アイデアが生まれやすい脳の状態とは? クリエイティブをマネジメントする方法
「働き方と学び方」の研究開発を強化することを目的に設立した「WORKSIGHT
LAB.(ワークサイトラボ)」に、USBメモリなどの発案者であるの元パナソニック、Ziba戦略ディレクターの濱口秀司氏が登壇。濱口氏がケーススタディを用いて、イノベーションを生み出すための方法論を教えます。アイデアを生むためにはクリエイティブな脳の状態を維持することが必要だという同氏がお勧めの2つのメソッドを紹介しました。
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京都にユニークな電気自動車を走らせるプロジェクト
濱口秀司氏(以下、濱口):4つめ。4つめで終わります。ケースとしては。最近のケースです。
「エレクトリックビーグルを京都でユニークに走らせてみよう」と。これ、実際にあったそういうテーマです。いいですか?車会社がデザイン会社に頼んで、京都の中で、あの狭い町で電気自動車を走らせて、おもしろい仕組みを作ってくれよと。
実際あったプロジェクトで、5社が入って考えたんですけれども、どうもアイデアとしておもしろくないと。で、僕に声がかかったんですね。「ちょっと1発やってくれんか」と。その時に考えたのは、まず車を全て小さくしてます。狭い町で、細い路地に入ったらおもしろいとこもあるし、ビジネスもあるから、小さくしないと路地に入れないと。いいですか?
2人乗りとか、3人乗りとか。それは、5社ともそういうふうに考えたんです。もちろん、例えば西陣織の地域でやるとしたら、西陣をシートに入れて地産池消にするとか、もしくはスマホ使ってEVステーションをちゃんと自動的に見つけるようにするとか、いろんなことを言ってるんですけど、基本的にエレクトリックビーグルとして小さくなってるんです。これはOKだと思いま す。とりあえずね。
じゃあ、どこにバイアスがあるか。これ見てくださいね。
「objectとmobility」これ、真ん中が例えば普通の車のサイズにしましょう。ちょっとこっち行くとプリウスですね。もうちょっと行くと、皆が考える3人乗り、2人乗りの電機自動車。もうちょっとこっち行くとセグウェイですね。一応左下は人間にしておきます。人間一番小さいんで。人間は自動車じゃないですけど。こっち行くと電車っぽいやつですね。すみません、電車を一番端にしようか。この辺が電気バスですね。飛行機とかはやめておきましょう。一応空飛んでるんで。あと地下鉄はやめて、地上にはいつくばっているものと。要は、人間から電車サイズまでobjectのサイズがあると。
で、おもしろいのは、なぜデザイナーたちが皆小さくしようと思ったかというと、それはmobilityを上げたいんですね。例えば京都の町並みで、この細い路地を人間がこうやってキューって入ってきますし、例えば軒下にも入れますよね。電車は入れないですよね。実はmobilityと、もののサイズは、相関関係があると。これに従ってもしアイデアを作ると、全員が2人乗りでmobilityの高いものを作るんですね。
視覚化したバイアスを壊して、新しいアイデアをつくる
もう一度。これがアイデアを作っている深い源泉だとしましょうか。
視覚化されていますよね、線が。これ壊せますよね。これ、子どもに「この線と違う線を書いてください」って言ったらおしまいで、ぐにゃぐにゃって曲げて書く子もいれば、ぺけにする人もいれば、仮にこの線を引いたらどうなります?
