ナイキの美しき「アルゴリズミック・シューズ」が、五輪の100M走を劇的に変える
メタリックで青紫色、異なる大きさの穴が空いたプレートをもつナイキの新しいシューズは、コンピューターによってデザインされている。短距離走者のタイムを少しでも縮めるために「硬さと軽さの両立」を目指した、ナイキスポーツ研究所の4年間の実験の成果である。
ナイキの新しいシューズ「Zoom Superfly Elite」。 PHOTOGRAPH COURTESY OF NIKE |
プレートは、メタリックで青紫色。穴の大きさがバラバラの格子状になっている。その異様なデザインは、まるでディスコボールがサンゴと交配したみたいだ。
しかし、性能においては驚くべきメリットがある。100メートル走の選手のタイムを、0.1秒以上も縮めることができる。これは4位の選手を金メダリストに変えるくらい大きな違いである。
Zoom Superfly Eliteのスパイクプレートは1枚の素材でできており、従来の短距離用シューズのようにネジで留められていない。また、クモの巣状の構造はこれまでのどんなものとも似つかない。そのセルは足の外側や土踏まずの周りで縮んでおり、母指球や踵の辺りでは広がっている。
こうした馴染みのないデザインは、ナイキのスポーツ研究所の、4年以上にわたるアルゴリズムによるデザインと3Dプリント技術による実験の結果である。
ロンドンオリンピックの前から、デザイナーたちはいままでで最も軽量で硬いプレートをもつスパイクの制作を始めていた。そしていま、ジャマイカの陸上スター選手、シェリー=アン・フレーザー=プライスの協力のもとにつくられたZoom Superfly Eliteを、ナイキはついに完成させたのだ。
このスパイクプレートの重さは61g。ナイキの前モデル「Ja Fly2」の118gから半減している。そして硬さは約4倍にもなった。
100メートル走において、選手のタイムを10分の1秒以上も縮めることができる。4位の選手が金メダリストになるくらいの違いだ。 PHOTOGRAPH COURTESY OF NIKE |
そのプレートはメタリックで青紫色。ランダムな格子状になっている。 PHOTOGRAPH COURTESY OF NIKE |
その結果、スパイクプレートの重さは61gまで減少。前モデルの118gから半減した。そして硬さは約4倍になった。 PHOTOGRAPH COURTESY OF NIKE |
このシューズは、ナイキのスポーツ研究所の、4年以上にわたるアルゴリズミックデザインの実験の結果だ。
PHOTOGRAPH COURTESY OF NIKE |
「硬さと軽さの両立」を目指すためのアルゴリズム
もしあなたが短距離走者なら、硬いスパイクは強い味方になる。
2000年、カルガリー大学のヒューマンパフォーマンス研究所の研究者は、硬い靴底は中足指節関節(足の指のつけ根の部分)のエネルギー損失量を軽減すると発表している。
それは、陸上選手の全力疾走とジャンプの効率をよくすることを意味する。続く研究では、シューズの硬さが増すほど、短距離走のタイムの短縮につながることもわかった。
しかし、陸上用のスパイクをデザインするのに、硬さだけが大事なわけではない。
ナイキランニングフットウェアのイノヴェイションディレクター、ブレット・スクールミースターによれば、陸上用スパイクに硬さを求めることで、結局はシューズの重量化につながってしまいがちだという。シューズの硬さだけを追求するとスパイクは重くなり、「硬ければ硬いほど速い」という方程式は崩れてしまう。シューズが重すぎれば、いくら硬くても選手は速く走れない。
重さと硬さの関係に悩んだナイキのデザイナーは、コンピューテーショナルデザインに目をつけた。「ジェネラティヴデザイン」、あるいは「アルゴリズミックデザイン」とも呼ばれるそのデザイン手法は、より軽量で、丈夫な構造を制作するのに理想的な方法だからだ。
人間が「現存するシューズを改良する」というアプローチでデザインをするのに対して、コンピューターは「硬さと軽量化の両方を改良する」という目標を容易に達成できる。
ナイキスポーツ研究所で、デザイナーはプライスが100メートルを走ったときのデータを測定。彼らはそのデータを、重さと硬さが最適となるプレートの形を計算するアルゴリズムに送り込んだ。彼らは3Dプリンターで試作品をつくり、試作品を実験し、確実に結果を出すデザインができるまでそのサイクルを繰り返し行った。
いまのところ、研究所では成果が出ている。
プライスがZoom Superfly Eliteを履いて100メートルを走ったとき、タイムは0.148秒も短縮したのだ。大したことではないように思えるかもしれないが(0.148秒は瞬きする時間よりも短い)、プライスがロンドンオリンピックで金メダルを取ったとき、2位との差はわずか0.03秒だった。
「信じがたい結果です」とスクールミースターは言う。「0.148秒速くなれば、表彰台に届かないくらいの選手を金メダリストにすることができます