2014年6月、米サンフランシスコのセックスワーカーたちと
出会うためのウェブサイト「myRedBook.com」が削除された。
困ったのは、男たちよりもセックスワーカーのほうだった。
身を守るためにデジタルリテラシーを身につける者、
止むに止まれず危険なビジネスを続ける者…。
RedBookという“生命線”を失った、彼女たちを追った。
その風俗カタログは成功しすぎた
サンフランシスコのベイエリアで、2014年の夏以前にセックスを売り買いした人々のほとんどは「myRedBook.com」を利用していた。
一般的には単に「RedBook」と呼ばれていたこのサイトは、Craigslist、Yelp、Usenetのデータをマッシュアップしたもので、セックスワーカーたちと数十万人の顧客たちが相手を探し、交渉し、会う約束をする場所として、10年以上にわたり機能していた。まさに「性風俗の巨大なカタログ」だ。RedBookは、人々の飽くなき欲望に訴えかけて、この古い歴史をもつ商売を、より安全で、洗練されたものに変えた。効率よく目的が果たせて、品揃えも豊富だったRedBookは、成功しすぎたのかもしれない。
1999年、カリフォルニア州マウンテンヴューで、IT起業家エリック・“レッド”・オムーロによって開設されたRedBookは、エスコートガールの男性客たちが地元の情報を交換したり、体験レポートを書き込んだりするつつましい溜まり場としてスタートした。サイトが成長するにつれ、当初はベイエリアに限定されていたカヴァーエリアも、南カリフォルニア、セントラルコースト、フェニックス、ネヴァダ州、北西部太平洋岸へと広がっていった。ここでオムーロは、重要な機能をサイトに追加する。
セックスワーカーたちが広告を出せるようにしたのだ。
RedBookは淫らな会話とエロティックな出会いへの期待に満ちていたものの、サイトそのものはセクシーさからはほど遠かった。
2000年代初頭を思い出させるような垢抜けないデザインで、求人ページや中古バイクの販売サイトのような見てくれだった。仕事中にセックスの相手を探していたとしても、自動的に画像が表示されてしまうセクションを見ていなければ同僚にバレることもなかっただろう。
RedBookは、大きく分けて3つのセクションから構成されていた。第1に、ジャンルごとの「広告セクション」。
ここには週刊タブロイド紙の終面を賑わせていたような広告が並んでいた。「超Hな女子大生(巨乳・スレンダー・金髪)」「アジア系美女がおもてなし」「午前中割引。最高に気持ちよくしてあげる」といった文言の広告を無料で投稿でき、特別料金を払えばより目立つ場所に載せることもできた。
第2に、何十という掲示板形式の「フォーラムセクション」があった。人気があったのは「エスコートガール情報」「路上交渉」「女王様」といったフォーラムだが、ほかにも野球からボンデージまで、あるいは音楽からマッサージパーラーまで、さまざまな話題について意見交換できるフォーラムがあった。
シリコンヴァレーの大手企業に勤めるデータサイエンティスト、ブルース・ボストンが最初にRedBookを訪れた目的は、どのストリップクラブに最高のダンサーが在籍しているかを調べることだった。だが彼は、それ以来4年にわたり、自身が「知的で刺激的で誠実」と賞賛するRedBookのフォーラムに入り浸ることになった。「とても素晴らしかったよ」と彼は語る。「自分の思想や信条についてオープンな議論ができたんだ」。彼はRedBookで繰り広げられていたさまざまな議論(リバタリアンの政治思想に関するものから、放埒なセックスパーティの話題まで)に参加した。
そして第3に、何よりも男たちに重宝されたのは、月に13ドル払えばアクセスできる「レヴューセクション」だった。VIP客たちはそこで自分の体験したエスコートガール、SMサーヴィス、性感マッサージに関する感想をつぶさに報告し、ほかの男たちとシェアするのである。レヴューでは風俗嬢の肉体的な細かな特徴が語られるだけでなく、受けたサーヴィスについても列挙される。オークランドで評判のいい、全身マッサージをしてくれる30歳未満のラテン系女性を探したければ、検索条件を設定してフィルタリングすればいい。
