水曜日, 10月 22, 2014

「タイニーハウス・ムーヴメント」


モノを所有せずシンプルに暮らす、アメリカ発の「タイニーハウス・ムーヴメント」

「タイニーハウス」という小さな家を、自分の好みやライフスタイルに合わせて、自らデザインしてつくって住んでいる人たちがいる。リーマン・ショック後、アメリカで大量生産大量消費社会に対するカウンターカルチャーとして発展してきた、「家のDIYムーヴメント」を紹介。



1. はじまりの人 - Jay Shafer / Four Lights Tiny House Company この写真が表紙になった彼の本『THE SMALL HOUSE BOOK』は1999年に発刊、全米を驚かせた。それ以降、多くの人がこのジェイのデザインや思想を受け継いでいる。

アメリカでは、2000年頃から、大きな家ではなく、トレーラーハウスや自作のログハウスなど「小さな家」転じて「小屋」に住むことを選択する人が増えてきている。
この「Tiny House Movement(タイニーハウス・ムーヴメント:small houseとも)」は、単に小さな家に住むというだけでなく、なるべくモノを所有せずにシンプルに暮らすという、これまでの大量生産大量消費社会に対するカウンターカルチャーとして発展してきた。そして、『ブルース・オールマイティ』などの作品で知られる映画監督のトム・シャドヤックなど、セレブリティにも広がりつつある。
このムーヴメントを日本でも巻き起こそうと、タイニーハウスビルダーの竹内友一は、現在日本で3カ月をかけて実際に「タイニーハウス」を制作するワークショップを開催している。その竹内氏にタイニーハウス・ムーヴメントのもつ意味、そしてワークショップによって伝えようとしていること、今後の日本でのムーヴメントの可能性について訊いた。

──そもそもアメリカではどのようなきっかけでタイニーハウスムーヴメントが起こったのでしょうか。
ルーツは2009年に発売されたジェイ・シェーファーの『THE SMALL HOUSE BOOK』とも言われていますが、それが唯一のきっかけというわけではなく、同時多発的に各地でタイニーハウスがつくられるようになりました。ちょうどリーマン・ショックを経て、サブプライムローン問題が起きていた時期で、中間層の下の方の人たちが家を失ったりして、経済に翻弄されるんじゃなくて、自分の本当に大切なものをもつことができるシンプルな暮らしに目覚める人が多かったんじゃないでしょうか。
──それがムーヴメントとなってどのような現象が起きたのでしょうか。
最初は50代以上の人が多かったみたいなんですが、例えばムーヴメントを代表するひとりであるディー・ウィリアムスのように、何かのきっかけで(彼女の場合は自分の病気だったのですが)、それまでの消費型の暮らしを捨てて、シンプルなタイニーハウスでの生活を選ぶというような人が出てきて、それがメインストリームの大量消費社会に対する、ある種のカウンターカルチャーとして運動が生まれ、20代、30代の若い人たちに広がっていったわけです。
アメリカでは、トップクリエイターと呼ばれるような人たちも登場し、小さな家に特化した部品や書籍などのマーケットも生まれました。そのうち、マスメディアにも取り上げられるようになりました。FYI.tvでは、アメリカの各地のタイニーハウスやそこで暮らす人たちを紹介したり、実際にタイニーハウスをつくったりする番組「Tiny House Nation」が放送されています。

