月曜日, 12月 07, 2015

「人間中心の都市」へ|[イノラボ]

これからのインバウンドビジネスには、「人間中心な都市」が必要だ

「海外から訪れた人たちに、いかに日本の魅力を伝えるか」。檀上にて、ISIDイノラボ代表の森田浩史が挙げたテーマは、2020年に向けたこの国のインバウンド施策にとって重要なポイントを提示するものだった。



森田浩史|HIROSHI MORITA
 
イノラボ代表 兼 チーフプロデューサー。電通グループのテクノロジーブティックとして先端技術活用や新たなライフスタイルを世界に先駆けて提唱するべくプロトタイプや実証実験を日々進める「イノラボ」のリーダー。ソーシャルシティプラットフォームを活用した街づくりや東京大学・暦本研究室と進める未来のスポーツ、自転車を活用した新たな東京観光導線の提案など、2020年に向けたさまざまなプロジェクトを統括する。
「人間を中心に、都市をデザインする。それが、2020年以降の都市に向けたわたしたちの実験テーマです」


キーノートの冒頭でそう語ったのは、ISIDイノラボの代表を務める森田浩史だ。彼らはいま、観光、文化、遊びの体験、情報とインターフェイスなど、これからの都市の姿を変えるソフトウェアに焦点を当てたさまざまな実験に取り組んでいる。

「例えば、都市における〈遊び〉の空間を考えてみましょう。東京のような大都市では、スペースや騒音、安全性などの問題から、子どもたちの遊べる場所がどんどんと失われています。そこでわたしたちは、『東京の街なかを運動場にすることはできないか?』というアイデアから、スポーツとテクノロジーをかけ合わせ、日々の何気ない運動をポイント化していくアプリを開発しました。ここでは街なかにタッチパネルとなるサイネージを設置し、そこから個々のユーザーにミッションを送ることで、ヴァーチャル間でのチーム対抗戦が形成されていきます。同時に個々の運動実施報告や励まし合いができる場をSNSに設け、都市間で見知らぬ人同士のコミュニティが生まれる仕掛けを構築しました」

都市にさまざまな情報を送り込むことで、「人と人との関係性をつなぐ」ことがこれからの都市のデザインだと森田は言う。同様の仕組みで、東京都内の商店街では観光客向けに外国語ボランティアをマッチングしたり、大阪では英会話スクールや朝ヨガの開催情報を知らせたりするなど、「モノからコト」の消費へと移行した時代における、都市の新たな情報インフラをイノラボは構築し始めている。

「人間中心の都市」へと至る実験・その1
街路に植えられた木々が語りだせば、旧来のデジタルサイネージより雄弁に情報を伝えるインターフェイスになる。『A tree tweets. A tree reacts.』は2014年に開催されたアルスエレクトロニカにも展示され、多くの観衆の注目を集めた。

「人間中心の都市」へと至る実験・その2
13年4月にオープンした「グランフロント大阪」では、「ソーシャルシティ・プラットフォーム」と銘打ち、街中にセンシング機能を配置。

「人間中心の都市」へと至る実験・その3
仏アンギャンレバン市では旅行者用のICカードシステムを実験。支払い機能だけでなく施設への入場手続きなどを統合したサーヴィスを実現した。


「人間中心の都市」へと至る実験・その4
きゅんくん」ら外部研究員は、都市設計に必要な新たな「視点」を提供してくれる存在となる。

「また、都市に情報を送り出すこれからのインターフェイスは、もっと人々のなかにとけ込むようになるでしょう。MITメディアラボと共同開発した『A tree tweets. A tree reacts.』は、樹木から発生するサウンドや光を通じて、人々の感情や周囲の環境情報を伝えるインターフェイス。オリンピックに向けてあらゆる領域の人々が東京をテクノロジーのショウケースにしようと画策するなか、今後は従来のインフラの概念を覆す発想の転換が必要になってくると思います」
森田の言う「発想の転換」は、年々増加傾向にある外国人観光客への文化アプローチにもつながるだろう。日本が内包する多様な文化をいかに伝えていくか、そこでは、固定概念にとらわれない多様な視点が必須となる。例えば、イノラボが支援するアーティスト「きゅんくん」は、これまで技術的な機能ばかりが着目されてきたロボットを、自身のファッションの一部として取り込んでしまった“ロボット少女”だ。彼女の見つめるヴィジョンからは、テクノロジーが都市にとけ込んだ先の、新たな社会像が見えてくる。

情報、体験、インターフェイス、これからの都市のランドスケープは、わたしたち人間のなかから変化していくのだ。


10月13日に開催された都市カンファレンス「WIRED CITY 2015」より。

イノラボ