ここですね。2人乗り、3人乗り。トゥクトゥクって線を上げると、ここにぶち当たりますよね、新しいアイデアとしては。
いいですか? 2人乗りなのに、mobilityが低いですと。
これ聞いた瞬間に「ええ!?」と思いますよね。「え、何で? 2人乗りだからmobility高いはずなのに、mobility無いの? おかしいじゃん!」と。
仮に堀川通り。関西出身ならわかるんですけど、南北に走ってる太い幹線道路があるんですね。4車線とか5車線の、一番端だけ走れると。で、スピードは自由に調整できます。端のレーンで、速く行ったり、遅く行ったり、2人乗りで楽しく。で、その代わり、走行車線に入ると危ないからアウトと。普通はそこから路地に入ると楽しいことが待ってるんですけど、路地は駄目と。堀川だけ走れる、ちょっと自由度がある、そういうEVを作るんですね。
もうちょっと拡張して堀川、北大路、東大路、三条ってロの字型にしますよね。それでも、その端っこだけしか入れない。で、各交差点にEVの充電所を作るんです。いいですか? ロの字型で。
で、各交差点は、例えば、いろんなお店があったり、ここ清水寺、ここ銀閣みたいのありますよね。そうすると、旧所明跡とリンクできるし、かつ「ああ、ここの充電ステーション10台停まってていっぱいだから、次のところ行こう」と思ったら、自分のスマホ見たら、次のところ空いてるよって。でも目で見ても視覚的に空いてると。あそこだと。
固定されているからわかりやすい。これもうちょっとぐっと押しましょうか。
固定されていると。仮にそれが京都に敷設されて、京都で地震が起きて、停電が起きたとしますよね。これ固定されてて、車自体はバッテリーですよね。夜多分繋がってますよね、80パーセントくらいは。停電したらLEDライトが点いてて、充電ステーションが全部光るんです。各交差点ごとの、ロの字型で。
そうすると京都の人は、ライフラインとして、とにかく電気が切れても、あそこの幹線道路まで行けばライトは点いてると。次行きますよね、そこに。充電の箱がありますよね。バーンあけるんです、非常用の。ワイヤーが200本入ってて、引き出すんです。何かっていうと、携帯に繋がる。何か災害があったときに、携帯の基地局は相当強く作られてて、別の予備電源があるんで通信はできるんですけど、何が問題かというたら、町の中で電気が無いので、自分の携帯が使えなくなると。そしたら、そこに繋がってるEVのバッテリーが全部切れるまで、とにかく京都市民に電話通信はできるようするというインフラに作りかえることができますよね。
これだけの話が、何で出てくるかというと、皆が「こうだ!」って思っているものをピュッと壊すことで出てくる。
壊すバイアスは深ければ深いほどいい
もうちょっと深く考えて、例えばこれで世界のインフラ設計をしようと。都市のサイズ、産業の分布の仕方でパターンニングしようという時に、Aという車会社が、このバイアスに従ってインフラストラクチャーを作ったと。
パリの街はこれと。でかいのと小さいの、みたいな。パリの郊外は、このでかいのだけという、このラインに沿った車を準備してインフラを組んだ場合と、B社はこれを知っていて、mobilityが低い2人乗りというのを持っている場合で、明らかに競争優位性は違いますよね。
これ何を言いたいかというと、壊すバイアスは深ければ深いほどいいと。
本当に当たり前だと思っているところをぶち壊すと、相当イノベイティブなところにいくと。ですから、我々がやらないといけないのはバイアス探しなんですけれども、どうやってアイデアを作るかというバイアス、それから、できるだけ深いバイアスを探す。それを視覚化して、視覚化すれば壊せる。これがバイアス崩しのポイントですね。よろしいでしょうか。
クリエイティブな状態を作り出す
じゃあ、どうやってやるのと。何か絵描いて、違う線引いて考えたらいいんだなと。それは正しいです。じゃあどうやってやるの、という話です。答えは、要はクリエイティブに考えればいいという、すごく突き放し系の答えなんですけれども、もう少し詳しくいきましょう。
クリエイティブに考えればよいと。これは重要です。やっぱ新しいことを考えるので、例え先ほどのようなやつでも、クリエイティビティは保っておきたいですね。で、「クリエイティビティって何なんですか?」ということですね。
また脳内です。やっぱり脳みそなんですね。で、脳みそが、いつクリエイティブなのかっていうのを理解しないと、絶対コントロールできないですよね。
これ1つの例なんですけど、脳みその中を見ると、ものすごく構造的に考えてる瞬間、ロジカルに考えてる瞬間、なんか公式で考えてる瞬間、算数で考えてる瞬間がありますよね。反対が直感であーだこーだランダムに考えてる瞬間がありますよね。人間の脳って右脳左脳があってすごくおもしろくて。
仮にこうだとします。脳の中にはモードがありますと。すごく構造的に、論理的に考えてる瞬間と、反対側の瞬間と。で、この上で、クリエイティビティはどこが一番高いんですか?っていう議論をすると、よく皆考えるのは、縦向きにこう線を、斜めにきゅっと。(左下から右上に斜めな線を描くフリをする)
構造的に考えてるときは低いと。 例えばミーティングルームに入って、「はい、皆さんこんにちは。今から3分間考えてください。その後1つずつのテーマを、1人1個で30秒ずつご説明ください」っていうと、クリエイティビティが下がると。カオティック(無秩序)に何かワイガヤ(ワイワイガヤガヤ)でやってると、クリエイティビティが高まると思ってるんですが、僕の経験上、全然違うんですよ。こうなんですよ。
