宇宙の秘密解明の新たな手がかりに。
今週はじめ、「重力波が直接検出されたらしい」という噂でネット上が騒然となりました。それを実現したと言われているLIGO(Laser Interferometer Gravitational Wave Observatory、直訳:レーザー干渉計重力波観測所)は2015年秋に感度を高めるアップグレードを遂げたばかりで、噂は単なる噂ではないと考えられます。
でも重力波を見つけると、何がすごいんでしょうか? そもそも重力波とは何で、どうしてそこまで躍起になって探しているんでしょうか?
簡単にいうと、重力波とは宇宙を構成する物質の振動です。たとえば超新星爆発とかブラックホールの合体といった巨大な事象によって起こる、時空の波です。空の上の星も、地球の上の人間を構成する原子も、宇宙の遠くで起きる星の大きさレベルの衝撃によって、いつもほんのちょっとだけ揺れているんです。
その「ほんのちょっと」とは、本当にわずかな動きです。重力波を作り出すエネルギーは巨大であっても、時空の波は信じられないほどかすかなんです。重力波が地球に届く頃には、原子の10億分の1くらいの揺れになっていると推定されています。だからその検出にはものすごくノイズの少ない環境が必要で、検出用装置にでもかなり最近になるまで検出しきれないほどでした。
アルベルト・アインシュタイン研究所が行ったブラックホール合体のシミュレーション。(Image Credit: Werner Benger / Wikimedia)
でも重力波検出プロジェクトは進化しています。それを体現しているのが、LIGOのAdvanced LIGOへのアップグレード、そしてNASAとESA(欧州宇宙機関)が共同開発した世界初の宇宙空間での重力波検出器LISAパスファインダーの打ち上げです。このふたつの観測装置によって、重力波検出は2010年代末までには可能になるのではないかと期待されてきました。そして今、Xデーが予想よりさらに早く訪れたかもしれないんです。
重力波検出の方法は、考え方としてはシンプルですが、実際は発狂するほど難しいです。実験で行われているのは、ふたつの物体の間の距離のごく小さな変動を測るということです。でもその変動はものすごく小さいので、検出しやすくするためには物体間の距離を大きくする必要があります。
それが現在最先端の重力波検出実験の考え方です。2000年代初頭に始まったLIGOの場合、各4㎞あるアームを直交させてその端に鏡を置き、アームの上をレーザー光線が何往復もするという構造になっています。重力波の影響を受けると、1本のアームはほんの少し伸び、1本のアームはほんの少し縮むと 予想されています。つまりそれによって、各アームの上を伝わる光が鏡に反射して戻ってくるタイミングが少しだけずれるはずで、そのずれを検出しようとしているのです。(日本の重力波検出プロジェクト、KAGRAのページの説明がとてもわかりやすいです。)
LIGOの設計図(via LIGO)
もしそこにずれがあると信号が生み出され、それが重力波だったのかどうかを研究者が分析して判断します。問題は、地球にはたくさんのノイズがあり、地球そのものの揺れや車や電車の振動も、信号の邪魔になる可能性があります。地球上のノイズと検出器に必要な距離が、重力波検出の大きな課題です。2010年に終了した最初のLIGOプロジェクトでは何も証拠が出ず、強いていえばLIGOの内部機関が研究者を試すべく意図的に埋め込んだフェイクの信号にだまされそうになっただけでした。
でも2010年のプロジェクト終了後、LIGOは5年間かけてアップグレードされ、2015年9月にAdvanced LIGOとなりました。感度が3倍になり、検知できる範囲は従来の最大6500万光年から最大2億2500万光年先までと広がりました。感度は最終的に従来の10倍にすることが目標となっています。
2015年12月には、宇宙での重力波検出を目指すLISAパスファインダーも打ち上げられました。今回の打ち上げは、考え方を検証するための実験です。
LISAパスファインダー実験チャンバー(金色の箱)とレーザー干渉計システム(中央)のコンピューターモデル。(via ESA)
