伝説のネーミングが復活したF12のスペチアーレ|Ferrari
Ferrari F12 tdf |フェラーリ F12 tdf
伝説のネーミングが復活したF12のスペチアーレ
フェラーリは、11月8日にイタリアはムジェロ サーキットを舞台に開催される年に1回の最大のイベント「フェラーリ フィナーリ モンディアーリ」において、新型のスペチアーレ「フェラーリ F12 tdf」を発表する。その車名からもわかるように、このスペシャルモデル、イタリアのメーカーであるフェラーリ風にいうのなら“スペチアーレ”は、「F12 ベルリネッタ」がベース。しかし最高出力やトップスピードをふくめ、大きな進化を遂げているのが特徴だ。世界限定799台というスペチアーレ独特の伝統がもたらす希少性もまた、トピックスである。フェラリスタ垂涎の全世界799台限定のモデル
新型のスペチアーレ「フェラーリ F12 tdf」が発表される「フィナーリ モンディアーリ」は、世界各地でおこなわれているフェラーリ関連のワンメイクレース「フェラーリ チャレンジ」の最終戦にあたる世界一決定戦のほか、「コルソ クリエンティ」と呼ばれるフェラーリのレーシング部門によるオーナー参加の「XXプログラム」、「F1クリエンティ」などの走行が催される、フェラーリの1年間を締めくくる一大イベントだ。昨年はアラブ首長国連邦のアブダビで開催され、その模様はOPENERSでも報告済である。会場となったヤス マリーナ サーキットでは、こうしたレースや走行イベントのほか、サーキット専用モデル「FXX K」もワールドプレミアされ、訪れたフェラーリ オーナー達から熱い視線をおくられていた。
年に一度のこのイベントで、特別なモデルを発表するのが恒例となるなかで、今年は最強のFRロードモデル「フェラーリ F12 tdf」が登場することになった。世界限定799台が販売されるF12 tdfは、現行のカタログモデルでフラッグシップという位置づけの「F12 ベルリネッタ」をベースに開発。ボディデザインやフロントミッドに積まれる自然吸気V12エンジンは、究極と呼べるレベルにまで進化を遂げている。
しかし気になるのは、車名に掲げられた「tdf」という3文字。じつはこれは、「ツール・ド・フランス」の略で、1950年から60年代にかけて開催された伝説の耐久ロードレース「ツール・ド・フランス」をしめす3レターである。フェラーリは、このレースに勝つために、「250GT」のボディをアルミとした軽量高性能モデル「250GT Tdf」を開発。公道とサーキットを舞台に開催されていたハードな耐久レースにおいて、フェラーリは4連覇を成し遂げている。「F12 tdf」のネーミングは、いまも語り継がれるこの伝説のレース「ツール・ド・フランス」へのオマージュでもあるわけだ。
ちなみにその「250GT Tdf」は、先頃ロンドンでおこなわれたRMオークションで、1958年式のモデルが476万ポンド(邦貨約8億7500万円)で落札されている。オリジナルモデルはそう簡単に購入できそうもないが、「F12 tdf」は、ひょっとすると早めに手を上げさえすれば、購入は難しくないかもしれない。庶民には関係のない話だが、なにせ、これから生産されるモデルである。「250GT Tdf」にくらべ、購入のハードルはぐっと低いとさえいえるだろう。
空力向上を狙った大胆なデザイン
公道でおこなわれていた「ツール・ド・フランス」を車名のルーツとするだけに、「F12 tdf」も合法的に一般公道を走行可能な車両として、最高峰のスペックを目指している。たとえばエンジンは、F12ベルリネッタとおなじ総排気量6,262cc、バンク角65度の自然吸気V型12気筒エンジンながら、最高出力は740ps/8,250rpmから780ps/8,500rpmに向上をはかっている。同時に最大トルクも70.3kgm/6,000rpmから71.8kgm/6,750rpmへと引き上げられているが、最大の特徴は、わずか2,500rpmですでに最大トルクの80パーセントを発生させている点だ。高性能マシンにありがちな気難しさや、ドライバーを選ぶといった特別な技術などは必要なく、条件さえ許せば誰でもが340km/h以上とフェラーリが発表するパフォーマンスを味わうことができるはずだ。トランスミッションは、ギア比を6パーセントクロスレシオ化した専用のF1 DCT(7段DCT)を搭載、アップは30パーセント、ダウンでは40パーセントもシフト時間が高速化されているという。
