水曜日, 12月 02, 2015

「iPad Pro」を読み解く――なぜ“Pen”ではなく“Pencil”?

「iPad Pro」を読み解く――なぜPenではなく“Pencil”なのか?

 

iPad mini 4を2つ並べた画面サイズの「iPad Pro」は、「Apple Pencil」によって精密な手描きを可能にするなど、これまでのiPadシリーズからさらに使い方の幅を広げるまったく新しいiPadだ。

 

まったく新しい12.9型タブレット「iPad Pro」を見ていこう。

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「iPad Pro」登場

 

「iPad Pro」概要――まったく新しい12.9型サイズ

 

iPad Proは、実はiPad mini 4の画面を2つ並べたサイズの12.9型ディスプレイを持ち、公式サイトの写真からイメージするよりもはるかに大きな製品になっている。

それでいて重さは初代iPadとほぼ同じ。手に持ってみると、本体が大きい分、初代iPad以上に軽い印象を覚える。その軽さと控えめな外観のおかげで、大きいからといって威圧感はなく、手の中のスクリーンへの没入感を楽しめる。

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大画面を備えながら重さは初代iPadとほぼ同じ


画面の解像度も4Kでこそないが、13インチMacBook Pro Retinaディスプレイモデルを上回る2732×2048ピクセルで解像感は圧倒的だ。

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12.9型の広い画面で映し出された映像に没入できる

また、没入感といえば、iPadシリーズとしては初めて4つのスピーカーを使ったサウンドシステムが目を引く。音量はiPad Airと比べて大幅にアップしており、音の立体感もすごいが、本体を縦向きから横向きに回転させると、4つのスピーカーで再生する音が気が付かないくらいスムーズに入れ替わり、ステレオの左右チャンネルが画面の向きと同期する。これまでになかった画期的な機能に感じた。


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ボディの4隅にスピーカーを内蔵する


新しいiOS 9の特徴の1つは複数のアプリを同時に利用するマルチタスク機能で、画面を左右分割して使う利用方法のイメージが強い。しかし、iOS 9には実際にはもう1つ、動画再生系のアプリのみで有効なピクチャーインピクチャーという複数アプリ実行モードがある。これを利用すればストリーミング放送の動画を楽しみながら、2つのアプリを同時に利用できる。


パソコンならもっとたくさんのアプリを同時に利用できるが、どちらのアプリケーションがどちらのアプリケーションより手前であるとか、背面にある といったことを意識するのは初心者には難しい。iPad ProとiOS 9は、その前後関係を非常に直感的に、かつ分かりやすく形にしており、ユーザーを迷わせることがない。




iPad Proのもう1つの特徴といえば、カバーとしても使えるSmart Keyboardと、大きな画面いっぱいに滑らかに手書きできるApple Pencilという2つのオプションの発表だ。


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Smart Keyboard

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Apple Pencil


大きな画面サイズで、ソフトウェアキーボードでも打ちやすいフルサイズのキーボードを表示できるiPad Proだが、長い文章を書くならやはりハードウェアキーボードがほしい。そうしたニーズに対してアップルは純正キーボードを用意。しかも折りたたんで本体と一緒に持ち歩けるのがうれしい。


Apple Pencilはペンの傾きや筆圧で線の太さが変わる


カラーバリエーションはシルバー、ゴールド、スペースグレイの3色で、Wi-Fiモデルと、Wi-Fiと4G(LTE)通信機能がついたモデルの2タイプが用意されている。


なお、アップルは、これまでのiPadにはないまったく新しいiPad Proを発表する一方で、iPad miniのボディサイズにiPad Airの性能を詰め込んだ「iPad mini 4」も同時に発表。こちらはすでに販売が始まっている。


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iPad Pro、iPad Air 2、iPad mini 4の大きさを比較してみた


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iPad Pro、iPad Air 2、iPad mini 4の厚さ比較

