McLaren P1|マクラーレン P1
マクラーレン テストドライバー、クリス・グッドウィン氏がドライブ
富士スピードウェイでマクラーレン P1を試す
マクラーレンが新世代のスーパースポーツカーとして、昨年のジュネーブモーターショーで発表した「P1」をついに試乗する機会が訪れた。そのステージに選ばれたのは、世界屈指の高速サーキット「富士スピードウェイ」。マクラーレン・オートモーティブのチーフテストドライバー、クリス・グッドウィン氏によるドライブのもと、幸運にも同乗する機会を得た大谷達也氏がレポートをお届けする。
驚天動地のパフォーマンス
かつてレーシングドライバーだったクリス・グッドウィン氏は、ドライビングの腕前とクルマの解析能力を買われ、現在はマクラーレン・オートモーティブのチーフテストドライバーとして、同社が送り出すすべての製品の開発とチューニングにかかわっている。マクラーレンのフラッグシップモデルである「P1」も彼の手で熟成が図られたことはいうまでもない。
そんなグッドウィン氏がドライブするP1に同乗できるチャンスが私のもとに舞い込んできた。断る理由はなにひとつない。私は「マクラーレン トラックデイ ジャパン 2014」が開催されている富士スピードウェイにひとり駆けつけた。
P1に同乗できるのは2周だけという約束だった。ただし、このスーパースポーツカーの最大の特徴は、公道では快適に走り、サーキットではレーシングカー並みのパフォーマンスを示す点にある。だとすれば、もっともスパルタンなレースモードと、公道用のノーマルモードのふたつは少なくとも試したい。
P1に同乗できるのは2周だけという約束だった。ただし、このスーパースポーツカーの最大の特徴は、公道では快適に走り、サーキットではレーシングカー並みのパフォーマンスを示す点にある。だとすれば、もっともスパルタンなレースモードと、公道用のノーマルモードのふたつは少なくとも試したい。
P1は、「MP4/12C」のために開発されたエンジン、ギアボックス、モノコックなどを巧みに利用しながら、それらを一段とチューニングし、さらにハイブリッドシステムを取り付けることで最高速度:350km/h(リミッター作動)、0-100km/h加速:3秒未満、0-200km/h加速:7秒未満、0-300km/h加速:17秒未満という驚天動地のパフォーマンスを実現したスーパースポーツカーである。これと並ぶパフォーマンスの持ち主といえば、「ラ フェラーリ」と「ポルシェ 918 ハイブリッド」くらいのものだ。
オンボード映像で見るP1
前置きはこの程度にして、早速グッドウィン氏と富士スピードウェイを走りはじめてみよう。じつは、このOPENERSで閲覧できる動画を収録したときが、彼にとっての富士スピードウェイ初体験。これが本当であることは、最初のラップをほぼインベタ(コースのイン側に沿って走ること)で走ったことからも明らか。そこで私は助手席から「長く回り込む右コーナー」とか「トリッキーな逆バンクコーナー」などとコースについて説明することになったのだが、その様子は前述の動画にもしっかりと捉えられている。
富士は初めてといっていたグッドウィン氏だが、さすが元レーシングドライバーだけあってコースの習得は恐ろしいほど早い。そのことは、2ラップ目にはレコードラインに近い軌跡を辿って走行していることからもわかってもらえるだろう。
レースモードで2周を走ってよく理解できたのは、車高を落とし、サスペンションをノーマルモードの300パーセントまで固めたことで、P1がレーシングカー並みの機敏な動きを手に入れていることだ。おかげで、たとえグッドウィン氏が攻めすぎてオーバーステアに転じたときでも、簡単な修正で素早くこれを打ち消すことができた。
それは、助手席から見ていても、彼がP1をまるで手足のように扱っていることからも明らか。もちろん、私にそれほどの腕前はないが、あれほど正確に、そして俊敏にクルマをコントロールできたらさぞかし楽しいだろうと、隣から見ていて軽いジェラシーを感じるほどだった。 |
レースモードからノーマルモードに