竹内友一 | YUICHI TAKEUCHI
ツリーヘッズ代表。タイニーハウスビルダー。20代はイギリスやオランダのクリエイターの下で学び、帰国後は人と自然をつなぐ体験プログラムを制作。2008年ころからは、全国各地でツリーハウスやタイニーハウスの制作を行っている。
──竹内さんがタイニーハウスを手がけるようになったきっかけは?
ツリーハウスビルダーとして活動するようになって、あちこちに滞在して制作していたのですが、そのときに道具を全部入れて寝泊まりもできるような移動手段があればいいと思ったことが大きかったかもしれません。
ツリーハウスもタイニーハウスの一種ではあるので、興味はずっともっていたのですが、最終的にはディー・ウィリアムスのTEDの講演映像を観て「ものを手放してシンプルに生きることで自分の世界が広がる」というところにすごく惹かれたのです。TEDを観たあと、すぐにディーのワークショップに申し込んで参加したのですが、そこで本当に彼女の考え方や生き方が大好きになりました。日本で行なうワークショップには、ディーが講師として参加してくれることになったので心強いです。
「タイニーハウス・ムーヴメント」の立役者のひとり、ディー・ウィリアムスによるTEDスピーチ。彼女はもともと、環境保護関係の職に就いていたという。
──日本の環境とタイニーハウスとの相性はどうなんでしょう。
タイニーハウスは環境にあわせて、さまざまなつくり方が工夫できます。小さい家というのは大きな家と比べて構造的にも単純だし、カスタマイズすることが容易なんです。ライフスタイルが変われば、それに合わせて家のつくりも変えていくことができます。日本の環境に適したタイニーハウスをつくることは、それほど難しくはないと思います。
──ワークショップではどのようなことを受講者に伝えたいですか。
タイニーハウスっていうのは家のことを指すけれど、実態はムーヴメントで大事なのは家そのものよりも生き方とか暮らし方なんです。
ワークショップでも、小屋を作って終わりではなくて、暮らし方まで見えてくるようなワークショップにしたいです。そのためにソーラーでオフグリッドに取り組む藤野電力の小田嶋さんや、自然とのつながりをデザインするパーマカルチャーの四井さんにも来てもらうことにしました。
──今後の展望について、聞かせてください。
タイニーハウスというツールを使って、社会の仕組みを上手に活用できるようにしたいと思っています。限界集落や耕作放棄地など、自然環境が豊かな場所に小さなコミュニティをつくろうという動きもあります。都市部に暮らしていると消費一辺倒になりがちですけど、週末に自分のタイニーハウスに行って、野菜を育てたり、小屋をつくったりしながら自分の手で暮らしを手づくりする時間の過ごし方を楽しんでもらえればと。
また、いろいろな人が集まって、シンプルに暮らすための知恵がアーカイヴできればいいなと思っています。そんな小さなことから、流行ではなくムーヴメントとして育っていったら嬉しいですね。日本のいまの暮らし方を全世界の人がしたら、地球2.5個分の資源が必要だと言われています。いままでは、より多く消費する人が消費の少ない人たちより豊かであると信じてきました。消費は幸福を得るための一手段であって、本当は少ない消費でより多くの幸福を得ることができれば、またその方法をこのムーヴメントの中で共有できるような仕組みをつくりたいなと思っています。

シンプルで楽しく暮らす - Dee Williams / Portland Alternative Dwellings 病気を経験したことでシンプルに暮らすことを決意。(アメリカの)一般的な住宅を手放し、廃材などでセルフビルド。多くの人にタイニーハウスの魅力を広める活動をしている。
セルフビルドの伝道師 - Dan Louche / Tiny Home Builders ダンはセルフビルドのためのたくさんのリソースを集め、多くの人に提供している。
環境、エネルギー技術のつまったエコハウス - Derin Williams / Shelter Wise 環境負荷の低い、エネルギー効率の良いタイニーハウスを研究、開発している。
アラスカの気候にも耐えられるシェルター - Laird Herbert / Leaf House
リサイクル素材とデザインの融合 - Aaron Maret / AMDBS
エクストリームアスリートの住みか - Mike Basich / Area 241
手づくりハウスのレジェンド - Lloid Kahn / Shelter Publications Whole Earth CatalogやShelterの編者であり、ハンドメイドの家のパイオニア。
小屋づくりの楽しさを広めるエンターテイナー - Derek “Deek” Diedricksen / RelaxShacks.com
ムーヴメントを見つめるジャーナリスト - Kirsten Dirksen / Fair Companies



http://wired.jp/2014/10/11/tinyhouse-movement/