 

iPad Proの見どころ――Pencilの意味


今回、モノとしての見た目で圧倒的な存在感を放っていたiPad Proだが、こちらも他のアップル製品と同様に、細部にまで魅力が漂う製品に仕上がっている。


ハンズオン会場で実物を触っていた人の多くが、まず第一印象で「大きい」と驚かされ、次に手に持って「軽い」と驚かされる。


面白いのは、手に持って「軽い」と言っているときには「大きい」という印象は消え、違和感なく自然とそのサイズに慣れられること。しかし、そこで再び画面分割のアプリを操作していると「あ、やっぱり画面大きいんだ」と改めて驚かされる。


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ハンズオン会場


この“主張せず馴染む感じ”こそが、iPadが一次産業から医療、教育とあらゆる文化に浸透していった重要な理由の1つといえる。iPad Proはそのコンセプトを崩していない。


iPad Proで次に気になるのはキーボードだろう。これまでiPad用の外付けキーボードといえばBluetooth接続のものが主流だったが、初心者には難しいペアリングなどの作業があったのに加えて、iPad本体のバッテリー残量と併せてキーボードのバッテリー残量も気にする必要があった。


これに対してSmart Keyboardは、iPad Proに新たに追加されたSmart Connectorから給電するため、バッテリー不要で利用できる。キーの数は64で、キーボードとしての厚みはわずか4ミリながら、キーを押したときに、しっかりとしたクリック感があり、安心してタッチタイピングできる。


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iPad Proに搭載されたSmart Connector

Smart Keyboardのキーボード部分は、iPad Proの画面サイズに比べて2/3ほどの面積。Smart Keyboardは、そのキーボード部分の先に三角形を作るように折ってスタンドとして使えるカバー部分(iPad Proの画面の大きさ)がひと続きになっている。


og_ipadpro_011.jpg MacBook(手前)とiPad Pro+Smart Keyboard(奥)


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Smart Keyboard設置時の背面図


新設のSmart Connectorは、iPad本体にマグネットで装着できる周辺機器用の新設ポートだ。

電源供給が可能で、少量の通信で済む機器のためのもの。アップルのSmart Keyboard以外に他社製品用にも解放されており、実際、iPad Proの発売にあわせて数社が周辺機器を発表する予定だという。もしかしたら、今後、iPad Pro用の音楽キーボードやドラムパッドも出てくるかもしれない。


もう1つの気になる周辺機器がApple Pencilだ。最初は一体、なぜPenではなくPencilなのかと疑問に思った。


だが、よく考えてみれば、筆や万年筆などのインクに浸して使うペンであれば、筆圧やペンを構える角度で豊かな線の広がりを表現することができたが、今日のペンの主流であるボールペンはそうした細かなニュアンスの違いを表すことができない。


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Apple Pencil。Penではなく、Pencil


それに対してPencil、つまり鉛筆であれば、筆圧で線の濃さや太さも変われば、構える角度によっても違う線を表現する。Apple Pencilは、まさにそんな指先の延長のようにニュアンスを伝えることができる。ペンを倒して描くと、まるで鉛筆を倒して描くときのように鉛部分の長辺を生かした太い線が描けるのだ。


ちなみにアップルは、このApple PencilのためだけにiOS標準のノート機能を拡張している。iOS 9から新たに加わる手描きモードに切り替えると、まるで専用のお描きアプリのように筆の種類やインクの色を選ぶこともできれば、まっすぐな線を引きたいときは、画面上に表示したソフトウェア定規を置いて、その上をなんとなくなぞるとブレが補正されて定規に沿ったまっすぐの線が描かれる。


メールのアプリもApple Pencilをサポートしており、添付画像書類を開いてその上にメモを手書きして返信できる機能がついた。校正などに便利そうだ。


さて、そんなApple Pencilに、もう1つ不思議な点があった。充電はLightning接続で行うのだが、なんとその端子がオス型(凸型)端子なのだ。一般の電子機器では、充電される側はメス型(凹型)端子を備えているイメージが強いだけに不思議だが、これは充電ケーブルを忘れてもApple PencilをiPad Proに刺してすぐに充電できるからだと分かった。


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Apple PencilはLightningコネクタで充電可能


しかも、このApple Pencilのおかげで、Lightningケーブルに隠されたとんでもない秘密が明らかになった。
なんと、Lightningケーブル経由だと充電が圧倒的に早い。iPad Proにたった15秒間(「分」ではなく「秒」!)挿すだけで、Apple Pencilが30分利用できるだけの充電を果たせるのだ。


