10歳からネットで“エロ”に触れる現代、ポルノ依存症の恐ろしい実態とは?
ネットで検索するとすぐにセクシーな画像やAV(アダルトビデオ)動画などのエロコンテンツが見れてしまう現代。心理学者がインターネット上のポルノがもたらす問題点について警鐘を鳴らしています。ポルノ依存症によって引き起こされる勃起不全や射精障害といった症状には薬も効きません。ある人は「我々は今までの世代の中で初めて、左手でオナニーをする世代なのではないか」と語っていました。本当のセックスと異なる性的な行為ばかりを行うことで、実際の性生活に支障をきたす可能性もあります。中毒者にとってのポルノは「魚にとっての水のようなもの」であり、依存症になっていることすら認識できない危険性もあるそうです。(TEDxGlasgowより/この動画は2012年に公開されたものです)
ほとんどの若者は10歳からネットでポルノを見る
ゲリー・ウィルソン氏:最近の急激なインターネットポルノの広がりは世界的なものですよね。若者のほとんど皆が、インターネットへのアクセスを持つ時代です。若者がポルノに興味を持つのは自然なことですよね。カナダのサイモン・ラジネス博士によると、ほとんどの若者は10歳の時にインターネットポルノを見ることを始めるといいます。そのくらいの年になると、セックスに対しての興味が衝動的にわいてくるのです。
インターネットポルノは従来のポルノに比べて人をより引きつける、その誘惑に抵抗できないものとなっています。なぜでしょうか。
人は常に目新しいものに引きつけられるという衝動を持ち合わせていますね。
それが原因だと思います。つまり、インターネットポルノは、次から次へと新しいものが更新され、さまざまな種類の動画を一気に見ることができますよね。従来のポルノより、種類も増え続け、アクセスも容易になっています。この表をみてください。
これはオーストラリアの調査を表しています。この一番高くなっている場所で、調査員は被験者に今までと違う種類のポルノを見せたのです。そしたら、被験者の脳と体は急激に興奮度を増しています。目新しいものに反応したのですね。どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。
動物学的な現象からこれを探ってみましょう。この表を見てください。
これは羊の実験なのですが、この雄の羊が同じ雌の羊と交尾をする時、射精するまでの時間がどんどん伸びていっているのがわかります(1回目は2分なのが、5回目には約17分かかっている)。しかし、ここで雌を1回ごとに取り替えてみるとどうでしょう。雄の羊は、5回目になっても2分で射精に至っています。
この現象を、クーリッジ効果(Coolidge effect: 新しいメスの存在がオスの性衝動を活気づけること)といいます。このクーリッジ効果がインターネットポルノの促進を高めていると言えるでしょう。
このように、哺乳類には、目新しいパートナーを探し続け、子孫を反映させていくという原始的な習性があります。目新しいパートナーを見ると、脳が反応し、ドーパミンが放出され、性的衝動が起きるのです。目新しい雌の羊がいるかぎり、雄の羊は疲れるまで交尾を継続します。
それと同じように、インターネットポルノ視聴者も、ドーパミンの働きを得て、次から次へと目新しいポルノを求めることになります。インターネットポルノ上では、男性は10分もあれば何人・何十人もの魅力的な女性を見ることができます。これは、彼らの祖先が一生のうち会うことのできる魅力的な女性の数よりも多いかもしれません。 ただ、インターネットポルノにはさまざまな問題があります。インターネットポルノ依存症です。
ポルノ依存症にとってのポルノは「魚にとっての水」
インターネットポルノを見るのに慣れてしまった脳は、ポルノを見ている時に得られる満足感にたどり着くため、習慣的にポルノを見ることを欲するようになります。そしてインターネットポルノを多く見るようになると、1人の時間が増えたり、窃視症(のぞき見する)が生じたり、さらに同時にたくさんのポルノを見るようになったり、次々にポルノサイトを探しまわったり、刺激を求めたり……そのような行動も増えていきます。
ある人は言いました、我々はいままでの世代の中で初めて、左手で自慰行為をする世代なのではないか、と(会場 笑)。本当のセックスは、違いますよね。
やさしさ、触感、におい、ホルモンの放出、感情、ふれあい、等。インターネットポルノばかりを依存的に見ている者が、本当のセックスに直面した場合、どのようなリアクションが生じるのでしょうか。
つまり、インターネットポルノ依存症の人は、実際の性生活において何らかの支障をきたさないのでしょうか。実は研究者は、それを調べることにとても困難しているのです。
なぜ困難しているのでしょうか。
それは、調査に伴う数々の問題があるからです。
まず第一の問題は対照実験が実施できないことです。
サイモン・ラジネス博士は、インターネットポルノの影響を、大学生程度の男性を対象にコントロール実験(対照実験:結果を検証するための比較対象を設定した実験のこと)を行おうとしました。
