サムスン製「A9」がTSMC製より電力を消費する理由
iPhone 6s・6s Plusのバッテリーの性能が、搭載されているチップ「Apple A9」のメーカーによって差があることが話題になっています。
「A9」はSamsung とTSMCが供給していますが、Appleも”性能に2〜3%の違い“が存在することを認めており、その要因はチップの「製造プロセスルール」が、
- サムスン製 :14nm
- TSMC 製 :16nm
リンクの動画をはじめ、様々な比較テストが行われていますが、概ね次のような傾向がみられるようです:
- プロセッサーのベンチマークに差はない(僅かにサムスン版が優勢?)
- サムスン版は連続して高負荷かけるとバッテリーをより多く消費する
- サムスン版は連続して高負荷かけると本体の温度がより高くなる
- 通常の負荷ではバッテリー・温度に差はみられない
単純に考えると、プロセスルールがより微細な14nm(サムスン製)の方が、16nm(TSMC製)より省電力なはずですが、テスト結果が真逆なのはなぜでしょうか。
サムスン製のA9がより電力を消費する理由
「Apple A9」を分析したChipworksによって、プロセスルールの違によってダイサイズが異なることが判明しています。
14nmと16nmとで大差が無いように見えますが、メタルピッチ(配線層の間隔)は同じで、ゲートピッチのみサムスン製が狭い、ということのようです(参考)。
配線の微細化というよりも、14nmの方がより隙間を詰めた設計、ということでしょうか。
ではダイサイズの違いは、電力消費にどう影響するのでしょうか。
その理由ひとつとしてAnandTetchは、ダイが小さいサムスン製A9は、負荷がかかるとより早く温度が上昇する、という可能性を指摘しています。
一般的にチップは、温度が上がるとリーク電流(無駄に流れる電流)が増えるという性質があり、消費電力の増える傾向にあるとのこと(下は「Intel Core i7」の例)。
つまり、TSMC製A9に比べてダイが小さいサムスン製A9は、
「連続した高負荷」>「チップ温度上昇」>「リーク電流の増加」>「消費電力の増加」
というサイクルが早く始まる、というわけです。たしかに、高い負荷をかけなければ温度が上がらないため、「通常の負荷ではバッテリー・温度に差はみられない」、という現象も説明できます。
また、高い負荷をかけて温度が上昇しても、パフォーマンス(処理速度)には影響が出ていないことから、スロットリング(異常な温度上昇に対する安全機能)は起きておらず、正常範囲ということなのでしょう。
新iPhoneのような膨大な需要に応えるには、複数サプライヤーからの調達が必須といっても過言ではありません。
しかしながら、供給が可能なサムスンとTSMCが別々のプロセスルールを採用していたことが、不幸の始まりだったのかもしれません。
どちらのA9を搭載していても、iPhone 6s・6s Plusはスペック上の性能を満たしているはずで、「ハズレ」は無いはずですが、どうも釈然としないというユーザーの気持ちも理解できます。
チップおよびバッテリー性能に問題が無いと主張するのであれば、アップルはその根拠として、どのようにテストしているのか、「Real-World usage」はどう定義されるのか、を明らかにすべきではないでしょうか。