木曜日, 12月 24, 2015

スペースXの「ファルコン9」、ついに垂直着陸に成功

今度はロケット、イーロン・マスクがまた革新!

スペースXの「ファルコン9」、ついに垂直着陸に成功

 

「とうとうやりやがった」というほかない。イーロン・マスクCEO率いる宇宙ベンチャーのスペースX社が、12月22日(米東部時間21日)、ケープ・カナヴェラル空軍ステーション(フロリダ州)から打ち上げた「ファルコン9」ロケットで、使用後の第1段の陸上への着陸に初めて成功した。早く言 えば、打ち上げに使った第1段をエンジンもろとも、逆噴射で垂直に地上に降ろし、回収したのである。

 
米通信会社のオーブコム社の小型通信衛星「オーブコムOG2」11機を搭載しており、こちらも無事予定の軌道への投入に成功した。ファルコン9は、2015年6月28日に打ち上げに失敗しており、今回が再開第1回目だった。

過去、ファルコン9は洋上プラットフォームへの第1段着陸を目指し、あと一歩のところで失敗していたが、今回は使用後の第1段を逆噴射で打ち上げ地から10kmほど離れた陸上に着地させることを目指し、ついに成功した。

 


帰還するファルコン9第1段の映像に、スペースXの管制室は歓声に包まれた(SpaceX)



失敗を乗り越えるアグレッシブな姿勢

失敗後、初めての打ち上げだったにもかかわらず、スペースXは今回非常にアグレッシブな姿勢で臨んだ。まず、第1段と第2段に使用するエンジン「マーリン1D」を“フルスラスト”で、使用した。

ここまで同社は安全のためにマーリン1Dの推力をやや絞って使用してきたが、設計定格で使用したわけだ。あわせて第2段のタンクを大型化して搭載推進剤の量も増やした。これにより設計上の打ち上げ能力は従来より30%増加するという。

さらに、これまでは洋上プラットホームへの着陸を目指した試験だったが、今回は逆噴射により陸上まで第1段を戻して地上に着陸させるという新たな挑戦を行った。この方法では余分な推進剤を消費するので、洋上回収よりも打ち上げ能力が落ちる。今回はエンジン推力を強化したことと、搭載する衛星が軽量 だったことから可能になったようだ。

同社は、2012年9月から試験機「グラスホッパー」を使ったロケットの垂直離着陸試験を開始し、2014年4月には同社の打ち上げロケット 「ファルコン9」の第1段に姿勢制御フィンや着陸脚など垂直離着陸機能を付加した「ファルコン9R Dev」の飛行試験へと進んだ。並行して2013年9月からは「ファルコン9」の実際の打ち上げで、分離後の1段の姿勢を制御したりエンジンを再着火したりする試験を開始、2014年4月から、第1段に着陸脚などの垂直着陸のための装備を備えた「ファルコン9R」仕様のロケットを使用し、実際の試験を繰り返してきた(ロケットがまっすぐ降りてくる!? スペースXの実験成功:2014年4月24日参照)。


実際の打ち上げで分離後の第1段を使った試験は、2回の着水を経て洋上プラットホームへの着陸へと進んだ。2015年1月10日の打ち上げでは、プ ラットホームまでの誘導は成功したが、機体とプラットホームが衝突して爆発。2015年4月14日の打ち上げ時の試験では、垂直に洋上プラットホームへと 降下した着地寸前で姿勢を崩し、転倒して爆発した。


 
無事着陸したファルコン9R第1段(SpaceX)。かつてのアトラスロケット射点を改装した着陸パッドに降り立った。

コスト低減は2分の1から3分の1、インパクトは巨大

今回のファルコン9Rの第1段回収成功で、宇宙への打ち上げコストが100分の1になるというような報道も出ているが、そこまで安くなることはないだろう。おそらく、すべてがうまくいったとしても2分の1~3分の1程度だ。それでも50%のコストダウンというのは驚異的な数字である。実現した場合のインパクトは大きい。ライバルの“使い捨て”ロケットがすべて霞んでしまう可能性がある。

コストダウンの核心は回収した第1段をどの程度の整備で何回使い回すかにある。ファルコン9はかなり軽量化を徹底したロケットなので、機体構造に強度的な余裕が大きいわけではない。スペースシャトルのような100回もの再利用は考えていないと見るべきだ。

ひとつのヒントとなるのは、スペースXが現在開発中の大型ロケット「ファルコン・ヘビー」だ。ファルコン・ヘビーは、ファルコン9の第1段の横に、第1段と同型の液体ロケットブースターを2機装着したロケットだ。第1段とブースターの間で推進剤を融通することで、最適な高度・速度でブースター内の推進剤を使い切って分離するクロスフィーディングという技術を採用し、地球低軌道に50トン以上のペイロードを打ち上げる能力をもつ。

このファルコン・ヘビーに、今回の回収技術を組み合わせる場合、2基のブースターは回収できるが、第1段は燃焼終了時に水平方向の速度が大きくなりすぎているので、打ち上げ地点に引き戻しての回収が難しくなる。ここから推測できるのは、ブースターとして何回か使用した機体を、最後に第1段に使用して使い捨てにするという運用だ。

回収を行うと打ち上げ能力が低下するが、素で50トン以上の打ち上げ能力を持つファルコン・ヘビーなら、現状の大抵の商用衛星を打ち上げることができる。もちろん回収したファルコン9第1段や、ファルコン・ヘビーのブースターは、第1段を回収せずに打ち上げ能力をぎりぎりまで発揮するファルコン9打ち上げに使ってもいい。

ブースター2基、回収、第1段使い捨てという運用形態を想定すると、ファルコン9第1段の再利用回数は数回から多くても10回程度であろうと推測できる。となると、コストダウンといっても100分の1ではなく、2分の1から3分の1程度と見るのが妥当だ。

 

H3やアリアン6は根本的に方針転換を迫られる可能性も

機体の強度に余裕がないから、あまり使い込んだ機体は顧客も嫌がるだろう。適当なところで使い捨てにして、新規の機体を投入した方がビジネス上有利だ。使い込んだ機体を打ち上げに使う際は割引価格を提示するというのでもいいだろう。

ただし、価格が半分になるだけでも、商業打ち上げ市場へのインパクトは非常に大きい。
もしも実現すれば、次世代ロケットとして開発している欧州の「アリアン6」や日本の「H3」ロケットは、コストについて根本から再考を余儀なくされることは間違いない。

実際のところは、今回帰ってきた機体を調査し、再利用して打ち上げを実施するところまでいかなければ分からないだろう。おそらく再利用打ち上げを行う際に、スペースXは、コスト低減についてなんらかの発表を行うと予想する。

ところで、このような、米国の宇宙ベンチャーのアグレッシブな姿勢が米国政府を動かし、星に所有権を主張できる法律が議会を通ったことをご存じだろうか。本日公開の「米議会「星を所有できる」法律を可決」も、よろしければ、ぜひご一読を。