月曜日, 7月 25, 2016

毎月20万円差し上げます。【社会実験】

 

毎月約20万円差し上げます あなたなら何に使う? 米の社会実験










サンフランシスコ市の湾を挟んで対岸にあるオークランド市で、近く、聞いたこともないような社会実験が始まろうとしている。スタートアップを育てている有名ベンチャーキャピタル(VC)でもある「Yコンビネーター(YC)」によるある試み。

富裕層が増える一方で、だれもがある日突然仕事を失い、住む場所も失いかねないという厳しい環境のシリコンバレー。こんな社会のあり方に疑問を持つ人たちが出てきた。



サンフランシスコ市内のYCのオフィスで、プロジェクトを担当しているYCのマット・クリシロフ Matt Krisiloff さん(24)に会った。まだ詳細は変わる可能性があるとクリシロフさんは言いながら、こんな概要を話してくれた。






「オークランド市の協力を得て、市内のあらゆる所得層・人種・職業の約100人を選び、毎月1500~2千ドル(16万5千~22万円)を無条件に渡す。これによって最低限の生活を保障し、その人たちがどのような経済行動をとるのか、1年にわたって追跡する計画です」

幸運にも実験対象に選ばれた人は、そのお金を何に使っても構わない。

二つの仕事を掛け持ちしている人は、一つだけの仕事で生活できるようになるかもしれない。もっといい仕事に就くための職業訓練に使ってもいい。すでに十分な収入がある人はただ貯蓄に回してもいいし、海外旅行に使ってもいい。

1年間20万円近いお金が突然降ってくるという、聞いたこともないこのプロジェクトについてYCで話し合われるようになったのは、つい数カ月前のことという。考えたらすぐ実行に移すところがさすがのスピードだ。しかも、これはまだほんの試験段階。

「1年のプロジェクトが終わったら、本実験に入ります。本格的な実験では、対象を1千人に広げて5年間追跡するつもりです」とクリシロフさん。








このときはさすがに支給額を減らす予定だと言うが、それでも試験段階だけでも1億~2億円のプロジェクトになることは間違いない。YCはこの実験のために、 わざわざ専門家を雇った。有名大学の教授など数多くの応募があったという。



いったい、これによって何をしようというのか。

クリシロフさんは「YCは10年にわたって、できたばかりのスタートアップに投資してきた。同じように、テクノロジーによって得られる富を、どうやったら公平に分配できるかを考えてきた」という。


もし、最低限の生活が保障されたら、人はどのような行動をとるのか?


労働はどう変わり、人の生活の質はどう改善されるのか。この実験で得られた結果を公表して、政府や自治体などが社会保障のあり方を考える上で役立ててもらう、という。

ただ、「これは政策提言をするためのものではなく、あくまで、現金支給というあり方がいいのかどうかを含めて考えてもらいたい」と話す。

YCが始めようとしている実験は、これまでにも「ベーシックインカム」や「ネガティブタックス」といった言い方で、いくつかの国でさまざまな形態で試みられたことがある。

最近では、スイスで国民投票もあった(スイスの場合は所得制限があったが、結果は7割以上の反対で否決)。
支給の仕方にも様々なやり方があるが、当然に、財源をどうするかが、つねに大きな問題になってきた。通常は政府が税金を財源に支給するが、それを今回は一企業であるYCが全て支払おうというわけだ。

「ここ(サンフランシスコ周辺)では、安定した雇用の確保が難しくなり、生活がどんどん不安定になってきていることを、皆が実感している。
どうやったら手に職をつけたり、新しい仕事を探したりするのに最適な状態を整えられるかを考えている」という。

YCの大胆な社会実験を、 「金持ちのやること」と一蹴するのはたやすい。
私も最初に聞いたときは「金持ちのVCは考えることが違う」と、思ったものだ。

そもそも、みながしょっ ちゅう引っ越しをしている大都市で、5年間何の条件もなくお金を渡し、1千人の生活の変化を追跡調査するのに、どれだけの費用と労力と時間がかかるか。そう考えただけで、いかに常識外れの社会実験かがわかるというもの。もちろん、会社のPRや、税金対策などの側面がまったくないかと考えると、そこまで単純な話でもないかもしれない。

しかし、あちこちにホームレスがいるこの町で働く人たちにとって、この社会の構造や格差、社会保障のあり方は、「自分たちでも考えるべき問題」としてますます切実になりつつあるらしい。

クリシロフさんが言うように、この実験はある方向へと政策提言をするためのものではない。
ただ、お金をもらった人たちがどのような行動を取るのかを見ることで、社会保障のあり方などを考える材料にしてほしい、という。

この社会実験がどんな結果をもたらすのか。
そのとき、この町はどのように変化しているのか。
注目が集まっている



http://www.asahi.com/articles/ASJ7L4R8YJ7LUHBI00K.html




 

 

 

 

Yコンビネーターの社会実験始まる──オークランドで「ベーシックインカム」導入へ




シリコンヴァレーの名門インキュベーター・Yコンビネーターが、カリフォルニア州オークランドで「ベーシックインカム」(最低限所得保障制度)の社会実験を開始する。Yコンビネーターの狙いと、プロジェクトがもたらす可能性。