カオティックにむちゃくちゃやってる時は、実は個人のクリエイティビティはあまり高くないです。グループでも全然違いますね。ストラクチャードが低いっていうのも、これは正しいです。新しい発想は生まれないです。なぜかというと、先ほどのバイアスモデルと一緒で、結局数式を使ったり公式を使うっていうことは、もうそのバイアスに縛られるわけで、それが崩れた状態を議論しないといけないわけですから。
そうすると、真ん中のゾーンが実はスイートスポットになるんですね。それを、ストラクチャードカオスと1998年に名付けたんですね。
構造的、でも混沌。普段人間の頭って、こういう瞬間ありますよね。何となくロジカルに考えてるけれども、でも直感も入ってるという。実はこれがスイートスポットなんです。で、これが一番クリエイティブな状態です。
クリエイティブをマネジメントする方法
さて、これが正しいとしたら、先ほど言ったクリエイティブに考えようっていう時に、クリエイティブな状態、この山のてっぺんに保つっていうのが結構大変なんですよ。山の上にボールを置いているようなもんで、パナソニックに行ったら、皆で議論したら、ボールは必ず左側に転がっていきますね。「はい、構造的に」みたいな。
ベンチャーと仕事をすると、右側にボーン転がっていって、何を言ってるかわからなくなると。これ、山のてっぺんにボール置くとの一緒で、むちゃくちゃ難しいんですね。
で、いろいろ考えて実験した挙句、実はね、これマネジメント方法があります。2つだけ今日ご披露します。本当は3つあるんですけど。これ謎かけで、思いついたら教えてください、気が付いたら。
構造と無秩序を行き来する
メインの2ついきます。まず1つ目。行ったり来たりする。
これ、むちゃむちゃパワフルです。例えばこの瞬間「はい、このマイクをイノベーションしてください」て、どなたかに言いますよね。でも「3分後にプレゼンしてください、この皆さんの前で」と。カーテン、バーン! と開けたら「周りにあと5,000人います」と。そこで「説明してください」って言ったら、かなりカオティックにいきますよね。ハードルは高いし、緊張感は高まるし。
で、こっち側に行くと。で、考えていただいた直後に「あ、すいません。間違ってました」と。「えっと、もうちょっと構造的にいきましょう」と。先ほど言ったみたいに「マイクの部品点数は全部で7つでできておりますので、これをですね、20個、100個、という感じで、もし作っていくとどんなふうになるか、考えてみてください」と言うと、ガーッて左側行くんです。
これ実際、行ったり来たりすると、論理的にはこのてっぺんを頭が通ってる確率が高くなると。科学系のほうでよく言われる電子イオンみたいなものですね。「どこに電子があるかわからないけれども、その辺は通ってるはずだ」と。こういうアプローチです。これ有効です。
2つ目はですね、物理的にコントロールすると。
科学なら次は物理だということですね。物理的にコントロールすると。 で、物理的に何かコントロールしようと思うと、3つ必要で、
1つ目は「目的を知ってる。そこに置きたい」と。
2番目、モニターできると。「あ、転がっとるわ」と。
で、転がった瞬間に3番目。「元に戻すツールがある」と。
こんだけあったらコントロールできるんですね。これコントロールできます。ゴールを知ってるから。で、どうやってモニターして、どうやってコントロールするか? ってすごい簡単です。脳の話なんで、中で使ってるメディアに着目します。
例えばブレストやるときに、ひたすら論理的なことを問うと。「全て数字で語ってください」と言ったら簡単に左側行きますよね。
次に、とにかくこのマイク考えるときによくわかんないけれども「美しい絵で描いてください」とか、もっと言うと「建築物の一部の写真で語ってください」って言うと、もうこっち側行きますよね。
で、いいものがあって、実は。
1つはダイヤグラム。僕がこれ書いてるのは全部ダイヤグラムですね。これ、ある程度論理的なんだけれども、でもいい加減じゃないですか。何が構造的?みたいな定義しかしてないわけで。このある程度いい加減なダイヤグラムっていうのは、すごいパワフルなツールで、それを書いてるあいだは、実は構造的混沌のちょっとこの辺で頭が動いてるんですね。
次、ポンチ絵。今日は描いてないですけれども、よく描くんです、ノートにいろんな絵を。でも全然きれいな絵描けないんで。僕デザイナーじゃないんで。何かこうやって棒状の人間を描いて携帯持たせてみたいな。ポンチ絵、これってね、全然美しくないんで、インスピレーショナルじゃないんで、こっち側(カオティックな方向)に来るんですね。 この両端のメディアをもし使えば脳がそこに行くんだったら、簡単ですよね。
ひたすらその2つで考えたら、真ん中行きますよね。
もっと言うとチームメンバーがやたらストラクチャーなことを考え始めて、壁にマーケットデータを貼ってたら「わかった」と、「それはわかったけれども、それをもう少しダイヤグラムに変えてください」と。
「いやそれを、ソリューションをもう少し何かこう、ちょっと簡単な絵で描いてください」って言うと真ん中に持ってこれる。
これがマジネメント方法の2つ目ですね。
で、先ほどの「行ったり来たりする」それから、「メディアをコントロールする」というこの2つだけで、最初の議題ですね、クリエイティビティは真ん中の高い状態に保てます。
これがまず1つ目ですね。で、まずこれで「クリエイティブに考える」土台ができたと。