木曜日, 9月 25, 2014

「クリエイティブのことはわからない」という経営者の方へ

ビジネスという“奇妙な冒険”

「クリエイティブのことはわからない」という経営者の方へ




 つい先日、グロービス経営大学院主催の「あすか会議」というカンファレンスで、パネルディスカッションのモデレーターを務めさせていただきました。
 パネルディスカッションのテーマは「クリエイティビティと経営」。参加者は、「Soup Stock Tokyo」(スープストックトーキョー)をつくった遠山正道さん(スマイルズ代表取締役社長)と、くまモンをつくった水野学さん(good design company 代表取締役)。お二方とも僕が非常に尊敬している方々なので、楽しくやらせていただきました。
 「そもそもクリエイティブとは何ぞや?」というところから入って、「クリエイティブは経営に必要なのか?」そして必要だとしたら「なぜ必要なのか?」また「どうやって取り入れていけばいいのか?」という話の骨子をイメージしながら、モデレートを進めました。
 しかしながら、僕も含めて、3人とも思いつきでしゃべるタイプですので、なかなか簡単には狙った骨子どおりにはいかず……。でも、この大御所の方々を相手にモデレートする機会もそうそうないので、会場の方からの質問も半ばそっちのけで、個人的に聞きたいことも聞かせていただき、自分にとっても有意義な時間となりました。
 そこで、今回はこのパネルディスカッション「クリエイティビティと経営」で、僕が勝手に得たヒントを1つだけ紹介したいと思います。
 その前に「クリエイティビティ」というと皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか。そもそも経営そのものが本当はむちゃくちゃクリエイティブですので、クリエイティビティが経営に必要か?なんて問い自体が愚問とも考える方もいると思うのですが、それだと話は進みませんので、もう少し狭義でのクリエイティビティ、つまりデザインとかビジュアル、意匠的なものだということにしたいと思います。一般的にそういうイメージで捉えられている方が多いというのも事実だと思いますので。
 そう考えると確かに、経営者の中にはそういったデザイン的なことに対する興味がない方もいらっしゃいます。一方で、自らがそういったデザインまで随所にこだわっている経営者がいます。スマイルズの遠山さんはまさにその代表的な方です。
 とはいえ、大半の経営者がデザイン的な素養を持ち合わせているというわけでもないでしょう。果たして本当に経営という観点において、クリエイティビティは必要なのでしょうか。
 経営ではなく、たとえば商品のデザインという意味では、デザインが必要なのは比較的容易に想像がつきます。デザインのレベルが低いとその会社のイメージや、会社が出す商品イメージがセンスが悪いということになり、どうせならセンスが良いほうがきっと事業上も有利。だから自社でのデザインが難しいときは、外部のセンスの良い方に依頼する。これはクリエイティビティに興味がない経営者も納得のいく話ではないでしょうか。

戦略立案にはデザイン的思考が有効

 でも、クリエイティブディレクターである水野さん曰く、最近では経営陣の1人として依頼された会社に関わり、経営戦略から一緒に考える仕事も増えてきたそうです。つまり経営においてもクリエイティビティが求められていると。
 それには僕も同意です。そこで、僕が考える経営におけるクリエイティビティの必要性を解説します。
 それは、戦略を考える上では、デザイン的思考が有効だということです。
 どういうことか。
 僕は、アイデアを出す発想法について比較的詳しいほうの人間だと自負しています。そのためか、そういったワークショップや講義も実施していますし、アイデアを出すためのノウハウが詰まった本『アイデアは考えるな。』も過去に出しています。
 その中でも紹介したのですが、発想法の1つに、ゴール結果をビジュアルで表現し、そこから逆算してアイデアを出すというものがあります。
 たとえば、何か今までになかった新しい名刺を考えろというお題が出たとします。名刺を渡したときに受け取った相手が、思わずびっくりして名刺を手から落としてしまう。そんな結果イメージを共有します。そこからアイデアを出すのです。そうするとどんどんアイデアが出てきます。名刺を持った瞬間に夏は冷たく、冬はあつあつだったら、思わずびっくりするな……とか。そういうアイデアです。
 このように最初にゴールイメージをビジュアルで出すことでアイデアが湧いてきます。
 もう1つ別の例を挙げると、この前知人の会社に行ったら、大きなグラウンドやプール付きの自社ビルタウンのような模型がどーんと会議室に置いてありました。将来自社をこんな風にしたいんです、とその会社の経営者は言っていましたが、これも1つのビジュアルイメージです。これを見ることで、どうやったらそこまでたどりつけるか、より具体的な策が出てきます。

より鮮やかに戦略を描くためのお手伝い

 そうなんです。経営者層の仕事はいろいろありますが、その中でも戦略を描くということは最も大事な仕事の1つです。つまり、経営にクリエイティビティを取り入れるということはより鮮やかに戦略を描きやすくするお手伝いをするということなのではないかと思うのです。
 たとえば、スマイルズの遠山さんが考えたスープストック。遠山さんが最初にスープストックのアイデアを思いついたときに書いた企画書は「1998年スープの有る1日」と題したものでした。その企画書では、まだスープストックが存在しないのに、あたかも存在しているかのように、未来の一日を、登場人物がスープストックをどのように活用しているか、どこに何に惹かれているのかが物語形式で語られています。そしてこれは現在でもスープストックのビジョンとして使われているそうです。
 きっと理屈やデータだけではなく、そういった形で具体的なビジョンを伝えるからこそ、ゴールイメージが共有でき、そこから逆算してより鮮明にそこに至るまでの戦略、戦術が生まれてくるんだろうと思います。
 つまり、遠山さんのスマイルズのように経営者自らがクリエイティビティを発揮する企業もよいですが、そこが苦手な場合は、経営陣に得意なメンバーを入れて経営チームをつくっていく。こうすることでより企業を強くすることができると思うのです。
 以上。これが今回伝えたかったことです。