シリコンヴァレーの名高きインキュベーター、Yコンビネーターは6月はじめ、驚くべき発表を行った。

「ベーシックインカム」のパイロットプロジェクトを、カリフォルニア州オークランドで年内に開始するというのだ。

この実験は、参加者たちに1年間、無条件で少額の現金を毎月支給し、どうなるのかを見てみようというものだ。運がよければ、このチャンスを生かして貧困から脱出できるかもしれない。

Yコンビネーターリサーチのマット・クリシロフが『Ars Technica』US版に語ったところによれば、「30~50人」に対して月額「1,500ドル、もしくは2,000ドル(日本円で約20万円)」を支給するという。また、現 金の支給を受けない同規模の比較対照群も用意される。1年間に約150万ドルを費やすこのプロジェクトは、2016年中に開始されることになっている。


Yコンビネーターの狙い

最低限所得保障という考えは、かなり以前から各地で議論されてきた。
とりわけ20世紀の思想家たちの間で盛んに議論が行われ、例えばマーティン・ルーサー・キング・ジュニアもこの考えを支持していた。

しかし、実際にベーシックインカムの大規模な実験が計画されるようになったのは最近のことである。

カナダのマニトバ州では1974〜79年にかけて実験が行われた
オランダ・ユトレヒトやフィンランドでも、試験導入が行われることになっている。
そして今回のオークランドのほか、ケニアでも「ギヴ・ディレクトリー」という組織によって同様のプログラムが行われる予定だ。


オークランドでのプロジェクトの運営者に抜擢されたのは、ミシガン大学の博士課程を2016年に卒業した研究者、エリザベス・ローズだ。
このプロジェクトの目的は、「基本的なニーズを満たせる力と自由を人々に与えること」だと彼女は言う。
しかし、その細部はまだ十分に煮詰められておらず、多くの疑問も残っている。
参加者は実際にはどのように選ばれるのか? オークランド全住民を対象とした完全な無作為抽出が行われるのか? 高所得者は自動的に除外されるのか? 通知はどのような方法で行われるのか? 送金方法は? そして何より、このプロジェクトは本当にうまくいくのか?

もし成功すれば、Yコンビネーターのベーシックインカム・プロジェクトは次の5年で数百人規模に拡大され、おそらくオークランド以外の住民も参加することになるだろう。Yコンビネーターは貧困層を、適切な方法で支援したいと考えているのだ。


「このプロジェクトの趣旨は、Yコンビネーターで得た利益を研究に投入しようというものです」とクリシロフは語る。「Yコンビネーターには、ただお金を稼ぐだけでは面白くない、というカルチャーがあります。Yコンビネーターのプレジデントであるサム・アルトマンは、Yコンビネーターに与えられた重要なミッションは最も革新的なものをつくることだ、といつも話しているのです」


オークランドは興奮している

もちろん、人々を貧困から救うのは生易しいことではない。
ホワイトハウスによれば、2012年の統計では米国人の約15パーセント(1,340万人の子どもを含む4,970万人)が貧困線(生活を行うための最低限の収入を表す指標)を下回る生活を送っているという。

さらに悪いことに、「米国の低所得層のなかで、今後20年で所得金額分布の最低階級から脱出できる割合はおよそ半分だけ」だといわれている(『エコノミスト』誌の記事は、貧乏な人がさらに貧しくなる仕組みを説明している)。

オークランドでは、きらびやかで新しいレストランやカクテルバーがダウンタウンに生まれる一方で、全住民の20パーセント弱が貧困生活を送っている。おまけにオークランドはサンフランシスコに隣接しているため、米国で4番目に家賃が高い都市になってしまった。
米国の多くの都市と同じく、オークランド住民の生活は、所得と人種の違いによって分かれている。その格差は、質の高い教育や公衆衛生、食料品の入手における大きなギャップとしても現れている。


オークランドのリビー・シャーフ市長は、2015年10月の施政方針演説でこう述べている。「わずか1マイル違うだけで、一方の地区は他方に比べて失業率が2倍近く高く、平均寿命が15年も短い場合があります。こうしたオークランドの現状を知りながら、市が、市民全体の健康を祝うことはできません」


Yコンビネーターがベーシックインカムの計画を発表したことを、オークランド行政は快く迎えた。シャーフ市長は即座に、オークランドが選ばれたことに「興奮している」とツイートした。オークランド選出のバーバラ・リー下院議員も、この計画への支援を表明している(PDF)。


その一方で、「Causa Justa :: Just Cause」(CJJC)などの一部のグループは、Yコンビネーターはオークランドの労働者階級のニーズからかけ離れた組織であると述べ、このようなプロジェクトを適切に管理できるのかを疑問視している。





オークランドのリビー・シャーフ市長のツイート。





Yコンビネーターのオークランドでのプロジェクトは、実験段階のごく初期にすぎない。

「今回のプロジェクトの主な目的は、データを集めることです。オークランドのような社会経済的な多様性をもつ都市でそれを行うことが役に立ちます」と、サンディエゴ大学で社会哲学を研究するマット・ズウォリンクシ教授は言う。

「今回の実験により、富裕層と貧困層、教育を受けた人々と受けていない人々、技能をもつ労働者とそうでない労働者などの反応に、どのような違いがあるのかを見ることができます。そして、そこから得られた情報を踏まえることで、将来の研究や適切な公共政策をつくることが可能になるのです」








TEXT BY CYRUS FARIVAR
TRANSLATION BY HIROKI SAKAMOTO, HIROKO GOHARA/GALILEO

ARS TECHNICA (US)