フライング・ロータスの映画監督デビュー作は「今年最も過激な短編」
音楽プロデューサーでDJのフライング・ロータスが、「steve」の名で映画監督としての一歩を踏み出した。何が彼を、映画制作へと向かわせたのか。そして、グロテスクで「臆病な人には向かない」デビュー短編作『Royal』はどのようにして生まれたのか?
スティーヴン・エリソンは芸名の「フライング・ロータス」として最もよく知られているかもしれないが、もうすぐ映画ファンは、彼を「steve」と呼び始めるかもしれない。
その名前──そう、すべて小文字で──は、エリソンが映画監督として活動するときに使うものだ。
彼のショートフィルムデビュー作である『Royal』は、8月にロサンゼルスで行われた「Sundance NEXT Fest」でプレミア上映された。まったく予想外の展開、というわけでもない。steveはロサンゼルス映画学校に通っていたし、キャリアの早い時期にはアダルトスイム(米国のアニメ専門チャンネルが大人向けの番組を編成するために設定した放送時間帯)にインストゥルメンタル楽曲を提供している。
だが、彼が映画制作を再開することになったすべての始まりは、あるGIFだった。
2015年10月、エリソンはTwitterで風変わりな短編を見た。DJブースにいる彼とレディオヘッドのフロントマン、トム・ヨークのGIFである。映像には、2人のミュージシャンが交わす可笑しな会話が加えられていた。
In October of last year there was this pretty awesome gif going around of me and Thom Yorke djing. pic.twitter.com/l09Y48Gvhq— FLYLO (@flyinglotus) 2016年7月6日
「大笑いしたよ」。エリソンはそのGIFについて言う。思いもよらないことだったが、彼はその動画のパワーにインスパイアされる自分に気づいた。
そこで、Adobe After Effectsのアニメーション技術を学ぶために、友人でアニメーターのデイヴィッド・ファース(英国のテレビシリーズ「Salad Fingers」のクリエイターだ)に助けを求めた。
エリソンはすぐに、長編アニメーション用に脚本を書いた。南カリフォルニアで起きた巨大地震の余波を受けた人々の、さまざまな人間関係にフォーカスしたものだ。
だが、あるときニューヨークへ向かう途中で、彼の想像は大きく膨らんだ。「ニューヨークにいると、自分が変質者のように感じるときがある」とエリソンは言う。
「自分のそばを通りすぎるさまざまな世界をたくさん見ることができる。そして、隣りの部屋や廊下の向こう側ではいったい何が起こっているのかと考えるんだ」
そのとき彼に、別のアイデアが浮かんだ。ある1組のカップルを実写で描いてみよう、と。彼はニューヨークを離れるとともにストーリーを書き始め、ロサンゼルスのエディ・アルカサール監督(彼が以前手がけた短編の楽曲はエリソンが担当している)の家に着くまでに書き上げた。ストーリーを読んだアルカサールは、作品をプロダクションの段階に進めるべきだと言った。
その結果生まれたのが『Royal』であり、今年デビューするショートフィルムのなかで最も過激な作品のひとつである。
作品は、ミッシー(イエシャ・コットン)とケネス(アウティ・ザム)という1組のカップルに焦点を当てており、2人は、彼らが抱える肌の疾患につい て知れば知るほど不安になっていく──しかもそれは、片方の登場人物が2人の関係を一変させる秘密を明かす前の話である(これだけは言っておこう。臆病な人には向かない映画だ)。
『Royal』にアニメーションは使われていないが、エリソンは脚本と監督のほかにも、いちばん過激で性的なシーンで操り人形の操作を務めている。 もし作品が観客を不快にさせたとしても、エリソンにとっては問題ないのだろう。というのも、彼は大きく影響を受けたもののひとつに、米国のテレビアニメ 「レンとスティンピー」の下品なスラップスティック・コメディを挙げているからだ。
だからといって、『Royal』は彼が求める通りの出来に仕上がったというわけではない。「フライング・ロータスとしての経歴があるせいで、映画づ くりは楽な道のりではなかったよ」と彼は言う。今年始めに行われたキャスティングも、エリソンが両方のメインキャラクターに黒人の俳優を使いたかったという理由で時間がかかった。
「黒人俳優の演技に対する人々のイメージを広げたかったんだ」と彼は言う。
さらに、作品のメインキャラクターには元々デイヴ・シャペルを希望していたが、シャペルのマネジメントチームに断られた。「彼らは、俺のしていることをひどく怖れていた。シャペル本人はこの提案のことを知らされてもいなかったと思うけど、マネジャーに拒否されたんだ」
演じたのがシャペルであろうとなかろうと、完成した作品は非常に不快で、かつグロテスクなまでに笑える。エリソンが(今後手がけるアニメーションの)長編プロジェクトが成功するかどうかを測れるものがあるとすれば、それはこの容赦のない実験作に対する観客の反応だろう。
TEXT BY K.M. MCFARLAND
WIRED (US)
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