本日2015年8月7日金曜日、日本では2年ぶりにリリースされるVICE MAGAZINE。「THE MUSIC ISSUE」をテーマにミュージシャン、音楽ライター、写真家、政治家、ジャンクフード、ライブハウス、ガードマン、フェミニズム、犯罪者など、良くも悪くも音楽シーンを変革した20のヒト、モノ、コトを紹介。また、ヨーガン・テーラーや、ティム・バーバー、リッキー・パウエルなどが撮ったミュージシャンたちのフォトストーリーも掲載。そしてVICE MAGAZINEが歩んできた21年をこれまで発行してきた表紙とともに、歴史&アイデンティティーを振り返る企画など、盛りだくさんなので、是非とも読んで頂けたらと思います。




ここでは、そんなマガジンを製作する上で、カバーを担当したフォトグラファーのインタビューを紹介します。今回のVICE MAGAZINEでは、日本が誇るヘヴィメタルの伝道者、伊藤政則a.k.a.Masa-Itoの写真を撮ってくれたのだが、それだけでは語れない写真家モニカ・モギのさらなる魅力を探ります。




「夏草や兵どもが夢の跡」。勉強は大っ嫌いだったが、この松尾芭蕉の句だけはやけに心に残っている。この句のせいなのかはわからないが、どこか敗者への憧れがずっと心のなかにある。これまでの人生を振り返ってみても絶対に勝てる場面であえて敗者となる道を、知らず知らずのうちに選択し続けてきた気がしてゾッとする。こんな変な美徳を持たなければ、ここまでお金に苦労しなかったのではと思うのだが、まったく後悔もしてないので仕方がない。しかし、なぜ、完璧な強さを求めながらも、敗者に惹かれてしまうのだろうか?








まず今回のVICE MAGAZINEの表紙を撮ってくれてありがとう。普段はあんまり男性を撮ったりしないんだよね?

うん。女の子を撮ることが多い。でも1番最初に雑誌というかメディアで私の写真が掲載されたのが2011年のVICEのフォトイシューだったんだけど、そのときは1番好きなものってテーマで、私の彼氏を撮影しました。アメリカンアパレルの仕事でも男の人を撮影することがあります。

VICEのフォトイシューで初めてピックアップされたのは何歳のころ?

19歳くらいのとき。ニューヨークの女の子のフォトグラファーがアートグループを作っていて、そこに私も参加していたんだけど、そしたらVICEが1人1Pずつ、写真を掲載しないかって話をくれて。それまでは写真がホビーだったし、本当に仕事になるとは思わなかったから嬉しかった。






そもそも写真を始めたきっかけは?

15歳のときにジンを作ろうって思って、それに使う写真を撮ったのがきっかけかな。「あの頃ペニーレインと」って映画があったでしょ?15歳の少年がローリングストーン誌の記者としてバンドに同行するって話。あの映画に憧れて、私もやりたいなって思って。アメリカのバンドが日本に来日するときにアポイントをとってインタビューしに行って、写真も撮って、それをウェブマガジンみたいなものでジンを作ってたの。今考えたら良くそんなことができたなって。 だって1人でやってたんだよ、全部。しかも住んでたところが厚木の方だから東京まで行くのも遠いし。今はそんな勇気ない(笑)。あとは私の家族はお母さんだけだから、いつも働いてて、私は1人の時間がすごくあったから、いつもインターネットをしてた。それで写真で表現するアートの世界があるって知って。

さらに写真の世界にのめり込んで行くんですね。

もっと若い頃、ちょーダサいけどトイカメラとか流行ったころから、写真に興味はあったんだと思う。みんなブームが終わったら写真を撮るのも辞めたけど、お母さんが小さいころの私を撮ってくれていた本格的なカメラを借りて、写真を撮るようになっていったんだよね。その名残りで今でもフィルムのカメラしか使わない。

世代でいうとデジカメが普通の時代でしょ?逆にフィルムのカメラを触ったことがないって人が多いと思うけど。

私の頭の中だけだと思うけど、フィルムカメラの方が動きやすいし撮りやすい。デジカメはその場で、すぐ観れちゃって写真のマジックがなくなっちゃう気がする。だからフィルムのカメラしか撮りたいと思わない。

では、最近はどんな写真を撮りたいと思ってるの?

女の子を撮っているのが楽しい。10代のころはメッセージとか考えていなくて、ただ綺麗な写真を撮ることしか考えていなかったんだけど、もっと深く考えるようになった。最近のお気に入りは、女の子のポートレートを撮るプロジェクトで、ワーキングクラス・ビューティーってテーマで撮影したものがあって。リアルで、本当の女の子の部分を撮りたくて、観てくれた女の子にもっと自信を持ってもらいたいとか、力を感じてもらえたらと思って。








モデルはどんな女の子を撮影してるの?