しかし、それは不可能だったのです。ポルノを見ていない男性を見つけることができなかったのです。比較対象となるグループがいなければ、コントロール実験はできないですね。これは、たとえば皆10歳でタバコを吸いはじめるのならば、タバコを吸う人が肺がんになるリスクが高い、という結果を持ち出すことができないのと同じですね。
サイモン・ラジネス博士はそれでも、インターネットポルノを日常的に見ている男性を対象に、「インターネットポルノは、あなたの生活や、女性に対するアプローチに影響を及ぼしていますか?」という質問を投げかけます。すると、「そうは思いません」とい答えが帰ってくるのですが……。
もう何年も、場合によっては何十年もインターネットポルノを見ている人達にそんな質問をしても、これは魚に「魚さん、水についてどう思う?」と聞いているようなものなのです。
ここで第二の問題が浮き上がります。それはつまり、インターネットポルノを見ることに慣れてしまっているが故、自分がインターネットポルノ依存症であるということさえ気がつかない患者が多数いるのです。
ジンバルド博士が『The Demise of the Guys』 (男性の崩壊)という本で述べていることによると、インターネットポルノ中毒、ないしは(性的)興奮・覚醒中毒の症状は、よくADHD(注意欠陥多動性障害)や社会的不適合、鬱、行動傷害、強迫障害……などの症状と似ているため、間違われることが多いのです。
もちろん、これら病気と類似する症状のすべての原因がインターネットポルノだとは限りません。しかし、根本的な原因がインターネットポルノであるにも関わらず、それに本人も医者も気がつかずに、誤った治療をしてしまう可能性さえあるのです。
原始的な快感への欲求は制御が難しい
第三の問題は、セックス依存症はあるが、インターネットポルノの依存症なんて存在しないだろう、と勘違いされていることです。インターネットポルノ依存症は存在します。ドイツの調査によりますと、インターネットの環境のなかで、インターネットポルノが一番依存症になりやすい、という結果がでています。なぜでしょうか。この図をみてください。原始的な快感……性欲とか食欲ですね……を求める脳の回路を報酬系といいます(報酬系:人・動物の脳において欲求が満たされたとき、あるいは満たされることがわかったときに活性化し、その個体に快の感覚を与える神経系)。
脳が快感を得る時、たくさんのドーパミンを放出します。しかし、大量のドーパミンは、時に脳をオーバーライド状態にし、私たちが快感を感じる満足度を鈍らせることになります。満足することが鈍くなった、ないし、満足することを忘れた脳は、次々により快感を求めるようになりますね。
たとえば、
ネズミにつきることのないジャンクフードへのアクセスを与え、いつでも好きな物を食べられるような状態にします。そうすると、ほとんどのネズミは肥満症になります。この状態と似ています。5人中4人のアメリカ人が標準体重より重く、その4人の中の半分が肥満症なのも、これが原因なのではないでしょうか。食欲へのコントロールが効かないということですね。
このような、食欲、性欲といった原始的な快感とは逆に、薬物・アルコール依存など非原始的な快感については、人でもネズミでも、それを与えられたグループのうちの1割程度しか依存症にならないのです。
原始的な快感に対する制御は難しいことを表しています。
このような原始的な快感は、不制御になりやすい。そしてそれは自然界ではとても普通のことなのです。獲物をとれる時にとり、食べられる時に大量に食べておく。繁殖の時期に子孫を残すため、できる限り交尾をする。
ドーパミンが放出されると、同時にデルタFosBという物質が構成されます。そしてデルタFosBが蓄積されると、制御機能に傷害が生じる。
つまり、脳の構造を変えてしまうのです。
この状態になった時、人は依存症と判断されます。
脳の構造の変化の第一は、先ほどもいいました通り、快感を感じる感覚が鈍るという変化です。ポルノ依存症の人にとって、日常的に一般人が得られる快感では快感を感じることが難しくなります。第二の変化としては、ポルノを見た瞬間に感覚を得られるということを脳が直感するようになり、ポルノに敏感に反応する、ということが挙げられます。
この図は、左の一般人の脳の反応と、右の薬物中毒者の脳の反応を比較して、快感を得るという脳の行動について、右の薬物中毒者のほうが鈍っているのを示しています。
この反応は、ギャンブル依存症、過食症、ビデオゲーム依存症、そして最近ではインターネット依存症などの患者についても見ることができます。
つまりは、インターネットポルノ依存症は存在しますし、そのメカニズムは解明されてきた、ということです。しかしそれにしても、近年インターネット依存症というのは認証されてきましたが、インターネットポルノ依存症というカテゴリーはまだ定着していないのかもしれませんね。
しかし、みなさんには、それは存在する、ということを知ってほしいのです。
ポルノ依存症によるEDはバイアグラが効かない
