金曜日, 12月 11, 2015

世界に1セット、約2億4300万円のアルバム

世界に1セットのヒップホップアルバムが約2億4300万円で売却。購入したのは?

 


映画『キル・ビル』、『アフロサムライ』などへの楽曲提供などで知られる RZA 率いるヒップホップグループ ウータン・クラン(Wu-Tang Clan) が制作した、世界にひとつしか存在しないアルバム『Once Upon A Time in Shaolin』が、約2億4300万円で売却されました。

ところが、その購入者が今年米国で大炎上した製薬会社 CEO、マーティン・シュクレリだったことがわかり、話題となっています。

ウータン・クランは1990年代から断続的に活動しているヒップホップグループ。リーダーの RZA はアニメ映画『アフロサムライ』やタランティーノ作品への楽曲提供、自らが原案、脚本、音楽、監督、主演をこなした『アイアン・フィスト』シリーズなど、映画との関わりも深い人物。またプレイステーション用ゲーム『ウータン』の主役キャラ本人でもあります。



そのウータン・クランが今年リリースしたのが、限定1セットの2枚組アルバム「Once Upon A Time In Shaolin」。手掘り彫刻が施され、いかにも重厚な銀-ニッケル製のケースに収められたその音源には、グループのオリジナルメンバーも参加した31曲、128分におよぶ楽曲が収められています。またこのアルバム購入者は2103年まで放送やインターネットなどを通じて音源を公開しないという契約に応じなければならないとされました。

アルバムがオークション形式で販売されることが発表されると、まだオークション開始前にもかかわらず1人の購入希望者が現れ、いきなり500万ドル(約6億円)を提示しました。これを見て、さほど音楽に興味がない(であろう)金持ちの手にアルバムが渡ることを懸念した2人のファンが対抗馬として名乗りを上げました。果敢にも Kickstarter で資金募集を始めた2人でしたが、意外と世間の反応は薄く1万5400ドルを集めるのがやっとでした。

11月24日、結局アルバムは落札額200万ドル(約2億4300万円)で先ほどの買い手へと渡りました。RZA によると「買い手は自分の名前を公表したがったが、やめておくよう忠告した」とのこと。

ところが12月9日になり、米 Bloomberg が買い手がマーティン・シュクレリだったと報じました。

マーティン・シュクレリは元ヘッジファンドマネージャーで、現在は製薬会社 チューリング・ファーマシューティカルズ の CEO を務める人物。チューリング社は今年9月、それまで1錠13.5ドル(約1600円)で販売されていた HIV 患者向けの薬「ダラプリム」の製造権を買い取り、その価格を1錠750ドル(約9万円)にすると発表して大炎上した会社です。


欲をかいて大失敗した2社 

 

このときシュクレリは値上げへの非難に臆することもなく「この薬を買い取ったからには利益をあげなければならない」「がんの治療薬にくらべれば遥かに安い」と価格の正当性を主張。その後 Twitter で値上げの理由をたずねたジャーナリストに侮辱の言葉を浴びせて再び燃料を投下し、マスコミからの集中砲火を浴びました。その後シュクレリは、利益はこれから始めるもっと効果の高い薬の開発に充てると説明し、価格も下げると発言しています。



シュクレリは Bloomberg に『Once Upon A Time In Shaolin』を聴いたかと尋ねられ、「一度も聴いていないよ。テイラー・スウィフトがお願いしてきたら聴かせるかもね」返答しました。ただシュクレリがアルバムを購入したこと自体に問題はなく、今回は誰も文句を言うことはできなさそうです。

しかしアルバムを買うだけならともかく、わざわざファンや一般の人の反感まで買わなくてもいいのになと思わずにはいられません。

なお、アルバムを売却したウータン・クランは、買い手の人となりを知ったのは売却後だったとし、落札代金のほとんどを慈善事業に寄付すると発表しています。