ビットコインが、自由を取り戻すためのカギとなる
ビットコインは、ぼくらにどんな「お金の未来」を提示してくれるのか。いまだ、その答えは出ていない。“日本でいちばん簡単にビットコインを買える取引所”を謳うcoincheckで、日々、ビットコインの普及活動に勤しむエンジニアは、いまだ訝しがられる仮想通貨への意識を、いかに変えようというのか。
和田晃一良|KOICHIRO WADA
レジュプレス代表取締役社長。2009年、東京工業大学に入学。3年次よりウェブアプリ制作会社でアルバイトを始め、クックパッド主催第3回開発コンテスト24など、さまざまなハッカソンでの優勝経歴をもつ。12年8月にレジュプレスを創業。「STORYS.JP」とともに、同年8月にスタートしたビットコイン交換所「coincheck」のシステム開発を担当する。www.resupress.com
100万部を越えるミリオンセラー「ビリギャル」を生み出した「STORYS.JP」と、ビットコイン取引所「coincheck」。ふたつのウェブサービスにある共通点は、どちらもおなじエンジニアによるものということ。
手がけたのは、レジュプレス代表取締役社長の和田晃一良。彼はいま、マウントゴックスの経営破綻により歴史に幕を降ろすかにみえたビットコインで、あらたな物語を紡ごうとしている。
世界中が注目する仮想通貨は、今後、どんな様相を見せるのか。そして、若きエンジニアの考える「自由さ」がもたらす未来、とは。
──いま、ビットコインの基幹技術であるブロックチェーンに大きな注目が集まっています。そもそもブロックチェーンとは何なのでしょうか?
色々な観点がありますが、大きくはふたつに分けられます。ビットコインのようなパブリックなものと、銀行や企業が参画する「R3コンソーシアム」の ようなプライヴェートなもの。後者は、これから実用化を目指す研究段階で、技術的な情報もあまり公開されていません。そのため、まだ何ができるのかわからないので、いまはあまり興味がないんです。それよりも、市場として急速に広がる可能性を感じるビットコインに、いちばん注目しています。
──とは言え、世の中としては、和田さんが興味をもっていないと言うプライヴェートなブロックチェーンのほうが盛り上がりをみせていますよね。
ぼくからすると、本質的な価値は何なのかが、重要であり、世の中が盛り上がっているかどうかは重要ではないんですよね。ビットコインはずっと使われてきて、ちゃんと実績も出している。実際、ぼくらの会社でも、海外在住の個人スタッフへの支払いにビットコインを使うことで、利便性や実益があり、将来性を実感しています。
──現在、取引されているビットコインの規模って、どれくらいなのでしょう?
coincheck単体でも、月間で数百億円規模の取引が行われています。1年前くらいは、月間の取引額が3億円から5億円。これが半年間かけて10パーセント成長すると、半年後には月間6億円くらいかな…なんて事業計画を立てていたのですが、気がつけば、あっという間に数十億を越えていて。
──それがいまでは数百億、というスピードは驚きです。
ぼくたちも、ちょっと信じられないくらいの規模になっています。しかも、指数関数的に拡大しています。でも、それくらい、ビットコイン市場は成長し てきているんですよ。実際、2年前にcoincheckをスタートさせた頃より、ハードウェアに特化したスタートアップが出てきたりと、あらたなレイヤー のプレイヤーも参入し、多くのレイヤーにブルーオーシャンが広がった面白い段階になってきています。
──ビットコイン以外にも取り扱う仮想通貨の種類も増えているんですよね。
そうですね。これまではビットコインと日本円の交換だけだったんですけど、「Ether(イーサー)」という通貨を扱うようになり、その後「DAO(ダオ)」、2016年7月11日より「LISK(リスク)」と、現状で4つの仮想通貨を扱っています。
複数の仮想通貨は、株式みたいなものです。証券会社は、東証一部に上場している企業だったり、マザーズに上場している企業だったり、さまざまな株を扱っていますよね。仮想通貨の取引でも、いろんな通貨が上がったり下がったりしたとき、トレードや換金する選択肢が多いほうがユーザー的にもいいですからね。
──ビットコインとほかの仮想通貨との違いを、説明して頂けますか。
まずできることやその役割が違います。すごく簡単に説明すると、ダオは投資ファンドのように所有者みんなでどこに投資するかを決めて、リターンが得られたら保有するパーセンテージによって分配報酬を得られます。
