░▒▓新しいトムヨーク▓▒░

9月27日の日本時間深夜、THOM YORKEが新作『Tomorrow’s Modern Boxes』を発表しました。販売方法が少々特殊で、BitTorrent Bundleというサービスを利用しています
Pitchforkに掲載されている彼のメッセージが、下記記事にていち早く邦訳されています。
これはBitTorrentのメカニズムが一般人に理解できる代物かどうかを試す実験だ。
ということのようです。
DREAM THEATERのコレ以来ひさびさにtorrentを引っ張り出して来て早速利用してみました。

実際に買ってみた

支払いはPayPalとクレジットカードが使えます。購入後、拡張子torrentのファイルがダウンロードできるようになりました。それを専用のソフトで読み込むと、torrentファイルに記載されているファイルのダウンロードが開始されます。ここでは例としてμTorrentを使ってみましょう。
torrentファイル読み込み
torrentファイル読み込み
こんな感じ。ダウンロード先を指定してOKを押して待つだけの簡単なお仕事です。

操作自体は簡単

torrentのダウンロード以降の流れは非常にスムーズです。インターネットや音楽ファイルの管理に慣れた人であれば何の問題もないでしょう
ただし、iTunes(と何人かの知人)におんぶ抱っこで元ファイルの場所もよくわかっていないような人になると話は別です。(1)新しい謎のソフトの導入が必要、(2)新しい謎のソフトでダウンロードしたあといつもの音楽再生ソフトへの移行が必要というこの2点が、パソコンに疎い人たちを遠ざける大きな要因になることは間違いありません
iTunesが日本でもそこそこ普及しているのは、「CD取り込み」というただ1つの操作を覚えれば一応使えるというその簡単さが関係しているんじゃないでしょうか。実際、それ以上のことを要求するとめんどくさがる人に何回か出会っています。
そういう意味で<BitTorrentのメカニズムが一般人に理解できる代物かどうかを試す実験>という発言は、それ以上の意味が含まれてはいるものの、なるほど彼らしい上から目線だなあ、とものすごく腑に落ちます。
また、購入にクレジットカードが必要というのは高校生や未成年にありがたくない話です。

BitTorrentのメカニズム

BitTorrentは「たくさんの人たちがちょっとずつダウンロードのために協力しあう」という特徴があります。現在進行でダウンロードしている人がいればいるほど、あるいはダウンロードしたあと他人のダウンロードのためにソフトを起動しっぱなしにしてくれる人がいればいるほど、ダウンロードは速くなります。
iTunesなどはAppleがファイルを提供していて、たくさんダウンロードされればそれだけApple側に負担がかかります。だからこそ<サーバーへのアップロード費用>が要求されるわけです。それがBitTorrentであれば、ダウンロードする人それぞれがサーバー機能を果たすため、どこかの誰かにサーバー費用を払わなくてもよくなります。また、ダウンロードされればされるほどサーバー機能を果たす人が増えるため、ダウンロード数肥大による負担の増大もあまり気にする必要もありません。理論上は。たぶん……。
今回、私の他にダウンロード協力者が最大で40名少々いました。貢献度のやたら高い人(下り速度300kb/sくらい)とその他大勢(下り速度10kb/s)という感じで、約200MBのファイルをダウンロードし終えるのに10分少々の時間がかかりました。Bandcampで同じくらいのサイズのファイルをダウンロードすると2~3分で終わることを考えると、決して速いとは言えないでしょう。現在光回線でネットに繋いでいますが、WiMAXを使っていたときはBandcampで50分くらいかかっていたので、BitTorrentではそれ以上かかると予想されます。
それでは、知名度のあまりないミュージシャンではどうでしょうか。BitTorrent Bundleのサイトで、ダウンロード数が50くらいの作品で試してみたところ、ダウンロード協力者はAmazonS3という人のみで、速度は10kb/s程度。単純に考えると200MBの作品をダウンロードし終えるのに5時間程度かかることになります。このAmazonS3はあのAmazonなのかはわかりませんが、もし彼がいなければダウンロードは不可能になります。お金を払って誰かに配信を依頼していない分、誰かが配信に協力していないとダウンロードができないというのはTorrentのひとつの欠点です。「完璧なファイルを持ってダウンロードに協力している人がいないと全員に中途半端なファイルしか行き渡らない」というの残念な結果も起こり得ます。これを回避するにはミュージシャン本人がファイルアップロード者として常にtorrentクライアントを起動していなければなりません。結構負担です。(もしBitTorrentがAmazonにそうした役割を依頼しているとすれば、今後何かしらの料金が発生する可能性もあります)
Thomや、既に配信をしているDEATH GRIPSなどの著名なミュージシャンであればアップロード協力者も多いでしょうし、それほど不自由なく利用できると思います。また、その存在が巨大になるにしたがって増えるであろうサーバー代の節約にもなるでしょう。しかし、数いる独立系ミュージシャンの場合、この先BitTorrentが普及したとしても不便である可能性が高いです。それほど好きでもないミュージシャンのために、誰がTorrentを常に起動して自らの帯域を捧げてくれるのでしょうか?素直にBandcampや他のサービスを利用したほうが良い気がします。

違法ダウンロード対策は?

torrentは違法ダウンロードによく利用されます。今回の形式で、合法的にダウンロードされたTorrentファイルと違法にダウンロードされたTorrentファイルは、どのように判断されるのでしょうか。元となるTorrentファイルは不正に入手されたとはいえ、そのファイルそのものは正規のもので、しかも実際にダウンロードするファイルは合法にアップロードされたものという、ダウンロードプロセスには何ら違法性がない以上、従来の「違法にアップロードされたファイルをTorrentでダウンロードする」よりもたやすく実行されそうな気がします。
とはいえ、さすがにこの辺を対策していないことはないでしょう。そのうち調べてみようかと思います。

BitTorrentは新風を巻き起こすか?

個々人がダウンロードのために協力しあうというサービスの特徴は、確かに<サーバーへのアップロードも費用も「クラウドシステム」なんて出鱈目も必要ない>かもしれません。しかしやはりその分欠点もあります。そしてその欠点は、サーバーへのアップロード費用を少しでもケチりたい多くのアマチュアミュージシャンたち、あるいはもしかしたら少しでも自らの音楽から次の活動費用を捻出したいミュージシャンたちにとって致命的なものかもしれません
とはいえ、今回の件でBitTorrentの知名度が上がることは、このサービスの可能性を見極める上で非常に有用でしょう。もちろん、単に新しいサービスを使った、というだけなので「商業主義からの脱却だ!」「オレは○○ドル払ったぜ(シタリ)」「金払ったほうがえらいのかよ」「音楽の金銭的価値を下げた」と阿鼻叫喚が繰り広げられたRADIOHEADの『In Rainbows』ほど話題にはならなさそうですが、とはいえ私はカオス寄りニュートラルなので、こういう既存のやり方を変えるような行動はとりあえずどんどんやっていってくれ、と考えています。良いものは残るでしょうし、悪いものは淘汰されるでしょう。その良い悪いが、リスナーではなく売り手側基準では、あるかもしれませんが。
たとえその先に破滅があったとしても、また僕たちで新しい世界を作ればいいよね?
あと、ただBitTorrentを使うってだけじゃなくて、そのことに対して話題性を高めるために突然発表するってところが、こいつやっぱ人心掌握してんなって感じです。蜘蛛の意図に貪りつく人の群れを横目に!

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