ところが、2014年6月25日、RedBookのユーザーたちは青天の霹靂に見舞われる。画面に表示されたのはセクシーな広告、フォーラム、レヴューへのリンクではなく、物々しい警告画面だった。
そこには司法省、FBI、内国歳入庁が、RedBookのドメインを凍結したと記されていた。これらの政府機関のメッセージによると、このサイトが「売春に基づく不法行為に由来するマネーロンダリング」に関わっている十分な証拠があったという。
政府当局は当時54歳のオムーロとともに、カリフォルニア州サクラメント近郊のロックリン在住のアンマリー・ラノースを逮捕した。ラノースは、眼鏡をかけた41歳の子もちの女性で、サイトの管理・運営を手伝っていた。彼らの住居は家宅捜査を受け、コンピューターが押収された。7月、オムーロはインターネットを用いた売春の助長および24件のマネーロンダリング、ラノースは売春助長の罪で起訴された。彼らは保釈されたが、インターネットへのアクセス、およびサイトのユーザーとの接触は禁じられた。
RedBookはユーザーが追加機能にアクセスする料金から収入を得ていたが、連邦地方検事の起訴状によると、オムーロは500万ドル以上を不当に得ていたという。当局がなぜ、もっとあからさまに性を売買しているほかの多くのサイトでなく、RedBookに狙いを定めたのかは明らかではない。それについて、連邦地検はコメントを差し控えている。
オムーロとラノースは当初、すべての罪状について無罪を主張していたが、11月になってラノースは態度を変え、しおらしく振る舞うことで重い罰を回避しようとした。その数週間後、オムーロもこれに習い、インターネットを用いて故意に売春を助長した罪を認め、罰金130万ドルの支払いと財産没収に同意した。オムーロの有罪答弁は、ウェブサイト運営者が売春助長で有罪となった国内初のケースとなった。
ここには週刊タブロイド紙の終面を賑わせていたような広告が並んでいた。「超Hな女子大生(巨乳・スレンダー・金髪)」「アジア系美女がおもてなし」「午前中割引。最高に気持ちよくしてあげる」といった文言の広告を無料で投稿でき、特別料金を払えばより目立つ場所に載せることもできた。
第2に、何十という掲示板形式の「フォーラムセクション」があった。人気があったのは「エスコートガール情報」「路上交渉」「女王様」といったフォーラムだが、ほかにも野球からボンデージまで、あるいは音楽からマッサージパーラーまで、さまざまな話題について意見交換できるフォーラムがあった。
シリコンヴァレーの大手企業に勤めるデータサイエンティスト、ブルース・ボストンが最初にRedBookを訪れた目的は、どのストリップクラブに最高のダンサーが在籍しているかを調べることだった。だが彼は、それ以来4年にわたり、自身が「知的で刺激的で誠実」と賞賛するRedBookのフォーラムに入り浸ることになった。「とても素晴らしかったよ」と彼は語る。「自分の思想や信条についてオープンな議論ができたんだ」。彼はRedBookで繰り広げられていたさまざまな議論(リバタリアンの政治思想に関するものから、放埒なセックスパーティの話題まで)に参加した。
そして第3に、何よりも男たちに重宝されたのは、月に13ドル払えばアクセスできる「レヴューセクション」だった。VIP客たちはそこで自分の体験したエスコートガール、SMサーヴィス、性感マッサージに関する感想をつぶさに報告し、ほかの男たちとシェアするのである。レヴューでは風俗嬢の肉体的な細かな特徴が語られるだけでなく、受けたサーヴィスについても列挙される。オークランドで評判のいい、全身マッサージをしてくれる30歳未満のラテン系女性を探したければ、検索条件を設定してフィルタリングすればいい。
ところが、2014年6月25日、RedBookのユーザーたちは青天の霹靂に見舞われる。画面に表示されたのはセクシーな広告、フォーラム、レヴューへのリンクではなく、物々しい警告画面だった。
そこには司法省、FBI、内国歳入庁が、RedBookのドメインを凍結したと記されていた。これらの政府機関のメッセージによると、このサイトが「売春に基づく不法行為に由来するマネーロンダリング」に関わっている十分な証拠があったという。
