笑いとシリアスの狭間から
嘘つきバービーインタビュー
フロントマンの岩下が言葉で提示したお題に対し、ギターの千布がそのイメージからリフなどを作って答え、正解(と便宜上ここではしておく)が見つかると楽曲として固まっていく。新作『ニニニニ』でメジャーデビューを果たす嘘つきバービーは、そんな独自の作曲方法で個性的な楽曲を生み出すバンドである。シュールで、滑稽で、どこか悲哀も感じさせるその世界観は、本人が語るように『ごっつええ感じ』のコントのようで、その作曲方法は、松本人志がやっていた「一人ごっつ」の大喜利のようだと言えば、お笑い好きにはきっと通じるだろう(わからない人、ごめんなさい)。そんな特殊なバンドのインタビュー、徐々にその独自のスタンスに引き込まれて、次から次へと質問を投げかける、こちらもまるで大喜利のようなインタビューになっていった。そして、様々な質問というお題に対し、ひとつひとつ考えながらも、的確に答えを見つけ出していった岩下からは、自らを「歌詞人間」と呼ぶだけのことはある、言葉に対する鋭いセンスが感じられたのだった。
何も変わってないんですよね、ホントに。もうメジャーデビューしてると思ってましたし。
―僕この『ニニニニ』ってタイトルの意味がわかったかなって思ってるんですけど…
岩下:いや、これ意味はないんですけどね。1番意味のない言葉を並べようと思ってこのタイトルにしたんで。
―あれ、そうなんですか?(笑) 以前リリースした『問題のセカンド』って、ファーストアルバムであり、通算3枚目の作品であり、でもセカンドって名付けていたじゃないですか? だから今回もセカンドアルバムであり、アルバムとしては通算4枚目だから『ニニニニ』(ニが4つ)なのかなって思ったんですけど…。
岩下:なるほど(笑) でも、今回はタイトルで先入観を持たれたくないと思って、1番記号的な、字面も変化が全然ない、イントネーションもない、言いにくいっていうものにしたんです。
―そっか、残念です(笑)。では本作でメジャーデビューとなるわけですが、それに対する特別な気持ちはありますか?
岩下:何も変わってないんですよね、ホントに。もうメジャーデビューしてると思ってましたし。
岩下優介 |
―(笑)。2008年に『問題のセカンド』を出して、去年、一昨年はシングル1枚ずつのリリースでした。その間は継続的に曲作りをしていたんですか?
岩下:2枚目のシングル(『化学の新作』2010年3月発売)を出した後に、僕が病気を患って、2ヶ月ほど入院したんです。そこからリハビリも兼ねてライブをやっていきながらって感じですね。別に方向性を変えようとか、曲ができないとかじゃなくて、単純に「病気した」っていう。
―病気が結果的に何らかの変化をもたらしたりは?
―時期がずれて、やりたいことが変わったんですか?
―ちなみに、どんなコンセプトだったんですか?
笑いとシリアスの微妙なとこをいってるんで、笑い色が強くなっちゃうと嫌だったんです。
―嘘つきバービーの曲の作り方って、まず岩下さんがストーリーを作って、それをメンバーに見せるところからスタートするそうですね。そのやり方は変わってないんですか?
―ストーリーから単語とか情景に変わったのはなぜなんでしょう?
―1人の世界観ではなく、バンドとして有機的な作り方になったわけですね。千布さんにとっては、ストーリーから単語や情景に変わったことで影響はあったんですか?
千布寿也 |
―なるほど。岩下さんの独特な世界観も変わっていないですしね。ちなみにその世界観って、どんな影響源があるんですか?
―ダウンタウンからはどんな部分で影響を受けてるんですか?
―去年はライブのオープニングアクトに落語家を起用してましたよね。
音楽じゃなくてもよかったです、正直。
―ちなみに、お笑いのネタを書いたりしたこともあるんですか?
―でも、そんな極度の恥ずかしがり屋の人がバンドをやってるわけですよね?
―ああ、演じるのは恥ずかしいけど、自分そのままならいいと。では、なぜお笑いや漫画や舞台が好きな人が、それらではなく音楽をやっているんでしょうか?