Ethereum(イーサリアム)は、すこし複雑で…。要は、永続的に実行したいコードを世界中のノード──簡単にいえばサーヴァーです。ぼくたちのPCでも、AWS(Amazon Web Service)みたいなクラウドでも、物理的なサーバーでも何でもよい──に必要なコードを入れておくことで、常に動かし続けられる、ということなんです。そこで、ノードとなる彼らに対してのインセンティヴとしてイーサーという通貨が必要になるんです。
じゃあ、ビットコインのいちばんの利点は何かというと、管理人がいないということなんです。通常、通貨っていうのは国が発行・管理して、価値に責任を持っていましたよね。これまでのサービスは、そうした既存の通貨がベースにあったので、インターネット上でお金を送ることには向いてなかったんです。
でも、ビットコインには、発行国の規制はなく、ユーザー同士でその価値を担保し合っている。それによって新しい価値が生まれて、インターネット上での簡単な送金も可能にしました。
──そもそも、和田さんは「STORYS.JP(ストーリーズ)」を在学中に立ち上げていますね。それが、現在ではビットコインがメインに移り変わっている。まずもって、このふたつの事業の共通点は何なのでしょう? 正直なところ、あまり繋がりがないようにも感じてしまうのですが。
ぼくがcoincheckを始めようと思ったときって、すでに幾つかのビットコインを取引するサービスはあったんです。ただ、それらは、すごく使いにくかった。登録のフローは難しいし、実際に使ってみてもよくわからないし。こんなに面白いものを扱っているのに、なんて前時代的なサービスなんだという感じでした。
それまでぼくは、「ストーリーズ」でコンシューマーに向き合い、どうしたら自分の人生を、たとえば1万字といった長文で書いてもらえるのか、そのためのUIやサービスの使いやすさを研究していました。
サービスの使い易さを研究する作業って、かなり難易度の高い作業なわけですよ。そこで培った知識や経験をビットコインに活かせば、ユーザーを確保できるという目論見があったので、そういう意味では、ある程度の繋がりはあったのかもしれないですね。
──世の中的にもアクティヴな市場で、ビジネスとしても実績がちゃんと出ているし、これからスケールする目算もある。しかしながら、和田さんがそこまでビットコインに心惹かれる理由は、何かあるのでしょうか。
やはり、みんなで自由に使えるところ、です。というのも、ぼくがインターネットに触れだした小中学生のころって、良くも悪くも、だれも管理していなかった時代なんです。当然、その裏では違法ダウンロードや裏サイトが蔓延していたという問題もあるのですけど。
「Winny(ウィニー)」っていうP2Pソフトが流行りましたよね。ビットコインも意識的には共通する部分があると思っていて。本来のインターネットに戻った感じがしているんです。
自由で、誰も止めることはなく、ユーザー同士が繋がれる。ただ、喩え話としてビットコインの説明しているときに「ウィニー」を持ちだしても、知っている人がすくないのと、まずもって、みんなの前で言いにくいという気持ちもありますが…。
──P2Pの孕むイリーガルさがビットコインの印象を悪くしている、と。ただ、ビットコイン自体は、ある程度の信頼感を獲得しているようにも思います。
いま現在、第三者が、人から依頼を受けて通貨を送金するのは法律的にはライセンスが必要なんですけど、個人同士がビットコインを介在して送金すると制限の仕様がないので、実質的には送れてしまっている。ただ、それがイリーガルなことかどうかは、これから変わっていく段階だと思っています。
ウィニーで音楽の違法ダウンロードは流行りましたが、そこから「Spotify(スポティファイ)」やさまざまなストリーミング配信サービスも生まれました。電子書籍の登場も同じで、外的な要因がないと法規制や既存の業態は変わらないし、そういうところにこそ、イノヴェイションは起きると思うんで す。
これまでの金融業界は、付け入る余地がないくらいに制限されていました。それがビットコインの存在で、否が応でも変えなきゃいけないフェーズにきている。事実、三菱東京UFJ銀行がコンシューマー向けに仮想通貨をリリースすることを発表するなど、新たな動きも出始めていますよね。
ビットコインも、まだコンシューマーにとって単体では使いづらいものなので、より簡単な決算の仕組みや、新しい法体系に対応した業態、サービスなど、この流れのなかで、ぼくらがビットコインや、その利便性を促進する担い手になれればと思っています。