市長もご覧ください 「風俗女性の素顔に世界が仰天!」
タブーに切り込む本音と問題提起
鶴野 充茂まさか当の本人も、「本音」では、こんな展開になるとは想像もしなかったことでしょう。
橋下維新の会共同代表の一連の発言は、米軍兵士の性犯罪防止策としての風俗活用という投げかけが、従軍慰安婦の問題に発展し、国家の意思として強制的になされた行為か否か、過去の日本政府の見解と異なるのかどうか、といったテーマに大きくシフトしました。
この問題自体に関しては、数多くの注目すべきポイントがあると同時に、成り行きをチェックしていないと、「なぜ、今、こんな話になってるの?」と理解が遠のいてしまっている人も数多くいるはずです。
この金曜動画ショーでは、効果的なコミュニケーションの観点から、身近な状況でも活用・応用のできるヒントを考えるきっかけとして、注目のネット動画を見ています。
さて、今回の騒動から得られる、私たち自身が役立てられる、コミュニケーション上の教訓は何でしょうか。
今回は、タブー視されるような扱いの難しいテーマに関する問題提起や社会啓発に参考になりそうな動画を紹介します。
ネット動画はアイデアの宝庫。それでは今週もいってみましょう。
社長が訴える「危機感の共有」はうまくいかない
今回の橋下さんの発言で最初に注目したのは、「建前論じゃなくて、本音で話しましょう」という言葉でした。後日、この時の気持ちとして「いつまでたってもなくならない米兵の性犯罪をなんとかして止めたかった」と語っています。おそらくこれは彼の「本音」でしょう。
こうした発言を聞きながら、私がコミュニケーションのアドバイザーとしてお手伝いするさまざまな企業の経営者が、共通して発する言葉を思い出していました。それは、
「危機感を共有したいんですよ」
という言葉です。
経営方針説明や社員総会などでトップとしてのメッセージを発信します。そんな場面でスピーチやプレゼンのストーリー作りを一緒にやっていると、頻繁に登場するのがこの言葉です。
「危機感を共有したい」
間違いなく、これは「本音」です。そして、当然ながら、社長はその「危機感」を強く持っています。一方で、社員は「危機感」が足りないと感じている。だから、「危機感を共有したい」と言います。
ところが、次の質問をすると、明確な答えが返ってこなくなります。
「仮に、危機感を共有できると、どうなりますか?」
もちろん、期待としては、もっと効率的に、効果的に仕事に取り組むようになるということなのでしょう。やり方を大胆に変えていくというのもあるかもしれません。とにかく、結果としては成果が上がる。ビジネスがうまく回りだす。そういう期待です。
ところが実際には、「危機感を共有する」と異なる現象が起きます。
若くてフットワークの軽い社員から順に、転職活動を始めるのです。危機感だけを共有すれば、社員は辞めるのです。
社長にとっては「危機感を共有する」ということが、社員としては「不安を与えられている」と受け止めます。この会社にいて大丈夫だろうか、と不安になるのです。
もちろん、社員の中には責任感の強い人もいて、「自分が何とかしなければ」と思うこともあるかもしれません。ただ、そういう人たちの行動を期待するのであれば、行動ができるように、活動の受け皿を用意してあげた方がベターです。
社長が危機感を共有したくなる頃には、すでに現場では危機感を感じたとしても、どうにもならなくなっていることが多いからです。
第三者的に考えると、これはごく自然な流れなのですが、自分の会社のことになるとこれが見えなくなります。なので、こうアドバイスしています。
「危機感を共有するよりも、方針、ビジョンを共有しましょう」。
歴史認識よりも現状認識から
ただ、危機感を共有すること自体は決して間違いではありません。それが共通理解、力を合わせて動き出す時の立脚点と考えれば、むしろ必要な要素です。しかし問題は、危機感を浸透させることからはじめると、次に進むのがたいへんだということです。
そしてこれがまさに、今回の問題で言う「本音」であり、次の展開で注目された「歴史認識」です。
意外と知られていませんが、米国などでは「歴史」のことを「メモリーポリティクス(Memory Politics、記憶の政治)」という呼び方をすることがあります。
歴史は1つしかない、というのは大間違いで、事実をどう認定するか、どう解釈するか、どこに注目するかでまるでその「事実」が違ってくることから、歴史自体が政治化しているわけです。
歴史認識の難しさは、まさに過去について合意ができないところにあります。みんなそれぞれに大切に思っている「事実」があるからです。
それを橋下さんの場合、風俗は「合法」ということと、「よそもやっている」ことだけを事実だと受け取られるように言いきってしまいました。それで 一気に反発が出ました。