つづいて私が驚いたのは、レースモードで2周を走った後のこと。当然のことながら、このときグッドウィン氏はピットロードにP1を運んだ。約束の周回数が終わったのだから、これで試乗は終了。私はそう思っていた。けれども、P1がピットロード上で停止したとき、彼は私にこう話しかけたのである。「レースモードからノーマルモードに切り替えるのは30秒ほどかかる。この間にウィングを格納し、車高を上げて、サスペンションをソフトにしているんだ」 彼の説明を聞いて初めてわかったことだが、レースモードからそれ以外のモードに切り替えるにはP1をいったん停止させなければならない。
「さあ、これでノーマルモードに切り替わった。それじゃあ、行こうか」 彼はそう言うと、再びP1を走らせた。正直、乗り心地だけではサスペンションがそれまでの1/3まで軟らかくなったとは感じられないが、Aコーナーの手前でグッドウィン氏がステアリングを左右に切ったところ、ロールが確実に大きくなっていることがわかった。
しかも、ヘアピンではそれまでとおなじ感覚で操舵しても、おもったほどノーズはインを向いてくれない。クルマの限界まではまだだいぶマージンがあるようにおもわれたが、その範囲内でも明確にアンダーステアとなるように躾けられているのだ。
「おそらく、実際に公道を走っている範囲では、P1がアンダーステアとは感じないだろう」とグッドウィン氏。「それでも、私たちはノーマルモードをアンダーステア傾向に仕立てた。そのほうがまちがいなく安全だからね」 |
P1にブレーキ回生の機能はない
グッドウィン氏の説明によれば、P1のノーマルモードは「650S」のスポーツモード相当だというから、これでもじゅうぶんにハイパフォーマンスなはずだが、それでもひとたびレースモードを経験した後ではすべてが緩慢で、ドライバーの操作からひと呼吸置いてクルマが反応するようにおもえる。だから、ハンドリング特性がアンダーからオーバーに反転するのもゆっくり起きるだろうが、それを修正するにも時間がかかり、ダイナミックなドライビングを楽しむにはやや不向きかもしれない。この傾向は、車高は高めのまま、ややサスペンションを固めるスポーツモードに切り替えても大きく変わることはなかった。
繰り返しになるが、こうした印象はレースモードを先に体験したからこそ感じられたことで、ノーマルモードしか試さなければ決して気がつかなかったことだろう。それほどP1は高性能で、しかもモード切り替えによって大きく性格を変えるスーパースポーツカーなのだ。
では、いつバッテリーをチャージするかといえば、スロットルペダルが全開になっていない、つまりエンジンに余力はあるときに充電するのである。これではハイブリッドシステムを燃費の改善にほとんど使えないことになるが、その理由をグッドウィン氏は「ブレーキ回生をおこなえば、必ずブレーキのフィーリングが悪くなり、ドライビングを心ゆくまで楽しめなくなる。P1はエコカーではない。だから回生ブレーキは搭載しなかったんだ」
彼のこの言葉に、P1のすべてが凝縮されているような気がした。
McLaren P1|マクラーレン P1
ボディサイズ|全長4,588 × 全幅1,946 × 全高1,188(レースモード時1,138) mm
ホイールベース|2,670 mm
トレッド 前/後|1,658 / 1,604 mm
重量|1,395 kg
エンジン|3,799cc V型8気筒 ツインターボ
最高出力| 737 ps / 7,500 rpm
最大トルク|720 Nm / 4,000 rpm
モーター出力|179 ps
モータートルク|260 Nm
システム最高出力|916 ps
システム最大トルク|900 Nm
トランスミッション|7段オートマチック(SSG)
駆動方式|MR
サスペンション|油圧プロアクティブサスペンション(RaceActive Chassis Control (RCC))
タイヤ 前/後|245/35ZR19 / 315/30ZR20
ブレーキ|カーボンセラミックディスク
最高速度|350 km/h(電子制御による)
0-100km/h加速|3 秒以下
0-200km/h加速|7 秒以下
0-300km/h加速|17 秒以下
CO2排出量|200 g/km以下
価格|9,661万5,000 円(全世界限定375台で販売され、すでに完売)