みなさんは、現在いるであろうインターネットポルノ依存症の人達が、実は依存症を治療したい、依存症から抜け出したい、と思っているのを知らないかもしれません。これを、ジンバルド博士の『The Demise of the Guys』(男性の崩壊)にもじって、『The Resurrection of the Guy』(男性の復活)とでもしましょうか。
彼らはなぜ依存症を克服したいと思っているのでしょうか。
まずその原因の一つは、インターネットポルノ依存は、男性の性的活動に影響を及ぼしている、ということがあげられます。勃起不全や射精障害が代表的な例です。バイアグラなどの薬も、彼らには効きません、なぜなら彼らの問題は身体的なものでなく、心理的なものだからです。
(会場 笑)この図は、彼らの問題の根本的な原因が脳にあることを示していますね。
ある医者も、ポルノ依存症が引き起こす勃起不全や射精障害は、とても重大な症状になりかねないものであり、勃起不能にさえなりうると言っています。
このように、インターネットポルノ依存症は、依存症特有のプロセスを持ち合わせながらも、急速に発展したおそるべき依存症です。 そして、インターネットポルノ依存症が引きおこす症状の中には、勃起不全や射精障害以外のものもあります。これらの未知な症状は、依存者がやめるまでその症状がインターネットポルノによって引き起こされていたと気がつかない、という恐ろしいものです。
こんな男性の記録があります。20代後半男性の話です。かれは8年以上も精神科で治療を受け続けてきました。彼や彼の医者は、彼が鬱病であると考えました。さまざまな鬱病の治療をうけ、薬をのんできましたが、症状は回復しませんでした。彼は、大学中退や会社をクビになるなども経験し、社会的な生活に困難を感じ続けていました。薬に手をだしてしまう時期もありました。 しかし彼の調査を続けると、こんなことがわかったのです。
彼は女性と仲良くなることが苦手でした。そして、14歳の頃からハードコアポルノをインターネットで見るようになり、それからインターネットポルノを常習的に見るようになっていたのです。彼はインターネットポルノ依存症だったのです。
ポルノを見るのをやめたら、モテるようになった
彼は20代後半にしてやっと、自分が鬱だと思っていた症状が、インターネットポルノの影響が原因であることに気がついたのです。そう気がついた男性は、インターネットポルノを見ることをやめる努力を始めました。最初の1〜2ヶ月間はとても辛かったですが、彼はそれに成功し、そしてポルノを見ることをやめたことにとても価値を見いだしています。 彼はどのように変わったのでしょうか。彼はこう言っています。「不安がとれ、記憶力や集中力がアップした。女性に対しても、以前よりモテるようになった。勃起不全も解消した。まるで生まれ変わったようだ」 これで、インターネットポルノ依存症の男性が、依存症から回復したいことを願っているのがよく分かりますね。SNSにはこんなグループさえ存在します。
(ポルノを見るのを90日間やめよう、というタイトル。5888人のメンバーが登録している) これ意外にも、世界ではさまざまな、これと同じ趣旨のSNSグループがあります。
若者ほどポルノ依存症から抜けられない傾向
ここで、興味深い調査結果があります。インターネットポルノ依存症からの回復速度です。この表を見ると、年配の依存者は平均して2ヶ月で回復しているのに対し、若い世代は回復に4〜5ヶ月かかっているのが分かりますね。これは最初にお話しましたように、若い世代の方がインターネットポルノに慣れ、小さい頃から触れてしまっているからですね。もちろんインターネットが普及してそこそこたつので、年配の世代もインターネットポルノに触れていたでしょうが、昔は今のようなハイスピードなインターネット環境がなかったので、同時にいくつものポルノを、次から次へと新しいものを見る、という行為は出来なかったのでしょう。つまり、若者のインターネットポルノ依存の方が、より深刻な問題と言えるかもしれませんね。
とはいえ、脳は修復することができます。若者のインターネットポルノ依存者であっても、ポルノ鑑賞をやめる努力をする事によって依存症から抜け、本当の男女の人間関係を築いていくべきです。
こんな男性の例もあります。
「1ヶ月前にインターネットポルノを見る事をやめてから、自分がニュートンやダ・ヴィンチになったようだ。起業したり、ピアノを始めたり、毎日フランス語を勉強するし、コンピュータープログラミングや絵画も描くようになった。いままでなかったいろいろ素晴らしいアイデアが思いつくんだ。自分にとても自信がある。前の自分と同じ自分だとは思えない。」
さて、みなさん、希望を持ちましょう。最初に申し上げましたが、サイモン・ラジネス博士は対照実験を行うことができず困っていましたね。実際、インターネットポルノ依存症はまだまだ分からないことがあるかもしれません。
でも、我々はインターネットポルノ依存症を克服した者からさまざまなことを学べるのです。彼らの経験を無駄にせず、今後もこの問題に取り組んでいきたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。