木曜日, 8月 18, 2016

「Progressland」|Andrew Zuckerman

 

 

NYで開催中の「フツーじゃない展覧会」

 

8月までニューヨークで開催されている「ちょっと変わったもの」が集まった展示「Progressland」。

その内容はわたしたちに「未来のヴェクトル」を考えるきっかけを与えてくれる。






ニューヨークにある小さくて風変わりなギャラリーChamberの最新展示「Progressland」。そのタイトルは、ウォルト・ディズニーに由来している。

1964年のニューヨーク世界博覧会で、ディズニーはドーム型をした3階建てのパヴィリオンProgresslandをつくり上げた。そのパヴィリオンは、われわれを取り巻く電子機器がどのように社会を発展させていくのか、あらゆる方向から披露するためにデザインされたものだった。

ゼネラル・エレクトリック(GE)がスポンサーとして名を連ねてはいたが、Progresslandはディズニーの描く「テクノロジーのユートピア」というヴィジョンそのものだった。そして、ウォルト・ディズニーはこのProgresslandをディズニーワールドに加えようと計画していたという。

結局それは実現こそしなかったが、Progresslandの建築模型はChamberで見ることができる。展示品にはたくさんの奇妙な品々があり、旧ソヴィエト時代の宇宙船の模型や、紀元前2,400年から1,700年に遡るフリント製の小刀、カラフルでモダンなセラミック製の骨壺などがある。キュレイターを務める写真家アンドリュー・ザッカーマンはこれらのものは「探求心と、自分の知識を超えて物事を見たいという人間の欲望の起源」を象徴していると言う。

昨年ザッカーマンがキュレイションした展示「Human|Nature」は、彼が言う「人間の根本的な起源」をテーマにしていた。つまり、わたしたちはどこからきたのか、という問いだ。

今回開催されているProgresslandの展示では、人類の功績を示す人工的につくり上げた物や芸術的なメタファーを用いることによって、それに答えている。ザッカーマンのこれまでのキャリアを反映するアプローチである。彼は7年間、アップルの一流のエグゼクティヴデザイナーたちと仕事をしてきた。彼らがデザインしたアップルのデヴァイスは人類の功績として歴史に名を残すだろうと、多くの人が信じている。

2013年以降、ザッカーマンは自身の映像スタジオに力を注ぎ、「人類と自然界の関係性」をメタファーを通して追求することに活動の重きを置いている。代表的な作品は、エキゾチックな動物たちを被写体としたものだ。

「『わたしたち人間』と『彼ら』という関係性を取っ払おうとしているんです」と、ザッカーマンは語る。彼のアプローチでは、自然に生息する環境ではなく、真っ白で明るい背景の前で動物を撮影する。エキゾチックというより、ニュートラルという呼ぶ方がしっくりくる。

Progresslandは、特に宇宙探検を大きく取り上げている。1980年代大半をスペースシャトルの中に置き去りにされた1袋のトマトの種や、NASAの 保温ブランケット、年代物のロシアの宇宙服の手袋などが展示され、それぞれ人類の功績を示すアーティファクトとして分類されている。

これら奇妙な作品をテキサス州とフロリダ州の「かなり変わったオークション」をあちこちあたって手に入れたというザッカーマン。これらの州は、宇宙飛行士の家族が身の回りの品々を売り払うことが多い州で、なかにはアポロ17号の月面探査計画で撮影されたフイルムが入った缶なども含まれていた。ザッカーマンは複数の画像をつなぎ合わせ、奇妙に違和感のある「月の画像」をつくり上げた。「粉っぽい灰色ではなく、星を見ているような占星術的な感じがするんです。驚異の念を感じます」と、彼は話す。



一風変わった展示ショー「Progressland」は、ニューヨークにある風代わりなギャラリーChamberで開催されている。現在の展示は写真家アンドリュー・ザッカーマン。この作品は、ブルックリンを拠点に活動している企業Final Frontierによって制作された、火星に着用するように設計されたタッチセンシティヴ手袋「EVAスペース」。

Progresslandは「探求心と、自分の知識を超えて物事を見たいという人間の欲望の起源」と写真家ザッカーマンは言う。この「スペース・ケース」は彼の作品だ。

1964年のニューヨーク世界博覧会、ディズニーによってつくられたドーム型をした3階建てのパヴィリオン・「Progressland」。

Progresslandのオリジナル建築模型。

陶芸家ピーター・ピンカスの飾り壷。 白い壺に虹色のストライプのバンドでそれを飾り、悲しむより人生を祝うべきと指摘している。

アルゼンチンのアーティストAlexandra Kehayoglouによる羊毛のラグ。展示用につくられた。

イアン・ステルの椅子「RollBottom」には、ちょっとしたトリックがある(次の写真)。

椅子を小刻みに動かして、デスクカヴァーを動かしていくと椅子になる。

フランク・オースティンによって、1931年につくられた「アリの宮殿」。

キュンツェル氏の祖母から受け継いだガラス製品をいくつか組み合わせた作品。保存用カプセルのような作品として生まれ変わった。

内部が見える「透明なスピーカー」

ハッセルブラッド500の実物大模型(米航空機メーカーグラマン社、1960年)PHOTOGRAPH BY CHAMBER GALLERY

椅子のような、スツールのような。デザイナーのコンスタンチン・グルチッチによる「360度チェア」(2009年)。

PHOTOGRAPH BY CHAMBER GALLERY

Studio Molenによる失われたTraffic Space Glove。

照明デザイナーの板坂諭による巨大な吊り下げ式ランプ。


アーティストの多くは、今回の「Progressland」のために新たに作品を制作した。陶芸家ピーター・ピンカスは、虹色のストライプが入った白いつぼをつくり、骨壺は人生を嘆くのではなく祝うものであるべきだという考えを提示した(ギャラリー#5)。

照明デザイナーの板坂諭がつくった巨大な吊り下げ式ランプは、ガラスの球体の外側を囲う銅線が中のいくつもの電球につながっている(ギャラリー#16)。「ワイヤーと電球は、卵子と出会う精子のよう」だとザッカーマンは言う。デザイナーのミミ・ユンの日本式の茶室を近代的につくり変えた作品では、来訪者は中に入ってしばらくの間、瞑想にふけることができる。




Progresslandは多くの作品を通して、深く考えるきっかけを与えてくれるが、具体的な事実を示したり明らかな問題提起はほとんどない。「(その目的は)未来にどんなものがつくられるのかだとか、そういうことではないんです」と、ザッカーマンは言う。「わたしたちはどこに向かうのか。それは新しいことへの挑戦、そしていままでにないことをやってみたいという衝動です。そして、それこそがテーマなのです






PHOTOGRAPHS BY CHAMBER GALLERY
TEXT BY MARGARET RHODES

WIRED(US)