木曜日, 10月 02, 2014

村田製作所 チアリーディング部


チアリーダーロボットが映し出す、ムラタの未来

目指すは「脱・部品単体売り」ビジネス




 身長の半分は占めるであろう大きなボールに乗りながらも、必至にバランスを取る10体の女の子型ロボット。音楽に合わせて一斉に動き出しダンスを踊り始める。
 列を組んだり、先頭の女の子を追いかけたり、円形になって回ったり…。様々なフォーメーションで繰り広げられるダンス。女の子たちの動きはややふらついているものの、決してぶつかることはない。最後にハートの陣形を組みながら両手を上げて一連のパフォーマンスは終了する。
 冒頭のシーンは、村田製作所が9月25日に発表した玉乗り型ロボット「村田製作所チアリーディング部」の記者会見での一コマ。その健気な姿はつい応援したい気持ちにさせられる。筆者自身、パフォーマンスが終了した瞬間に思わず「よく頑張った」と褒めてあげたくなってしまった。

4代目でチアリーダーに

 電子部品メーカーでありながら、これまでもロボットを開発してきた村田製作所。今回のチアリーディング部は、自転車に乗る「ムラタセイサク君」(1991年と2005年)、一輪車に乗る「ムラタセイコちゃん」(2008年)に続く、4代目のロボットになる。
 村田製作所自身、ロボット事業に参入するわけではない。自社の無線通信モジュールやセンサーが数多く搭載されたロボットを、自社の営業活動や社外イベントに登場させることで技術力をアピールする狙いがある。さらに、小学校などへの出前授業にも登場し理系の楽しさを子供たちに伝えるのに一役買っている。
 セイサク君やセイコちゃんは、こうした対外活動のために国内外を飛び回っている。直近3年間の活動実績は、2011年が261回、2012年が285回、2013年が321回と超多忙だ。日本だけでなく、米国や中国、インド、欧州など海外も含まれている。今回開発したチアリーディング部もこうした活動に取り組む予定だ。
発表された「村田製作所チアリーディング部」。この写真ではボールには乗っていない
小さい方がバランスが取りにくい





ダンスパフォーマンス中の様子
 4代目となる今回の特徴は、「チアリーディング部」という名前が示す通り、セイサク君やセイコちゃんのように1体ではなく10体によるパフォーマンスに対応したことだ。
 10台でパフォーマンスするロボットを開発した理由について、「イノベーターを応援するというコンセプトからチアリーディング部を開発しようと考えた」とプロジェクトリーダーである村田製作所の吉川浩一担当課長は説明する。
 開発が始まったのは2012年7月。約2年の開発期間を経て発表されたチアリーディング部だが、「技術的なハードルはセイサク君やセイコちゃんに比べて高かった」(吉川担当課長)と言う。

小さい方がバランスが取りにくい

 吉川担当課長によると、今回のチアリーディング部は一体で自立するだけでも、セイサク君やセイコちゃんよりも難しいという。その理由は身長にある。
 セイサク君とセイコちゃんの身長が50cmに対して、今回のチアリーディング部のロボットは36cm(ボール含む)。「手のひらに鉛筆を立ててバランスを取る時に長いモノよりも短いモノが難しいように、ロボットのバランスも小型化した方が取りにくい」(吉川担当課長)からだ。
プロジェクトリーダーを務めた村田製作所の吉川浩一担当課長
 村田製作所では今回、ジャイロセンサーの測定精度を高め、1体につき3個搭載した。これにより、傾きの検出精度を高めて姿勢を保てるようになった。
 さらに、今回のロボットには5個の超音波センサーと4個の赤外線センサーを搭載。発振器から出た超音波と赤外線の速度の差からロボットがいる位置を把握する。この位置情報を基に、10台のロボットを同期、制御することでぶつからずにダンスパフォーマンスができるようになった。「導入した技術はそれぞれ高いものではないが、技術をすり合わせるのが難しかった」と吉川担当課長は振り返る。
新たなビジネスモデルのショーケースに

 前回のセイコちゃんから、6年の歳月を経てデビューしたチアリーディング部。なぜこのタイミングで発表されたのか。
 その理由について吉川担当課長は、「村田製作所の創業70周年という節目に合わせたかった」こと、そして「我々の今後のビジネスモデルに合わせたロボットを世に送り出したかった」ことの2つを挙げる。

新たなビジネスモデルのショーケースに

 村田製作所が目指すビジネスモデルは、「部品単体売り」からの脱却。「これまで部品売りのビジネスを展開してきたが、お客様のニーズに応えていくにはソフトウエアやハードウエアを含めたソリューションが必要になってきている」と吉川担当課長は話す。
 既に、主力のスマートフォン向け通信モジュールでは機器接続に必要となるソフトウエアも合わせて提供している。海外の大手端末メーカーからは「完成度が高いためそのまま使うことも多い」との声が上がるほど評価が高い。こうしたきめ細やかな対応が、同社の好調な業績を下支えしていると言える。
 村田製作所が成長市場に掲げる「自動車」「環境・エネルギー」「医療・ヘルスケア」といった分野では、エレクトロニクス技術に詳しくないメーカーとの取り引きも増えることになる。つまり、部品単体ではなくソリューションで提供できることが新規顧客獲得の大きな武器になると考えているわけだ。
 今回のチアリーディング部に使われている技術は、自動車の自動運転などへの応用が期待される。ひょっとすると、チアリーディング部は自動車メーカーへの“応援”が最初の大仕事なのかもしれない。
 なお、チアリーディング部は今月7日から千葉・幕張メッセで開催される家電見本市「シーテック」で一般公開されるので、興味がある読者の方はその実力をご覧になってはどうだろうか。ただし、チアリーディング部は小学校高学年(という設定)なので失敗することもあるかもしれない。その時は野次ではなく温かい声援をお願いしたいところだ。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141001/271974/