重力波検出の場として宇宙が適している理由は、いくつかあります。まず宇宙のほうが、地球より圧倒的に静かです。ノイズ源になるのは太陽風と宇宙線くらいで、それらは入念なシールディングで防げます。上の図でも、実験用のふたつの箱がそれぞれ外部の力からしっかり防護されています。
でもLISAが打ち上げられたより大きな理由は、距離です。小さくて丸い地球という制約から解放されれば、より遠く離れたところに物体を配置でき、それによって重力波を捉える網をより大きく広げることができます。LISAパスファインダーでは1台の宇宙船にふたつの物体を載せているので、その距離は15インチ(約38cm)しか離れていませんが、複数の衛星を使えばその距離を最大500万kmまで広げられます。
でも、そこまでして重力波を検出する意義は何なんでしょうか? アインシュタインの一般相対性理論の大きな裏付けになるというだけではなく、重力波によって観測できる宇宙の現象があるんです。LISAパスファインダーの研究者、ビル・ウェバー氏は、重力波はブラックホールなどの「暗い宇宙」を深く知るためのもっとも直接的な方法だと言っています。
ブラックホールや中性子星、光を出さない物体を地球から観測することは、非常に難しいです。でも重力波はそういった物体を透過してくるので、それを通じて観測が可能になります。重力波を通じて暗い宇宙を見ることで、夢見ることもなかった宇宙の不思議を発見できるかもしれないのです。
2015年12月、打ち上げを待つLISA Pathfinder(via ESA)
さらに重力波は巨大なエネルギーで起こった事象の痕跡でもあり、それを分析すれば「強い場の極限」といわれる環境での重力の働きを理解できる可能性があります。巨大な物質同士が光速に近い速度で動きまわるとき、重力がどう動いているのか、我々には知らないことがたくさんあるのです。
Advanced LIGOが重力波を本当に検出できたのかどうか、まだ公式発表はありませんし、それまでにはしばらく時間がかかることでしょう。でも、噂レベルで物理学コミュニティがこれだけ反応してしまうことから考えると、その可能性はかなり高いと推測されます。
Advanced LIGOの感度がさらに高まれば、希望はもっと大きくなっていきます。歴史的瞬間は近い、またはもうすでに起きているのかもしれません。
source: LIGO、Twitter、Discovery、KAGRA
Maddie Stone - Gizmodo US[原文]
アインシュタインが100年前に予言した
宇宙の「重力波」を初検出 米チーム
宇宙から届く「重力波」を米国の研究チームが世界で初めて検出したことが11日、関係者への取材で分かった。アインシュタインが100年前に存在を予言しながら未確認だった現象で、新たな天文学や物理学に道を開く歴史的な発見となった。今後の検証で正しさが揺るがなければ、ノーベル賞の受賞は確実だ。
検出したのはカリフォルニア工科大とマサチューセッツ工科大などの共同研究チーム。米国の2カ所に設置した大型観測装置「LIGO」(ライゴ)の昨年9月以降のデータを解析し、重力波をキャッチしたことを確認した。
重力波は重い天体同士が合体するなど激しく動いた際、その重力の影響で周囲の空間にゆがみが生じ、さざ波のように遠くまでゆがみが伝わっていく現象。アインシュタインが1916年、一般相対性理論でその存在を示したが、地球に届く空間のゆがみは極めて微弱なため検出が難しく、物理学上の大きな課題になっていた。
チームは一辺の長さが4キロに及ぶL字形のLIGOで空間の微弱なゆがみを検出。ブラックホール同士が合体した際に発生した重力波をとらえた。信頼度は極めて高く、検出は間違いないと判断した。欧州チームも研究に協力した。
重力波の観測装置を望遠鏡として使えば、光さえのみ込んでしまうブラックホールなど、光や電波では見えない天体を直接とらえることができる。また、重力波は減衰せずに遠くまで伝わる性質があるため、はるか遠くを探ることで宇宙誕生の謎に迫れると期待されており、宇宙の研究に飛躍的な進展をもたらす。
重力波の検出は1990年代以降、日米欧が一番乗りを目指して激しく競ってきた。米国は装置の感度を従来の数倍に高める工事を行い、昨年9月に観測を再開したばかりだった。
日本は東大宇宙線研究所が昨年11月、岐阜県飛騨市神岡町に大型観測装置「かぐら」を建設したが、米国と同水準の高感度で観測を始めるのは早くても約1年後の予定で、一歩出遅れた形となった。