最近は日本の雑誌でプロのモデルも撮ってるけど、プロのモデルより友達撮っている方が好き。私も14歳くらいのときまでは、ビクトリア・シークレットとかのモデルを観ていて、私もそんなふうになりたいって思ってたけど、自分のボディーイメージと比べると、とてもグチャグチャに思えて。それがアメリカンアパレルの広告で2段バラになってる広告を観て衝撃を受けたの。お腹が出てるけどすごくセクシーに見えた。そこから私の考え方も変わったと思う。
ただ日本だと、ファッションの仕事で私が選んだ友達をモデルで撮影すると、みんなショッキングに思うみたい。パーフェクトな女の子を見すぎてるからだと思うんだけど。アメリカンアパレルの仕事でも、そういう意見が多いみたい。だけど私は変だなって思う。アートを知らない人が観ると、おなかが出てる女の子の写真はネガティブでしかないんだと思うけど、それが私は自然な女の子だと思うし綺麗だと思うんだけどね。だってみんなの友達だって完璧じゃないけど可愛いでしょ。あと、撮った写真に乳首とかヘアが写ってたら、あとで消したり修正するのも好きじゃない。だって本当の姿じゃないでしょ。自然なことなのに、なんでそれが見えていたら卑猥だってなるのかわからない。全部修正していったらロボットになっちゃうもん。







セクシーな女の子を撮るのも好き?

女の子が観てセクシャリティーに観える写真を撮るのが好き。強くてセクシーな女の人を撮るのが好き。例えば周りのこととかを全く気にしてない人。そしてセクシャリティーを女の人がコントロールしてる人。単純なことでいうと、生理のこととか気にしないで話す人とか、ヘアをシェイプしないとか。そういうのって男の人の目線を意識して、生理の話をしなかったり、ヘアをシェイプしたりするでしょ。そうじゃなくて女の人が自分自身の価値観で生きている人が、強くて芯があるセクシーな女の人だと思う。









フェミニストって見られるでしょ?

別に写真を撮るときにフェミニストとしてメッセージを込めているわけじゃないんだけど、日本だと、あまりにもメディアに出てる女性のイメージが、私が表現してる女の子と違いすぎるから、そうやって言われちゃう。もちろんフェミニストって言われるのは嬉しいけど、トレンドだからってガールズフォトみたいに括られるのは嫌だなって。別にいち写真家でいいでしょって思う。

モノクロの写真はすごく昭和っぽく感じるけど?

昭和の匂いがするものが好き。日本の経済がすごく良かったとき、アートとかデザインが素晴らしかったと思う。古いパルコのCMとか観て、すごく想像させられるものがいっぱいある。今の日本にはほとんどないよね。女優さんで言えば梶芽衣子さんがすごく好き。きっとキルビルがこの人の真似してるでしょ。 すごくクールだしパワフル。歌が演歌ロックみたいで、、、。「そうよ私はただの女、そうよあなたはただの男」って歌詞もすごくフェミニスト。あとは神社とか日本の古来からあるものが写るランドスケープを撮るのも好き。デザインとかパッケージングとか古いやつも好き。お餅とか団子とかの梱包とか日本が1番だと思う。おせちのスタイルも好き。パッケージが美しい。あと、私の友達はみんな昭和っぽく見えるしね。「しおん」ってジンを作ったときモデルになってくれたさやかとか。

「しおん」は今まで話してくれたモニカのテーマが全部詰まっているような作品ですね?ところで「しおん」ってどういう意味?

「しおん」はお母さんの高校のときのバンド。あと花言葉で「わすれないよ」って意味がある。LAブックフェアに出そうと思って作った作品なんだけど、モデルをやってくれたさやか自身はすごくクールなことをやってる人。グループAってバンドでバイオリンをやってて、裸でペイントしたりする、アートパフォーマンスみたいなことをしてるんだけど、本当に周りの人を全く気にしていない。自分の世界で生きてる。リスペクト。そうやって強いんだけど、周りの人にはすごくやさしい。








今後どんな活動をしていきたい?

最近私長野で撮影してて、雷鳥をみたの。すごく珍しいことみたいなんだけど、目の前にいて。それで家に帰って雷鳥って検索してたら日本のフェミニストが出てきたの、平塚らいてう。明治とか大正時代の人だよね。政府からシャッタアウトされた、『青踏』っていう雑誌を作って。自分のセックスのストーリーとか子供をおろす話が書いてあったり、オープンに女性のこと自分のことを綴っている。すごく昔の時代なのにすごいなって思う。逆に今の女の人はオープンじゃないし、強く見えない人が多いと思う。そういうのを私の写真で変えてみたい。梶さんみたいな女の人が綺麗だって観念を作りたい。あと、たぶん私が日本語が上手くなっても純粋な日本人にはなれないと思う。だから私の目は、いつまでも外国人の目だから、その目で観る日本の良さを表現していきたいって思うしすごく興味がある。それをモダンと古いものをクラッシュする感覚で表現できたらなって思う。あとはカメラマンとして、まだ成功しているとは思ってなくて、常に進化してると思ってる。若いからだと思うけど、天才だとか形容されると嫌になっちゃう。そんな風にはとても思えない。今は本当にいろんな撮影がしたいし、なんでもチャレンジしたいし、自分の可能性を広げたいって思う。それで私の写真を観てくれた人がカメラマンになりたいとか、女性として強くなりたいとか思ってくれたら嬉しいな。




 





Monika Mogi

1992年生まれ。神奈川県出身。2011年10代でVICEのフォトイシューでデビュー。アメリカンアパレル、Xガールなどのファッションシュートから国内外を問わず各ファッション誌を中心に活躍する写真家。
http://www.monikamogi.com