月曜日, 4月 04, 2011

嘘つきバービー インタビュー

 

 笑いとシリアスの狭間から

嘘つきバービーインタビュー


フロントマンの岩下が言葉で提示したお題に対し、ギターの千布がそのイメージからリフなどを作って答え、正解(と便宜上ここではしておく)が見つかると楽曲として固まっていく。新作『ニニニニ』でメジャーデビューを果たす嘘つきバービーは、そんな独自の作曲方法で個性的な楽曲を生み出すバンドである。シュールで、滑稽で、どこか悲哀も感じさせるその世界観は、本人が語るように『ごっつええ感じ』のコントのようで、その作曲方法は、松本人志がやっていた「一人ごっつ」の大喜利のようだと言えば、お笑い好きにはきっと通じるだろう(わからない人、ごめんなさい)。そんな特殊なバンドのインタビュー、徐々にその独自のスタンスに引き込まれて、次から次へと質問を投げかける、こちらもまるで大喜利のようなインタビューになっていった。そして、様々な質問というお題に対し、ひとつひとつ考えながらも、的確に答えを見つけ出していった岩下からは、自らを「歌詞人間」と呼ぶだけのことはある、言葉に対する鋭いセンスが感じられたのだった。



何も変わってないんですよね、ホントに。もうメジャーデビューしてると思ってましたし。


―僕この『ニニニニ』ってタイトルの意味がわかったかなって思ってるんですけど…

岩下:いや、これ意味はないんですけどね。1番意味のない言葉を並べようと思ってこのタイトルにしたんで。

―あれ、そうなんですか?(笑) 以前リリースした『問題のセカンド』って、ファーストアルバムであり、通算3枚目の作品であり、でもセカンドって名付けていたじゃないですか? だから今回もセカンドアルバムであり、アルバムとしては通算4枚目だから『ニニニニ』(ニが4つ)なのかなって思ったんですけど…。

岩下:なるほど(笑) でも、今回はタイトルで先入観を持たれたくないと思って、1番記号的な、字面も変化が全然ない、イントネーションもない、言いにくいっていうものにしたんです。

―そっか、残念です(笑)。では本作でメジャーデビューとなるわけですが、それに対する特別な気持ちはありますか?

岩下:何も変わってないんですよね、ホントに。もうメジャーデビューしてると思ってましたし。


岩下優介


―(笑)。2008年に『問題のセカンド』を出して、去年、一昨年はシングル1枚ずつのリリースでした。その間は継続的に曲作りをしていたんですか?

岩下:2枚目のシングル(『化学の新作』2010年3月発売)を出した後に、僕が病気を患って、2ヶ月ほど入院したんです。そこからリハビリも兼ねてライブをやっていきながらって感じですね。別に方向性を変えようとか、曲ができないとかじゃなくて、単純に「病気した」っていう。

―病気が結果的に何らかの変化をもたらしたりは?

岩下:『化学の新作』を作った後にレコ−ディングしようとしていた曲たちがあって、アルバムのコンセプトもあったんですけど、それをゼロにしてまたやり直しました。

―時期がずれて、やりたいことが変わったんですか?

岩下:ただ単に飽きたんでしょうね。

―ちなみに、どんなコンセプトだったんですか?

岩下:1〜2分の短い曲を20〜30曲入れてやろうと思ったんですけど、「それ全部ナシ!」ってお蔵入りにしました。



笑いとシリアスの微妙なとこをいってるんで、笑い色が強くなっちゃうと嫌だったんです。

 

―嘘つきバービーの曲の作り方って、まず岩下さんがストーリーを作って、それをメンバーに見せるところからスタートするそうですね。そのやり方は変わってないんですか?

岩下:“ファンタ”っていう曲は千布くんが楽曲を先に持ってきたんですけど、それ以外は基本的に変わってないです。今作に関してはストーリーではなくて、「こういう感じ」っていう情景みたいなもの、例えば(手元を見て)「灰皿とライターがけんかしたときの感じ」とか、そういう振り方ですね。そうやって単語と世界観を振って、それに対して千布が音で返してくれて、「こういう感じ?」、「違う」、「こういう感じ?」、「違う」っていうのを繰り返すんです。

―ストーリーから単語とか情景に変わったのはなぜなんでしょう?