そうしたチューニングされたエンジン以上に注目すべきポイントが、ボディデザインである。フロントセクションは、圧倒的なダウンフォースを生み出す形状に進化し、ボディ下部はより大胆な造形が与えられている。レーシングマシンそのものと言っても言い過ぎではないアグレッシブな形状のスプリッター、ダイブプレーン、フロアウィング、そしてルーバーが組み込まれており、ストックのF12 ベルリネッタとの識別は容易である。
そうしたラジカルなボディ形状の変更は、単にスポーティなアポアランスを演出するためだけのものではないない。フロント側面のエアロブリッジ、ホイールアーチに備えたルーバー、60mm長く30mm高くなったリアスポイラー、GTレーシングマシン由来のストレークが装備されたがエアロダイナミック アンダーボディの採用などもくわわり、F12 ベルリネッタ比で30パーセント増となるダウンフォースも得ているのである。
結果、フェラーリが発表したF12 tdfのエアロダイナミクス効率数値は1.6。これはF12 ベルリネッタの約2倍であり、200km/h走行時のダウンフォースもF12 ベルリネッタの107kgから230kgへと大幅にアップしている。
残された数少ない大排気量NAエンジン
アグレッシブなデザインのボディはもちろんのこと、インテリアでも可能な限り軽量なカーボンファイバーを使用。ドアのインナーパネルやインパネ、センターのブリッジなどにも惜しみなく用い、フロアにはカーペットではなくアルミが張られ、1g単位で重量を削った。さらにエンジン、トランミッション、ランニングギアの再設計や使用部品の見直しなどをおこない、トータルで車両重量を110kg削減することに成功した。こうした軽量化とエンジンのパワーアップ、さらにはリアホイールが垂直軸を中心にステアするアクティブなリアアクスル機構「バーチャル ショートホイールベース システム」を導入。カーブの連続するワインディングでも、難易度の高いテクニカルなサーキットでも瞬時にターンインする応答性をもたらすシャシー技術などの総合的なパフォーマンス向上策により、F12 tdfでは0-100km/h加速2.9秒、0-200km/h加速7.9秒という驚異的な数値を叩き出すことに成功した。
フェラーリの性能を測る指針でもあるF12 tdfのフィオラーノ サーキットでのラップタイムは、1分21秒フラットであるという。スリックタイヤを履いた純サーキット専用マシンのFXX Kが1分14秒であったことを考えれば、公道走行も可能なタイヤを履いた「F12 tdf」のタイムは、まさに合法的な市販マシンとしてはトップクラスであることが窺い知れる。
ポルシェが「911」のターボ化を進め、フェラーリもまた「488GTB」や「カリフォルニア」 でいち早くターボ化をおこなっている。スポーツカーやスーパーカーにもダウンサイジングターボの波が押し寄せてきていることは否定できないが、限定生産799台のスペチアーレ「F12 tdf」では、大排気量自然吸気エンジンのポテンシャルにまだまだ伸びシロがあることを証明してみせた。
しかし、この先はどうか。考えたくはないことだが、ひょっとすると、F12 tdfは、大排気量自然吸気V12エンジンが最後に見せた大きな輝きなのではないか。そう思えば、幸運な799人のオーナーは、クルマのエンジンのメカニカル的な頂点である、大排気量自然吸気V12エンジンの最高峰を知る最後の証人なのかもしれない。
Ferrari F12 tdf |フェラーリ F12 tdf
ボディサイズ|全長 4,656 × 全幅 1,961 × 全高 1,273 mm
重量|1,415 kg(軽量オプション込み)
エンジン|6,262 cc V型12気筒
最高出力| 574 kW(780 ps)/8,500 rpm
最大トルク|705 Nm/6,750 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ(F1 DCT)
駆動方式|FR
最高速度|340 km/h以上
0-100km/h加速|2.9秒
0-200km/h加速|7.9秒
タイヤ 前/後|275/35R20 / 315/35R20
燃費|15.4 ℓ/100km(およそ6.5km/ℓ)
CO2排出量|360 g/km