ここで注目したいのは、その反発を細かく見ていくと、「それは違う」とは誰も言ってないということです。皆が言っているのは、「(あなたは)分かってない」ということです。
認識で合意できるのは未来と現在だけです。なので、一般的なリーダーのメッセージ発信は、歴史認識よりも現状認識からスタートします。
現状認識は、今、問題だと注目するテーマとそのポイントの整理です。この問題について、今、考えるべき時だ、という共有を丁寧にやります。
そのヒントになりそうな動画をここで1つ見ていただきましょう。
「あの問題」を「自分たちの問題」と認識できるように
[Belgian girls forced to labour at
school]
これはどういうストーリーかと言いますと、まず、学校で男子と女子に分かれます。
男子は普通の授業を。女子には、特別なプログラムがあると伝えます。
「えー、何それー」。教室に響き渡る声。ちょっと懐かしいですよね。
ところが、女子に待っていたのは、食べ物の準備であり、トイレ掃除であり、つまり一言で言うと、労働です。授業から完全に引き離され、ずっと労働が続きます。そして、折りに触れて繰り返し、こう言われます。「あなたたちは女の子だからね」
たまらなくなった女子たちは結託してストライキを起こします。たった1時間7分終わったところでです。
女子たちは集まって「どうしてこんなことをしなきゃならないのよ」「これじゃまるで奴隷だわ」と話し合っているところで、種明かしがあります。
「世界には、女の子というだけで教育を受けられず、ひたすらこんな風に強制的に労働に就かされ続けている子供たちがいる。7500万人もだ」と。
「私たちは、女の子にも教育が必要だと考えている」
「君たちは、そんな不幸な状況におかれている子どもたちを助けたいと思わないか?」
そこで「おー!」とみんなが声を上げているのです。
テーマの重要性を認識してもらう、問題意識を共有するというのは、その問題が根深ければ根深いほど、一筋縄ではいきません。頭で理解できて、あるいは、すでに聞いたことがある問題なら余計にそうです。
そこでまず、その問題自体の重要性を伝える際に、それが自分たちの問題であると感じてもらう。これが問題意識の共有に必要不可欠なステップです。
認識を変えるには新しい事実が不可欠
難しいテーマに切り込むときに必要なのは、「なぜ、今、この問題なのか」という情報です。たくさん情報がある中で、たくさんやることがある中で、山積みの課題がある中で、なぜこのテーマを今選んで、深く語ろうというのか。
これが、聞き手が次に知りたい情報であり、熱く語られれば語られるほど、疑問が大きくなってくる(つまり先に解決されないと重要なメッセージが頭に入ってこない)ポイントなのです。
難しいテーマの場合、今までは知らなかったような新しい事実が必要です。
最近になって判明したことや、機関決定があったこと。新たな資料が発見されたとか、新たな証言者が現れたとか。
すでに出来上がったイメージのあるところに、これは大事な話だ、と言われても認識も行動も変えるのは困難です。
ここでまた動画を紹介します。
風俗の女性、実は・・・ 驚きの動画がこれ
[Girls going wild in red light
district]
オランダ・アムステルダムには世界的に有名な風俗街があります。この動画は、その風俗街で撮影されたものです。
簡単にシステムを紹介しますと、「飾り窓」と呼ばれるガラス戸の向こうで、女性が前を通るお客さんを待っています。そして、客が気に入った女性を見つけたら、中に入り、カーテンが下りる、という形式になっています。
オランダでは、こうした風俗とドラッグに関しては比較的大らかに扱われていて(かなりのところまで合法と認められていて)、その「事実」は周辺国の人たちにも広く知られています。
さて、そういう状況にある中で、その風俗街での動画です。
通りがかりのお客さんたちが飾り窓の前を通っています。女性たちは、通りを歩く人たちに手招きし、文字通り誘惑している様子です。
と、次の瞬間、女性の1人が、突然、猛烈な勢いで踊り始めました。
さらに、並びに立っていた他の女性たちも一斉にダンスを始めるのです。しかも、誘惑するタイプの踊りではなく、激しいビートの独特な踊りです。
最初は、ちょっとした振付かアトラクションだという目で興味深げに見ていた周囲のお客さんたち。スマホを取り出して録画する人もいます。が、やがてちょっと様子が違うことに気がつきます。
そしてダンスが終わったところでこんなメッセージが現れます。
「毎年、何千人もの女性たちが西ヨーロッパでダンサーにならないかと声をかけられています。」
「そして、悲しいことに、そんな彼女たちはここにたどり着くのです。」