岩下:僕がストーリーを書いて渡してしまうと、僕の中で明確なイメージが出来上がっちゃうんです。千布が持ってくるものが「どんなんやろ?」って知りたかったっていうのはありますね。

―1人の世界観ではなく、バンドとして有機的な作り方になったわけですね。千布さんにとっては、ストーリーから単語や情景に変わったことで影響はあったんですか?

千布:お題が出て、それに答えるっていうスタンスは変わらないじゃないですか。だから変わったっていうことはあんまりないですね。

 
千布寿也

 

―なるほど。岩下さんの独特な世界観も変わっていないですしね。ちなみにその世界観って、どんな影響源があるんですか?

岩下:多分お笑いから来てると思うんですよ。ダウンタウンがすごく好きで、そういうところから受けた影響は大きいですね。あとは漫画とか舞台とか。

―ダウンタウンからはどんな部分で影響を受けてるんですか?

岩下:ダウンタウンで好きなコントがあって、ババアとジジイが長い腸を家に持ってきて、「こんなもん持ってくるな!」ってケンカしてるって内容なんです。使い古された言葉だけど、「非現実の世界の日常」っていうのが、僕は好きなんだと思います。

―去年はライブのオープニングアクトに落語家を起用してましたよね。

岩下:漫才も考えたんですけど、嘘つきバービーと合わせたときに世界観が崩れると思ったんですよ。僕らは笑いとシリアスの微妙なとこを狙っているんで、笑い色が強くなっちゃうと嫌だったんです。それで、落語っていう、話を聞かせるものの方がいいかなって。お客さんも笑いを求めてきているわけじゃないし、僕らも笑わせるのが目的ではないので。


音楽じゃなくてもよかったです、正直。


―ちなみに、お笑いのネタを書いたりしたこともあるんですか?

岩下:ありますね。ただ僕は極度の恥ずかしがり屋なので、自分で漫才はできないんですよ。だから、本を書いただけなんですけど。

―でも、そんな極度の恥ずかしがり屋の人がバンドをやってるわけですよね?

岩下:でもバンドって、セリフとかないじゃないですか?

―ああ、演じるのは恥ずかしいけど、自分そのままならいいと。では、なぜお笑いや漫画や舞台が好きな人が、それらではなく音楽をやっているんでしょうか?

岩下:音楽じゃなくてもよかったです、正直。若かったから、普通にやっても面白くない、変なことがやりたいっていうのがまずあって。舞台とか小説は斜めから見たものがいっぱいあるけど、音楽はそういうのがないと思って始めたんですよ。深く追求していったら、実はいっぱいあったんですけど。

―消去法に近い感じだったんですね。でも音楽そのものの魅力もあったんじゃないですか?

岩下:あんまり好きじゃないっていうのが1番の魅力かもしれないです。好きだと追求し過ぎてしまうんで、逆にあんまり面白いものを作れなかったかもしれないですね。僕らの音楽は今でも「わかりにくい」って言われるんですけど、もし大好きなものを作ったら、もっともっと堅くなっちゃうような気がします。

―千布さんと豊田さんは音楽畑の出身ですか?

千布:僕も今でこそ音楽聴きますけど、始めた当初は全然聴いてなかったです。このバンドに誘われたのがきっかけなんで。もちろん、今は好きですけどね。茂(豊田)は最初から音楽好きだったんですけど。

―それぞれのスタンスがあるのが面白いですね。

千布:でも一個のものを作ろうっていう名目で集まってますからね。世界観を持ってるのはもちろんイワ(岩下)なんで、僕はそれの色づけというか、フィルターですね。豊田くん、いかがでしょう?


豊田茂
豊田:全くその通り。



岩下:今日はこれまで取材が2つあったんですけど、「全くその通り」を2回言っただけ。

―(笑)。でも先ほど千布さんが先に曲を作ったケースもあるという話でしたが、それはなぜ?

岩下:…痺れを切らしたんじゃないですかね。いつまで経ってもゴーが出ないというか、千布が持って来てくれたギターリフに「違う」、「違う」って結構言ってたんで、痺れを切らして1曲作ったみたいな。

―いつも難産なんですか?