政府当局は当時54歳のオムーロとともに、カリフォルニア州サクラメント近郊のロックリン在住のアンマリー・ラノースを逮捕した。ラノースは、眼鏡をかけた41歳の子もちの女性で、サイトの管理・運営を手伝っていた。彼らの住居は家宅捜査を受け、コンピューターが押収された。7月、オムーロはインターネットを用いた売春の助長および24件のマネーロンダリング、ラノースは売春助長の罪で起訴された。彼らは保釈されたが、インターネットへのアクセス、およびサイトのユーザーとの接触は禁じられた。
RedBookはユーザーが追加機能にアクセスする料金から収入を得ていたが、連邦地方検事の起訴状によると、オムーロは500万ドル以上を不当に得ていたという。当局がなぜ、もっとあからさまに性を売買しているほかの多くのサイトでなく、RedBookに狙いを定めたのかは明らかではない。それについて、連邦地検はコメントを差し控えている。
オムーロとラノースは当初、すべての罪状について無罪を主張していたが、11月になってラノースは態度を変え、しおらしく振る舞うことで重い罰を回避しようとした。その数週間後、オムーロもこれに習い、インターネットを用いて故意に売春を助長した罪を認め、罰金130万ドルの支払いと財産没収に同意した。オムーロの有罪答弁は、ウェブサイト運営者が売春助長で有罪となった国内初のケースとなった。
「お相手が必要?」
写真家のヴィクター・コボは、サンフランシスコのテンダーロイン地区 で15年以上にわたってセックスワーカーたちの写真を撮り続けている。 |
それに伴い近年、何百人という若い技術者たちがテンダーロイン地区に引っ越してきた。これまで何十年もの間ジェントリフィケーション[訳注:都市部の貧困層の多い地域に豊かな人々が流入すること。家賃が高騰して、元の住民が住めなくなるなどの問題がある]になんとか抵抗してきたこの地区の経済は、いま急速に変化しつつある。
この抵抗の一端を、去る秋のある午後、わたしは近隣を散歩している最中に目のあたりにすることになった。
街角には5人の女性が立っていた。ある女性は自動車に向かってバタバタと手を振り、別の女性はもっと注意深く、近くを通り過ぎるクルマのドライヴァーに思わせぶりな視線を送っていた。なかでもとくにアグレッシヴな女性がいて、ストラップの細い黒のタンクトップに股上の深いジーンズを穿き、腰にはサンフランシスコ・ジャイアンツのスウェットシャツを巻いていた。昼間には特に強烈に映る濃い口紅と目のまわりの厚いメイクがなかったら、食料品の買い物に出てきた主婦かと見間違うところだろう。
わたしは彼女から3m離れてバス停の近くに立っていた。ハーレーにまたがった男が赤信号で止まると、彼女はこれみよがしに尻を男のほうに突き出してみせた。
ハーレーが走り去ると、警察のピックアップトラックがわれわれの近くにやってきた。助手席にいた警官が彼女に声をかける。彼女はパトカーに歩み寄り、開いた窓に頭を差し入れた。警官が静かに二言三言告げると、彼女は再び元いた場所へと戻った。警官たちがいなくなると、彼女は先ほどよりもほんの少しだけ控え目に、また通行人たちを誘惑しはじめた。
サンフランシスコ交通局38ギアリー線のバスが到着し、10人ほどの乗客が降り、新たに何人かを乗せて走り去る。わたしがバスに乗らなかったので、彼女はわたしがダウンタウンに行くためにここにいるのではないと気づいた。
彼女はこちらを品定めすると「こんにちは、わたしはキャシー」と声をかけてきた。「あなた、何をしているの?」
ちょっと面食らってたじろいでしまったわたしは思わず、人と会ったあとで次に何をしようかなと考えているところだ、と口にした。
「お相手が必要?」。
いや、結構。わたしは縁石を踏みこえて車道をわたった。そして、ふと振り返ってキャシーに言った。
「ねえ、インターネットで君を見つけられる?」
「残念ね」と彼女は言った。
「前はRedBookのレヴューに載ってたんだけど、使えなくなっちゃったでしょ」
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