Apple Pencilは本体側にホルダーもついていなければ、クリップもついておらず、携帯時になくしてしまわないか少し心配だが、余計な要素を排除したおかげで、単体で見たときもシンプルで美しい製品に仕上がっている。


iPadは、これまでITがあまり活用されてこなかった領域で革命とも言えるほどの変化をもたらしている一方で、法人利用ではそれほど画期的な使われ方をしてこなかった。だが、アクセサリーも充実した今回のiPad Proは、アップルが法人営業でIBMと組んだこととも併せて、かなり有望な製品になるのではないかと思う。


完全にマイクロソフトのSurfaceと一騎打ちになりそうな側面があるが、マイクロソフトもこの製品は歓迎しているようで、手描き図形認識をするPower Pointなども含めたiPad ProとApple Pencilに対応したOfficeが同時に発表されている。


og_ipadpro_015.jpg Appleのイベント会場でMicrosoftがデモをする光景も


また、アップルがペン入力をサポートすることを切望していたアドビもApple Pencilを使って簡単に顔写真の表情まで修正できるアプリ、Photoshop Fixを発表したほか、手描きした雑誌レイアウトのラフデザインをそのまま最終的な雑誌レイアウトにまで持っていけてしまうアプリを紹介している。この辺りの詳細は、ADOBE MAXで発表されるようだ。

これに加えて、スペシャルイベント後のタッチ&トライコーナーでは、AutoCADによるかなり本格的なCADプログラムのデモが行われていた。街の一区画の配管などの詳細がすべて入った巨大なCADデーターをストレスなくiPad Proに入れて持ち歩き、現場で見ることができるというそのデモは、土木などの作業現場に革命をもたらす予感を感じさせた。


og_ipadpro_016.jpg AutoCADによるデモ

 

Autodesk、「AutoCAD 360」アプリ向けにiPad ProとApple Pencilを利用した新機能を開発中? 


AutodeskがiPad ProとApple Pencilを利用した新機能を「AutoCAD 360」に搭載するようです。詳細は以下から。
 
AutoDesk360-on-iPad-Pro-Hero


2015年9月9日に行われたAppleのスペシャル・イベントの中ではiPad Pro用の新機能を備えたMicrosoftのOffice、AdobeのPhotoshop Fixなどのデモが行われましたが、その前にデモはなかったもののiPad Proのパフォーマンスを説明するために映し出されたAutodeskの"AutoCAD 360"も現在iPad ProやApple Pencilに対応するために動いているようです。


OS XやiOS向けの3DアプリやCADアプリを専門に扱っているサイトArchitoshがスペシャル・イベント後AutoDeskのVP Amy Bunszelさんにインタビューを行っており、それによると現在AutodeskはiPad ProとApple Pencilを利用した新機能をAutoCAD 360アプリ用に開発中であり、AutoCAD 360ユーザーが通常のタッチ操作では扱えない様な複雑な作業もApple Pencilなら扱えるだろうと話したそうです。


Yesterday Architosh had the pleasure of talking to Amy Bunszel, vice president of AutoCAD at Autodesk, about what people saw of AutoCAD 360 during the Special September Event. This week Apple unveiled the new iPad Pro with its very special Apple Pencil, a new highly advanced stylus, purpose built for the new, larger and much more powerful tablet device.
[...]
Amy Bunszel outlined several of the new features that the company is working on for AutoCAD 360 when it runs on the iPad Pro with the use of Apple Pencil. She noted that in many cases their users are working with very complex drawings on mobile devices and the new Apple Pencil will be put to good use to handle complexity that Touch cannot.
[In-Brief: Autodesk talks to Architosh about iPad Pro and AutoCAD 360 Pro - Architosh]


また、スペシャル・イベントの会場にもAutoCAD 360が利用可能なiPad ProとApple Pencilが展示されていたそうで、AppleInsiderが公開したハンズオン動画では38万オブジェクト(エンティティー)から構成されるサン・フランシスコをスムーズにズームイン/アウトしたり、アルカトラズを消したりする様子が映し出されています。




AutoCAD 360
カテゴリ:仕事効率化
価格:無料
リリース日:2010/09/29