岩下:今までずっとそうですね。取っ掛かりというか、僕の言葉と持ってきたギターリフが合えばすぐできるんですけど、合うまでがいつも長いんです。でも、そこを大切にしてるんで。

―その「合う」ってどういう感覚なんですか?

岩下:僕も一応音楽家なんで、イメージはあるんですね。そのイメージを超えてきたときですね。


突き詰めていけば引き算になるじゃないですか?


―ああ、なるほどなぁ。最初に短い曲ばかりのアルバムを作ろうとしたっていう話がありましたけど、短い曲ならどんどん作れるかなっていうのもあったんですか?

岩下:いや、違いますね。「20曲ぐらいやろう」っていうのが先だったんです。何か大百科みたいのを作りたかったんですよ。妖怪辞典みたいなアルバムを。ありもしない人とか情景を勝手に作って、それの説明文が20曲あれば、次のアルバムでそのありもしないものを単語として出せるなって。

―面白いですね。例えば今作の曲だと“イワとイイ関係”には「amami nigami」って単語が出てきますが、『問題のセカンド』に収録されてた“アマミとニガミ”との関連が感じられますよね。

岩下:そうですね。それは名残かもしれないです。“イワとイイ関係”の登場人物は、全部前のアルバムまでの登場人物なんですよ。これが1番最初にできた曲で、今までの嘘つきバービーを逆手にとれる曲ができたんで、これがあればアルバムにテーマ設定すら必要ないと思えたんです。

―じゃあテーマ性以外で、今回のアルバムでポイントになった部分というとどんな部分ですか?

岩下:今回のアルバムは音楽的になってるんじゃないですかね? 発想とかだけだったのが、音楽としてどういう風に変わりつつあるかっていう。



千布:昔はポンポンって発想が出てきて、それを組み合わせて完成みたいな、足し算で曲を作ってたんですけど、『バビブベ以外人間 / ねこ子』を作った後ぐらいから、引き算で作る方がかっこいいと思うようになったんです。1つ1つの音を突き詰めていけば、無駄なものはいらないじゃないですか?

―わかります。

千布:昔は1個1個リフがあって、次々にリフが変わって目まぐるしい感じだったんですけど、今はすごくシンプルになってますね。要は歌詞を大事にしたいんです。
岩下:そう言っておいて、次のアルバムでは目まぐるしく展開するような曲を作るバンドです。

―(笑)。

千布:面白ければいいんですよね、結局。普通は次の作品で同じことはやらないけど、わざと全く同じことをやったりとか。そのときの発想と今までやってきたものを見ながら、楽しんで作ってます。

ロックに心酔している人の滑稽さとかっこよさ


―では、具体的に曲についても聞きたいのですが、“音楽ずるり”には「どうですか これがロックンですか」「しっしっロックンがうつる」という、ある意味挑戦的にも受け取れるような歌詞がありますよね。この歌詞はどういう意図で書かれてるんですか?

岩下:単純にカテゴライズが嫌いだし、ロックに心酔している人の滑稽さとかっこよさ、両方ですね。僕的にはけなしてるとか、批判してるつもりもないですし、僕の考えを言ってるだけ。僕、この曲で初めて自分の感情を入れたんです。

―ああ、そうですよね。



岩下:内田裕也さんとか、ロックの人たちって、認めたものに対して「ロックだね」って言うじゃないですか。それのおかしみみたいなのをどんどん破綻させていこうと思って。でも、少しもぶれることなく彼は8ビートを刻んでるっていうのは、かっこいいと思う。

―極度の照れ屋である岩下さんが初めて自分の感情を入れたのはなぜなんでしょう?

岩下:なんでしょうね…でも、必死じゃないからいいなって思ったんです。必死に「ロックだせえよ!」とか言ってるわけじゃないし。

―なるほど。この曲はロックを題材としつつもいろんな解釈ができる曲ではありますが、あえて聞くと、そもそもロックはお好きですか?

岩下:どうなんですかね…あやふやでしょ? ロックって。この言葉自体がダサいって思うから出したっていうのもあるんですけど…

―嘘つきバービーって、ロックの文脈において「ポストゆら帝」みたいな言われ方してるじゃないですか? 実際にゆら帝が解散して、嘘つきがメジャーデビューとなると、ますますそう言われる可能性があると思うんですけど、そう言われることに関してはいかがですか?