―消去法に近い感じだったんですね。でも音楽そのものの魅力もあったんじゃないですか?
―千布さんと豊田さんは音楽畑の出身ですか?
―それぞれのスタンスがあるのが面白いですね。
豊田茂 |
岩下:今日はこれまで取材が2つあったんですけど、「全くその通り」を2回言っただけ。
―(笑)。でも先ほど千布さんが先に曲を作ったケースもあるという話でしたが、それはなぜ?
―いつも難産なんですか?
―その「合う」ってどういう感覚なんですか?
突き詰めていけば引き算になるじゃないですか?
―ああ、なるほどなぁ。最初に短い曲ばかりのアルバムを作ろうとしたっていう話がありましたけど、短い曲ならどんどん作れるかなっていうのもあったんですか?
―面白いですね。例えば今作の曲だと“イワとイイ関係”には「amami nigami」って単語が出てきますが、『問題のセカンド』に収録されてた“アマミとニガミ”との関連が感じられますよね。
―じゃあテーマ性以外で、今回のアルバムでポイントになった部分というとどんな部分ですか?
千布:昔はポンポンって発想が出てきて、それを組み合わせて完成みたいな、足し算で曲を作ってたんですけど、『バビブベ以外人間 / ねこ子』を作った後ぐらいから、引き算で作る方がかっこいいと思うようになったんです。1つ1つの音を突き詰めていけば、無駄なものはいらないじゃないですか?
―わかります。
岩下:そう言っておいて、次のアルバムでは目まぐるしく展開するような曲を作るバンドです。
―(笑)。
ロックに心酔している人の滑稽さとかっこよさ
―では、具体的に曲についても聞きたいのですが、“音楽ずるり”には「どうですか これがロックンですか」「しっしっロックンがうつる」という、ある意味挑戦的にも受け取れるような歌詞がありますよね。この歌詞はどういう意図で書かれてるんですか?
―ああ、そうですよね。
―極度の照れ屋である岩下さんが初めて自分の感情を入れたのはなぜなんでしょう?
―なるほど。この曲はロックを題材としつつもいろんな解釈ができる曲ではありますが、あえて聞くと、そもそもロックはお好きですか?
―嘘つきバービーって、ロックの文脈において「ポストゆら帝」みたいな言われ方してるじゃないですか? 実際にゆら帝が解散して、嘘つきがメジャーデビューとなると、ますますそう言われる可能性があると思うんですけど、そう言われることに関してはいかがですか?
―今日話しててバンドとしての成り立ちが全然違うんだなっていうのはよくわかりました。
岩下:めっちゃ好きですけどね、今も。映画とかと違って、曲って何回も聴くもんなんで、何回見ても違う方向から見れる歌詞を目指してますね。
―ちなみに、岩下さんの音楽的なルーツっていうとどの辺なんですか?
―好きなポイントっていうのは、やっぱり言葉の魅力なんですか?
―洋楽は全然聴かないんですよね?
―ベーシストとして音楽を聴くことは?
―じゃあボーカリストとしてはどうですか? 歌ってるのか、言葉を伝えてるのか、発語の快感が大事なのか?
―なるほど。じゃあ歌詞は聴き手にどう伝わってほしいとかってありますか?
―そういう表現に惹かれるのはなぜでしょう?
―なるほど。何となく、嘘つきバービーの真実が見えてきた気がしました(笑)。これから更にどんな作品を作ってくれるのか、期待して待つ喜びがありますね。今後の展望はありますか?
―好きになり過ぎちゃうとつまらなくなっちゃうと。
- 嘘つきバービー
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岩下優介(Ba,Vo)、千布寿也(Gt)、豊田茂(Dr)らによって2002年に長崎県佐世保市で結成され、2007年にミニアルバム『子供の含みぐせ』でデビュー。2008年に『増えた1もグル』、『問題のセカンド』をリリース。その後、期間限定シングル(DVD付)「バビブベ以外人間/ねこ子」(2009年)、「化学の新作」(2010年)をリリース。音楽のみならずその破天荒なライブパフォーマンスも話題をよび、ライブイベントでは入場規制やソールドアウトを記録。
https://www.cinra.net/interview/2011/04/04/000000.php