏の質問)
D.ラムス:
非常に難しい。困ってる。正直にいうと、今のSONYをフォロー出来てない。
しかし、SONYをもともと評価している。
最近は歩むべき道に戻ってきたと感じている。
デザインが進むべき道とは?(長谷川氏の質問)
D.ラムス:
混沌の世界は、大きなスピードで変化している。混沌からは、新しいものが生まれてくるが、危険でもある。
大事なのはシンプルな思考。欠かせない姿勢。
私がもっとも嫌いなものは主義。だ。あらゆる ism。
機能性はいいが、機能主義は嫌いだ。
ファナティックはいいかもしれないが、ファナチズムはきらい。
ドイツには、ソファティスモス。すぐやる主義 というのがある。
喜劇作家カール・ファレン( *ファレンティンの聞き違い?)の造語。
観察できるのは今だ。「止まれ、今すぐ」みたいな言い方。
優しさがあるのは何故か(深澤氏の質問)
D.ラムス:
深澤:Braun賞の審査の経験。ラムス作品は合理的で温かいと思った。アップル社のデザインは素晴らしく、成果を上げている。
しかし、違いがあるように感じる。特に優しさ。(そして冒頭の質問に)
ラムス: 深澤さんの感じ方に感謝。
1956年ころから製品があるが、60年代など当時は
私のデザインは冷たいと言われていた。病院にあうと。
Braunのおかげだ。浸透するまでリスクをとってくれた。
企業にとって、経営者にとって大変だったと思う。感謝している。
今日にいたるまで、すべて(の人)が優しいと思っていないと思う。
どこかで冷たいと思われたり、人間的でないと思われたりしている。
私は簡素であるべきだと思っているのだけど。
私たちは貫いてきたが、私たちが目指すデザインは
もっと大事になる。エコロジーという観点で。
慎ましさが大事。製品持続性でも簡素であること。
製品の量を減らすことだ。環境に優しいから。
Less but Better と繋がっている。
故障しない製品、古びない製品をつくっていくべき。デザインにとって必要なことは、使う人を豊かにすること。
デザインの正当性を何処で測るか?
この星に、どれだけ貢献できるか。
デザインのイメージは、マイナスになりつつある。
他社と違うこと、目立つこと、と同義になりつつある。
望む事は、ライフスタイルというイメージに格下げされないこと。
それよりも、デザインに対して望むのは、
場所の環境を維持すること、ができるのか。
物理的にも邪魔をしないこと。
純粋で簡素であることが、洗練に繋がると感じる。
iPhoneの電卓アプリ と Braun T55 |
最後に客席から指名で2人が質問。「若い人との対話」
Q: グラフィックについて学んだか。領域別デザインの現状をどう思うか。
たちかわえいすけ氏 (NOSIGNERの太刀川英輔氏?)
会うのは2回目。香港で。
グラフィックデザイナーが特にラムス氏を好きな傾向を感じる。
D.ラムス:
昔からタイポグラフィーに興味があった。特にスイス。ポスターも。ハンブルグで、デザインを10年教えた。
繰り返し提案したのは統合。建築、デザインなどの。
学長は同意したが、他の教師にボイコットされた。
環境造形の学科をつくるべき。統合されたデザイン学科だと素晴らしい。
製品のために必要なグラフィックは重要。
1956年。製品を作るだけでなく、文字、目盛りが大事だった。
グラフィックは嫌がられた(コンピュータがなかったから)、デザイナーからも。社内で養成した。
今も養成されていないのでは。(*世の中での意味か)
Q. 進歩による製品寿命の短命化をどう考えるか?
(任天堂インハウスデザイナー、女性、サカイ氏)
・10か条の解釈について。
・新商品を買ってもらうために買い替えが必要。
D.ラムス:
大変な課題。ますます。スピードは増す。新しいシステムに取って代わる。
自分は幸運だ。自分のはコレクションになっている。
デザイナーにとって無視できないもの。
常に進歩と向き合う必要。
人が向き合う人生に、真摯に向き合うこと。
機能性のあるデザインに。真摯に休まず、弛まず。
人がなにを求めてるのか、常に求めるべき。真摯であること。
デザイナーとしての我々に何が残るか。
デザインには世界観が反映される。
逆にいえば、その人が使うものをみることで生活環境をどう捉えているか理解できる。
Braun LE1 speaker と iMac |
ラムス講演の感想とサイン
当日は開場と同時に席取りし、通路に出たところでラムス氏が杖をつかれていて、やはり83歳のご高齢を感じました。一方で、シンポジウムで話に熱が入っていくときのラムス氏は力強く、覇気を感じました。
最後に。前日からラムス本「Less and More: The Design Ethos of Dieter Rams」と復刻版の「BRAUN ET55 (ホワイト)」を持参。
かなりの人だったので無理かと思ってたのですが、講演終わってラムス氏が会場を出るタイミングで本にサインをいただきました。
Dieter Rams: As Little Design as Possible
Braun: 50 Years of Design and Innovation