岩下:音楽で表現しようって決めたときに、たまとかゆら帝に惹かれて模写した部分もあるから、似てるって言われたら「でしょうね」って。まあ、ポストゆら帝って言われると、「そうですかねえ?」って思いますけど。

―今日話しててバンドとしての成り立ちが全然違うんだなっていうのはよくわかりました。
岩下:めっちゃ好きですけどね、今も。



映画とかと違って、曲って何回も聴くもんなんで、何回見ても違う方向から見れる歌詞を目指してますね。

 

―ちなみに、岩下さんの音楽的なルーツっていうとどの辺なんですか?

岩下:バンド始める前は、昭和歌謡曲とかめっちゃ聴いてました。あと童謡は今も好きですね。

―好きなポイントっていうのは、やっぱり言葉の魅力なんですか?

岩下:どうですかね…80年代の、百恵ちゃんの歌詞とか面白いと思います。今売れてるバンドの歌詞よりも、モーニング娘。とかアイドルの歌詞の方が面白いと思いますし。規制がないというか、何でも言うじゃないですか? 逆に、ビジュアル形バンドを否定するつもりはないですけど、「雑踏」とか、「一輪の花がどうのこうの」とか、「これ使っとけば80点取れる」みたいな単語があるのはちょっとなって。

―洋楽は全然聴かないんですよね?

岩下:洋楽は全くですね。世界観というか、歌詞が全くわからないんで。歌詞人間なんで、僕は。

―ベーシストとして音楽を聴くことは?

岩下:聴くのとやるのは違う感じがあって、やるときはもちろんリズムとか意識するんですけどね。

―じゃあボーカリストとしてはどうですか? 歌ってるのか、言葉を伝えてるのか、発語の快感が大事なのか?

岩下:はあ…今日1番に難しいですね…。「歌」っていうお題ですかね。「歌」っていう中でどうするかっていうお題があって、それに答えるっていうことですかね。うん、お題でしかないですね。

―なるほど。じゃあ歌詞は聴き手にどう伝わってほしいとかってありますか?

岩下:フワッて絵を浮かべてもらえればいいかなと思ってます。あと映画と違って、音楽って何回も聴くもんなんで、何回見ても違う方向から見れる歌詞を目指してますね。高校生が普通に聴いて「これは明るい歌だ」と思っていたのが、ババアとかになって「あ、明るい歌じゃないわ」ってなるような。だから一見明るいけど、実は暗いみたいなのが多いです。

―そういう表現に惹かれるのはなぜでしょう?

岩下:うーん…人間って本質は全部暗いんじゃないかと思うんですよ。暗いんだけど、明るく振舞おうとして必死になってるやつとか、そういう情景のほうが僕には面白いってことですかね。たとえば鳥が海に浮かんでるのを想像したときに、実は海中で一生懸命に足をバタバタさせてる、そっちを見る方が僕には面白いんです。

―なるほど。何となく、嘘つきバービーの真実が見えてきた気がしました(笑)。これから更にどんな作品を作ってくれるのか、期待して待つ喜びがありますね。今後の展望はありますか?

岩下:僕ら作品ごとに作風を変えていくんで、その発想が続けばいいですね。だから音楽をこれ以上好きにならずに、かといって嫌いにもならずにいたいですね。

―好きになり過ぎちゃうとつまらなくなっちゃうと。

岩下:それに気づき始めてる自分もちょっと嫌なんですけど。

 

 

 

 

 

嘘つきバービー

岩下優介(Ba,Vo)、千布寿也(Gt)、豊田茂(Dr)らによって2002年に長崎県佐世保市で結成され、2007年にミニアルバム『子供の含みぐせ』でデビュー。2008年に『増えた1もグル』、『問題のセカンド』をリリース。その後、期間限定シングル(DVD付)「バビブベ以外人間/ねこ子」(2009年)、「化学の新作」(2010年)をリリース。音楽のみならずその破天荒なライブパフォーマンスも話題をよび、ライブイベントでは入場規制やソールドアウトを記録。


 





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