もう中国には純愛など存在しない
文化大革命が壊した中国の伝統的倫理観
先日、中国人の旧友に北京で会った。友人は日本の大学に学び、その後15年ほど日本で働いていたが、現在は中国に戻って北京にある会社の取締役になった。順風満帆、あとは結婚するだけかと思ったが、中国ではエリートほど結婚には二の足を踏むというのだ。一体どういうことなのか。彼が語った当世、中国の結婚事情とは。
出世するほど結婚が怖くなる――取締役就任おめでとう!
「ありがとう。中国に戻ってから2度目の職場だよ。最初は別の会社に勤めていた。その後、ヘッドハンテングされて今の会社に移ったんだが、社長に気に入られてこのポジションに抜擢されたのさ」
――40代で取締役とは、スピード出世だね。
「中国の40代は人材不足。現在の大学進学率は日本以上になっているけど、20年ほど前は低かったから大卒が少なかった。それに、中国の教育は日本以上に暗記が中心。体制と矛盾するようなことを教えてはいけないから、批判精神が生れない。批判精神を持つ人間が育たないことは日本でも問題になっているけど、中国はそれ以上だよ。そんな人材ばかりだかから、目まぐるしく変化する経済情勢についていけない。だから、東京で米国人が経営する小さな会社に勤めていた時の経験が大いに役に立っているよ」
――仕事は順調のようだけど、まだ独身だね。出世もしたことだし、そろそろ結婚したらどうだい。ご両親も心配しているだろう。今の君なら、素敵な彼女を見つけられるのでは?
「結婚は考えているよ。ただ、そう簡単じゃない。俺は中国の女性が怖くて結婚できないんだよ。中国人の精神構造は文化大革命によって壊されてしまったからね」
文化大革命で失ったもの
――文化大革命? それが君の結婚とどう関係しているだい?
――それが今にも影響していると?「大いに関係ありさ。1970年代前半の批林批孔(ひりんひこう)を知っているかい? 文革の最中に林彪と孔子を批判したキャンペーンだよ。あれが中国を変えた。共産主義国家になってからも、中国人の行動様式は儒教が律していたんだ。いくら共産党が教育したって、庶民が唯物論を理解することはないからね。文革までは伝統的な考えが息づいていた」
「中国人は心のどこかで、儒教はうるさいと思っていたんだよ。年長者を敬えなんて、古臭いと。だけど、儒教は宗教心の薄い中国人の倫理の根源になっていた。必要なものだったんだ。それを文革は徹底的に破壊してしまった。まあ、中国人は集団ヒステリーに走りやすい民族だからね。今思えば、文革も集団ヒステリーだよ。林彪を叩くのはいいとしても、孔子を叩いたのは大失敗だね。政府は今頃になって孔子学院なんか作って儒教を宣伝しているけど、あれだけ派手に壊せば、簡単には元に戻らない」
――なるほど、文革が中国人の倫理観を壊したと言うのだね。
「文革の後は経済一点張り。全てがお金中心の世の中になった。中国人は昔から拝金教的なところがあったけど、それに歯止めをかけていたのが儒教だったんだ」
愛人ビジネスは当たり前
――儒教を壊したから、汚職が蔓延したと言いたいのだね?
「汚職はある意味、中国の伝統でもあるが、儒教を叩いたことによる影響も大きい。まあ、文革以降の経済成長に倫理はなかったね。そんな中でも、一番退廃してしまったのが女性の倫理感さ」
――女性が退廃した?
「儒教の枠が外れて、官僚は汚職に走った。女性はお金に走った。日本人である君には理解できないかもしれないが、中国では“愛人”がビジネスになっているよ」
――それは、どういうこと?
「汚職と愛人が組み合わさったのさ。汚職ではお金を渡す。だが、お金を渡すとバレやすい。そして授受が見つかった時に言い訳できない。そんな時に現れたのが愛人の斡旋さ。ある企業が若い女性にお金を渡して、官僚の愛人になるように頼む。愛人を賄賂にしたわけだ。これなら、見つかっても官僚は“私はモテただけだ”と言い訳しやすい。まあ、バレバレだけどね。ハゲ親父がモテるはずなどないからね(笑い)」
「昨今の汚職撲滅運動で下火になったけど、ついこの前まで、愛人を利用した汚職は大いに流行っていたよ。愛人の1人や2人いないようでは、有力官僚とはいえない。官僚たちは愛人の数を自慢し合っていたし、有力者になれば10人を超える愛人を持っていた。まあ、よく精力が続くものだと思ったがね」――確かに、本気の好意なのか、賄賂なのか証明することは難しいね。
経済を手の上で転がす女たち
――だけど、愛人になりたい女性はそんなにいるかな?
「儒教がなくなったら倫理もなくなった。アメリカにはキリスト教、日本には恥の文化があるけど、今の中国にはなにもない。だから、若い女の子になぜ愛人になってはいけないのか、説教ができない。愛人になれるのは若いうちだけ。だから、昼間は普通に勤めていて、夜は愛人。そして、甘い言葉を投げかけて官僚に高額な商品を買わせる。それで儲けたデパートもたくさんあったんじゃないかな。愛人になるには、それなりの美人じゃなければいけない。斡旋会社には裏ランクがあったと聞いているよ。普通、愛人は影の存在だろう。それが、一種のステータスになっていた。どこか狂っていると思わないかい」
――官僚が愛人を囲っていたと言うニュースは日本でも聞いたことがあるけれど、それほどだとは思わなかったよ。
「まあ、それが、習近平が汚職撲滅に走った真の理由さ。中国の道義は完全におかしくなってしまった。それに加えて男余り。一人っ子政策の結果、男が女よりも3割も多い。だから女は売り手市場。中国では新居は男側が用意する風習があるから、男余りの中で、男の子を持つ親は争ってマンションを買った。マンションを買わなければ孫の顔を見ることはできないからね。これも不動産バブルの原因の1つだよ。」
――中国では経済も女がカギを握っているというわけか。
「奇跡の成長がもっとも劇的に変えたのは“女心”だ。もうこの国に純愛など存在しない。全てが“お金”。女の子はお金としか結婚しない。中国の合計特殊出生率は公式には1.6ということになっているけど、都市部は1.0以下になっている。政府は少子化対策として一人っ子政策の見直しを始めたけど、その前に婚姻率が低下してしまったから、子供は増えない。そして、離婚した場合の慰謝料は莫大な額になっている」
――それが、君が結婚しない理由かい?
「中国を離れていた20年の間に女性が大きく変わってしまった。できることなら、日本の女性と結婚したいよ。日本の女性も現代風になったけど、まだ恥の文化が残っているからね」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44468