———人身売買を止めよう。
そのメッセージを見たお客さんたちは、一様に身動きが取れなくなった様子です。動画を見ている人たちの多くもおそらく同じでしょう。だからこの動画の再生回数も174万回にもなっている。これは真面目な啓発動画としては異例の高い数字です。
ここで注目したいのは、「何が見ている人の動きを止めたのか」ということです。
それは、意識を集中して見ていた女性たちが、実は「もともと本人の意思で働くつもりだった訳でなく、ここにたどり着いているのかもしれない」という新しい事実を知ったからです。
目の前にいる女性たちがどんな経緯でやってきたか、自分の想像もしなかった情報が投げかけられたことで認識を改めたということです。
認識を改めてもらうには、こうした新しい情報が必要なのです。
訴えかけるなら簡単に参加できる形式を
問題提起には、基本的な流れがあります。それは、興味を引き、そのテーマを理解し、行動を促す、という流れです。
これがワンセットにならないとメッセージはうまく機能しません。
興味→理解→行動です。
現状認識を伝える中で、特定の問題に対する注目を促します。見ている人、聞いている人に「危機感を共有」するのはここではありません。
もっと本能的に、反射的に、理屈抜きで反応するメッセージがここでは必要です。
考える前にまず意識を向けてもらうステップです。
自分に視線を送って誘ってきているお姉さんたちが、いきなり踊りだした。そしてそのダンスが勢いを増していく、というステップ。
あるいは、男の子と女の子を別々にして、女の子には「特別なプログラムがある」と伝えてワーキャー言うステップ。
そして充分に興味をひいたところで、内容の理解です。
毎年何千人もの女性たちが人身売買されているのだ、と。女の子に生まれたというだけで、教育も受けられずに労働させられている、と。
ここまでの最大の課題は、最後のメッセージを伝えるまでに、「分かってない」と思われないようにするということです。
本音を聞こう、という受け入れの土台を作るわけです。
問題が複雑で、あるいは、思いの強い人、重要な問題だと感じている人が多い時に、その人たちの「認識」や「事実」をきちんと踏まえている必要があります。
そして、最後に、「じゃあ、どうすればいいの?」という疑問を持った時に、こうしましょう、こうしてくださいと行動を促すメッセージにつなげるのです。
最後に紹介するのは、そんな流れが分かりやすいネット動画です。
じゃあどうすればいいの?を分かりやすく
[Follow the Frog]
この動画のストーリーは、こうです。
あなたは「いい人」です。家族と過ごし、健康を気づかってよく運動をし、シャワーの間も水の無駄遣いをせず、チャリティーの募金をし、環境汚染を意識してハイブリッドカーや自転車を使っている。母の日にはカードを贈ることを忘れない。でも、それだけでは充分ではないと考えて、ヨガをする。
ある日、世界の熱帯雨林がどんどん減っているという事実を知り、驚愕します。あなたは、この問題をなんとかしないといけない、と強い使命感にかられます。
そしてこの時、あなたはこんなことをすることはない、というメッセージと共に、極端な行動のイメージが繰り広げられます。
問題意識を強く持って会社をやめ、家族を置いて、ニカラグアの熱帯雨林に行き、現地の人たちの中に飛び込み、伐採をやめさせるアクションをとる、 と。使える技術や手段をフルに使って、世界にアピールするのだ、と。
しかし、その後には、たいへん困難な結末が待っている。こんなことをあなたは望んでいないでしょう。
こんな大変な思いをしなくても、やれることがあるんですよ、とメッセージが現れます。
それが「Follow the Frog」なんです、と。
様々な商品についている「Follow the Frog」のマーク。これをチェックして、購入してもらえれば、あなたが大変な思いをしなくても、同じ意味を持つアクションになるのです、と言うのです。
なんと単純で分かりやすい「本音」なんでしょう。
本音だけ聞いても、ほとんど反応が得られないはずです。
このマークがついたのを買ってくださいよ、ですからね。
問題提起は、誰に何をしてほしいかから考えるのが基本です。最終的に、そのメッセージを伝えるために、そのメッセージによって期待した反応を得るために、新しい事実を含めた周到な準備と、丁寧なコミュニケーションが必要です。
それだけの準備ができてから、切り込んでいく。
本音を伝えるのって、たいへんなことですね。
ネット動画はアイデアの宝庫。それではまた、金曜日にお会いしましょう。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130530/248852/